• 2018年02月15日

    定年延長は人手不足の処方箋か?

     今週はインフルエンザにかかりまして月曜~水曜のボイスをお休みしてしまいました。ご迷惑をお掛けした関係各位、特に急な代打を引き受けてくれた箱崎アナ、新行アナには足を向けて寝られません。ありがとう。持つべきものは頼りになる後輩だなぁと、頼りがいのない先輩は病床でラジオを聴いておりました。
     私は先に患った息子の看病をしていて伝染りましたが、まだまだ猛威を振るっております。どうぞ皆様、ご自愛くださいませ。

     さて、そんな折りに家で新聞をチェックしていてひっくり返ったのがこの記事。

    <25年までに厚生年金の支給開始が男性で65歳に引き上げられ、定年や再雇用で収入が減る「60歳の崖」が課題となっている。人手不足が続くなか、経験豊かなシニアの士気低下を防ぎながら、雇用を維持する動きが広がってきた。>

     もともと、2013年の高年齢者雇用安定法の施行で、企業は定年後に働きたい社員を年金支給が開始される65歳までは雇用しなくてはならないことが決まっています。雇用の方法は3通りあって、一つは定年延長。2つ目が嘱託などの再雇用、そして定年制度そのものの廃止です。この内、厚生労働省の就労条件総合調査の最新の数字、平成29年の調査結果では、83.9%の企業が再雇用制度を採用しています。
     理由は記事にもある通り、人件費の問題。
     ここ10年で定年を迎えてきた世代と言えば、団塊の世代。年功序列賃金制度のど真ん中にいた彼らは総じて定年時に高い賃金を得ていました。現役時代は、若い時期に低賃金で苦労したんだから仕方がないだろうと正当化されてきましたし、一度上げた賃金をおいそれと下げられないのが日本型雇用制度。定年という区切りでようやく下げることを呑ませられるという経営側の意図もあり、多くの企業がこの制度を採用してきました。

     ところが、このところ定年後再雇用の制度を見直して定年を延長しようという動きがにわかに出て来ています。その動きは、民間のみならず、官にも。

    <政府は、原則六十歳と定める国家、地方公務員の定年を三年ごとに一歳ずつ延長し、二〇三三年度に六十五歳とする方向で検討に入った。人件費の膨張を抑制するため、六十歳以上の職員の給与を減額するほか、中高年層を中心に六十歳までの給与の上昇カーブを抑える考えだ。>

    そして、メディアにも。

    <朝日新聞社は10月から、社員の定年を65歳に延長した。勤務日数や転勤に一定の制約を設けていた従来のシニアスタッフ制度に代えて「60歳以降も戦力として働いてもらう」(重野洋労務部長)ことが狙い。>

     子育て世代に手厚く!と旗だけは振りますが、やっていることは官もメディアも高齢者優遇。そもそも高い人件費を多少押さえたとしても、上記日経の記事にある通り60歳到達前の8割の水準が維持されれば、それは若手を2~3人分になるでしょう。人手不足を理由に、今すでに自分達の手元にいて、新たに採用活動しなくて済む60歳以上を繋ぎ止めれば当座はしのげるでしょう。問題は、この手当ては5年、10年先を見据えていないことです。皮肉にも、同じ昨日の日経にこんな興味深いデータがありました。

    <厚生労働省の賃金構造基本統計調査によると、2016年の正社員の所定内給与(6月分)は32万1千円と、4年前から4700円増えた。ところが、45~49歳は7千円減り、40~44歳は4500円減った。20~34歳や55~64歳といった年齢層は7千~8千円程度増えているのと対照的だ。>

     記事にはグラフがあって、それを見ると一目瞭然なのですが、30台後半から40代の世代がM字を描くようにボコッと凹んでいます。この世代は、本来ならば働き盛り。ある程度のスキルを積み、現場を指導する立場で、これから社会を背負って立たなくてはいけない世代です。子育て世代で最も消費性向が高い世代でもあり、少子化を問題視するのであればこの世代がターゲットとなるはず。ところが、その世代を著しく冷遇しているのがデータからも読み取れます。
     この世代の賃金がなぜ伸びていないのか、様々な分析がなされていますが一つの説として提示されているのが、この世代に多い長期非正規労働者の存在です。社会に出たタイミングでデフレの真っ只中。正社員の門戸は限りなく狭く、仕方なく非正規労働の道を選択した人が、そのまま今も非正規のままでいます。今非正規の賃金は上がってきていると言われますが、社会に出てこの方スキルを上げる機会を奪われたこうした団塊ジュニア、ロストジェネレーション世代は、そのスキルの乏しさ故に賃金上昇の波からも取り残されつつあるのかもしれません。

