• 2019年08月16日

    8月15日と、その後

     先の大戦が終わって74年となった昨日8月15日、令和となって初となる全国戦没者追悼式が日本武道館で行われました。
     
    <74回目の終戦の日を迎えた15日、令和で初めてとなる政府主催の全国戦没者追悼式が日本武道館(東京都千代田区)で開かれた。天皇、皇后両陛下のご臨席のもと、安倍晋三首相や全国各地の遺族ら計約7千人(付き添い含む)が参列。先の大戦で犠牲となった軍人・軍属約230万人、一般国民約80万人の計約310万人の冥福を祈り、平和への誓いを新たにした。>

     日本ではこの日に戦争が終わったとされていて、先の大戦に思いを馳せ不戦の誓いを新たにする日と受け止められていますが、国際法上戦争が終わったのはこの日ではないと指摘する向きもあります。連合国が発出したポツダム宣言を、日本政府は前日の14日に受託刷する旨通告、15日はその事実を広く国民向けに知らせた日でありました。
     翌16日には即時戦闘行動の停止を命令しましたが、その命令には但し書きで「自衛のための戦闘行動は之を妨げず」とあり、実際には15日以降も局地的な戦闘は続いていたわけです。その後、9月2日、戦艦ミズーリ艦上で日本政府を代表して重光葵、大本営を代表して梅津美治郎がそれぞれ降伏文書に署名しました。国際法上は、この9月2日が連合国にとっての対日戦勝記念日、日本にとっての敗戦の日となるわけです。
     8月15日から9月2日までの間は、現在の日本の領域とされる範囲では武装解除が行われ、ほぼ平穏に占領体制への移行が進んでいきましたが、他方「外地」と形容された朝鮮半島、満州(中国東北部)、東南アジア、南洋諸島各地ではここから過酷な引き上げが始まり、多くの同胞が命を落としたこともまた、我々は心に刻まなければならない辛い歴史のひとつでありましょう。そして、その一つが、千島列島、北千島の占守島、幌筵島でした。
     
     先日根室を取材した際、北方領土の戦後の経緯や住民の暮らし、戦後の返還要求運動の変遷を紹介する北方館の小田嶋館長にもお話を伺いました。その中で千島列島の終戦直後の歴史もジオラマなどを使いながら詳しく説明してくださいました。
     占守島には終戦当時、満州から転属した精鋭戦車部隊である戦車第11連隊などがおり、隣の幌筵島には第91師団主力が配置されていました。想定された敵軍はアメリカ軍。アラスカ方面やベーリング海から上陸してくるであろうことを想定していたのです。終戦の玉音放送とそれに続く戦闘停止命令を受け、終戦作業に当たっていた現地の日本軍は、当然アメリカ軍が武装解除に来るのだろうと考えていました。
     ところが、そこへ現れたのはソ連軍。どうしてアメリカではなくソ連だったのか?戦後随分たってから発覚したのですが、ヤルタ秘密協定によってソ連は対日参戦の見返りに千島列島を得る約束でした。ところが、日本軍の降伏受け入れ分担ではそこが明確になっておらず、降伏文書調印までの間に勢力下にあるという既成事実を作るためにスターリンが軍を進めたと言われています。

     占守にいた日本軍は、北方での戦闘がほとんどなかったために弾薬・糧食ともに比較的豊富にありました。その上、この夏の季節は缶詰工場が操業中。女子工員400~500人を含む漁業関係者など、2千人規模の民間人が島内に留まっていました。上陸し、蹂躙しようとしたソ連軍に対し、自己防衛と民間人防衛のためにも、日本軍はやむ無く再び銃をとったのです。
     数の上ではソ連軍の方が圧倒的に有利でした。が、多数の戦死者を出しながらも押し返し、要地を奪還したところで一旦進撃を止め、停戦に向けて使者を差し向けます。なぜなら、自己防衛のための必要最低限の反撃以上は認められていなかったからです。そして、降伏、武装解除。2万を越す兵力だった91師団のうち、実際に戦闘に参加したのは8千人強でした。
     その後ソ連軍は千島列島を南下しつつ日本軍を次々と武装解除していきました。それとともに、千島列島にソ連各地からソ連人を移住させていきます。千島で暮らしていた日本の民間人はしばらくの間ソ連人とともに暮らしていましたが、2年後の1947年、日本への帰国を希望する日本人は樺太経由で北海道へと帰還しました。戦後の千島での暮らしは厳しく、栄養状態も悪く、北海道につくまでに命を落とした方もいたということです。

