• 2018年06月20日

    大阪北部地震取材報告

     月曜日のOK!Cozy Up!の放送が終わった直後、スタジオの中にあるモニターに『緊急地震速報!近畿 強い揺れの恐れ』という文字が出ました。
    直後にもたらされた第一報は、「大阪、震度6弱」。脳裏によぎったのは、「大都市圏直下型、炊事中の火の始末、新幹線を含む鉄道が混雑のピークで無事だろうか...?」という3つでした。報道部で初動の情報収集を電話でしている間中、「ピーコ」と呼ばれる共同通信の音声端末からはキンコンカンコンというチャイム音が鳴らされました。これは、相当な大事件、大災害が起こったときにのみ鳴らされるサイン音。私が聞いたのは東日本大震災以来でした。これは大変な被害になる可能性がある。番組スタッフと協議の結果、出来るだけ早く大阪に入って取材をし、翌日の放送は大阪から出そうということになりました。

     大都市圏での直下型地震で最大震度6弱。今後起こるであろう首都直下地震を考えると、条件等が重なっている部分が多く、今回の教訓は非常に重い意味を持ちます。現地に入って取材を始めたときの率直な感想は、地震そのものの被害は非常に軽微というものでした。発災当日は枚方周辺しか取材が出来ず、震源至近の茨木、高槻は翌日に取材に回ったのですが、瓦が落ちたり看板やモルタルが剥落しているのはほんのごく一部の老朽化した建物のみ。今の建築基準で建った建物は少なくとも外観上はびくともしていないと思われました。写真のようにブルーシートを張っている家はむしろ少数で、建物などハードの部分は強靭化が進んでいると感じます。

    大阪北部地震①.jpg

     インフラの復旧はまちまちで、翌日の各紙は「大阪 都市機能マヒ」(読売・大阪版一面)という論調で報じていましたが、ある意味人的被害・物的被害が少なかったり、迅速に復旧したものが多かったので、もっとも復旧が遅れた交通インフラを取り上げるしかなかったという見方もできます。電力は、午前中いっぱいで17万戸あった停電地域をほぼ解消。水道も震源地至近の高槻、茨木を除けば今回の揺れに耐えました。建物が倒壊していた場合、停電後通電した時にショートして発火することがあります。が、前述のとおり今回の場合、そもそも倒壊家屋がほとんどありませんでしたから、通電後ショートによる火災も抑えることが出来たようです。
     日本は過去何度も大きな地震に見舞われてきました。揺れたことのないところがないと言っても過言ではないほど、津々浦々で地震を経験しています。その過去の教訓が、強靭な建物や迅速な復旧という形で活かされたということが言えるのではないでしょうか。

     一方で、誠に遺憾ながら過去の教訓が活かされなかったこともありました。ブロック塀が倒れ9歳の女の子がその下敷きになって亡くなった高槻市立寿栄小学校。発災翌日の火曜日に現場周辺も取材しましたが、周りの民家のブロック塀は全く倒れていませんでした。ということは、小学校の事例が劣悪な施工による人災であることを強く伺わせます。写真は、規制線の手前に作られた献花台。献花台の左手に見える民家のブロック塀は全く倒れていませんね。

    大阪北部地震②.jpg

    こうしたブロック塀にも建築基準法施行令で積み方、作り方に基準が定められています。これは過去の経験から作られた基準です。

    <ブロック塀の倒壊は過去の地震でも問題になった。1978年の宮城県沖地震では、18人がブロック塀などの下敷きになり死亡。これを受け、国は81年に建築基準法施行令を改正し、高さの上限を3メートルから2.2メートルに引き下げるなど規制を強めた。>

