【女子バスケットボール日本代表】
東京オリンピック開幕前は、世界ランク10位だった女子バスケットボール日本代表。予選リーグを2勝1敗で突破し、準々決勝で世界ランク6位のベルギーと対戦しました。第4クォーター終了間際2点を追う日本は、司令塔の町田瑠唯選手がドリブルで切り込むと、相手の守備を十分に引き付けてパス。試合終了まで残り15秒で放った林咲希選手の3ポイントシュートがゴールネットを揺らし、崖っぷちからの大逆転。86対85で見事勝利をつかんだのです。勢いに乗る日本は、準決勝で世界ランク5位のフランスも撃破。決勝は7連覇を目指す女王アメリカに敗れたものの、銀メダル獲得という歴史的快挙を成し遂げました。そんな彼女たちを勇気づけ、戦う集団へと変えたのが、トム・ホーバス・ヘッドコーチです。
「東京オリンピックの決勝で、アメリカに勝って優勝することが目標」。2017年、ヘッドコーチ就任会見でこう宣言したホーバスヘッドコーチ。高さで劣る日本の選手たちにホーバスヘッドコーチが求めたのが、攻守の切り替えを速くすることで攻撃の回数を相手よりも増やすことと、3ポイントシュートを増やして得点の効率を上げることでした。また、100を超えるフォーメーションを全選手が記憶。相手や戦況に応じて臨機応変に使い分けることで、ホーバスヘッドコーチが目指す、スピードと3ポイントシュートで相手を打ち破る日本の“スモールボール”が完成したのです。
【ゴルフ 稲見萌寧選手】
東京オリンピックの女子ゴルフ・最終ラウンド。17番の第2打を打った後、雷雲の接近によりプレーがおよそ50分も中断する中、再開直後に4mのバーディーパットを沈めてトップに並んだのが稲見選手でした。アクシデントにも動じないメンタルの強さを発揮してみせた稲見選手。アメリカのネリー・コルダ選手に1打差の2位タイで惜しくも金メダルは逃しましたが、同じスコアで並んだニュージーランドのリディア・コ選手と、銀メダルと銅メダルを懸けたプレーオフを戦うことに。プレッシャーが懸かる中、稲見選手は1ホール目で勝利しみごと日本人ゴルファー初メダルという歴史的快挙を達成したのです。
1999年7月生まれの稲見選手は、渋野日向子選手ら98年度生まれの“黄金世代”と、2000年度生まれの“プラチナ世代”に挟まれたいわゆる“はざま世代”です。年上にも年下にも負けてはいられない、「絶対に世界のトップに立つ」と強い決意で練習に励んだ稲見選手。磨き上げたのが、ショットの正確さでした。そして稲見選手のもう一つの武器が集中力です。正確さと集中力に裏打ちされたゴルフで、世界のトップを目指します。
【クライミング 野中生萌&野口啓代】
スポーツクライミングの複合競技は、スピード、ボルダリング、リードの3種目を行い、総合結果で順位を競います。東京オリンピックで女子代表に選ばれたのは、得意のボルダリングでワールドカップ年間総合優勝4回の実績を誇る32歳のベテラン・野口選手。もう1人は、そんな野口選手に憧れ背中を追いかけてきた24歳の野中選手でした。こちらも得意のボルダリングでワールドカップ年間総合優勝を経験した実力者です。野口選手はこの東京オリンピックで現役を引退すると表明しており、2人の目標は「一緒にメダルを獲る」ことでした。
1種目のスピードは、3位決定戦で2人の直接対決が実現。勝って3位になったのは、後輩・野中選手でした。野口選手は4位。続くボルダリングも、野中選手が3位で、野口選手は4位。2種目を終えた時点での順位は、野中選手が3位で、野口選手は6位でした。メダル圏内の野中選手に対し、野口選手のメダル獲得は厳しいように見えました。一時は、絶望的な気持ちになったという野口選手でしたが、最終種目のリードは現役最後の試合。メダルの色や順位は気にせず、自分の今までの一番いい登りがしたいと気持ちを切り替えました。これで吹っ切れた野口選手は、最後のリードを4位でフィニッシュ。後輩・野中選手も粘り強く登り、最終総合順位は、野中選手が2位。野口選手が3位となり、みごとダブル表彰台が実現したのです。
【レスリング 須崎優衣選手】
中学2年生で親元を離れ、日本オリンピック委員会のエリートアカデミーに入って実力を磨いてきた、レスリングの須崎選手。2017年に高校3年生で出場した世界選手権で優勝すると、翌18年も連覇を達成します。ところがこの年11月、左ヒジの靭帯断裂など全治8週間の大ケガを負い状況が一変。翌年の世界選手権出場をかけたプレーオフで敗れたことで、自力での東京オリンピック出場が絶望的になり、人目をはばからず泣きはらしました。このどん底状態から復活へと導いてくれたのが、中学2年の時から指導にあたる元世界女王の吉村祥子コーチです。吉村コーチと共に、大逆転でオリンピック代表の座をつかみました。
須崎選手の持ち味は、スピードに乗ったタックルを中心とした多彩な攻撃です。オリンピックの舞台でもその攻撃力で、強豪選手たちを圧倒します。初戦から10点差以上の大差を意味するテクニカルフォール勝ち。しかも全試合無失点という強さで決勝のマットにたどり着きます。そして金メダルがかかった大一番。開始早々相手のバックを奪うと、すかさず両足を捉え4回転。わずか1分36秒で10点を挙げて相手を一蹴し、勝利を決めたのです。オリンピック3連覇を果たした吉田沙保里選手や4連覇の伊調馨選手でも成し遂げたことのない、「全試合テクニカルフォール勝ちでの金メダル」という伝説が生まれた瞬間でした。
【レスリング 向田真優選手】
女子レスリングの53キロ級は、4大会連続で吉田沙保里選手がメダルを獲得した階級に相当します。その吉田選手が現役引退を発表し、後継者として期待されたのが向田選手でした。レスリングを始めたのは5歳の頃。同じ三重県出身の吉田選手に憧れ、やがて世界選手権を制するほどの実力を身につけました。そんな向田選手をもっとも身近で支えてきたのが、専属コーチで、今や公私ともにパートナーとなった志土地翔大さんです。向田選手が大学4年生の時に婚約し、2020年の春、大学卒業をきっかけに2人で拠点を東京に移します。コロナ禍の自粛期間中で多くの選手が練習パートナーの確保もできない中、2人は自宅近くの広場で練習の日々を過ごし、東京オリンピック本番を迎えたのです。
向田選手の持ち味は、憧れの吉田選手と同じ、高速タックルからの攻撃力。初出場のオリンピックでもその魅力を存分に発揮し、順調に決勝へと駒を進めます。ところが、金メダルをかけた戦いは中国の選手に大苦戦。第1ピリオドで4点を失い、絶体絶命のピンチに追いつめられます。しかしセコンドにいた志土地コーチからの檄を受け、第2ピリオドでは怒涛の追い上げを見せた向田選手。得意のタックルを起点に同点に追いつくと、残り15秒で5対4と逆転。リオの決勝で吉田選手が敗れて途絶えたこの階級での金メダルを取り戻しました。
来週のスポーツ伝説は……
11/1(月) レスリング乙黒拓斗選手
11/2(火) 柔道 濵田尚里選手
11/3(水) 柔道 素根輝選手
11/4(木) 柔道 新井千鶴選手
11/5(金) 柔道 永瀬貴規選手
お楽しみに!!