• 2020年03月26日

    自戒を込め、三連休を振り返る

     先週末の三連休、首都圏は非常にいい陽気でお出かけ日和でした。一連のコロナウイルスの自粛ムードの中でホッと一息という感じで、久しぶりに外に出てみよう、遠くへ出かけてみようという気持ちにさせる天気。その上、東京では桜が満開になったと聞いた日にゃ、家に閉じこもっている方が無粋てな感じで、お花見の名所は人でごった返しました。


     大規模スポーツイベントも行われ、世間に普段通りの雰囲気が戻ったようでした。
     そのきっかけの一つが、19日に行われた新型コロナウイルス感染症対策専門家会議。2~3日前から専門家会議がまとめる提言の一部(とされるもの)が報道され、イベントの自粛が一部解除されるのではないか?全国一斉休校は解除となるのではないかという相場観が出来ていました。3月19日、深夜に及ぶ議論の末に出された専門家会議の提言は自粛というブレーキを弱めるのか、それとも引き続き強くかけ続けるのかの判断に迷うもの。これを伝える見出しも両論併記となりました。


     とはいえ、世の中の雰囲気は「そろそろ自粛も一段落だろう」というものでしたから、「現在は一定程度抑制」「一斉休校は4月解除」といったポジティブな部分が目立ち、依然残る大きなリスクの部分があまり報じられませんでした。専門家会議を受けて翌日開かれた新型コロナウイルス感染症対策会議では、イベントに関して決して開催を容認したわけではありませんでしたが、縛りが少し緩くなったかのような報道が相次ぎました。


     一連の自粛要請を受け経済が徐々に回らなくなってきているという分析が出てきていて、自粛一辺倒では国民が持たないという意見も専門家会議の中で出てきていたようです。そうしたことが、ニュアンスとして伝わったのかもしれませんが、専門家会議の提言を見ると報道とは違った厳しい雰囲気に驚かされます。


     特にこのイベントの部分を見ると、大規模イベントの取扱いについて書いているように見えます。大人数が集まり、換気が十分でなく、お互いが話すなどの接触が予期されるイベントは感染のリスクが高いと以前から言われていました。ということは、たとえば屋外で行うイベントであるとか少人数のイベント、お互い話をしないようなクラシックコンサートや映画であれば大丈夫なのではないか?という風に解釈してしまいがちですが、この提言の後段にはこんな記述もあります。

    <上記のリスクは屋内・屋外の別、あるいは、人数の規模には必ずしもよらないことなどの観点から、大規模イベント等を通して集団感染が起こると全国的な感染拡大に繋がると懸念されます。>

     こうなると、実はイベント全般に対してできれば中止・延期をしてほしいが、専門家会議の段階ではそこまで強制力のある言い方はできない。そこで、開催可能な条件を示している体をとりつつ、実はどんなイベントも開催できない厳しい条件を示すことでイベントは止めろ!という意思を示した形でしょう。

     しかし、実際には真逆のイメージで国民に伝わり、結果かなり緩んだ雰囲気で三連休を迎えてしまいました。
     私自身もそんな雰囲気に呑まれたのは否定できません。周りとある程度の距離をとって、腰を落ち着けずに歩きながらの花見なら大丈夫だろうと、近所の公園に出かけていきましたから。

     そして昨日、東京都では一日としては最多となる41人の感染が確認されました。三連休で感染した方々が今後次々と顕在化してくる時期となり、折からの病床数のひっ迫と相まって都知事が外出自粛を要請するに至っています。
     「感染爆発の重大局面」は、専門家の危機感と経済への影響を少しでも軽減したい政府の思惑、自粛に疲れ少しでも明るい話題を欲したメディアや国民の三者のボタンの掛け違いがミスリードを生んだ面が否めません。改めて、どういった注意喚起をすればよかったのか考えています。

     最後に、番組で紹介した、全国の感染症病床の埋まり具合を一目で示すサイトをご紹介しておきます。


     24日現在、東京はすでに結核病床をコロナに回すなどして対応せざるを得なくなっているようです。こういう時こそ、凡事徹底。手洗いと、密を避けた外出を。
  • 2020年03月17日

