• 2019年11月05日

    首里城火災 徹底した原因究明と責任追及を

     毎朝6時から8時までの生放送を担当していますが、この時間帯にニュースが刻一刻と動くことはあまり多くありません。動いても、海外でテロや災害などが起こった場合に限られていて、日本国内でニュースが動くのは非常にまれです。
     その、稀な出来事が、不幸な形で起こってしまいました。沖縄県那覇市で起こった首里城正殿などの炎上です。
     番組の準備をしている最中から速報がひっきりなしに入ってきて、生放送が始まっても消し止めることができず、正殿、南殿、北殿といった主要な建物の全焼の速報が入るものの、鎮火の一報はついぞ放送中に入ることはありませんでした。

    <31日午前2時40分ごろ、那覇市の世界遺産、首里城跡に復元された首里城から煙が上がっていると119番があった。消防や沖縄県警によると、首里城正面の中央部分にある正殿から出火し、激しく炎上。北殿、南殿などに延焼し、建物と門の計7棟を焼いて約11時間後に鎮火した。けが人はいなかった。>

     火災直後はどうしてこんな大規模な火災が発生してしまったのか?原因を究明する報道が流れました。この一週間、首里城周辺では首里城祭というイベントが開かれていて、この週末の3連休に向けて様々なイベントが予定されていました。火元とみられた正殿の前の広場である"御庭"では、当日未明まで設営作業が行われていたようです。


     その他、警備員からの証言などでどうやら正殿屋内から出火したのではないかということがその日のうちに報道され、翌1日には現場検証が行われるのでそこで大方の出火原因が特定されるのではないかという流れになっていきました。しかし、その1日、沖縄県知事の玉城デニー氏が突如上京し、国に対して再建の請願を行ったあたりから報道のペースが鈍り始めます。

    <沖縄県の玉城知事は1日、内閣府で衛藤沖縄・北方担当大臣と面会し、首里城の早期再建に向けて協力を要請したのに対し、衛藤大臣は「全力で頑張りたい」と応じました。>

     その後、菅官房長官とも会談し、全力で取り組むという言質を引き出しています。この日は、首里城を含む国営沖縄記念公園の指定管理者である美ら島財団が会見を行いましたが、責任については曖昧な答えに終始しました。

    <首里城の火災を受け、沖縄美ら島財団の花城良廣理事長は1日の記者会見で、スプリンクラーの必要性を問われ「設置義務があったかどうかは、私どもは関係しない」と述べた。その上で「県、国を含めて検討するところ」と述べ、財団を含めた三者で話し合うべき課題との認識を示した。火災を巡っては1日時点で出火原因が特定されておらず、責任の所在が定まっていない。>

     指定管理者にも関わらず、責任回避の態度というのはメディアから大バッシングがあってもおかしくないのですが、不思議なことにそういった議論には至っていません。今年2月に国から県に管理が移管された際もスプリンクラーの増設が必要という議論がなされなかったし、5月と7月の設備点検でも不備は報告されなかったから責任は問われないという態度。財団が財団なら県も県で、記事中で県幹部の発言を引いていますが、

    <出火原因が法的な不備や設備の点検不足などに該当しない不可抗力だった場合、責任の所在は「誰にもないのではないか」との認識を示した。>

    とのこと。これも本来ならば大事件で、これだけの大火事があったのに責任が誰にもないなんてことをどうして世論が許すというのでしょうか?それをそのまま批判もなく書くというのも違和感を禁じえません。それどころか、「なぜ火事が起きたのか?」ではなく「なぜ火事が燃え広がったのか?」に論点をすり替えて、こんな記事を掲載する始末です。

    <那覇市首里当蔵町の首里城の正殿や北殿、南殿など計7棟が焼失した火災で、正殿の外に設置されていた「放水銃」と呼ばれる消火設備5基のうち1基を、2013年12月までに国が撤去していたことが1日、分かった。沖縄総合事務局の担当者は本紙の取材に「火災発生時にも放水銃4基で対応できると判断し、代わりの防水設備を設置しなかった」と回答した。今回の火災は、スプリンクラーなどの消火設備の不足が大規模な延焼につながったと専門家らは指摘しており、安全管理の見通しの甘さが改めて浮き彫りになった。>