     では、武装解除された軍人たちはどうなったのか?そのまま日本に帰れたわけではありませんでした。ソ連は目的も告げぬまま旧日本兵たちを船に乗せ、使役労働するためにシベリアに連れていきました。シベリア抑留です。また、占守に散った日本兵の亡骸は弔われることもなく、そのまま千島の土に還っていきました。南方や硫黄島での遺骨収集がニュースになることがありますが、千島や樺太にも取り残されたご遺骨がまだそのままになっています。戦闘があったのですからそうなのですが、小田島館長にそう言われたときに、私は衝撃を受けました。戦後74年、ここでもまだ戦後は終わっていないのです。現在は、ロシアの団体が遺骨収拾を行っています。

    <ロシア・サハリンや千島列島北東端のシュムシュ島(占守島)で、第2次大戦で犠牲になった旧日本兵や旧ソ連兵の遺骨を現地の団体「ロシア探索運動」が収集している。厚生労働省によると、同団体は日本人とみられる遺骨49柱を返還した。サハリン支部長のアルチョム・バンドゥーラさん(37)は「祖国に遺骨を返したいとの思いで活動している」と語る。>

    また、来月には占守島で慰霊祭も企画されているようです。
    <1945年(昭和20年)8月の終戦直後、千島列島北東端のシュムシュ島(占守島)で旧ソ連軍と激闘を繰り広げた旧日本軍守備隊の遺族や関係者が9日、「占守島戦没者追悼慰霊の会」を設立した。戦闘が始まった8月18日に毎年、札幌市内で慰霊祭を開くほか、今年9月には現地への慰霊の旅を予定。若い世代などの参加者を募っている。>

     8月15日を境に戦中と戦後がくっきりと別れたわけでもなく、日本人すべてに平和な世の中が訪れたわけでもありません。終戦の日に思いを致すとき、その日以降に幾多の苦難に向き合った同胞がいたこともまた、忘れてはならない事実であろうと思いました。
  • 2019年08月09日

    根室海峡取材記

     先週金曜日の放送後から土・日と、北海道根室市に取材で出張しました。北方領土のニュースが流れるといろいろな動きは報じられますが、そこに関わる人々がどんな思いでいるのかは東京ではあまり報じられません。そこで、特にこの北方領土と接する海に関わる人々の話を伺おうと思ったのです。洋上からの北方領土視察を含め、今回の取材はずいぶん前から海上保安庁本庁や北海道を担任する第一管区海上保安本部、地元の根室海上保安部と詰めていたのですが、出張当日、北方領土に関連してこんなニュースも飛び込んできました。

    <ロシアのメドベージェフ首相は2日、ロシアが実効支配する北方領土・択捉島を訪れた。メドベージェフ氏の北方領土訪問は4回目で、2015年8月以来4年ぶり。「北方領土は第二次大戦後にロシア領になった」とするロシアの主張を誇示する狙いがあるとみられる。>
            
    当然、日本政府は即座に抗議しています。
    <ロシアのメドベージェフ首相が北方領土の択捉島を訪問したことを受け、日本政府は2日、外交ルートを通じて強く抗議した。河野太郎外相は「日本国民の感情を傷つけるもので、極めて遺憾だ」と非難する談話を発表。領土問題をめぐりロシア側が譲歩しない姿勢を改めて示したことで、安倍晋三首相が取り組む平和条約締結交渉はさらに困難さを増しそうだ。>