     定年延長も結構ですが、ぜひとも働きに見合った給与体系にしてもらいたいものです。「賃上げしました!が、そのほとんどが定年延長分に消えました...」では「働き方改革」が聞いて呆れます。今のままだと、おそらくそうなってしまうでしょう。
     人手不足というならば、ロスジェネ世代のスキルアップと正規雇用化が先なのではないのでしょうか。少なくとも、彼ら彼女らは定年を迎える方々よりは20年は若いはずです。
    そして、もう一つ心配なのが、定年延長で管理職の椅子がますます空かなくなること。部署の統合や企業統合などで管理職のポストはどんどん減っています。それゆえ、課長・部長といった管理職に就く年齢も高くなる傾向にあるのです。


     会社員生活で一度も部下を持たずに定年を迎えるという人が続出する時代ですが、引退するはずの人が居座り続けることでその傾向がますます加速します。ただでさえ迅速な意思決定が求められる時代なのに、日本企業だけはいつまでも判子のやり取りに終始している。もうこれを冗談として笑えない時代に来ています。
     組織の平均年齢が上がれば上がるだけ、新しいことに挑戦しようとする意欲が失われることが研究で証明されています。ただでさえ数の少ない若手が新しいことを提案しても、大多数のベテランがあれこれと難癖を付け、なかったことにしてしまう。他人事じゃないって方、多いんじゃないんですか?
     定年延長は、延長されるご本人にとってはもちろんバラ色の話なのでしょう。減ると思っていた収入があまり減らずに済むんですから、こんなに嬉しいことはない。ただし、そこには世代間格差拡大という落とし穴があることも忘れないでいただきたい。苦労するのは、ちょうどあなたの子供の世代です。

     それともう一つ。定年延長するにせよしないにせよ、原資は経済成長がもたらすということは論を待ちません。まずデフレ脱却。経済成長。いずれにせよ議論はそれからです。
  • 2018年02月08日

    身から出た錆

     週明けの日経平均株価が1000円を超える下落を見せ、巷ではいよいよアベノミクスが岐路に差し掛かったというような論調が強くなってきました。政権発足当初のアベノミクス3本の矢というと、金融緩和・財政出動・構造改革でしたが、その中でも最も機能したのが1本目の矢である金融緩和。この副作用が大きくなってきたというのが、典型的なアベノミクス批判のパターンです。


    日銀の黒田総裁は会見の度に大規模緩和は継続すると言い続けていますが、大手メディアの経済部やいわゆる"市場関係者"とされる人たちの中では、それを真に受ける人はいません。型的な例として挙げた上記読売の社説でも、
    <金融緩和策が近く縮小に向かう、との見方が市場関係者の間で増えている。景気拡大は戦後2番目の長さに達し、雇用の改善も進んでいるためだ。>
    と解説しています。
     たしかに雇用の改善は進み、足元の完全失業率は2017年通年でも2017年12月でも2.8%まで来ています。
    一昔前ならば完全雇用と言われた状況。GDPも順調に伸びているということですが、肝心の物価上昇率は生鮮食品を除く総合で2017年12月はプラス0.9%と目標の2%に遠く及びません。
     さらに、昨日発表された厚生労働省の毎月勤労統計調査によれば、その微々たる物価上昇率よりも名目賃金の伸びはさらに弱く(0.4%)、結果的に実質賃金は2年ぶりのマイナス水準(-0.2%)に落ち込んでしまったようです。
     ん~、"雇用の改善"は、強いて言えば量の部分は改善したのかもしれませんが、質の部分(賃金水準など)はまだまだ。これで金融緩和策縮小となれば、現在正社員で雇用が安定している方々にとっては問題ないかもしれませんが、これから労働市場に参入しようとする若者や、やむ終えず非正規でいる方々にとっては悲報以外の何物でもありません。

     ただ、こうしたいわゆる"出口戦略"報道に一定の信憑性を与えてしまっているのが、日銀執行部も実は金融緩和を止めたがっている!という専門家や経済メディアの解説です。たとえば、こんな記事。