     まるで国の管理が甘かったから全体を焼失してしまったかのような書きぶりですが、そもそも今回の火災では火の勢いが強すぎて現場に近づけず、残った4つの放水銃を使うことは一切できませんでした。もし4基をフルに使ってそれでも消し止められずに全焼したのならともかく、使えなかったのですからこの見出しと本文はミスリードどころか半分以上詭弁の類でしょう。メディアが責任追及ではなく論理のすり替えを行うのは一体どうしたことなのでしょうか?
     同じ沖縄での事件でも、米軍機墜落といった米軍の不祥事の場合、地元メディアは事故原因の解明や責任者の処分を容赦なく追及しているはずです。このままではご都合主義との批判は免れないのではないでしょうか。

     もちろん、首里城が焼失したことは同じ日本人の一人として痛恨事ですし、再建に国を挙げて協力するのは当たり前のことです。仮に伊勢神宮が焼け落ちたり、姫路城が焼け落ちた場合でも同じことを主張するでしょう。琉球の豊かな文化も、日本の文化の一部分であります。中華圏の文化が入っているからと批判をする向きもありますが、それを言い出したら長崎の街並みやくんちだって中華圏の文化とのミックスですし、中華圏の影響を受けた文化財など枚挙にいとまがありません。沖縄県政の批判から転じて首里城再建を批判する向きもありますが、それは切り分けて考えるべきであると私は思います。

     ただ、再建には税金を入れる以上、原因究明だけはしっかりとしていただかなければ、再建の正当性が疑われます。その主体として県や県知事の対応には正直疑問が残るのです。今のところ、火元に関しては分電盤のショートが疑われています。

    <正殿などが全焼した首里城火災で実況見分を進める那覇署対策本部は3日、火元とみられる正殿北側1階部分の焼け跡から分電盤とみられる焦げた電気設備を回収した。対策本部は火災発見当時の施錠状況や防犯カメラの解析から現時点で、外部侵入による事件性は低いとみており、電気系統の不具合も視野に捜査を進める。4日以降、回収した電気設備がショートを起こした可能性を含め火災との関連を詳しく調べる方針。>

     普段使っている分電盤から出火したものなのか、それとも、上に挙げた首里城祭のイベント設営向けに設置した分電盤だったのか?直前深夜に渡るイベント設営がどう影響しているのか?そのあたりの検証が待たれます。それに、そもそもこの"御庭"は深夜に渡る設営が基本的に認められない場所なのにどうして深夜1時にまで設営が行われていたのかも検証しなくてはいけません。というのも、国営沖縄記念公園における行為の禁止等に関する取扱要領の細則には「深夜に及ぶ設営は原則認めない。」と明記されているのです。


     例外的に深夜に及ぶ設営を認めたのは一体どの主体なのか?普通に考えれば指定管理者たる美ら島財団のはずですが、この疑問に答える記事を探し出すことはできませんでした。分電盤からの出火にも様々な要因が考えられますから短絡的にイベント設営との関連を断定することはできませんが、うやむやにせずに検証して欲しいと思います。
     繰り返しますが、でなければ再建の正当性すら揺らぎかねません。
  • 2019年10月18日

    台風19号被災地取材記(郡山市)

     台風19号が関東甲信越から東北にかけて甚大な被害をもたらしました。もともと史上最大級の台風がやってくると、台風接近の段階で気象庁などが盛んに警告を出していましたが、誠に残念なことにその危惧が現実のものになってしまったということです。

     台風が過ぎさった当初は首都圏近郊での被害に焦点が当てられました。大手紙各紙やテレビのキー局が豊富な人員を投入し、氾濫した多摩川の様子や内水氾濫で浸水した武蔵小杉の様子などを紙幅や時間をとって大きく報じていました。