    震災9年の浜通り

     震災から9年たった3月11日。

     この日の朝日新聞の東京最終版一面トップの見出しは『避難なお4.7万人 人口34万人減』でした。
     一方、地元福島の新聞、福島民友の一面トップの見出しはというと、『きょう震災9年 桜並木 再生の息吹』
     同じ3月11日を迎えるにあたり、どうしてこんなに違ってしまうのでしょうか?
     政権に批判的な立場からすれば、現政権が手掛けている復興政策が上手く行かない方が、「この政権は復興を成し遂げるにあたり不適切であるから、交代した方がいい」という主張に沿うのでしょう。そして、本当に復興が話にならないほど上手く行っていないのであれば、その主張に正当性が出てきます。

     朝日の見出しにある、震災後人口が減ったまま戻らないという問題。まずは、震災前から東北各県は人口減、過疎化が問題となっていたことを考える必要があります。
     そのうえで、原発事故でしばらくの間町に入ることもできなかった福島浜通りはインフラの整備がされなければ人が帰ってこないでしょう。
     避難指示が解除されたとしても、その時点でインフラがすべてピカピカに元通りになっているわけではありません。そこから人の出入りが自由になるわけですから、インフラ整備もそこから始まるわけです。当初は学校も、雇用の場も買い物の場もそろっていません。近隣地域にそういった施設がある場合はいいのですが、それでも居住圏からあまりに遠いと帰還をためらう要因になります。
     また、就学児を持つ家庭が典型ですが、引っ越しをするタイミングは新たな学年が始まる4月。多くの企業で新年度が始まるのも4月。人事をそこに合わせる企業も少なくありません。
     したがって、3月11日の時点で出てくる人口のデータ、1月か2月のデータとなるでしょうが、それらは4月になると大きく変わる可能性があるわけです。
     「なお○○人」という見出しはその時点としては間違っているわけではありません。が、過度に復興が進んでいない印象を与えるものになってはいないでしょうか?

     私が今年の3月11日に向けて取材した福島県の浪江町を例にとりますと、2017年の3月31日に町の中心部などで避難指示が解除されましたが、震災前2万人あまりを数えた人口は、1200人あまりにまで減っています。帰還率は7%程度と1割に満たない数字です。
     ただ、町を回ってみるとようやくインフラが整ってきた段階。学校は、なみえ創成小・中学校が2018年4月に開校し、次の4月で3度目の春を迎えます。買い物に関しては、先日NHKのドキュメント72時間でも取り上げられたイオン浪江店が去年7月にオープンし、ようやく整いました。雇用に関しては、震災前は原発関係の雇用者が中心でしたが、現在の廃炉作業で往年のような大規模な雇用を生み出すことは期待できません。新たな産業を起こさなくてはいけないということで、町の北側の海沿いに産業団地を新たに整備し、今月完成しました。

    <浪江町が同町北東部の棚塩地区に整備している棚塩産業団地の利用が7日、始まる。利用開始を前に町は4日、同団地を報道陣に公開した。
     東北電力から無償譲渡された浪江・小高原発の旧建設予定地を、2018(平成30)年4月に産業団地として整備を始めた。約47ヘクタールの用地に、世界最大級の水素製造拠点「福島水素エネルギー研究フィールド」と福島ロボットテストフィールドの無人航空機滑走路、木材製造工場「福島高度集成材製造センター」が整備されている。>

     東京ドーム11個分という広大な敷地の大部分にソーラーパネルが敷き詰められていて、ここで作った電気で水を分解。水素を取り出し、それをエネルギーとして活用するそうです。雇用を考えると、かつての原発のような人口集約型ではなくイノベーション型の新産業ですから一気に爆発的な雇用を生み出すわけではありません。ただ、こうした未来へ向かっての新産業は目先の雇用だけでなく、今の子供の世代を根付かせることも期待されているようです。