    <日本銀行が22、23日に開いた金融政策決定会合では、1人の政策委員が、今後2%に向けて物価が上昇し経済の中長期的な成長力が高まる中で、「環境変化や副作用も考慮しながら、先行き望ましい政策運営の在り方について検討していくことも必要になるのではないか」と述べた。>

     この見出しとリードの一行目だけを読むと、ああ日銀執行部の中にも危機感があるのか!という印象になりますよね。ところが、これが典型的な"チェリーピッキング"。自分の求める美味しいネタだけを切り取って出してきた記事です。というのも、この記事のソースになっている日銀金融政策決定会合の「主な意見」。実は、これだけでなく会合で出た様々な意見が箇条書きになっているものなのです。


     会合参加者の意見を数えてみると、オブザーバー参加している政府関係者(内閣府・財務省)を除いても27個あります。そのうち、副作用云々を言っているのは1つだけ。その上、直後には、
    <2%の「物価安定の目標」まで距離がある現状では、市場で早期に金融緩和の修正期待が高まることは好ましくない。>
    と、出口戦略が喧伝されて市場に間違ったメッセージが送られることに対して釘を差すような意見も公表されています。上記ブルームバーグの記事も、本文中ではこうした正反対の意見も紹介していますが、ならばなぜ見出しはミスリードを誘うようなものになっているのか?冒頭で紹介した読売の社説など、そのミスリードにいとも簡単に乗せられています。

    <日銀が先月開いた金融政策決定会合では、複数の委員が緩和策の見直しに言及した。>

     ただし、ミスリードなのは経済メディアだけでなく、日銀のオペレーションもミスリードを誘うような動きをしているのも事実。このブログでも日銀が目立たないように金融緩和の手を緩めている、いわゆる"ステルステーパリング疑惑"について書いてきました。アクセルの踏みが緩くなってきているのではないか?という趣旨で書いてきたのですが、ひょっとするともはやブレーキかもにも足がかかっているのかも知れません。

    <日銀の資金供給量(マネタリーベース)が黒田東彦総裁の下で初めて減少に転じた。1月に供給したお金の量(季節調整済み)は昨年12月に比べて年率換算で4.1%減った。減少は2012年11月以来、5年2カ月ぶりだ。>

     こういうデータが出てくるから、市場から出口に入ったんじゃないか?と疑われるわけで、黒田総裁以下日銀関係者が「緩和は続けるって会見で言っているのに市場は誤解している」なんてボヤいても身から出た錆。言行不一致を突かれているわけですから。かくなる上は、より一層の緩和でもって日銀の意思をよりハッキリと示してもらいましょう。でなければ、市場の疑念は払しょくできず、日銀が密かに金融緩和を終了しようとしているという疑念が既成事実となってしまいます。ズルズルと明言せずに金融緩和を閉じていくという悪いシナリオですね。ある意味で官僚らしいサボタージュからの既成事実化ですが、それをガバナンスと言えるのか?トップの言っていることを現場が聞かないという現場の暴走を、専門家もメディアもこぞってもてはやしている構図は、私には戦前の軍部も彷彿させるおぞましいものに映るのですが...。
  • 2018年01月29日

    官邸一強の不思議

     通常国会がスタートして一週間。今日から衆議院で予算委員会の実質質疑がスタートし、本格的な論戦が始まりました。と、報道されています。内実はといえば、お寒いものでしたが...。

    <29日の衆院予算委員会で、自民党の堀内詔子氏が持ち時間を数分残して質問を終えようとし、野党から「余っているじゃないか」とやじられる場面があった。自民党が質問時間の拡大を求め、野党と駆け引きを続ける中、時間を短縮された野党側としては看過できなかったようだ。>

     時事は何に忖度したのか「数分残して」と表現していますが、産経は正確に報じていて、実際にはたったの1分ほど。私もインターネット上にある公式のビデオライブラリで確認しましたが、たしかに残り時間は1分ほどでした。その上、自民党の質問時間はこの日のトップバッター福井照議員からこの堀内議員、次の國場議員まで全体で割り当てられています。目安としての質問時間は福井議員60分、堀内議員45分、國場議員45分とされていますが、会派の中で割り振りを変えようとも問題はありません。私は、かえって野党側の大人げなさが際立ったように見えました。