     次にクローズアップされたのが、千曲川の氾濫です。堤防が決壊し、長野市の北部から須坂市、小布施町、中野市など大規模に浸水しました。北陸新幹線のE7W710編成が水に浸かってしまった映像は覚えている方も多いと思います。今回の台風の爪痕を表す印象的な映像でした。

      そうした報道の裏で、当初あまり注目されませんでしたが深刻な被害を受けたのが福島県と宮城県にまたがる阿武隈川流域です。

     特に福島県は、南北に流れる阿武隈川が県内複数地域で氾濫、堤防決壊が相次ぎ、家屋や工場、田畑への浸水、停電、断水など生活面への甚大な影響が出ました。執筆時点で各報道機関が独自に集計していますが、福島県内だけで25人以上の方が亡くなっており、台風19号に関連する死亡者数としては都道府県別で福島県が最も多かったことになります。

     台風19号は関東を通過後、12日の深夜から13日の未明にかけて福島県を襲いました。水源地に大量の雨を降らせたことで阿武隈川やその支流に大量の雨水が流入。短時間であっという間に水位が上昇し、深夜であったことや折からの激しい雨で足止めを食っていた住民の方々が多数孤立したようです。

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     取材当日は久しぶりに良く晴れ、被災した家屋の片づけに追われていました。阿武隈川に面した郡山中央工業団地は成人男性の胸の高さぐらいまで浸水。写真の郵便ポストの下で壁の色が変わっているところまで水が来たということです。工場内の書類やパソコンなどの機器のほとんどが水に浸かり、それらを外に出して災害ゴミとして集めていました。

     工場主の方にお話を伺うと、かつての8.5水害よりも深刻なのではないかと指摘しました。8.5水害とは、1986年84日から5日にかけて東海・関東・甲信・東北に渡って発生した豪雨災害で、福島県内でも3名の死者を出しました。各市町村や県、それに国はこの水害を教訓として阿武隈川の堤防を強化やハザードマップの策定などの対策を取ってきました。さらに、工場主の方にお話を伺うと、郡山中央工業団地では排水工事を進め、雨水は支流に流してできるだけ工業団地内の水はけを良くする工事をしたばかりだったのだそうです。その上、目の前を流れる阿武隈川は決壊したわけではありません。にもかかわらずこの被害、釈然としない表情でインタビューに応じてくれたのでした。

     

     一方、そこから南に下った郡山市田村町徳定下河原地区はさらに進水が激しく、成人男性の背丈ほど、170センチほどの浸水があったそうです。片付け中の住民宅を取材しましたが、冷蔵庫は横倒し、家中グシャグシャになってしまっている。水が引いたのは発災から丸1日経った14日の午後になってから。一面ヘドロが覆っていた。まずこのヘドロを掻き出すだけで一仕事。水に浸かった家具や畳、家電製品の運び出しはまだ先の話です。郡山市もご多分に漏れず高齢化、過疎化が進み若い人が少ない。今は子や孫、親族が来て手伝っている家庭が多かったが、今後もかなりの人手が必要になりそうだということが見て取れました。写真のお宅も、写っている家具すべて浸水。ヘドロで覆われた絨毯や炬燵などを高齢の家主夫婦で運び出せるわけもなく、ただただ途方に暮れていました。

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     このお宅は70代のご夫婦と90代の母親という3人暮らし。母を介護しながらの生活でした。夜になって徐々に水位が増していき、床上浸水の直前、このままではまずいと夫婦で寝たきりの母を何とか2階に上げたんだそうです。折からの豪雨で外に避難することは叶わず、垂直避難が精一杯。さらに水位が上がって2階にまで及んだ場合には逃げ場は無かったと、半ば呆然としながら語ってくれました。それを聞きながら、老老介護という過疎地の現実をまざまざと見せつけられた思いがしました。今回の水害では、各地の河川で堤防が決壊し、治水のインフラ整備が重要だと盛んに報じられています。インフラ整備が必要なことは言うまでもありませんし、そのために財政出動を行うことに関しては私も大賛成です。事ここに至れば、補正予算や単年度予算にとどまらず、複数年度でしっかりとしたインフラ整備を行うべきであろうと思います。