     町の産業振興課・課長補佐の磯貝智也さんは、
    「この福島県浜通りで育った子供たち、高校生や高専生が卒業後、地域で魅力ある仕事を見つけられるかどうか。若い世代を出ていかずに、ここにはこんな夢のある仕事があるんだ。そのために勉強しよう、努力しようというきっかけになってほしい。新産業を誘致するのは、そんな狙いもあるんです」
    と語ってくれました。10年、20年先の浪江を見据えて今種を蒔き、育てていく。今は小さな一歩であるかもしれません。しかし、そこから千里の道を見通すような関係者の情熱に触れることができました。何よりも、どうせ被災地だからとあきらめるのではなく、ゼロからなんだから挑戦してみようという前向きな姿勢に共感しました。

     こうした前向きな話は、産業団地の開所などが出来事として触れられるだけで、東京ではあまり触れられてきませんでした。一方で、この3月に避難指示が解除された双葉町の様子は写真や映像で大きく報道されました。
     直近まで人も帰れない、9年間自由な人の出入りがなかった町ですから、震災直後の建物の様子が今も残っています。崩れたブロック塀や潰れた屋根、海沿いに行けば津波で流されひっくり返った自動車や1階部分を津波で抜かれてしまった家、倉庫...。
     2013年に警戒区域から再編され、許可を受けた人の立ち入りが認められた直後に取材に入った浪江町がまさにこうした風景でした。このような写真や映像に触れれば、「福島県浜通りはいまだにどこもこうした光景が広がっているのんだ」と思う人がいても不思議ありません。
     しかし、実際は避難指示が解除されたタイミングの違いこそあれど、それぞれの町が再び住民を迎える体制を整えつつあります。
    たしかに復興は道半ばです。

     それを、「まだ半ばまでしか来ていない」と嘆くのか、半ばまでの道のりを見つめて「ここまで来た」と言うのか?今までの取材もそうですが、今回の取材でも現地で嘆く人はほとんどおらず、「ここまで来たんだ」、「こんなことやっているんだ」と自分の町を誇らしげに紹介してくれる人がほとんどでした。
     前述の磯貝さんも、
    「帰還率を考えると凄く小さい数字のようにも思えるんですが、平成29年(2017年)3月31日に避難指示が解除になって、最初は100人に満たないぐらいだった。そこから3年で10倍以上人口が増えているエリアって日本全国でどこにもない!そうやって明るく考えていくことが大事だと思っていて、この浪江で新しいことがこんなに起こっているんだ。それに携われるんだよと明るい話題をどんどん提供していきたい」
    と話してくれました。拙著『「反権力」は正義ですか』(新潮新書)でも書きましたが、困っている人に寄り添う段階から、立ち上がった人に寄り添う段階になったと思います。
  • 2020年03月16日

    福島の漁業・その後

     東日本大震災から9年、福島県浜通りを取材してきました。
     去年から今年にかけてはJR常磐線の全線開通やJヴィレッジのグランドオープン、オリンピックの聖火リレーのスタートが福島県浜通りに決まるなど明るい話題も豊富。のはずだったのですが、一連の新型コロナウイルス対応で人が集まるようなイベントが自粛を余儀なくされ、各地の追悼式典も中止や縮小が相次ぎました。
     3月11日当日を除くと、コロナに押されてあまり報道も多くなかった印象。ですが、一歩ずつ確実に復興しています。

     3月10日の放送では、拙著『「反権力」は正義ですか』(新潮新書)でも触れた福島の漁業のその後を追いました。2年前の2018年に県の水産試験場を取材したのですが、当時は庁舎の建て替え工事の真っ最中で、いわき市小名浜にあった仮庁舎にお邪魔しました。


