• 2018年08月13日

    足元の日本経済

    先週末に4月から6月のGDP速報値が発表され、2四半期ぶりにプラス成長となりました。


    物価の変動を除いた実質GDPが季節調整済みで0.5%、この成長が一年間続いたと仮定した年率換算は1.9%成長となっています。名目でも0.4%成長ということで、新聞各紙も基本的に明るいニュースだとして報じています。

    <内閣府が10日発表した2018年4~6月期の国内総生産(GDP、季節調整値)の速報値は、物価変動の影響を除いた実質で前期比0.5%増、この状況が1年間続いた場合の年率換算で1.9%増と、2四半期ぶりにプラスとなった。前期(1~3月)に天候不順などで低迷した個人消費が持ち直したのが要因。ただ、消費が景気を力強くけん引しているとは言い難いのが実情だ。世界的な貿易摩擦の激化などマイナス材料も多く、景気下押しへの懸念も出ている。>

     政権の経済政策に批判的なメディアであっても、懸念材料としてはアメリカ・トランプ政権に端を発する貿易摩擦など外的要因による影響や猛暑による物価上昇を挙げるのみで、現時点での国内経済は順調に回っているというような方向性。各紙の色の違いは、見通しのリスクを大きくとるか気にしないかの違いだけという感じを受けました。

     一方で、あまり注目されていませんが私が気になったのは、GDPデフレーターの部分。これが、今回の速報値では-0.0%でした。前期、1~3月期は-0.2%でしたから、そこから少し上向いたもののまだマイナス圏。それも、個人消費が上向いたとされる今回のGDP速報でもプラスにならなかったわけですね。
     ということは、今回の指標に対して個人消費は結果的にプラスの寄与をしたわけですが、たしかに各紙指摘している通り、<消費が景気を力強くけん引しているとは言い難い>わけです。プラスではあったが、イマイチ伸び切れていない、弱いということであろうと思います。ただし、その"弱い"というのが、外的なマイナス要因や猛暑による物価上昇で吹き飛ぶとかいう懸念ではなく、そもそも論として足腰が弱いということです。
     たとえば、賃金は伸びている"はず"なのに、どうしてこんなに個人消費が伸びないのか?賃金全体で見れば、データは良いものが出ています。

    <(前年同月と比較して)
    ・現金給与総額は、一般労働者が3.3%増、パートタイム労働者が1.4%増、パートタイム労働者比率が0.43ポイント低下し、就業形態計では3.6%増となった。>

    ところが、家計調査を見ると、消費は伸びるどころか減ってしまっているのです。

    <消費支出(二人以上の世帯)は,  1世帯当たり  267,641円
               前年同月比             実質1.2%の減少      名目0.4%の減少
               前月比(季節調整値)   実質2.9%の増加>

     この、データ上は賃金が伸びているのに消費が伸びないという矛盾がどうして起こるのか?そのポイントは、賃金の中身にあります。
     アメリカの中央銀行にあたるFRB(連邦準備制度理事会)の元議長、ベン・バーナンキ氏がプリンストン大学経済学部教授時代にペンシルベニア大学ウォートンすくーるのアンドリュー・エーベル教授と共著で書いた『マクロ経済学 上』にはこのような記述があります。
    <一時的所得の増加はそのほとんどが貯蓄され、恒常的所得の増加はそのほとんどが消費として使われるであろう>
    これは、恒常所得理論といい、そもそもはシカゴ大学のミルトン・フリードマン教授が唱えた理論。かみ砕いて言えば、一時的所得=ボーナスが増えてもそれは貯蓄に回るだけであり、恒常的所得=ベースアップがなくては個人消費には効かないということ。そこで、日本において賃上げが一斉に行われるタイミング、今年の春闘の結果を見てみると、見事に一時的所得(=ボーナス)は増えても恒常的所得(=ベースアップ)が増えていないことがわかります。


     この2ページ目の≪参考1≫と書かれている表で、定期昇給相当込みの賃上げは2.20%ですが、うちベースアップ分はわずか0.54%に過ぎないことがわかります。ベースアップ分だけをみれば、物価の上昇にも追いつかないわけで、それは当然財布の紐が固くなります。今まで個人消費がずっと伸び悩んでいたのは、一時金主体の賃金上昇に過ぎなかったからかもしれません。経済界は賃上げした賃上げしたといいますが、結局企業が一時金の形で頑張ってもマクロ経済的には効きが弱いわけですね。