     ですが、それだけに終わらせず、事前の避難をどこまで早く、機動的にできるのか、災害ゴミの片付けの問題などの課題も山積しているのです。このあたりは高齢化や過疎化といった地方に以前から存在していた問題が、大きな災害を契機にして噴出しているとも言えます。こうしたところに手を打っていかないと、いつまでも自衛隊頼みになってしまうのではないでしょうか?彼らは黙々と仕事をしていますが、便利屋ではありません。復旧どころか片付けだけでも時間がかかりそうでした。

  • 2019年10月11日

    韓国取材報告

    今回の韓国取材出張、反日報道や不買運動の実際だとか、チョ・グク法相をめぐる韓国国内政治の対立などの論点もありましたが、私が最も勉強になったのは安全保障についてです。
     まず、自力で行ける最も北朝鮮に近い場所とも言われる、臨津閣国民公園に電車とタクシーを乗り継いでいってきました。ここは軍事境界線まで7キロ、軍事境界線のおおむね2キロずつ設定されている非武装地帯からも多少距離のある、民間人制限区域の端にあります。
     私も不勉強であったのですが、軍事境界線に向けて3段階のテリトリーが分けられているんですね。民間人制限区域は許可された人間以外は入れないというエリアで、その中に韓国側には統一村という人が住み生活している集落が存在します。私が行ったのはそのさらに外側の端というわけです。
     ここは、臨津江にかかる破壊された鉄橋がそのままになっていて、一部残された橋脚を使って臨津江ギリギリまで近づける(=合法的に民間人制限区域に少しだけ入ることが出来る)スカイウォークという施設があります。周りは鉄の柵と有刺鉄線で囲まれる中の物々しい空中散歩です。

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    そして、現地紙を見るとこの民間人制限区域の向こう、非武装地帯(DMZ=DeMiritalized Zone)が今話題になっていました。


     日本でも豚コレラが問題になっていますが、韓国ではもっと感染力も高くワクチンもない(要確認)アフリカ豚コレラの家畜への感染が確認されています。しかも、北朝鮮から軍事境界線を越えてやってきたイノシシが感染源とされていて、対策が急務。そこで韓国政府はヘリを飛ばして消毒液を散布し対策しようとしていますが、自国だから即座に対策というわけにはいかず、非武装地帯には手続きが必要であることが記事から読み取れます。さすがに敵対的な行動ではないだけに、北朝鮮も反対というわけではないでしょうが、通告なしでいきなりヘリを飛ばすとなると軍事作戦と勘違いされる恐れが大いにあります。そこで、国連軍の司令官に許可を取り、北朝鮮側にも通告してようやく薬剤の散布が可能となるわけです。生活と安保がこれだけ密接に関係していることをまざまざと思い知らされました。 それだけ、最前線に韓国はあるということですね。

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     今回、韓国の安全保障の専門家にも話を聞きました。国民大学政治大学院教授のパク・フィラク教授です。陸軍士官学校を卒業後、大佐に当たる大領まで務められました。現在は大学教授として後進の指導に当たる一方、積極的に情報発信をされていて、日本のメディアの取材にも数多く応じています。
     通訳の方を挟みながら1時間半ほど議論したのですが、非常にリアリズムでドライな分析に驚きました。
     日本では北朝鮮の核ミサイルは日本に向いている。韓国は同じ民族なのだからそちらには向いていないだろうという言説が一定の説得力を得ています。ところがパク教授は、私の北の核は日本を向いているのか韓国を向いているのか?という端的な質問に対して、
    「韓国でしょう」
    と断言しました。さらに、
    「(北は韓国に対し核を)十分使えると思います。在イギリス北朝鮮大使館元公使であるテヨンホさんはこう言いました。「金正恩は核武器を使うかもしれないし、統一のためなら必ず使う」と言いました」
    と、付け加えました。その上で、ではどう守っていくかについて聞くと非常に悲観的で、
    「今の政府が存在する限り何も手はない」
    と首を横に振りました。