     当時は、出荷制限を受けていた魚種が10種類程度あり、まずは全魚種出荷できるようにするのが大目標でした。
     福島県沖で獲れるほとんどの魚種が出荷制限をクリアしましたが、残った魚種の制限クリアが遅れたのには理由がありました。
     まず、それらの魚の多くは福島県沖ではほとんど掛からない魚だったこと。たまたまモニタリング時に掛かって検査した結果基準値を上回った場合、出荷制限魚種と認定されてしまいます。普段掛からない魚なので、次回試験操業時にも掛からずに、制限魚種のままリストに残ってしまいます。結果、消費者には「福島の海域では、まだ出荷制限が残っている!」という負のイメージが残り続けることになってしまいました。
     さらに、この出荷制限を解くには、同じ海域で獲らなければいけないという決まりもありました。魚はその性質にもよりますが、大海原を自由に泳ぎ回るものです。同じ魚種が同じところで掛かる保証はありません。その上、繰り返しになるが出荷制限がかかっていた魚の多くはそもそも福島沖ではあまりお目にかかれないような魚たち。
     メディアは出荷制限魚種がリストに残っていることを根拠に「復興はまだ道半ばです」とか、「原発事故の影響がまだ残っています」などと安易に結論付けてきましたが、その裏で福島の漁業関係者は、森の中である特定の葉っぱを一枚探すような、砂漠である特定の砂粒を探すような厳しい課題と戦っていたのでした。

     去年の7月、県の水産海洋研究センターがオープンしました。もともとあった県の水産試験場を改組し、新たな施設と新たな組織での再スタートです。
     水産試験場というと、魚の生態を解明することで水産資源の充実を図ったり、漁法の開発、養殖や畜養などの研究が主ですが、福島ではそこに放射性物質への対応や水産物の安全性を確保する研究拠点としての位置づけも付与されました。
     まさにその放射性物質への対応を最前線で行う放射能研究部の神山部長は、
    「震災後、手探り状態の中、1から我々も学び、放射性物質への対応をしてきた。今まではまず基準値を超えていないかを測るところからだったが、より詳密な検査ができる機器を入れたことで、魚類の体内や海洋の中で放射性物質がどう動くかなど、より根源的な研究もできるようになった。また、飼育実験も行える施設もできた。大学など他の研究機関との連携も行っていきたい」
    と、この新しい施設の意義を話してくれました。

     この9年で様々なことが分かってきたようで、その一つが魚の世代交代。前回の取材でも、海水魚はセシウムをため込まずに排出する性質があり、親から子へ放射性物質を受け渡すようなことはないということが分かったとこのブログにも記しましたが、9年たってほとんどの魚が震災後生まれとなったことも基準値超えがほとんど出なくなった要因の一つのようです。

     一方、現場ではその後も粘り強くモニタリング調査が続けられ、ついに先月25日、全魚種で出荷制限が解除となりました。最後まで残っていたコモンカスベ(エイの一種)は、県のモニタリング調査では国の基準である1キログラムあたり100ベクレルを下回り続けていたのですが、漁協の自主検査で去年の1月に100ベクレル超えが出たそうで、追加のモニタリングが続けられていました。
    去年2月以降、1008の検体を調査し、うち1001検体で検出限界値未満、残り7匹も一番高い検体で17ベクレルと国の基準を大幅に下回ったので解除となりました。

     とはいえ、現在も県によるモニタリングと漁協が行う自主検査の2段構えで基準値超えの魚が市場に出回らないように厳しい検査体制を敷いています。
     自主検査を行っている場所の一つでもある小名浜魚市場も取材しました。市場を運営する小名浜機船底曳網漁協の中野聡さんは、
    「国の基準の(1キログラムあたり)100ベクレルよりも厳しい50ベクレルを合格基準としてやっている。さらに、25ベクレルを超えてきた魚は県の施設で検体の精密検査をしてもらうという段取りを組んでやっている」
    と説明してくれました。