     で、賃金が伸びない→個人消費が弱い→需要がいつまでたっても伸びない→物価も上がらないというスパイラルが続いてしまっているようです。好循環への最後の1ピース、賃金上昇から個人消費が伸びるのか先か、あるいは消費増税が行われて需要が冷え込んでしまうのが先か。個人消費が冴えないと書くなら、消費を冷え込ませる消費増税は当然反対になりますよね?各社の経済記者さん?
  • 2018年08月07日

    豪雨被災地の鉄道貨物輸送

     西日本豪雨で大雨特別警報が最初に出されてから、昨日で1か月を迎えます。各地に残した爪痕はあまりにも大きく深く、今だ3600人以上の方が不自由な避難所暮らしを余儀なくされていますが、鉄道にも大きな被害をもたらしました。

    <西日本を中心とする豪雨被災地で、JR西日本などの鉄道二十七路線の百カ所以上に、土砂の流入や線路下の盛り土の流出など運行を阻む施設被害があったことが十二日、国土交通省のまとめで分かった。>

     川にかかる橋が橋脚のみを残して橋げたがごっそり流されてしまった映像など、私も見ていて驚愕しました。鉄道は人の命を預かる仕事ですから、安全方向にバッファを設けて設計をしていたはずなのですが、その想定を軽々と超えていった豪雨災害だったわけですね。ここ一か月で、各事業者の懸命の努力もあり被害が軽微だったところを中心にだいぶ復旧してきました。今も予讃線・予土線の2路線4区間で運休が続くJR四国は、9月中に全線復旧の見込みだと公表しています。一方、被害が甚大だった岡山・広島両県の瀬戸内海側を通るJR山陽本線は、復旧は10月になってしまうと見込まれています。

     "なくなって初めてわかるありがたさ"という言葉がありますが、鉄道の不通は旅客列車が使えなくなる目に見える影響があるので、「生活の足に痛手」といった報道が目立ちます。
     しかしながら、実はもっと甚大な影響があったのが物流に対しての影響。山陽本線は貨物列車にとっても大動脈。豪雨による不通の前には、一日当たり3万トンがこの区間を通っていました。JR貨物の輸送量全体のおよそ3割を占めていたそうです。
     貨物輸送には大雑把に分ければ船・鉄道・トラックの3種がありますが、船は大量輸送が可能ですが時間がかかり、トラックは速いが一度に一台で運べる量は限られるので、ドライバーの人手を確保する必要があります。鉄道輸送は大量輸送が可能な上に、船に比べると早く運ぶことが出来る。ということで、九州から近畿圏や中部、関東へ、あるいはその逆という拠点間輸送で多く使われていました。たとえば、フルスペックのコンテナ貨物列車26両分の荷物は10トントラック換算で65台分になります。
     これだけの物流がストップしてしまうと、影響は相当甚大。各社は不通区間のトラック代行や船便への振替などで何とかしようとしていますが、経済の血液ともいわれる物流への影響は決して侮ってはいけません。

     ただ、一つ朗報が入ってきました。山陽本線はムリでも、それに代わる迂回路線のメドが立ちつつあるというものです。

    < JR貨物とJR西日本は3日、西日本豪雨で山陽線が寸断されていることを受け、貨物列車を山陰線への迂(う)回(かい)ルートで運行する準備をしていると発表した。実現すれば、阪神大震災後の平成7年以来となる。>

     倉敷から北西に伯備線を行き、日本海側に出て山陰線、そして山口線で南下、新山口で瀬戸内側に出た後Uターンして山陽線を東進し、広島に至るというプランです。たしかに鉄路はつながっていますから、これで何とか物流が保てれば非常にありがたいことです。
     しかし、鉄道関係者に話を聞くとなかなか課題山積のようです。
    「山陽線はコンテナ26両プラス機関車の計27両をフルスペックで走らせることが出来た。しかし、伯備線は本線仕様ではないからそこまで重い列車を入れることは出来ない。正確な数字はこれから出すのだろうが、阪神大震災の経験から考えると9両が限界なのではないだろうか?となると、輸送力は単純に3分の1だ」
    と、厳しい想定を話しました。
     また、引っ張る機関車についても懸案があって、
    「その上、山陽線は全線電化されているから電気機関車で良かったのだが、伯備線回りになると山陰線の途中までしか電化されていない。その先はディーゼル機関車で引っ張らなければならないのだが、これをどう調達するのか?阪神大震災当時は寝台特急用などにディーゼル機関車が使われていたが、今はディーゼル機関車があまりない。北海道や九州といったディーゼル機関車が使われているところから持ってくるしかないのではないか?」
    と危機感をあらわにしました。