     ところが、このブロック塀は、<市によると、ブロック塀は幅約40メートルにわたり倒壊した。高さ1.9メートルの基礎部分と同1.6メートルのブロック部分があり、全体で同3.5メートルだった。高さの上限を2.2メートルと規定した建築基準法の施行令に違反するとしている。>
     過去の教訓を活かして基準までは作っていたのに、現場でそれにのっとって施工されなかったわけですね。基準が作られる前にこの壁が作られていれば施工業者は免責となりますから壁の設置時期が問題になりますが、高槻市は今日現在調査中と回答しています。警察による捜査が行われている最中ですからそれをまずは待ちたいと思いますが、どうしてこんな施工になったのか?どうしてそのまま放置されたのか?そして、こうした危険なブロック塀が他にもあるのか?ブロック塀そのものはきちんと基準を満たして建てれば今回の揺れにも十分に耐えたということは現場周辺を見ればすぐにわかります。ですから、問題のあるブロック塀を根絶するために何が出来るのか?この大阪北部地震の大きな教訓となると思います。
  • 2018年06月15日

    世界中からのメディアを捌くには...

     史上初の米朝首脳会談が終わりました。歴史的と称された今回の会談。今回私はこの会談を取材しにシンガポールを訪れました。会談そのものや、その後署名された共同声明、さらにトランプ大統領の記者会見については各コメンテーターの方々それぞれに見解が分かれ、非常に興味深かったですね。当日の取材と放送はジャーナリストの有本香さんと、翌朝は有本さんと国際政治アナリストの藤井厳喜さんにお話いただき、木曜日は自民党参議院議員の青山?晴さん、そして今朝は外交評論家の宮家邦彦さんに見解を伺いました。その模様はradikoのタイムフリーやPodcast、YouTubeで聞くことができます。ぜひ、番組ホームページからアクセスしてください。
    radikoのタイムフリーは放送後1週間で聞けなくなります。お早めに!

     さて、今回の取材で私はすべて、プレスセンターの巨大なモニター越しに見ることになりました。これは、今回の歴史的な会談を取材に訪れた2500人あまりの報道陣の大半が同じ扱いを受けました。それだけ巨大なプレスセンターを、今回の開催国シンガポールはわずか2週間あまりで整えたそうです。2500人の報道陣の8割が外国から。ということで、現地に拠点を持たない報道陣向けにこのプレスセンターは24時間オープンで、ネットのアクセスも完備。別途料金を支払えば生中継も出来るよう回線も用意し、放送用のブースも用意しました。さらに、報道陣向けの食堂にはシンガポールのローカルフードや洋食、カレーなどなど15ジャンル45種類の料理をバイキング形式で食べられ、飲み物も豊富と至れり尽くせり。そんなプレスセンターの総面積は23000平方フィート(およそ2140平米)あり、世界中から報道陣が集まっても狭い感じは全くしませんでした。

    米朝プレスセンター2.JPG
    プレスセンターの様子

     なぜこの広さ、これだけの規模のプレスセンターをわずか2週間で用意できたのかといえば、このプレスセンター、もともとF1シンガポールグランプリのピット用に作られた建物を使っています。F1も世界中からメディアが集まる大イベント。その時にメディアを収容し、情報提供する建物ですから、メディアの人員を収容するだけの広さも、放送用の音声も映像も、ネット環境もすでに整っていたわけですね。やはり世界中からメディアの集まる大イベントなだけに、ノウハウとともに建物や回線といったインフラを用意しないことには話にならないということを実感しました。

     そこで思ったのが2020年の東京オリンピック・パラリンピック。こちらも世界中からメディアが集まる大イベントですが、東京には常設でそこまでのメディアセンターはありません。ということで仮設で作るわけですが、今のところそれをお台場にある東京ビッグサイトに作ることになっています。ビッグサイトのウェブサイトを見ると、ほとんど毎日何かに使われているという超多忙な展示会会場、東京ビッグサイト。ここを2020年には長期間押さえてしまうので、その分毎年やってきた展示会を他の場所に移したり、他の日程に移したりしなくてはなりません。