     まさに、消費者の安心を勝ち取るために、現場としてできることは何でもやるという姿勢で必死に検査をしているのです。その姿勢は、生産したコメを全量全袋検査している福島の農業関係者の姿と重なりました。
    「安全は科学的に証明できるが、安心は個々人の心の問題だから左右できない。こちらとしては、安全を数字で示すために何でもする」
    と検査場で切々と私に訴えたコメの生産者の方々と目の前の中野さんの姿が重なって見えたのです。そのことを中野さんに話すと、
    「でもね飯田さん。農業と漁業ではまた違った難しさがあるんですよ。我々はランダムにサンプリングで検査を行っている。もちろん統計的に有意な形で抜き取り検査をしているが、本当はコメみたいに全数検査したい。ただ、それをやっていたら魚はすべてダメになってしまうでしょ?農業は後追いできる。どこで誰がどんな環境で育てて、その結果としての放射線量まで紐づけできる。でも、魚はどこから来たかわからないでしょ?より難しいんですよ」

     しかし、だからといってあきらめるわけではありません。最後まで出荷制限を受けていたコモンカスベの対応こそ、福島の漁業関係者の姿勢の表れだと言います。
    「基準値を超えたものは正直に出す。これに尽きる。正直に情報を出して、市場には出さない。」

    何のために検査を行っているのかをしっかりと見据えて仕事をされているのを感じました。それは、食べる人の安全を守るということ。自分たちにとっては不都合な数字であっても、あるいはあればこそきちんと公表し、人々の口に入らないように迅速に対処する。この積み重ねによって、信頼を勝ち取っていくよりほかに方法はないと覚悟を決めています。

     それゆえ、いま最も心配されているのが根拠不明のデマの類です。
     この新型コロナウイルスの流行に伴って、マスクやトイレットペーパー、ティッシュペーパーなどの紙製品、果ては納豆まで買い占めが起こり、棚から物が消えたという現象が起こりました。需要が供給を超えたマスクはまだしも、トイレットペーパーやティッシュペーパーはその大部分が国内製造で中国で流行したから品薄になるようなものでもなく、また流通機能はマヒしたわけではないので待っていれば入荷するというのに、大騒ぎがなかなか収まりません。
     メーカーや流通業者、それに政府までが在庫は豊富にあり、あわてる必要はないと画像付きで訴えてもなかなか収束しないこの騒ぎを、福島の漁業関係者は息をひそめて見つめています。

     福島の海産物が科学的に安全であることは数字を見ればわかるし、市場に出ているものは厳しい基準をクリアしたもの。モニタリング調査の結果はホームページを見ればほぼリアルタイムに近い形で可及的速やかに載せている。
     福島第一原発の敷地内に貯められている処理水を適切に処理し、希釈して放出していも科学的には安全であると言える。
     論理では十分に説明がつくが、これだけ根拠不明のデマが出回る日本社会でふとした拍子にバッシングされたら取り返しがつかなくなってしまうのではないか...。

     福島の農林水産業を取材すると、結論はいつも同じになるのですが、科学的には安全であると数字が証明しています。その上で、安心は一人ひとりで違うものですから、誰々が言ってたからとか、テレビでやってたからではなく、まずは数字を見てご自身で判断いただければと思います。ホームページ上にモニタリング調査の数値がほぼリアルタイムに近い形でタイムラグなくアップされています。

  • 2020年02月17日

    消費税増税現場への影響

     国内のニュースは、中国湖北省武漢市を中心に拡大の一途をたどる新型肺炎についてでほぼ一色になってしまっています。いよいよ国内で日本人同士での感染が報告され、市中感染であることが濃厚になる中、自衛の手段などを報道するのは必要なことでしょう。
     一方で、普段であれば大きく取り上げられそうなニュースが小さかったり印象に残らなかったりします。経済に関するニュースなど、真っ先に端に追いやられるものですが、インパクトは普段以上の数字が出てしまいました。

    <内閣府が17日発表した2019年10~12月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除く実質で前期比1.6%減、年率換算では6.3%減だった。5四半期ぶりにマイナス成長に転じた。19年7~9月期は年率換算で0.5%増だった。消費増税前の駆け込み需要の反動減が響いたほか、大型台風や暖冬による消費の伸び悩みも重荷となり、年率でのマイナス幅は14年4~6月期(7.4%減)以来の大きさだった。QUICKが集計した民間予測の中央値は前期比1.0%減で、年率では3.9%減だった。>