     さて、こんなヤジが出た裏には、記事にもある通り前回の特別国会から燻る与野党の質問時間をめぐる駆け引きがあります。野党側は特別国会当時から、「8年前からの慣例、野党8対与党2が破られるのはけしからん!」と批判しています。私は当欄で、8年前に慣例が変わったのも本当は当時の与党・民主党の意向が働いていたと書きました。


    私は8年前当時を知る複数の政界関係者を取材して書いたのですが、国会議員からも当時について語っている方がいました。


     御覧になればわかりますが、当時の民主党・小沢幹事長は、「政府与党一体なのだから、与党の質問時間自体要らない」という、より過激な主張でした。それゆえ、衆院では本会議での代表質問もなかったのですが、さすがに予算委員会で何もしないのはどうなんだ?という意見も出て、現在も続く野党8対与党2に落ち着いたとのことです。今の野党議員の方々は、当然この時も議員であって当事者であったはずです。この経緯はすっかり記憶から抜け落ちてしまったんでしょうか?8年続いた今の慣例については言い募りますが、その前の野党6対与党4の配分はそれよりもかなり長い期間の慣例だったはず。そこに戻すどころか、そこまでも行かずに野党7対与党3でも激烈な批判をしています。しかも、批判の矛先は、与党と思いきや、総理官邸。今日の予算委員会でも、立憲民主党の長妻議員がこう発言しています。

    「自民党サイドと交渉するとですね、いや首相官邸からこういう指示が来たと。首相官邸が固いんだと。籠池さんの証人喚問もですね、首相官邸がやっていいと言われたからやると。(中略)首相官邸が関与しているんですよ」

     この質問時間の件についても「総理官邸の意向」、森友学園の問題も「総理官邸の意向」の忖度、加計学園の獣医学部新設問題も「総理官邸の意向」...。
    官邸一強、アベ一強ととかく批判されますが、中で働いている人の印象はまるで違います。まず、ある有識者会議の委員は、
    「最近は各省庁が何でもかんでも官邸の意向というお墨付きを得るために、所管の厄介な案件を会議の議題に上げてくる」
    とこぼしていました。
     各省庁の所管の規制緩和などの案件のうち、強硬な反対があったりして長年進まなかった案件を突破するために、「官邸の意向」を錦の御旗にしたい、責任は官邸に押し付けたいという各省庁の思惑を感じながら仕事をしているそうで、
    「そうした責任押し付け型の筋悪案件の中に、いくつか光るものがあるのでそれを見分けるのが仕事」
    と話してくれました。

     また、中央官庁から出向している官邸高官は、
    「最近、出身官庁から細かい案件で連絡してくる若手が増えた。そんなもん自分でやれ!という話なんだけど、官邸のお墨付きが欲しいらしい」
    と嘆いていました。官邸一強というと、とかく政権の横暴のように批判されますが、それに甘える省庁側の怠慢、さらに、それを知ってか知らずか乗っかって政権批判に活用する野党やメディアという構図が見えてきます。官邸高官は嘆きついでに、
    「野党やメディアが言うような官邸一強だったら、何で消費税増税を延期するだけであんなに苦労しなきゃいけないんだよ...」
    とボヤいていました。『官邸一強』という見出しを見るとおどろおどろしいものをイメージしてしまいますが、色眼鏡ではなく真っすぐにファクトで判断したいものです。
  • 2018年01月25日

    一縷の望みを

     関東地方に時ならぬ大雪が降る中、通常国会がスタートしました。冷え込む首都圏と同じように有権者の心が冷え込むような水掛け論に終始するのか、それともこの雪を溶かさんばかりの熱い論戦が行われるのか。北朝鮮の脅威を前に、あるいは中国の膨張を前にどう議論するのか?あるいは来年10月に行われるとされる消費税増税を前に、足元の経済をどうテコ入れしていくのか?はたまた憲法改正にどう向き合うのか?議論すべきだろうと思うトピックは様々ありますが、これらは野党間で一本化するのが難しいのも確かです。結局、政権反対で一致できるテーマを選ばざるを得ず、結果としてそれは有権者の心を冷え込ませるような水掛け論になってしまいそうです。

    <昨年衆院選での民進党分裂に伴う混乱を引きずる野党は、22日召集の通常国会で協力できるテーマごとに共闘をめざす。主張に溝がある安全保障や憲法改正での各論の一致は棚上げし、政府の働き方改革への反対や森友学園・加計学園を巡る問題などスキャンダルで政権を揺さぶる作戦だ。「多弱野党」を克服し、巨大与党にどう対峙するか。野党の手探りが続く。>