     この辺りはJR貨物のテクニカルな話ではありますが、10月の山陽線全線復旧を待つことなく一刻も早く輸送路を開こうという心意気を感じます。
     思えば、東日本大震災発災後、被災地で絶望的に足らなくなったガソリンを輸送しようと、ガソリン輸送の特別列車を仕立てたことがありました。一旦日本海側に出してから、ローカル線を通って太平洋側の各所に入る作戦で、一つ一つの橋、カーブ、線路の耐荷重を調べてガソリンを被災地に供給していきました。
     今回もその心意気で迂回路線を開拓するようです。普段はあまり顧みられない鉄道貨物輸送ですが、まさに日本経済の縁の下の力持ちを担っています。これを機会に、その役割を少しでも分かっていただければ幸いです。
  • 2018年08月03日

    東京2020に向けて、暑さを乗り越えろ

     ニッポン放送平日朝6時から8時までお送りしています、『飯田浩司のOK!Cozy Up!』。今週は「2018ニュースの夏!アツいぜ、俺たちのニッポン!」と題して熱いニュースを熱いコメンテーターとともに熱く(厚く?)お送りしています。6時15分過ぎのモーニングラフアップのコーナーは、今週一週間「アツいぜ!俺たちの2020!」と題しまして、いよいよ2年後に迫った東京オリンピック・パラリンピックの各会場の取材レポートをお届け。まさにこの時期、暑い夏のさなかのオリンピック・パラリンピックということで、各会場の暑熱対策がどうかというフラクタル日よけ2.JPGのも取材のポイントとなりました。取材した7月の後半は最高気温が軒並み35度を超える猛暑日でしたから、気候の面から考えると恰好のロールプレイングとなったわけです。さすがにこれだけ暑いと選手への影響も気になります。これに関しては国立スポーツ科学センターも調査を行うようです。

    <国立スポーツ科学センター(JISS)がジャカルタ・アジア大会(8月18日開幕)に出場する日本の全41競技を対象に、暑熱対策に関する調査を実施することが22日、関係者の話で分かった。2020年東京五輪に向けた特別プロジェクトの一環で、強化現場の現状や課題を吸い上げ、科学的な知見でメダル獲得を後押しする。>

     各会場の中が今どうなっているのか?そして今後どうなるのか?というあたりは放送内のレポートでお話ししました。放送は会場内にフォーカスしましたが、もっともっと懸念されるのが会場外での暑熱対策。沿道での応援や、会場に入るまでの待機列でいかに暑熱対策をするかです。
     会場に入るにはセキュリティチェックが必須となりますから、これを待つ列はかなり長くなることが予想されます。何しろ、新国立競技場で6万人余りが収容されますから。選手も観客も建物の中に入るから安心だよと解説されがちな水泳会場アクアティクスセンターやバスケなどの会場、有明アリーナなども、選手は安心かもしれませんが、観客は待機列で待っているうちに熱中症になってしまうかもしれません。そのあたりは、各会場の整備計画では建物に特化していて触れられず、ちょうど対策のエアポケットに入り込んでしまったような形。これから検討するというような分野となっています。
     暑さの中で取材しているだけでも結構身体に堪えましたが、行列でじっと待つのはより影響が大きいように思われます。整理券を配って入場ということにしてもある程度は並ぶ上、入場時間まで外で待っていては結局同じこと。屋外にいても身体への悪影響を小さくする、そんな設備が必要です。先日、7月23日から25日まで、ミッドタウン日比谷で東京都環境局が音頭をとり、「暑さ対策技術等の展示」が行われました。


     ミストやエアコン、植栽ユニットなど様々なアイディアが並んでいますが、そのうちの一つがフラクタル日除け。他のアイディアは読んで字のごとし、理解することができますが、この「フラクタル」のみが何だかわかりません。まずは、調べてみました。