     そんな緊張感もはらみながらも、今回順調に取材をすることができました。言うまでもなく北方領土は、日本の領土でありながら、先の大戦後ロシア(当時はソ連)に不法占拠されている島々で、択捉・国後・色丹・歯舞群島からなる。不法占拠はすでに74年におよんでいます。

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     今回乗船したのは、巡視船さろま。この北方領土周辺海域を担当する根室海上保安部には、このさろまをはじめとして支所と合わせ7隻の巡視船が配置されています。24時間・365日いずれかの船がこの海域をパトロールをしているそうです。今回、実際に船に乗せてもらって取材をしたのですが、10人前後の乗組員たちが操船から、何かあれば捜索活動、警察権の行使、さらに日々の生活にまつわる食事の準備などなど、一人何役もこなしていました。
     また、対峙するロシアの国境警備隊の船脚が速いことから、ここには高速船が配備されています。それでも、近年の予算逼迫、緊縮財政の折、海保の予算も大盤振る舞いとはいかず、このさろまも平成元年の就役。平成から令和と時代を跨いで北の海を守ってきました。30年以上の年月が経てば、ロシア側は当然新しい船を入れてきます。もちろんこちらもメンテナンスを万全にして対処するわけですが、現場に負担がかかっている現状は否めません。航行に関わる部分は設備更新がされていますが、電気調理機のように居住性に関わる部分は新造時から30年以上使い続けているものもあります。

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    野付半島沖から国後島を望む

     根室港から船を出すと、目の前には国後島が東西に横たわっています。"島"と一言で言いますが、国後島が沖縄本島の1.2倍、択捉島に至っては2.4倍という、日本最大の島でもあるのです。爺々(ちゃちゃ)岳や羅臼山といった国後島の山々は、晴れて空気が澄めば根室市内からもはっきりと見ることができます。

     それらを見ながら東に船を進めること30分あまり、歯舞群島に近づくと、いわゆる中間線が南に降りて来ます。西に納沙布岬、東に歯舞群島貝殻島を望む珸瑤瑁(ゴヨウマイ)水道です。貝殻島には昭和12年に当時の逓信省が建てた灯台があり、納沙布岬とこの貝殻島灯台の間は3.7キロしかない。まさに手の届くような近さです。その南にあるモエモシリ島、秋勇留島、勇留島、東にある水晶島なども非常に近いのです。

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    珸瑤瑁水道から貝殻島灯台を望む

     そして、この3.7キロの中間に、いわゆる中間ラインが引かれていて、ここから歯舞群島側に日本の船が行くと拿捕の危険が高まります。一方で、この辺りの海域は非常に豊かな漁場でもあり、歴史的にも日本の漁師たちが魚を獲ってきた海域でもある。過去にはロシアの国境警備隊による日本漁船の拿捕、船員の拘束、船舶の没収も相次いだ海域です。拿捕や拘束のみならず、ロシアの国境警備隊からの銃撃で日本人が命を落としたという事件もありました。(吉進丸事件)遠い過去の話ではありません。今からわずか13年前、2006年の出来事です。ことほど左様に、「一歩間違えば」という緊張感を孕む海なのです。

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    北方館の前で小田嶋館長にインタビューする筆者

     さて、この珸瑤瑁水道を望む納沙布岬には、北方領土の早期復帰を願う様々なモニュメントや、島での暮らしや今までの運動の足跡をたどることができる施設があります。その一つ、北方館の小田嶋館長に、北方領土を望みながら話を伺うと、歴史的にソ連、ロシアと地元の漁業者が対峙してきたことを紹介した上で、海上保安庁の船がいる安心感を話してくださいました。
     海保はこの海域を含め、被拿捕防止と不測の事態の防止、起きてしまったときには極小化に努めています。乗船した巡視船さろまに勤務する海保職員に聞くと、
    「自分達は特別なことはなにもしていない。日々求められる任務を確実に行うことで、漁業者の方々が安心して漁をできれば」
    と話してくれました。一見平和に見えるこの海は、そうした日々の地道な安全指導で維持されているのだ