     そして、日本政府に望むこととして、
    「できるだけ今の政府(文在寅政権)とは何かを協議して決めることは先送りしてほしい。次の政権、国民の意見を代弁する政府が生まれてから日韓関係に関する問題を決めてほしい。」
    「日韓関係を悪くするそういった決定もしてほしくないですし日韓関係を発展させることもできるだけ先送りしてこの政府による日韓関係の影響を最小限にしてほしい」
    と言及しています。つまり、政権交代があるまでは放っておいてくれ。対韓国で圧力をかけるようなことをしても、無体な日本に戦っている文政権というイメージで支持率が上がってしまうから、とにかく何もしないでほしいという訴えでした。元来愛国者であるはずの元軍人がこうした発言をするという重み、それだけ国を憂いているし、追い詰められているということをひしひしと感じました。

     安全保障の面から考えると、日韓関係は特に軍事面で良好であることが望ましいと思います。ただし、今のように国民感情の面でも軋轢が生まれている以上、無理して友好を装うよりも冷静に見ていけばいいのではないでしょうか。今の政権がどうかはさておき、北朝鮮という全体主義国家、その先にいる中国の圧迫にたいし、価値観を同じくする自由主義国家の最前線にいる韓国。
    「ここが共産化してしまったら日本はどうするのですか?イメージしたことありますか?」
    パク教授はインタビューの最後にそう問題提起されました。

     日韓双方に、ある意味の平和ボケがあるのかもしれません。放送に協力いただいた産経新聞の名村支局長は日韓GSOMIA(軍事情報包括保護協定)の破棄について、韓国の街場の実感として「ほとんど気にもしていない」と言っていました。いざ南北の有事となれば、朝鮮戦争の例を引くまでもなく日本の協力が不可欠なはず。ところが、そこにまで韓国の一般国民は意識が行かないし、メディアもそれを報じない。
     日本でも、チョ・グク法相の家族構成やら玉ねぎというアダ名やらは面白おかしく、不必要に詳しく報じますが、安全保障という国の根幹の部分でこの韓国という国がどういった存在なのかを報じることはない。双方地に足がついていなかったのではないかということを強く思いました。

     地元の記者に話を聞くと、文政権の軍に対する締め付けも相当に厳しく、イエスマン以外は出世できないのも事実なのだそうです。主権国家の世論や政治に手を突っ込むのはあまり行儀がいいとはいえませんが、「韓国だから仕方ないよ」で済まさずに、韓国軍や政界、財界、官界の良心派と連携しながら機が熟すのを待つしかなさそうです。文政権の批判はしても、「韓国はさぁ」といった十把一絡げの韓国批判は結果として文政権を利することになるのかもしれません。

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  • 2019年09月17日

    台風15号被災地取材記

     私が担当している『OK!Cozy up!』も含め、先週からずっと台風15号の被害を取り上げています。ニッポン放送のAM送信所は千葉県木更津市にあり、台風で停電。非常用の発電機を使って放送を継続しましたが、月曜日の朝、この発電機も停止。やむ無く都内足立区にある予備送信所からの放送に切り替えました。その後、非常用電源を確保し木更津からの放送を再開しましたが、弊社もまた台風の猛威に翻弄されました。

     送信所があることもあり、千葉県にはリスナーが本当に沢山いらっしゃいます。その方々がニッポン放送に宛てて、メールやツイッターで現状を知らせてくださったのですが、切実な声ばかり。電柱が根本から折れ、暴風で屋根が飛ばされ、ガラスが割れた被災地の写真を添付し、「停電がこんなに長引くとは!」「停電で家畜を涼ませることも搾乳も出来ず、このままでは死んでしまう!」「どうしてこの惨状を報道してくれないのか!?」憤りを通り越して慟哭のような声が多数寄せられました。