     これに危機感を抱いているのが、中小企業経営者や展示会ビジネスに関わる人たち。先日、日本展示会協会(日展協)の意見交換会の取材に行ってきましたが、中小企業の方々は危機感を訴えていました。中小企業には十分な販売網や広告宣伝費がないので、何万人ものバイヤーが訪れ、商談をする展示会というのは重要な販売の場なのですね。
     たしかに、私の父親も中小の商社に勤めていて包装用の機械などを売っていましたが、展示会の時には気合が入っていた覚えがありますね。当時はビッグサイトもまだなく、晴海にあった見本市会場に私も母親に手を引かれて遊びに行った思い出があります。
     展示会が一度中止になるぐらいで影響は大してないだろう。オリンピック・パラリンピックはそうそうないのだから協力すべきだ。そんな風に思うかもしれません。ところが、準備期間も含めると20か月間東京ビッグサイトを使えなくなり、その間に大変な損失が出る可能性があるとの指摘があるのです。オリンピック・パラリンピックを誘致した東京都もまったく手を打っていないわけではなく、大体の仮設展示会場を用意したり、新たな展示棟を建設したりもしていますが、コアとなる2020年の5月~9月はほとんどの展示棟が使用不能となりますから、影響は大きくなると指摘しています。

     常設のメディアセンターまでは必要ないと思いますが、日本経済を支えているのは中小企業というのも頷けるところ。組織委員会は日展協に対し、IOCに提出した実施企画書にメディアセンターは東京ビッグサイトと書いてあるので今更変えられないとも説明しているようですが、メディア側からすれば本番まで2年前の今の段階での変更は十分に対応可能でしょう。今回の討論会では大きなテントのような仮設施設をリーズナブルに作るなどのアイディアも出されました。この間の議論にメディアサイドは全く入っていませんが、ユーザー側代表も交えて何とか落としどころを見つけてもらいたいと思います。
  • 2018年06月06日

    足元の経済は「これでいいのだ」?

     厚生労働省から、4月の毎月勤労統計調査の速報値が発表されました。


     名目賃金は全体で前年同月比0.8%増だったのですが、この数字に物価の変動を織り込んだ実質賃金は前年同月比変わらずの0.0%となりました。完全失業率が2.5%(4月分速報値)という雇用がひっ迫している状況で賃金には上昇圧力があると言われています。一方で日銀は大規模緩和で物価上昇を意図していますから、賃金の伸びと物価の伸びはある意味追いかけっこの状況が続いているわけですね。物価の上昇が賃金の上昇を上回れば実質賃金はマイナスになり、逆ならばプラスになるというのを繰り返す局面のはずなのですが、実際には3月を除き実質賃金はほぼマイナスかゼロ近傍。前回発表の3月の値がプラスに転じたので「おっ!?」と思ったのですが、再びゼロにまで引き戻されてしまいました。とはいえ物価も伸び悩んでいるわけですから、賃金上昇がそれ以上に鈍いということに他ならないわけですね。

     金融当局もこの実質賃金の数字がプラスになるかどうかに注目していて、4月のゴールデンウィーク直前に行われた日銀の金融政策決定会合でも言及があります。

    <・賃金面では、実質賃金がプラスとなるかが重要である。労使双方の意識の変化や労働生産性向上に向けた企業の取組みを注視している。>

     今回、実質賃金がゼロにまでまた落ち込んでしまった以上、より一層の踏み込みをしないことには景気の下支えができません。本来であれば、財政出動に期待したいところなのですが、残念ながら国会では相変わらずの森友・加計問題に終始していて、2018年度補正予算の議論などお呼びでないという状況です。では政府の側から出るかといえば、来年度予算編成の青写真となる「経済財政運営と改革の基本方針」(骨太の方針)の原案では消費増税という究極の緊縮策がもはや自明のものとして書き込まれています。