    民間予想がマイナス4%前後だったことを考えると、市場の想定以上のマイナスとなったわけです。政府発表の一次資料を見ますと、その痛手がわかります。


     これを見ると、内需が徹底的に傷んだことが良くわかります。季節調整済みの実質でマイナス2.1%。さらにその中でも民間需要の落ち込みが顕著で、同マイナス2.9%という厳しい落ち込みとなっています。

     この急落に対して新聞各紙は判で押したように「駆け込み需要の反動や台風、暖冬」を原因に挙げていますが、果たしてどうでしょうか?
     駆け込み需要の反動減を言うのであれば、まず消費税増税した10月1日の直前は駆け込み需要があって内需が伸びていなくてはいけませんが、肝心の7~9月期の国内需要は季節調整済みの実質でプラス0.4%。民需は同プラス0.2%に過ぎません。駆け込み需要がなかったのに反動減だけがあったわけで、これは消費税増税が純粋に需要を押し下げたという方が理にかなっているのではないでしょうか?

     台風の影響は確かに甚大でしたが、全国の数字を積み上げたGDPの値にどこまで影響するのかは考えなくてはいけません。何しろ、毎年のように台風が来ていますが、どうして今回だけGDPの値に甚大な影響を与えることになったのか?
     また、暖冬の影響を言いますが、1月からの数字ならまだしも、今回発表になったのは10月~12月の数字ですから、そもそも期間の前半は冬ですらありません。
     内閣府からのレクチャーをそのまま各社記事にしているのでしょうが、私のような素人でも数字を見ればわかることがなぜ記事にならないのか?不思議でなりません。こういう記事の積み重ねが誤った経済判断を招き、結果的に政策判断を誤らせるとしたら、これほど罪深いことはありません。
     拙著『反権力は正義ですか』でも記しましたが、経済は人の生き死にを左右するのです。詳細はお読みいただければと思いますが、経済的要因の自殺率と失業率の間には高い相関があることが分かっています。失業率は当然経済状況に依存します。不景気で失業率が改善することはめったにないのですから。

     さて、この経済減速の要因については、上に挙げた駆け込み需要の反動や台風、暖冬に加えて、今回の新型肺炎も理由にしながら、巧妙に消費税増税の影響が隠されてしまっています。それだけに、実体経済にどれだけの影響があるのか、現場での聞き込みが重要になります。
     私が担当している朝6時からの番組『OK!Cozy up!』では、今週「消費税増税から人手不足まで ちまたのニュース 意外な裏側」と題してお送りしておりますが、今日は練馬のスーパーアキダイの秋葉社長に話を伺いました。


     放送でも少し触れましたが、今回の消費税増税はキャッシュレス取引のポイント還元などもあり、今までの増税の中で最も混乱したそうです。
     特に問題になったのが、キャッシュレス決済。
     お客さんと直接触れ合う小売店では従来現金での決済が大半でした。お金に色はついていませんから、お客さんから入ったお金をそのまま取引先との支払いにすることも物理的には可能だったわけです。
     それが、キャッシュレス決済になると、各運営会社からの入金を待たなくてはなりません。その期間の分だけお金は回らずに塩漬けになってしまうわけですね。
     各運営会社で決済から入金までの時間差はまちまちですが、いろいろ取材してみると「○○Pay」といったスマホ決済は比較的短く2,3日というところもありました。一方、クレジットカード会社は長く、月末締め翌月末支払いというところも。そうすると、最長で丸々2か月資金が寝てしまうことになります。
     ところが、仕入れ先はそこまで支払いを待ってくれるわけではありません。そもそも今まではタイムラグなしで回していただけに、手元に資金が乏しくても右から左へお金を流していくことで商売が回っているところがありました。
     今回のキャッシュレス導入で生じたこの時間差が意外と経営に影響します。
     アキダイの秋葉社長も、
    「取引先には現金で決済していくから、手元からどんどん資金が減っていく。一方で入金は1か月2か月後。当然手元資金がどんどん減っていって、銀行に融通してもらうしかなくなった」
    とこぼしていました。
     知り合いの税理士さんに聞くと、こうした例はこの年末けっこう見かけたそうです。特に、業績が好調で堅実に商売をしてきた会社で当座資金ショートしかかる例が多かったようです。大手であれば潤沢な手元資金で乗り切れますし、個人商店的な小規模企業であればタイムラグで生じる資金需要もさほど大きくないので乗り切ることが出来る。ところが、小から中規模程度の比較的優良な企業が今回一番苦しんだといいます。