     実際に、この日除けを開発した京都大学人間・環境学研究科の酒井敏教授にお話を伺う機会があったのですが、直射日光の下では人間の身体は100Wの熱量を受け取っているそうです。携帯用カイロ1個がだいたい1Wだそうですから、100Wはカイロ100個分!夏の直射日光下にいると、カイロ100個を身体に巻き付けているのと同じということになります。日陰に入るとこの100個のカイロを下すことが出来るわけですから、そりゃ日が陰っただけでも涼しく感じるわけです。
     ただ、たとえばテントのようなもので日陰を作ると、今度はテントの生地の方が100個のカイロを巻き付けたのと同じになり、結果テントの下は日陰であってもテントから出る熱で暑くなってしまいます。ちょうど、ホットプレートの下にいるのと同じようなものだと酒井先生は解説してくれました。そこで、このフラクタル日除けの出番となるのです。
     テントの場合、大きな布一枚で覆いますが、そうすると風が通り抜けても熱が逃げずにため込んでしまいます。フラクタル日除けは適度に小さなハギレのような生地が連なることで構成していますから、風が抜けると熱が逃げていくのです。地表からの熱もなく、頭上からも熱が来ないわけですから、気温が同じでも人間の体が受け取る熱量が全く違う。
    したがって、涼しく感じるということなんですね。

    フラクタル日よけ2.JPG
    このように、一見すると日差しを遮らないようにも見えるが、これがこもれびのような自然な影を生み出す。

     このフラクタル日除け、オリンピック・パラリンピックを見据えて広めていくというのはもちろんなんですが、関係者の構想はさらに壮大で、日除けと机・椅子・Wifi環境を整備して、天気のいい日は外で仕事をしたり、休んだり、ふらりと立ち寄れる場所を都市のいたるところに作って人と人との出会いの場を作っていきたいとのこと。これだけネットでなんでも済む時代になっても、ビジネスの芽は人と人との出会いから生まれているといいます。コワーキングスペースがこれだけ流行っているのも、結局は出会いからしかイノベーションが生まれないことをみんな知っているからなんでしょう。ただ、コワーキングスペースだと踏み出すのに勇気が要る人も中にはいますね。そこへ行くと、フラクタル日除けのスペースはフラッと立ち寄ることができ、ハードルは限りなく低い。暑い夏を活かして、イノベーションのゆりかごにしようという知恵。日本には、様々な技術とそれを活かす知恵があるのだなぁと感心しました。オリンピック・パラリンピックまであと2年。こうしたアイディアが育っていってほしいものですね。
  • 2018年07月27日

    言行の不一致

     週明けに行われる日銀の金融政策決定会合に向けて、何やらきな臭い観測記事が毎日のように記事になっています。

    <日本銀行は、2013年春から行っている大規模な金融緩和の悪影響を減らす方策の検討に入る。緩和策は当初、円安・株高で景気を好転させたが賃上げの勢いは鈍く、物価上昇率2%の目標は遠い。むしろ低金利による金融機関の経営悪化や年金の運用難など「副作用」への懸念が強まっており、対応策の検討を始めざるを得なくなった形だ。>

    <日銀の大規模金融緩和が長期化する中、副作用への懸念から現行政策が修正されるとの観測が強まり、23日の国債市場で長期金利が急上昇した。日銀は30、31日に開く金融政策決定会合で副作用対策の検討を本格化させる見通しだが、金利上昇で円高が進めば、デフレ脱却がさらに遠のくため、難しい対応を迫られそうだ。>

    <日銀は30、31日に開く金融政策決定会合で、大規模金融緩和の長期化に伴う副作用を軽減するため、長期金利の上昇を一定程度容認することを検討する。「0%程度」としている現行の誘導目標は維持した上で、金利の調節を柔軟に行い、より大きな変動を可能にする案が柱だ。>

     新聞社や通信社が日を分けて書いていますが内容はほとんど同じで、来週月曜・火曜に行われる金融政策決定会合で長期金利の上昇を一定程度認めるという内容。その理由は「副作用の緩和のため」という説明まで一緒です。具体的には、
    <金利の変動幅が拡大すれば市場取引の活性化が期待できる上、長期金利が多少上向けば、超低金利による収益悪化に苦しむ銀行や生命保険会社の負担も一定程度、軽減できるとの計算だ。>(上記、毎日新聞)
    ということで、金融機関救済の意味合いが強いんですね。