    <政府は5日の経済財政諮問会議で、経済財政運営と改革の基本方針(骨太の方針)の原案を公表した。新たな財政再建目標は、国と地方の基礎的財政収支(プライマリーバランス=PB)をこれまでの目標より5年遅い2025年度に黒字化すると明記。人手不足に対応するために新たな在留資格を設け、外国人労働者の受け入れも拡大する。今月中旬に閣議決定する。
     PBの黒字化は、社会保障などの政策経費を新たな借金なしで賄えることを示す。目標時期を24年度とする案もあったが、19年10月の消費増税や東京五輪後に予想される景気の落ち込みに備え、財政出動の余地を残した。>

     新聞の経済欄はプライマリーバランスの黒字化目標を"5年も"先送りした!と批判していますが、これはこのブログでは再三指摘してきた通りお門違い。国家財政を家計と同じに考えると「借りたお金はキッチリ返すべきだ!」となって、「約束の期日までに健全化も出来ないのでは先が思いやられる!」という批判になるのでしょう。先週のエントリーでも指摘しましたが、国は死にません。ですから、稼ぎに対して債務残高の割合が安定していれば問題がないと、国内外の多くの経済学者たちが指摘しています。国の稼ぎ=GDPですから、この割合を債務残高対GDP比といい、この数字(%で表されます)が急上昇(発散と言ったりします)せずに安定していれば特に悲観する必要はないわけです。

     それよりも問題は、2019年10月の増税がもはや自明のものとして書かれ、増税を前提に「財政出動の余地を残した」となっていること。逆に読めば、「増税しない限りは財政出動はできませんよ」となります。
     消費税の増税による景気の下押しはご存知の通り、ジワジワと家計や企業の経済活動に効いてきます。一方で財政出動はインフラ投資などがその典型ですが、派手で即効性がありアピール力にも優れています。となると、選挙が近い政治家や予算が欲しい他の各省庁からすると、「財政出動やってくれるんなら、消費税の増税OK!(増税のデメリットは見えにくいからさ)」という消極的賛成のモチベーションが生まれてしまうんですね。その意味で、今回の骨太原案の増税と財政出動があたかもリンクしているに思える記述は非常に罪深いし、将来に禍根を残す可能性が高いと私は思うのです。

     国会もダメ、政府も期待薄となれば、ここは日銀の出番ということですが、果たしてというかやはりというべきか、こちらも不穏な動きがみられます。

    <日銀が4日発表した5月の資金供給量(マネタリーベース、月末残高)は前月比1.1%減の492兆6269億円だった。3カ月ぶりに減少した。>

     以前この欄で指摘した、隠れた金融引き締め、「ステルステーパリング」が実は発動されているのではないかと疑ってしまうようなニュースです。もちろん、資金供給量の増加が経済のすべてではなく、この低金利が続くと人々が信じてお金を借りて投資を増やせば経済は回っていくのですが、何かぬるま湯のまま「これでいいのだ」と政府も国会も日銀も停滞しているような気がしてなりません。日本を取り巻く周辺環境が、地政学的にも経済的にもこのまま変わらなければそれでも徐々に、ほんの少しずつ景気が良くなっていくので「これでいいのだ!」なんでしょうが、果たしてそうか。私には吹けば飛ぶような脆弱性を感じるのですが...。
  • 2018年05月29日

    将来への"ツケ"とは?

     来年10月の消費税増税に向けて、大規模な景気対策を打つようです。

    <政府は28日の経済財政諮問会議(議長・安倍晋三首相)で、経済財政運営の基本指針「骨太の方針」の骨子案を示し、2019年10月に予定される消費税率8%から10%への引き上げに備え、大規模な景気対策に踏み切る方針を決めた。>

     消費税増税で景気が冷え込むので、その前に財政出動して勢いをつける。そして、増税後にも財政出動して景気を後押しする。なるほど、消費税増税を必ずしなければならないという前提に立てば、こうした対策が合理的ということになるのでしょう。消費税を増税することによって政府の税収が増え、それによって財政が健全化するというのが基本的なロジックです。財政健全化こそが最終的な目標であり、消費税増税はその一つの手段に過ぎないはずです。
     ところが、財務省も大手メディアも消費税増税が目的化のように、これが出来ないと財政健全化などできず、国家財政は危機的状況になる!としきりに説いて回っています。何度も何度も聞いた増税→財政健全化のロジックですが、これにはいくつもの矛盾点があります。