     一言に千葉県と言っても非常に広く、都心に近い市川から房総半島の南端の南房総や館山までは優に100キロを越えます。メディアの取材がそこまで間に合っておらず、発災後暫くは被害があまり報じられませんでした。停電で通信環境が悪化し、県も被害の把握が低調だったこと。他の道府県であれば存在する各系列の地方局が存在せず、千葉にあるのは少人数の支局だけで広範に及んだ被害地域すべてをカバーするにはマンパワーが足らなすぎたことなども当初の報道が少なかった原因でしょう。

     また、東京の放送局は自分たちの周りの台風被害が片付けば、再びあおり運転や韓国の法相、内閣改造を報じ出しました。被災地の一部で停電が解消しだした水曜当たりから、被災地の方々があまりに報道が少ないことに気づかれたそうです。停電が続いていた成田市で取材をすると、「見捨てられたのかと思った」と気持ちを吐露してくれた方がいました。その後、現場からSNS等で発信し出してようやく被災地報道中心に切り替わったわけです。

     私自身も台風が通りすぎた当日の交通障害などに気を取られ、被害が甚大だった房総の状況にまで想像力が追いつかなかったのは反省しなければなりません。悲痛なメールの数々に、横っ面をひっぱたかれたような衝撃を受けました。ここへ来て停電が続くことで東京電力への批判が官側からもメディアからも出ていますが、初動の遅れは同じようなものでしたし、停電がここまで広範囲に長期に渡らなければ初動の遅れも問題にならなかったのかもしれません。

     そういう私も、金曜日にようやく被災した南房総市、館山市に取材に入ることができました。根元から曲がった電柱、崩れたブロック塀、割れたガラス、横出しのままの車...。発災から5日目でしたが、その光景は大地震の後かと見紛うものでした。風速40mまでは耐えられるように設計されているはずの電柱が根元から45度以上曲がっているの本当に信じられない光景で、何かトリックアートの世界に迷い込んでしまったのかと思うほどでした。
     窓ガラスが割れ、玄関のドアが開けっぱなしになっている家々もありました。深夜に吹き荒れた暴風雨、お住いの方々はさぞ恐ろしい経験をなさったのだろうと思うと、いたたまれない気持ちになります。

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     街のそこここで高所作業車を見ました。今回の停電が長引いた理由は高圧線の鉄柱倒壊により大動脈が断たれたこともありますが、それ以上に最終的に各家屋に配電する電線が電柱の倒壊により使えなくなったことが大きいなと感じました。
     現場によってケースバイケースなのでしょうが、私が取材した南房総市の現場では折れ曲がった電柱はそのままでは当然送電に使えず、一度曲がった電柱を撤去し、その後新たに電柱を建てて引き直していました。そもそも風速40mに耐えうる電柱ですから、中には鉄筋が入っています。それを撤去し、その後新たに設置するわけですから、設置だけでも時間がかかるわけです。撤去に際しても高所作業車を使って接続されている電線を除去するなどの処置をしなくてはいけません。それらを見ると、ああこれは時間がかかるなぁと実感しました。作業には、東電だけでなく協力会社などが当たっていて、関東一円のナンバープレートの見本市のようになっていましたが、それでも徐々にしか進まないのも良くわかりました。

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     去年の北海道胆振東部地震で引き起こされた北海道ブラックアウトと今回の停電の長期化が比較されますが、あのブラックアウトは電力供給そのものが激減し、需要との間で著しくバランスが崩れたことが原因でした。地震の激しかった一部地域以外は送電網は堅持されていたので、供給側の発電所が復旧すればほぼ全道で給電が復活したのです。
     それに対して、今回の停電は送配電の末端がことごとく破壊されてしまいましたから、一つ一つ地道に復旧していく必要があるわけです。それゆえ、規模は全道ブラックアウトの方が大きかったのですが、復旧には今回の方が時間を要しているわけですね。
     ということは、再発防止に向けての処方箋だって北海道の事例と今回の事例では異なります。
     風速40mに耐えられる電柱では足らなかったわけですから、さらに増強した電柱を作っていくのか?電線の地中化も言われますが、これはコストがかかるのと、もし地中化した電線が浸水するなどして停電した場合には、今回と違い地中を掘り返して作業する必要がありますからおそらくもっともっと復旧に時間がかかるでしょう。そうしたリスクを許容するかどうかも議論しなくてはいけません。
     天災に"耐える"設備作りも必要ですが、私は同時に迅速に復旧する強靭なシステムこそ必要なのではないかと考えます。人的な余裕や資材などのストック面での余裕が、いざ有事があった際の迅速な復旧を可能にします。
     問題は、こうした余裕の部分は平時には「無駄」と切って捨てられてしまうものである点です。リスクとコストを勘案して、各企業はこうした余裕を引き当てているわけですが、これだけ自然災害が頻発する昨今、その引き当てのレベルがあまりにコストを重視して削りすぎてはいなかったのか?そろそろ見直すべき時期に来ているのではないでしょうか?