     現在は、春先と秋にこの貝殻島灯台周辺で行う昆布漁と、安全操業という2つのスキームのみ、入漁料を支払った上で協定で決められた量に限って、北方領土周辺で日本の漁船が操業できます。根室市花咲港の野坂さんに話を聞くと、固有の領土、領海での漁業でありながら、残念ながらそこには様々な窮屈さがあると明かしてくれました。

     貝殻島灯台付近で行われる昆布漁は、前述の通り入漁料を払って許可を得た船が許可を得た量、許可を得た時間に限って操業できる仕組みです。その時間はさほど長くはありません。漁業者からすれば、到着したら即座に漁を開始し、上限ギリギリまで漁をしようとします。ところが、ロシアの国境警備隊は日本の漁船(といっても昆布漁に使う船は小船のようなものですが)の周りをぐるぐると廻り、場合によっては漁船に声をかけて船内検査を始めたり、書類の提示を要求したりするようです。時間が決められているだけに、こうしたことが起こると必然的に漁をする時間が削られていきます。固有の領土、固有の領海のはずが、やはり現場では様々なプレッシャーにさらされながら操業しているようです。

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    コンブ漁船。協定により、船の色まで指定されている(歯舞漁港)

     それでも漁に出るのは、それが自分達の暮らしのみならず地元経済を支えているから。減ったとはいえ、根室市の漁業は水揚げ高だけでも200億円規模。周辺の加工業なども合わせるとその倍にものぼる一大産業です。

     領土問題という大きなテーマの前に、関係する現場の方々は、この海が平和な海であるよう願い、そしてそれが保たれるように地道な努力を懸命に重ねていました。北方館の小田嶋館長のスーツの襟元には、ベージュがかったブラウンのリボン型のバッジがありました。拉致問題のブルーリボンバッジの色違いです。


     「人の拉致」に対し北方領土問題は「土地の拉致」として、主権と尊厳を侵されている2つの大きな国際問題であるとの関心を相乗効果的に持ってもらいたいという願いが込められています。何よりも、我々日本国民が関心を持ち続けること。拉致問題もそうですが、それが、問題解決の後押しになり、この海を平和ならしめることなのだと思いました。

    なお、この模様はCAMPFIREファンクラブ「飯田浩司そこまで言うか!ONLINE」のミーティングで映像交えてレポートします。有料会員制ですが、ご興味あるかたはぜひお申込みください。
  • 2019年07月30日

    日韓関係の行方は?

     メディア関係者の多くは、自分たちは読者や視聴者・聴取者の代理人として取材をしているという意識をどこかに持っています。ある意味、自分たちは黒子であるという意識で、これは私のような出役のアナウンサーにはあまりありませんが、記事を書く記者と話をするとそうした意識が見え隠れすることがあります。SNSがこれだけ発達した今は、その意識でオープンの記者会見などに臨むと場合によっては批判されることもあるだろうということは、このブログや毎週火曜日に掲載の夕刊フジのコラム『ニッポン放送 飯田浩司のそこまで言うか!』にも記したところです。
     ただ、個人名が伏せられようが表に出ようが、取材をする自由は公共の福祉に反しない範囲で認められるべきであり、その意味で市民の代理人として取材をしているという意識を否定するものではありません。それだけに、暴力によって取材を妨害されたり、記者活動を阻害されるのはメディアそのものの存在や知る権利を否定する行為であり、メディアの人間ならばきちんと批判をしなくてはいけません。
     韓国・ソウルでフジテレビのソウル支局がデモ隊に押し掛けられた事件は、自由で民主主義を建前とする国でこんなことが起こるのかと個人的には驚きました。さらに驚いたのは、今に至るも報道が非常に少ないという点です。

    <25日午後4時半ごろ、ソウル市麻浦区上岩洞のMBC(文化放送)社屋に入居するフジテレビソウル支局に大学生3人が押し掛けた。うち1人は「ろうそく政権文在寅(ムン・ジェイン)政権の転覆を主張するフジテレビソウル支局は直ちに閉鎖しろ」と叫んだ。別の1人はフジテレビのロゴと旭日旗が描かれた紙を破り、3人目はその模様をフェイスブックで生中継した。大学生らは「直ちに謝罪し、この地を出ていけ」と叫び、警備員ともみ合った末、約6分後に支局外に退去させられた。>