     相変わらずの森友・加計、それにスパ(スーパーコンピューター開発会社を巡る助成金詐欺事件で助成金採択をめぐる政権の関与が?)、リニア(大手ゼネコンの談合疑惑に政権の関与?)と、今国会もスキャンダルを煽って空転させようというのでしょうか...?
     そして、もう一つ野党が共闘しやすそうだから政権追及の目玉に挙がっているのが、働き方改革です。野党はこれを「残業代ゼロ法案」と名付けて政権を揺さぶっています。

    <安倍晋三首相の施政方針演説など政府4演説に対する各党の代表質問が24日午後、衆院本会議で行われ、国会論戦がスタートした。最初に質問に立った立憲民主党の枝野幸男代表は、安倍政権が今国会の目玉に掲げる働き方改革関連法案のうち、高収入の一部専門職を労働時間規制から外す「高度プロフェッショナル制度」を「残業代ゼロ法案」と批判した。
     枝野氏は「みなし労働時間」の適用を認める「裁量労働制」の拡大にも反発している。繁忙期は残業規制を100時間未満としたことには「過労死ラインを大きく超え、過労死容認法案になりかねない」と語った。>

     この高度プロフェッショナル制度ですが、紆余曲折あって年収1075万人以上の高度専門職とされています。2016年の国税庁・民間給与実態調査によれば、そもそも給与所得が1000万円以上の人数は183万人。調査対象の給与所得者数に占める割合はわずか5.3%に過ぎません。さらに、年収1000万円を超えるような人はそもそも管理職でしょうから、そもそも対象者はさほど多くありません。その上、「専門職」と限定しているのですから、対象者は限りなく限られるわけです。

     しかし、「残業代ゼロ法案!」と法案そのもののイメージを悪くしてしまえば、議論の中身を見せずに入り口で批判することができます。「俺の残業代もゼロになっちゃうのか!?」というイメージを喚起することができますから、世論を味方につけることができるかもしれません。そうして、ここ何年かと同じように法案を葬り去ることができれば野党にとっては共闘の成果ということができますし、今の労働環境で文句のない高齢・高収入の正社員の方々にとっては現状維持で大満足でしょう。

     では、こうした変わらない日本の労働慣行の中で最も割を喰うのは誰なのか?それは、私と同じ世代、ロストジェネレーションの非正規雇用者たちではないでしょうか。
     私は1981年生まれの36歳。ロスジェネ世代・就職氷河期世代のお尻付近に位置しています。就職活動をしたのは2003年、ニッポン放送に入社したのは2004年です。文部科学省の学校基本調査によると、このころの学部卒の就職率は地を這うように50%台半ばをウロウロし、翌年からグンと上がり始めました。リーマンショックでガクっと落ち込みますが、それでも60%を割ることはなく、直近2017年3月では76.1%に達しています。
     ロスジェネ世代はすでに半数以上が40代に突入。社会人生活のスタートでほぼ半数が躓き、大多数が非正規雇用に甘んじてから15年余りが経とうとしています。当時から日本の労働慣行は、スタートで正社員になれないとその後厳しいという現実が認識されていました。しかしながら、今に至るまで改革は避けられ続けてきたわけです。
     「改革をすれば残業代がゼロになる!際限なく残業しなくてはならなくなる!それよりも社会保障の改革だ!将来が安心出来れば、今の労働慣行のままでも成長できる!」
     こうした声に押されて後回しになっていった労働改革の裏で、今正社員でいる人たちの既得権を守るために、ロスジェネは犠牲になり続けたのです。いい加減、レッテル張りを続けて議論の入り口で立ち止まるのはやめにしませんか?
     私だって、働き方改革のすべてをもろ手を挙げて賛成できるわけではありません。製造業派遣の解禁など、規制を緩くしすぎたことで苦しんだのもまた、我々世代。この働き方改革に対しても、半分は懐疑的な目で見ています。しかし、これに真剣に取り組む官僚を取材すると、彼らもまたロスジェネ世代。
    「このチャンスを逃したら、取り返しがつかない。そのまま年金受給年齢に入ったら、大量の生活保護受給者を生み出し、福祉財政はそっちで破綻しかねない」
    と、危機感をあらわにしていました。私もその危機感を共有しています。
     「市民とともに」とことあるごとに言っている野党の皆さん、その「市民」の中にロスジェネ世代はいませんか?ちゃんと、声を聞いてくれていますか?十年一日のレッテル張りはそろそろ卒業しませんか?タイムリミットは迫りつつあります。
  • 2018年01月15日

    政権批判無罪?