     まず、財政健全化が目的なら、頼みにする税目は消費税で果たして適切か。所得税や法人税などほかにも税目はあるはずです。その上、財政健全化を言い募る割に、税収が割り引かれる軽減税率に関しては一切の異論がないのはどういうことなのか?さらに、財政健全化が出来ないと将来にツケを残すと言いますが、果たして本当にそうなるのか?

     これらの疑問について、私も何度もこの欄で書いてきました。景気を良くすることで物価が上がれば、その分実質の債務が軽くなりますから増税なしでも財政健全化を果たせるのではないか?第二次世界大戦後、イギリスやフランスが調達した膨大な戦費を緩やかなインフレと経済成長によって返済していったということは、一時期日本でも非常に持て囃されたフランスの経済学者、トマ・ピケティ氏が指摘していた通りです。
     さらに、今のように金融緩和をして景気を刺激している中で物価が上がる局面とは、経済成長を伴ってる可能性があります。そうなれば、当然所得税や法人税といった直接税も増収になっているはずですから、ダブルで財政健全化に向かっていくはずです。この一点だけを見ても、増税以外にも選択肢はあるはずですね。

     軽減税率に関しては、財務大臣の国会答弁で減収額の統一見解を示しています。

    <麻生太郎財務相は19日午前の参院予算委員会で、消費増税に伴う軽減税率導入による減収額は従来通り1兆円程度とする統一見解を公表した。>

     1兆円というと、消費税の0.5%分。その上、軽減税率は本来救うべき低所得者層のみならず消費税の発生する支出にはあまねくかかりますから、高所得者層にも恩恵が行くことになります。1兆円というコストを払った割に格差是正、再分配につながらないと専門家からは指摘されていますが、大手メディアはあまり取り上げず、したがって議論も盛り上がりませんでした。

     そしてもう一つ、この消費税増税をめぐって、財政健全化をめぐってよく言われるのが「将来にツケを残すな!」という議論です。
     家計のお財布をイメージすると、借金を残したまま親が亡くなったりリタイアしたりすると、そのツケが子や孫に降りかかります。それと同じというイメージを使って、国家財政も語る向きが非常に多いのですが、国家と家計の大きな違いを指摘すれば、個人は死にますが、国家は死なないという前提で物事を考えます。
     人は死にますが、国は死にません。
     税収がいきなりゼロに途絶えることは、天変地異や戦争などの別の危機が迫らない限りほとんどあり得ないことです。したがって、少しでも債務が縮小する方向であれば十分なのです。それは、増税ではなく増収でもいいし、物価上昇による実質的な負担軽減でもいいわけですね。

     それよりも考えなくてはならないのが、増税することで将来へのツケがより深刻に回されるのではないかという危惧です。このところ日本経済新聞の真ん中あたりにいつも掲載されている経済教室欄の「やさしい経済学」で、専修大学経済学部教授の野口旭さんが詳しく解説してくれていますが、増税によって財政健全化してくれればいいですが、増税によって所得が減少してしまうことでデフレが深刻化することのリスクの方が大きいのではないかということです。