     この記事を書いている7月30日の時点でネット記事を検索すると、この朝鮮日報日本語版の記事のほか、海外系のニュースサイトの記事、それに産経新聞の社説「主張」に言及がみられる程度でした。普段、日本には「報道の自由」があるのかどうかを非常に気にする日本のメディアがかくもあからさまな形でプレッシャーを受けている現状をどうして報じないのか、驚き疑問に思います。

     さて、この件では押し入った学生の1人が「文在寅(ムン・ジェイン)政権の転覆を主張するフジテレビ」と批判しました。おそらく、この記事についてでしょう。


     この記事を読んでみて、ではフジテレビは支局を閉鎖しなければいけないほどの問題のある記事だと思う日本人はどれだけいるでしょうか?文在寅氏は韓国大統領という公人であり、その権力の強さと比例して批評の対象となることも仕事のうちでしょう。
     ところが、韓国は刑事上、名誉毀損が法律に抵触するというユニークなシステムがあります。誰もが告訴すると、検察が名誉毀損と関連して捜査し、起訴することが出来るわけです。韓国大統領は一方で大韓民国の元首でもあり、元首を名誉毀損するということは大韓民国そのものを踏みにじったも同然というロジックが韓国の中では成り立ってしまうわけですね。
     このロジックでは、同じく国家元首であるアメリカのトランプ大統領やフランスのマクロン大統領を批判すると、アメリカやフランスそのものの尊厳を踏みにじることになりそうです。私の番組を含め、日本のすべてのメディアがアメリカやフランスで批判されそうですが、健全な民主主義と言論の自由がある国々ではそんなことになりませんし、日本のメディアのワシントン支局やパリ支局がデモ隊に押し掛けられたなんてことは聴いたことがありません。

     では、韓国政府が在韓国の日本大使館や領事館、メディア、日本法人を積極的に守ろうというモチベーションがあるのか?日本大使館での今月、ワゴン車が大使館の入るビルに突っ込み、運転していた韓国人男性が社内で火をつけ全身やけどで死亡しました。釜山の総領事館でも学生たちが侵入、警察に拘束されましたが翌日には釈放されています。
     外交関係に関するウィーン条約には、接受国は大使館や領事館といった公館を保護する特別の責務を負っているとされていますが、その責務を忠実に履行していると言えるでしょうか?むしろ、忠実に履行しない方にインセンティブがあるのかもしれません。韓国では、日韓関係が怪しくなってくると支持率が上昇する傾向にあります。

    <リアルメーターがYTNの依頼で22~26日まで全国19歳以上の有権者2512人を対象に実施した7月第4週目(22~26日)の週間集計で文大統領の支持率が前週より0.3%ポイント上昇した52.1%となったと29日、明らかにした。 >

     その上、来年の4月には韓国内で総選挙が予定されています。あと一年を切って、与野党とも総選挙へ向けてエスカレートすることはあっても、日韓関係を落ち着かせるメリットがありません。このところ毎週のように行われる反日デモでは、「総選挙は日韓戦だ」と書かれたTシャツを着て参加する人が増えてきているようです。現在の革新与党にとっては、日本政府を批判することで国内の親日派を批判し、その象徴として野党・自由韓国党を批判しようという意図があるのでしょう。
     保守系の野党にしても親日と見られては選挙で戦えませんから、先鋭化するしかありません。となると、仮に韓国で政権が交代しても日本との関係が改善するかは心許ないでしょう。
     韓国を含めたサプライチェーンのみならず、安全保障環境でも我々は今までの日米間同盟を中心とした常識を変えなくてはいけないのかもしれません。韓国側は、このまま日韓関係が冷え込んだままなら軍事情報包括保護協定(GSOMIA)の撤回までをちらつかせているわけですから。
  • 2019年07月23日

    これからも、経済優先???