     さて、今回の台風でも、国や近隣自治体、自衛隊などが人員を派遣していますが、その支援の状況は各省庁や自治体ごとに把握し、横の連携がなかなか出来ませんでした。しかし、去年から防災科学技術研究所(防災科研)が災害対応支援を目的としてクライシスレスポンスサイトを公開しています。これは、防災科研が運用しているSIP4Dと呼ばれる基盤的防災情報流通ネットワークで集約した情報を目的別に統合し公開しているもの。停電、給水、通信状況やドローン映像などが地図上にプロットされ、見ることができます。


     今回、私も取材に当って見てみたんですが、通信状況の部分が非常に活用できました。というのも、南房総市役所の周辺は当時、私の使っているドコモでは3Gの通話は可能でもデータ通信が制限されていて、画像の送信や放送に使う機材の使用は出来なかったのです(放送は別キャリアで行ったので問題ありませんでした)。事前に現地の通信状況が把握できれば、通信状況の良いところに移動して放送するなり送稿するなりの対処が可能です。今回は通信状況やスマホの充電状況によって使えない可能性もありますが、今後の備えとしてブックマークしておくと役立ちそうです。
  • 2019年09月11日

    足元の景気と今後...

     4~6月のGDP改定値が出ました。案の定、速報値に比べると悪い数字が並びました。


    <内閣府が9日発表した4~6月期の国内総生産(GDP)改定値は、物価変動を除いた実質で前期比0.3%増、年率換算では1.3%増だった。速報値(前期比0.4%増、年率1.8%増)から下方修正となった。法人企業統計など最新の統計を反映した。
     QUICKがまとめた民間予測の中央値は前期比0.3%増、年率1.3%増となっており、速報値から下振れすると見込まれていた>

     報道でも触れられている通り、財務相の法人企業統計を基に算出された企業の設備投資が想定よりも悪く、その分GDP全体の数字が悪くなったようです。企業としては先行きの不透明感が漂うなかで大きな投資は手控えるでしょう。企業心理はどうかというと、同じ日に出された景気ウォッチャー調査では非常に厳しい見方をしていることがわかります。


     足元の景気についての認識はまだしも、先行き2、3ヶ月に関してはいいところなしというぐらいに各分野で先行きに懐疑的な見方です。主な意見の部分でその理由をざっと見るだけでも、アメリカと中国の貿易摩擦、イギリスのEU離脱、アメリカ経済の頭打ち感、国内消費の落ち込みなどなど、理由をあげればキリがないというぐらいに先行きの不透明さの理由は枚挙暇がありません。にも拘らず、この国は来月1日に消費税の増税に打って出るわけです。いかに非合理的な判断であるかがよくわかります。