     1997年に消費税が3%から5%に増税されました。そこから、この国は泥沼の20年デフレに突入したわけですが、その影響をもろに受けたのが当時の若年層、ロストジェネレーション世代です。
     まだまだ終身雇用が主流だったこの時代、企業は新卒の正社員採用を絞ることでコスト抑制を図りました。新卒者を非正規で採用するか、あるいはもう採用そのものを止めてしまうか。当時のデフレという経済状況を考えれば、各企業としては最適な意思決定をしたのでしょう。ところが、それが国全体というマクロの視点で見れば非常にまずい決定でした。
     社会人としての入り口で躓いたロスジェネ世代は、それまでであれば企業の中で受けられるはずだった職業訓練を受けるチャンスを失います。そのままスキルを伸ばすことなく今や40代となったロスジェネ世代、今はそれでも雇用があり収入があるのでいいですが、一度病気になったりケガをしたりして職を離れた途端困窮してしまいます。元気に働き続けたとしても、60歳を超え70歳を超え、年齢的に今と同じ仕事が出来なくならないとも限りません。その時、生活できるだけの年金を受給できるのか?様々な試算が出ていますが、数十万から百万人単位の生活保護予備軍とも言われているわけです。
     生活保護は福祉の一環ですから、半分仕送り形式の年金財政と違い、ほぼすべて税金が原資です。年金が破綻するとか言っていますが、こちらの財政負担の方がよほど深刻ではないかと私は考えます。
     このリスクを回避するにはどうしたらいいのか?消費増税でせっかくデフレではない状態にまで来た景気の腰を折ることではなく、好景気を呼び込んで40代ロスジェネ世代に限定的であっても正規雇用をもたらすことだと思います。それにより少しでも稼いで、将来にも備えていただく。増税は、将来へより大きなツケを残す恐れがあると思いますが、いかがでしょうか?
  • 2018年05月21日

    平和で安全な海を守るために

     この週末の土曜・日曜、東京湾を舞台にして海上保安庁の観閲式と総合訓練が行われました。私も土曜日に同行することができ、海上保安庁の巡視船「やしま」に乗って羽田沖での一連の行事を取材しました。土曜日は高円宮妃久子殿下、三女の絢子女王殿下のご臨席のもと、石井国土交通大臣、中島海上保安庁長官の観閲を受けましたが、翌日は特別観閲官として安倍総理が乗船、視察しました。

    <安倍晋三首相は20日、海上保安庁が羽田空港沖の東京湾で行った観閲式と総合訓練を視察した。>

     海上保安庁や海上自衛隊、警察、税関などの船舶36隻、航空機16機が参加し(土曜は船舶37隻、航空機15機)、船舶・航空機のパレードの他、国際テロ組織メンバーが乗船した船舶を制圧する訓練や人命救助訓練が行われました。こんなに沢山の海保の船舶が集まって果たしていいのか?とも思ったのですが、そうした日本を取り巻く海の周辺状況の緊迫化からこの観閲式は近年開催が見送られていたとのことで、今回は現行の海上保安制度発足70周年という節目ということもあり、開催にこぎつけたようです。

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    海上保安制度創設70周年記念観閲式で受閲する巡視艇「あきつしま」

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    テロ容疑船捕捉・制圧訓練

     しかしながらというか、やはりというか、尖閣周辺海域ではここを狙ったのか、まさに観閲式が行われる直前のタイミングで中国の公船による領海侵入が発生しています。

    <沖縄県石垣市の尖閣諸島沖で18日、中国海警局の「海警」4隻が日本の領海に侵入し、約1時間半航行した。尖閣諸島沖での中国公船の領海侵入は4月23日以来で、今年9回目。>

     今回の観閲式には、石垣海上保安部と宮古島海上保安部から1隻ずつの巡視船、那覇航空基地からも1機航空機が参加しています。現場はやり繰りしながら影響が出ないように運用しているはずで、それゆえ中国公船も我が国領海内に長期間留まることなく、今までと同様におよそ1時間半の航行で領海を出ていったのでしょう。観閲式自体の開催は前々から告知されていたものですから、ローテーションが乱れた時にどう出るか、すかさず海保側の反応を見に来たのかもしれません。

     尖閣といえば、中国は海からのみならず空からのプレッシャーも強化してきています。

    <中国が尖閣諸島(沖縄県石垣市)から約380キロに位置する福建省霞浦県の水門空軍基地の機能を大幅に拡充させていることが、米軍事情報誌「ディフェンス・ニュース」の分析で明らかになった。>