     参議院選挙が終わりました。
     夕刊フジのコラムにも書いたのですが、私個人としては今回の参院選の中で経済論戦、それもマクロ経済全体をどうかじ取りしていくかを議論してほしいと思っていました。
    が、やはり各党ともに分かりやすさ重視といいますか、「消費税の是非」とか「最低賃金をいくらにする!」とか、「減らない年金」とか、ミクロ的な政策スローガンを声高に叫ぶことに終始していて全体の実現可能性への言及が極端に少なかった印象があります。
     個々の政策"だけ"を見ればそれは口当たりの良い言葉が並びます。最低賃金が伸びること、年金が減額されないこと、それ自体は誰もが賛成でしょう。しかしながら、「金は天下の回り物」という言葉があるように、経済活動は必ず相手方があります。
     最低賃金上昇は労働者にとってはありがたくとも、経営者にとってはコスト上昇となるわけで、ある意味のリスク要因です。私だって労働分配率の下降傾向には懸念をもって見つめていますし、自社株買いや配当などで株主への配当を手厚くする企業の在り方には疑問を持っています。企業の内部留保の膨大さを見るにつけ、企業収益が上手く経済全体を回していないのは明らかです。
     ですが、強制的に賃金を上昇させる最低賃金上昇を急激に進めることは労働者へのメリットよりも経済全体へのデメリットが目立つように思うのです。
     隣の韓国、文在寅政権が同じように最低賃金に手を突っ込んだ挙句、経済全体が失速してしまい、結果として特に若年層の失業率が大幅に悪化したという先行事例も存在します。このように、個々の政策の一歩先を考え、全体の整合性や政策の実現可能性を議論できなかった、個々の政策への賛否に終始してしまったのは残念でなりません。

     今回の選挙の結果、自民・公明の与党で改選議席の過半数を超える71議席を獲得しました。自民党の安倍総裁は投票日翌日の会見で今回の結果について、
    「「安定した政治基盤の上に、新しい令和の時代の、国づくりをしっかりと進めよ!」と、国民の皆様からの力強い信任を頂いた」
    と総括し、その上で、
    「これからも、経済最優先。」
    としています。


    であれば、ぜひとも早急に政策を打ち出してほしいのが、足元の経済状況について。昨日、政府の月例経済報告が発表されました。


     相変わらず足元の景気についての表現は霞が関文学の極致で、弱いけれども回復しているという書きぶりですが、現場の声を聞くと青息吐息です。提示されている一つ一つの数字を見ると減少という文字が多く、徐々に経済が悪くなっていっているのがわかります。それに、この傾向は今に始まったものではなく、去年の秋から今年の初めには下降局面に入ったと多くのエコノミストが指摘しています。
     個人消費の冷え込みが直に影響する小売業界を取材すると、もう去年の10月ごろから客単価が伸びない、値下げ圧力が強いと個人消費の落ち込みに警鐘を鳴らしていました。今や懸念は確信に変わり、経営の悪化を前提としてどう食い止めるか、具体的には賃金抑制と仕入れコストの削減に動いているとのことです。
     3か月ごとに集計するGDPを見ても、個人消費をはじめとする内需が横ばいか減少しています。
     外需は米中の衝突やイギリスのEU離脱、さらにイランのホルムズ海峡を巡る不安定化で雲行きが国内景気以上に怪しいのは拙ブログでも何度も指摘してきました。その流れにとどめを刺すように、10月には消費税の増税が控えています。

     そんな中で景気を下支えするオプションは、日銀にさらなる金融緩和を促すか、財政出動で需要を作り出すか、大雑把に分ければ2つ。
     金融緩和の方は日銀に決定権がありますから形の上では自由になりません。
     一方、財政出動は補正予算などを使って積み増すことが可能です。国内外の先行きの不透明感を考えれば、予防的に景気を浮揚させるべく財政出動することも視野に入れるべきではないでしょうか?
     こういった危機感から、財政出動の可能性について選挙特番の政党幹部インタビューの中で特に与党幹部に質問しましたが、芳しくない反応でした。「すでに2019年度当初予算で手当て済み」(自民党・甘利選対委員長)「ポイント還元やプレミアム付き商品券、軽減税率で落ち込み分を埋めるべく手当している」(公明党・斎藤幹事長)。いずれも、補正予算を組んでまでの追加財政出動には非常に消極的。政治家のレベルでこのぐらいの熱量であれば、補正予算を組んだとしても2~3兆が関の山でしょう。2兆、3兆というと大きな数字のように思えますが、日本のGDPはざっくり500兆円。2兆~3兆の財政出動はGDP比で0.5%前後となり、景気を浮揚させるにはまったく力不足です。