     とはいえ、残念ながら増税が行われるのであれば、次善三善の策として増税のショックを食い止める方策を考えなくてはなりません。そして、それは事前に用意された軽減税率やポイント還元で吸収できるような代物ではないと私は考えます。
     というのも、消費税の痛税感は所得の低い層によりかかってきます。
     軽減税率はたしかに食品などの生活必需品が支出の多くを占める低所得層に向けた仕組みなのでしょう。であるならば、どうして所得に制限がかかっていないのか?同じように低所得層への還元を目的とするならば、旧民主党の主張していた給付つき税額控除の方がよほど理にかなっていました。
     私はそもそも消費税の増税をこの時期に行うことも反対ですし、社会保障の財源を消費税に求めることにも懐疑的ですが、「社会保障の安定のために増税をするんです」と言っていた以上は、軽減税率を高所得層にまで広範囲に適用することで税の広範囲な取りはぐれを生むことは論理的に矛盾しているのではないでしょうか?このことを夕方のザ・ボイスでも、今のOK! Cozy up!でも主張してきましたが、私の非力さゆえ一顧だにされませんでした。

     もう一方のポイント還元はその制度の分かりにくさに加え、キャッシュレス決済の普及度合いが地域や世代によって片寄っている点を考えても不公平感は否めません。また、先日関東地方を直撃した台風15号でわかる通り、停電してしまえばこの手のキャッシュレス決済は一切用をなしません。電力がなくても硬貨、紙幣はやり取りできますが、電力がなければ読み取り機材もスマホもカードもただの物体でしかないわけです。
     その上、このポイント還元は延長がなければたったの9ヶ月間しか実施しません。増税の痛みは減税しない限りかかり続けるのに、その痛みの緩和剤は期間限定。そのうち痛みに慣れるだろうということかもしれませんが、痛みに慣れるために庶民は財布の紐をきつく締めることで対応することになるでしょう。

     一部ですが政策当局者の中にもこうした危機感を持ち、具体的な政策を提言する方がいらっしゃいます。たとえば、この方。


    日銀の片岡剛士審議委員です。7月の金融政策決定会合で公表文の末尾に「特に、海外経済の動向を中心に経済・物価の下振れリスクが大きいもとで、先行き、『物価安定の目標』に向けたモメンタムが損なわれる惧れが高まる場合には、躊躇なく、追加的な金融緩和措置を講じる」という一文が入ったことを引きながら、先行きのリスクが増せば<先制的に政策対応することが重要です。>と訴えました。要するに、先手を打って金融緩和する必要性を強調したわけです。このあたりを見ると、金融政策決定会合で政策の変更までは出来ずとも、何かあったときに機動的に動けるように先手を打った根回しをしていたのだなぁと思います。今後に向けて予防線を張るだけでも、緊縮側へ向かおうとする委員もいる中で大変な苦労がしのばれます。

     片岡さんは今や日銀の人ですから、金融政策に特化して講演を行いましたが、私個人は財政出動と金融緩和、アベノミクスの一本目の矢と二本目の矢のポリシーミックスこそが有効であることと思っています。それも、景気が坂を転がり落ちる前に"機動的"に行うことが肝要です。

     折しも、九州豪雨に台風15号、去年は大阪で地震や台風の被害がありました。全国的にインフラの疲弊が目立ってきてはいないでしょうか?
     もちろん、豪雨や台風の被害が顕在化したのは自然がより狂暴に、より険しくなってきているからなのは間違いないと思います。自然が我々日本人に牙を剥いて来ていることが明白な昨今、我々はより備えなければその生存すら覚束無くなります。
     拙ブログでも何度も指摘していますし、放送でも訴えていますが、安倍政権は決して放漫財政の政権ではありません。むしろ、決算を見ると政府予算は第2次政権の最初を除いて徐々に減らされ続けていて、緊縮財政派の政権と言ってもいいのです。その点、世間のイメージや大新聞の経済欄の見立ては現実と正反対であるといえます。
     今までは世界経済が成長し、それに引っ張られるように日本経済も不十分ながら成長していたので緊縮財政でも何とか乗り切ってこられたのかもしれません。しかし、もうそうした外需頼みの夢物語は終わりました。現実を見据え、必要な投資を躊躇なく行うべきです。そのための内閣改造であることを願います。
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
「飯田浩司そこまで言うか!」

■会員制ファンクラブ(CAMPFIREファンクラブ)
「飯田浩司そこまで言うか!ONLINE」

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