     秋葉社長は最後に一言漏らしました。
    「政府は果たして我々中小企業を必要としているのだろうか?今回のやり方を見ていると、大企業中心の分かりやすい経済に移行しようとしていると疑問をもってしまう」

     2019年度版中小企業白書によれば、中小企業は全企業の99.7%を占め、従業員数も全体の7割、付加価値も全体の約53%とのことです。雇用の面からも付加価値創造の面からも、日本経済を支えているのは中小企業です。
     ここを痛める消費税増税はやはり悪手であったと言わざるを得ません。
  • 2020年02月12日

    総力戦

     このところ毎日のように、新型コロナウイルスについてのニュースが更新されていき、国内メディアの報道はもうこれ一色という感じになってきました。1か月以上前からこれは大変なことになるかもしれないと警鐘を鳴らしてきましたが、結果として予想通りとなってしまい力不足を実感しています。
     中国・湖北省武漢を中心に、大都市圏を中心に中国各地に拡大しているこの新型コロナウイルス由来の肺炎。日本では先月中旬から患者が出始め、原稿を執筆している12日午後の時点で、クルーズ船ダイヤモンドプリンセス乗船者を含めて174人となりました。特に深刻なのは、このダイヤモンドプリンセスで検疫業務にあたっていた検疫官からも感染が確認されたことです。

    <集団感染が広がっている。クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の船内で検疫をしていた厚生労働省の男性検疫官が、新型コロナウイルスに感染していたことがわかった。
    検疫官の感染確認は、初めて。
    この男性検疫官は、2月3日から4日まで、船内で乗客の体温の測定や質問票の回収業務を行っていたが、9日に発熱などの症状があり、ウイルス検査の結果、新型コロナウイルスの陽性反応が出たという。
    船内では、医療用マスクや手袋を着用し、作業ごとに消毒をしていたが、防護服は着用していなかった。>

     なによりも、検疫官がなぜ防護服着用で作業をしていなかったのか?船内で体温の測定や質問票の回収作業を行っていたということであれば、事前に相当長い時間を感染が疑われる方々とともにすることがわかっていたはずです。
     2月3日時点ですでに、この新型コロナウイルスが人から人へ感染したと数多くの報告例があり、国内でも感染が疑われる中国・武漢からの観光客を長時間載せていた観光バスの運転士やガイドの感染が報告されていました。あらかじめ濃厚接触が予想されているのであれば、なぜ防護服を導入できなかったのか?
     もしそれが、当時防護服が手配できない品薄状態が原因であれば、より多くの問題を孕みます。たしかにその時期(今もですが)、巷ではマスクや防護服が店頭から消えていました。

    <マスク以上に品薄状態になっているのが防護服です。主に中国に本社を置く日本法人から問い合わせが多いといいます。現状、品薄の状態で1カ月以上待ちだということです。>

     1月末の時点で品薄状態。一か月待ち。これでは、2月初旬に急遽対応しようとしても間に合わないのも当然かもしれません。しかし、ある所にはあるのです。

    <【2月8日 Xinhua News】阿里巴巴(アリババ、Alibaba)公益基金会は7日、日本が中国に医療用防護服10万着を追加支援することを明らかにした。防護服は同会を通じ、需給がひっ迫している中国の病院に届けられる。アリババグループはさらに、日本の電力各社と日本原子力研究開発機構(原子力機構)から2万4200着の放射線防護服を調達、あわせて必要とする機関に送付される。>