     そして一様に記事のソースを明確に書いていません。みんな主語は「日銀」「日本銀行」なのですが、政策の決定は来週正式に行われるわけですから、これらの情報はすべて非公式情報。本来であれば「日銀の幹部によると」など、ソースを示す言葉がなければいけませんが、そうしたものは一切ありません。日銀内からのリークによって、世論の雰囲気を金融緩和を緩める方向に持っていきたいという意向が強く示唆されます。
     そして、こんな報道が毎日のように行われているために、市場もさすがに反応。昨日(26日)には長期金利の利率が0.100%にまで上昇(価格は下落)しました。私のような素人のイメージでは価格が下がれば損をするように思えるのですが、相場の方々に聞くと
    「(価格が)上がろうが下がろうが、変動することで儲けが生まれる」
    とのことですから、こうした価格変動が起こればそれだけ国債ディーラーにとっては儲けのチャンスが生まれるわけです。ちなみに、国債を多く保有しているのは、緩和の主体である日銀を除けば国内の金融機関が最大手。この「副作用緩和の議論」の記事が出て市場が反応すると、それだけでも金融機関の"救済"になるかもしれません。

     今までは長期金利が上昇すると、再び10年債の利率が0%近傍になるまで日銀は国債を買い入れていました。これを、利率上昇を容認するということは、多少利率が上がっても日銀は国債を買い入れませんよというのと同義です。すなわち、金融緩和のアクセルを少し弱めることになります。まだ目標を達成していないのにどうしてアクセルを弱めることになるのか?その説明として、「副作用の緩和=金融機関への配慮」では納得できません。というか、これじゃ特定の業界への優遇政策になってしまうではないですか。これを健全な市場経済といえるのでしょうか?

     さらにそもそも論をすれば、すでに日銀は密かに金融引き締めになっている可能性があります。水面下で金融緩和のアクセルを弱めていることを「ステルステーパリング」といったりもしますが、日銀が保有する国債残高を計算するとその疑いが濃くなります。


     だいたい月に3回、月初、10日、20日のデータをホームページ上で公表していますが、今年度始まり(=前年度終わり)の3月30日のデータと最新の7月20日現在のデータを比べると、今年度でどれだけ国債を買い入れたかがわかりますね。年度当初が416兆4233億円、7月20日が429兆3544億円ですから、差し引きすると今年度、今までに買い入れた国債の残高は12兆9311億円。年度当初からここまでざっくりと4か月が経過していますから、月平均ではおよそ3兆2300億円余りということになります。日銀が発表している年間の買い入れ目標は80兆円がメド。月間では7兆円弱を平均で買い取っていかなければ達成できませんが、現状はその半分ぐらいしか買い入れていません。

     このところ、消費者物価指数の中でもエネルギーや生鮮食品の影響を除いたコアコア指数では月を追うごとに伸びが鈍化していて、最新の数字である6月のコアコア指数はついに0.2%にまで下がってきてしまいました。これも、日銀のステルステーパリングが進んでいることを見れば、さもありなんと納得してしまいます。

     口では、あるいは会見や発表では緩和の継続をうたいながら、実際は言うほど緩和をしていない。言行の不一致が続けば友人関係でも信頼されなくなりますが、同じように市場からも信頼されなくなってしまいます。週明けの金融政策決定会合は、一部の金融機関救済のための副作用緩和を議論するのではなく、言行不一致の解消、ひいては緩和再加速を議論すべきなのではないでしょうか?
  • 2018年07月19日

    続・若者の"右傾化"?

     先々週も書いた若者の"右傾化"。私はそもそも若い世代は右・左で政権を評価しているのではなく、個々の政策を見ているのではないかと書きました。ざっくりと言えば、近隣国に対するイメージを聞いた世論調査をもとに、対外強硬派=右派ではないという仮説を立て、"若者=右傾化"、"ネット=右傾化"という世の中のイメージが幻想ではないだろうかという疑問をぶつけてみたのです。
     しかしながら、"若者=右傾化"、"ネット=右傾化"というイメージはなかなか払しょくできるものではありません。先週末の世論調査を受け、朝日新聞は嬉しそうにこんな記事を出しました。

    <SNSやネットの情報を参考にする層は、内閣支持率高め――。
    朝日新聞社が14、15両日に実施した世論調査で、政治や社会の出来事を知る際、どんなメディアを一番参考にするかを尋ねた。すると、「ツイッターやフェイスブックなどのSNS」「インターネットのニュースサイト」と答えた層は、内閣支持率が高い傾向が見られた。「テレビ」と答えた層の支持率は全体の支持率とほぼ同じで、「新聞」と答えた層は支持率が低かった。>