     このところ、ファクトを無視したようなスピンをかけた報道が目につきます。お読みの方の中には「何を今さら、昔からだろ」と突っ込みたくなるかもしれません。ただ、最近、政権批判の為ならあからさまなファクト無視もまかり通るような記事まで出てくるような気がしています。今日もこんな記事が...。

    <昨年のノーベル平和賞を受賞した非政府組織(NGO)「核兵器廃絶国際キャンペーン」(ICAN)のベアトリス・フィン事務局長(35)が来日に合わせ、安倍晋三首相に面会を要請していたが日本政府から断られていたことが15日、ICANの主要運営団体「ピースボート」への取材で分かった。>

     見出しとそのあとの一文、リードの部分だけを読むと、総理官邸並びに安倍総理側はノーベル平和賞を受賞したICANの事務局長の面会の要請を無下にした!けしからん!という印象を抱きますね。去年、国連で採択された核兵器禁止条約を後押ししたICAN。一方、日本政府は、唯一の被爆国ですが、様々な国際関係、安保環境を睨んでこの核兵器禁止条約に賛同しませんでした。そうした日本政府の姿勢に対する批判も相まって、こうした見出し、記事の書きぶりになったのでしょう。2行目にはさらに詳しく、

    <ピースボートによると、ICANは昨年12月下旬から内閣府を通じて2回、安倍首相との面会を求めた。しかし外務省から今月14日までに「日程の都合が合わず面会できない」との回答があった。>

    としています。ここまで読めば、一度ならず、二度も断ってきた!全くけしからん!という印象を持ちますね。ちなみに、総理は今、バルト三国から東欧歴訪に出ていて、日本に不在です。帰国は17日の予定ですから、普通に考えれば外交日程が入っているから断ったというところでしょう。ただ一つ検証が必要なのは、ICAN側からの要請があった時点で外交日程が決まっていたかどうか。もし後から外交日程を入れて断る口実にしたとすれば、それは批判されてもある程度仕方がないことです。

     一方で、ICAN側も訪日まで一か月を切ってから面会を要請したわけです。その上、間に年末年始を含みますから実質2~3週前のオファー。総理の日程を抑えるのに適切だったのかどうかも問われそうです。ではその時点で、この1月中旬の総理の予定がどうなっていたのかというと...、

    <政府は、安倍晋三首相が来年1月中旬にバルト3国のエストニアを訪問する調整に入った。同国訪問は第1次安倍内閣を含めて初めて。海外訪問の日程は1週間程度とみられ、周辺国の歴訪も検討している。>

     12月中旬の時点で、すでに今回のバルト三国・東欧訪問の最初の訪問国、エストニアに関しては調整が始まっていました。というか、こうして「政府は」を主語にして公開情報として国名まで出るということは、常識的には何か突発的な事態が起こらない限り訪問するということ。むしろ、ここまで国名が出たのに訪問しないとなるとそちらのほうが余程外交的な非礼となります。
     その上、エストニアは去年の7月の欧州歴訪時に訪問するはずだったものが、九州北部豪雨の対応のため土壇場でキャンセルをした国。言葉は悪いですが、一度貸しを作っている国ですから、二度目の直前キャンセルはあり得ません。

     つまり、12月の中旬の時点で、1月中旬に総理が少なくともエストニアに向けて出発することはほぼほぼ決まっていたというわけですね。

     その状況の中で、12月の下旬に1月中旬の面会予定が来たらどうなるか...?1度ならず2度要請されても、「もう予定入っているし...」と断らざるを得ないのではないでしょうか?共同通信ほどの大きな報道機関なら、そうした事情も周りで取材していれば分かっているはずなんですが、政治部と社会部では縦割りなのか反映されていません。政権批判のためなら、「エビデンス?ねーよそんなもん。」なのだとしたら、心ある共同の記者は怒らなくてはいけないと思います。
プロフィール

飯田浩司

出演番組:
ザ・ボイス そこまで言うか
月~木 16:00~
辛坊治郎ズーム そこまで言うか
土 13:00~

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