     AFPの記事ですが、元は中国・新華社通信です。中国の公式発表に近いものですから、間違いはないでしょう。日本から防護服2万4千着あまりが中国に渡っていたのです。
     これが平時ならば美談ですし、困っている隣国に手を差し伸べることに異論はありません。政治体制の違いや安全保障上の対峙点などは中国の姿勢を全く容認できるものではありませんが、緊急時の人道的な支援は出来る範囲でするべきであるというのが私の立場です。もちろん、その際にも言うべきはきちんと言い、かつ本当に困っている人のもとに届くよう、場合によっては横流しを監視するために要員を派遣するなども必要かもしれません。

     ですが、今回は日本国内も有事に等しい状況になりつつあります。現場で防護服が足らなくなっているにも関わらず、在庫の防護服をそちらに回さず中国にもっていくのは「出来る範囲の」支援を完全に超えてしまっています。
     人によってはこれで中国に恩を売るのだと言いますが、中国が日本に対して恩を感じていたらなぜ今この瞬間にも尖閣周辺に公船を派遣して日本の主権に挑戦し、航空機を領空ギリギリに飛ばして航空自衛隊を挑発してくる必要があるのでしょうか?
     それに、そもそも無理をしてまで恩を売る必要はありません。恩を売るというとなんだか上から目線ですが、無理をしてまで防護服を送るのはただ単に「媚びを売る」行為に過ぎません。

     政府はようやく今日になって中国全土への渡航延期勧告ならびに在留邦人の早期一時帰国を呼び掛けるスポット情報を出しました。


     となると、中国全土から邦人の引き上げが行われる可能性が高くなってきます。そうでなくとも湖北・浙江以外からの旅客は日本への入国がほとんど支障なくできる状況ですから、潜在的な感染者が多数流入し、かつそれが人から人へと拡散するリスクが高まっています。
     残念ながら、もはや水際で防ぐというフェーズを超えてしまった可能性があるのです。専門家の方々も軸足を水際から治療へと変えてきています。

    <人から人への感染や無症状の感染者が国内で確認され、既に各地でウイルスが静かに拡散している可能性は高い。そうすると水際対策の効果は薄くなる。これまで日本の水際対策は一定の効果を見せているが、これ以上強化すべきではない。むしろアクセルを緩めるべき時がきている。>

    これを読むと、「緩めるとはどういうことだ!?」と思ってしまいますが(私もそう思いました)、肝心なのはその先です。

    <(中略)今やるべきことは、水際対策の強化よりも国内対策だ。ウイルスが広がっても適切な治療を迅速に提供できるようにすることだ。
    感染症の専用入院施設は全国で約1800床。軽症患者まで入院させればすぐに埋まってしまう。重症者を優先して治療する仕組みが重要だ。>

     今武漢で起こっているとされている医療崩壊は、医療機関が捌ける数をはるかに超える人々が押し寄せた結果、罹患していない人が病院で待っている間に感染したり、軽傷だった人が重症化したり、疲弊し免疫力が低下した医療関係者にも感染が広がり、さらに医療の供給量が減少して捌ける数が激減し...と負のスパイラルに陥った結果でした。
     同じことを起こさないためにも、万全の医療体制を組んで立ち向かわなくてはなりません。特に重症者を診る医療関係者のためにも、防護服、マスクなどの物資は潤沢に供給しなくてはいけません。

     初手の水際対策では残念ながら防げず、我が国に侵入を許したこの新型コロナウイルス。治療体制で失敗は許されません。

     そのためにも、物資の確保は最重要となるわけです。それでも、今、防護服やマスクを中国に送りますか?

     さて、ニッポン放送の各番組で取り上げられたコロナウイルスについての情報や専門家コメントをPodcastに集約しました。 最新の情報、有識者の見解を得るひとつの情報源としてぜひご活用ください。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
「飯田浩司そこまで言うか!」

■会員制ファンクラブ(CAMPFIREファンクラブ)
「飯田浩司そこまで言うか!ONLINE」

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