    「これからも、経済最優先。」
    であるならば、財政の出動規模も最優先でお願いしたい。国民は決して現政権に白紙委任したわけではないはずです。
  • 2019年07月19日

    ホルムズ海峡自衛艦派遣の頭の体操

     『ホルムズ海峡』という名前が安全保障を知る人だけでなく大きく知名度を上げたのは、2015年の安保法制審議のときでした。ここを通過するタンカーが襲撃を受け、日本へ原油が入ってこなくなればそれは存立危機事態と呼べる経済的な緊急事態であり、事態打開のための自衛隊派遣は限定的に認められた集団的自衛権行使の理由となると政府側が示したことに対し、そんな遠くまで派遣するのは果たして合法なのか?国会審議が紛糾しました。
     その時に想定された事態に近づくように、アメリカとイランの間が険悪になってきています。国連安全保障理事会の常任理事国にドイツを加えたP5+1とイランとの間で成立した核合意を巡り、アメリカ・トランプ政権は合意から離脱。イランへの経済制裁を再開しました。
     これに対してイランは反発。ウラン濃縮を再開する一方でアメリカの無人機を打ち落とすなどプレッシャーをかけてきています。付近を航行するタンカーへの襲撃もイランの仕業ではないかと言われ(イラン側は否定)、日本の会社が運航するタンカーもそのターゲットとされました。
     こうした中、アメリカはこのホルムズ海峡の安全確保に向けた有志連合構想を主導。日本時間明日20日にはこの連合に関する説明会をワシントンで開く予定です。それに先立って、構想の中身が徐々にリークされてきました。たとえば、こんなニュースです。

    <イラン沖ホルムズ海峡周辺の安全確保に向けた米国主導の有志連合構想について、国防総省高官は同海域の監視強化が目的で、イランに対抗する軍事連合ではないと強調した。参加国に民間船舶の警護を求めず、自国船舶の警護を実施するかは各国独自の判断にゆだねる考えを表明。米国も参加国の民間船舶の警護はしないと説明した。ロイター通信が18日伝えた。>

     この記事が本当であれば、かつての湾岸戦争やイラク戦争、アフガニスタンでの対テロ戦争における有志連合とはかなり形が異なります。軍事連合ではないということですから、共通の作戦行動をするものではなく、各国がそれぞれの意図でバラバラに動くことを容認する形。お互い守りあうような集団的自衛権行使の形ですらなく、むしろ各々個別的自衛権でやってくれ、アメリカもそうするというものです。となれば、日本は日本に関係する船舶のみを守ることになりますから、2015年に紛糾した安全保障法制に則った自衛隊の派遣ではなくなるわけですね。

     この有志連合の話が出てこのかた、一体どういった法解釈の下なら自衛隊は出ていけるのかを考えてきたのですが、報道の通り個別的自衛権の話ならば自衛隊法に根拠を求めればいいわけですね。今日のコメンテーター、宮家邦彦さんも指摘していましたが、この場合は自衛隊法82条に規定される海上警備行動を用いることになりそうです。

    <第八十二条 防衛大臣は、海上における人命若しくは財産の保護又は治安の維持のため特別の必要がある場合には、内閣総理大臣の承認を得て、自衛隊の部隊に海上において必要な行動をとることを命ずることができる。>

     この場合の、公海での民間船舶への侵害行為への対処は海上警備行動発令手続きの迅速化を目指す閣議決定を、2015年の7月に行っていますから、侵害事案が発生した場合に迅速に発令することができます。