     この空軍基地から尖閣までがおよそ380キロですが、尖閣周辺空域にスクランブル発進をかける那覇空港からは尖閣までおよそ420キロあります。距離がある分対応にも時間がかかりますから、このままでは徐々に押され続けることになるわけです。中国の自国領域での行動に影響を及ぼすことはできませんから、日本が出来るのは日本国内でどう備えるかということ。空に関しては、より近い位置に航空機を配備することで対応することが可能です。たとえば、かつてジャンボジェットの訓練に使用し、今は定期便のない下地島などは広い滑走路があり、かつ尖閣まで200キロを切る近さという地の利を得ることが可能です。

     一方、海上に関しては、当面は海上保安庁に頼ることにならざるを得ません。いたずらに海上自衛隊を前面に立たせると、日本側が事態をエスカレートさせた!と、中国側に軍事行動を促す口実になりかねません。対峙する海保への負担が大きくなりますから、それ相応の予算を割いてケアする必要があります。
     総理も昨日の演説の中で、
    <海における脅威に対し、真っ先に駆け付け、最前線に立ち続ける海上保安庁。白く輝く船体は、力に屈せず、法にのっとり、事を平和裏に解決する我が国の意思を示すものです。海上における法の支配を率先するその姿は、世界中から注目されています。>
    と、その重要性を指摘しています。国際法上は"白い船"で対処することが重要で、これが"灰色の船"(=軍艦)に代わると危機の度合いの局面が大きく転換してしまうわけですね。

     また、四方を海に囲まれた我が国は、尖閣に接近する中国公船だけに関わっていればいいわけではありません。
     総理も昨日の演説の中で、
    <海上犯罪の取り締まり、領海警備、海難救助、海上交通の安全確保、海洋捜査、法の支配に基づく自由で開かれた海の堅守の為に、どれ一つとして欠かすことはできません。
    海上保安官諸君には、国内外からの大きな期待に応え、これに対応するために精励していただきたい。
     海上保安庁なくして海洋立国日本の将来はありません。諸君の70年の歴史に裏打ちされた現場力をちからに、これまで以上に重要な使命を果たしていくことを期待しています。>
    と語りました。領海警備は海保の多くの任務の中の一つでしかないのです。海保の方に話を聞くと、
    「船に乗って領海を警備するのは仕事の一部で、他にも日本各地にある灯台のメンテナンスも仕事だし、全国にまたがる航路の海図を作るのも仕事だし、もちろん海難救助だって仕事。灯台や海図だって、怠ったら日本経済にとって大変なことになる」
    と話してくれました。
     たしかに、輸出入を合わせた日本の貿易量およそ9億トンのうち、実に99.7%が船によって運ばれています。この経済を支える海運が円滑に進むよう、さらに縁の下の力持ちとして地道に仕事をしているのもまた、海上保安庁なわけですね。
     逆に言えば、海保の予算の増強といっても、総額では相当な額だと報道されても各職掌に割り振れば果たして十分なのか?という額になってしまうことも容易に想像されます。平和で安全な海を守るために、総理は"現場力"に期待しましたが、現場力を引き出すだけの"資金力"、すなわち兵站がしっかりしているのかどうか。兵站の軽視が幾多の悲劇を生んだというのは、先の大戦の大きな教訓であるはずです。とすれば、「歴史は繰り返す」としないためにも、兵站の重視、必要なところにきちんと予算を割くことが重要なのではないでしょうか?
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
(2012年1月9日~2018年3月29日)

「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」
(2012年4月7日~2017年9月30日)

・「東日本大震災から7年・・・本気の備えはできていますか」
(2018年3月11日)

・「ザ・ボイススペシャル 福島県の農業は今」
(2018年1月2日)

・「ザ・ボイススペシャル 密着・不発弾処理隊 今なお眠る2200トンとの戦い」
(2014年12月30日)

・「ザ・ボイススペシャル 辺野古の声」
(2013年12月30日)

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