     具体的には、特に緊急な判断が必要、かつ速やかな臨時閣議の開催が困難な場合、内閣総理大臣の主宰により、電話などにより閣議決定が可能となっています。もちろん、防衛大臣がまず動かなくては手続きは進みませんから、そこの部分で大臣の姿勢が問われるわけですが。

     それよりも心配なのは武器使用条件。海上警備行動では、警察官職務執行法および海上保安庁法の規定により、武器の使用が大きく制限されます。具体的には、93条の
    <第九十三条 警察官職務執行法第七条の規定は、第八十二条の規定により行動を命ぜられた自衛隊の自衛官の職務の執行について準用する。
    2 海上保安庁法第十六条、第十七条第一項及び第十八条の規定は、第八十二条の規定により行動を命ぜられた海上自衛隊の三等海曹以上の自衛官の職務の執行について準用する。
    3 海上保安庁法第二十条第二項の規定は、第八十二条の規定により行動を命ぜられた海上自衛隊の自衛官の職務の執行について準用する。この場合において、同法第二十条第二項中「前項」とあるのは「第一項」と、「第十七条第一項」とあるのは「前項において準用する海上保安庁法第十七条第一項」と、「海上保安官又は海上保安官補の職務」とあるのは「第八十二条の規定により行動を命ぜられた自衛隊の自衛官の職務」と、「海上保安庁長官」とあるのは「防衛大臣」と読み替えるものとする。
    4 第八十九条第二項の規定は、第一項において準用する警察官職務執行法第七条の規定により自衛官が武器を使用する場合及び前項において準用する海上保安庁法第二十条第二項の規定により海上自衛隊の自衛官が武器を使用する場合について準用する。>
    という各規定です。

     法律用語がオンパレードで分かりづらいことこの上ないのですが、まず1項の警職法7条の適用は、逮捕や逃亡防止、自己や他人の防護、公務執行への抵抗抑止など必要と認める相当な理由がある場合に、必要の範囲内での武器使用を認めるというものなのですが、正当防衛や緊急避難以外では人に危害を加えてはならないと規定されており、基本的には「やられたらやり返す」という比例原則が適用されます。したがって、圧倒的な火力をもって制圧するという戦地におけるセオリーは使うことが出来ず、能力はあるが意思がなく相手を抑止できない恐れはぬぐえません。

     その下の海上保安庁法を援用する各規定は、海上において可能な活動を書いています。船舶に書類の提出を命じたり、積み荷の検査、さらに海上での船舶の行動を宣言したり、検査したりということが規定されています。ということで、海上での船舶検査も海上警備行動の枠組みの中で出来るわけですが、武器の使用は警察比例。相手は武器を持っている可能性が高くとも、そして着ている服装などは軍隊のそれでありながら丸腰に近い状態で乗り込まなくてはなりません。相手は軍隊が来たと思い、火力をもって対応してくる可能性があるとしても、国内法の規定では丸腰であることを求められているわけです。

     これは私の妄想でもなんでもなく、1999年に能登半島沖不審船事案で海上自衛隊の艦艇2隻が出た際に本当に直面した事態なのです。この時は防弾チョッキもなく、艦内にあった漫画本や雑誌を身体に巻き紐でくくって乗り込もうとしたということが伝えられています。

     有志連合に参加し、我が国も航行の自由や国際法の順守、航路の安全に寄与するのは非常に重要な仕事であろうと私も思います。一方で、その時に発生するリスクを相も変わらず現場の自衛官たちに負わせてよしとするのはあまりに不誠実ではないでしょうか?少なくとも派遣の意思決定をする際には、こうしたリスクが現場にあることを分かった上で、最大限リスクを和らげる手段を講じていただきたい。そのために憲法改正が必要なのであれば、それを議論する機会を作らなくてはなりません。
     この選挙は、その絶好の機会だったはずです。
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
「飯田浩司そこまで言うか!」

■会員制ファンクラブ(CAMPFIREファンクラブ)
「飯田浩司そこまで言うか!ONLINE」

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