     世論調査の結果に基づき、ネットユーザーは内閣支持率が高いということを報じた記事に過ぎませんが、「ネットユーザー=若者」というイメージを持った読者にとっては「ネット=若者=内閣支持高い=右傾化」という図式が頭の中に浮かんでしまします。というか、そのように結びつけるように記事が作られています。
     見出しとリードでは「ネット=内閣支持高い」と書き、その後年代別に参考にするメディアを聞いていて、そこには、20代、30代ではネットが参考にするメディアのトップに来ています。実際は、「ネット=内閣支持高い」という情報と「若者=ネットを参考にしている」という2つの独立した情報が並べられているだけなのですが、冒頭から順番に読んでいくとあたかも「ネット=内閣支持率が高い=若者」という関連性があるかのように思えてしまうのです。さらにご丁寧に、麻生副総理兼財務大臣の発言も引いて、「ネット=内閣支持率が高い=若者」という印象を補強しています。

    <新聞の購読層と政治意識をめぐっては、麻生太郎・副総理兼財務相が6月、自民支持が高いのは10代から30代だとして、「一番新聞を読まない世代だ。新聞を読まない人は、全部自民党なんだ」と発言した。>

     アメリカでは、左右両陣営に分かれて相互批判に明け暮れる、分極化が進んでいるというのがデータによっても裏付けられています。ネットで情報を取ると、検索ソフトやSNSなどがユーザーの好みを分析して、知らず知らずのうちに自分好みの情報ばかりを表示するようになることが指摘されていて、それゆえ自分に反対の意見に触れることなく自説ばかりが強化されてしまいます。すると、次第に自説を相対化できなくなり、どんどん過激になっていく。特に若者は他者の意見に左右されたり、極端な意見により惹かれるだろうから、影響が大きい。若いうちから極端な意見に流れてしまうと、社会全体がどんどん分断されて行ってしまうのではないか。
     日本国内でも、新聞やテレビといった既存メディアでこうした危機感を解く言説が散見されます。パッと聞くとなんだか説得力がありそうな言説で、「最近の若いもんは!」といいたいメンタリティにも合致しますから、この言説は大いに受け入れられていますが、実際のところはどうなのか?興味深いアンケート調査が先日出ましたので紹介します。


     詳しい調査の方法は上記リンク先をご覧いただければと思いますが、この調査は慶大教授の田中辰雄氏と富士通総研経済研究所の研究主幹、浜屋敏氏が行ったもので、サンプル数も男女合わせて9万人以上というかなり大規模な調査です。また、リンク先ではざっくりとネット、SNSという書き方をしていますが、これは要約版で、完全版の研究報告を見るとフェイスブック、ツイッター、LINEなど細かく分析しています。ちょっと読むにはしんどいかもしれませんが、これは丁寧で興味深い研究報告でした。

     さて、このアンケート調査で示唆されたのは、
    <分極化を招いている原因はインターネットではないことが示唆された。年齢が高い人ほど過激な意見を持つこともわかっており、この点からもネットの影響は疑わしい。ネットの利用で意見が過激化するなら、ネットに親しんだ若年層ほど過激化しそうなものであるが、事実は逆だからである。>
    ということ。

     これは目からうろこと言いますか、私としては肌感覚に沿うものでした。というのも、高齢になればなるほど過激な意見を持つというのは、近隣諸国に対するイメージを聞いた内閣府の調査も同じ結果になっていたからです。

     このアンケートも内閣府の調査も日本国内が対象ですから、この高齢になるほど過激な意見を持つというのも日本国内限定となるかもしれません。すでに考えが固まっている人にとってネットは自説を強化する方向に進む一方、考えが柔軟に変化する若い世代にとって、様々な言説に容易に触れられるネットはむしろ自説の相対化、穏健化に資する可能性があることが指摘されています。もしそうだとすると、ネットは諸刃の剣であるけれども、希望も見出せる分析ですね。個々の意見表明は過激なものがあり、そうしたものが目立ってしまうのも事実ですが、見る側が「そういうもんだ」と思って冷静に見ることで、健全な言論の場を作ることも可能ということですから。

     また、官民の様々なサイトには、今までなら新聞やテレビといったメディア経由でしか手に入らなかった貴重な一次情報も一般に公開されています。様々な言説とこうした一次情報に当たることで、妥当な最適解を探ることで建設的な討論空間が出来れば、分断ではなく包摂へ、右傾化ではなく穏健化に向かっていくのではないでしょうか。

     既存メディアの過度なネットフォビア(ネット恐怖症)は現実と未来を見誤ることになるかもしれません。
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
(2012年1月9日~2018年3月29日)

「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」
(2012年4月7日~2017年9月30日)

・「東日本大震災から7年・・・本気の備えはできていますか」
(2018年3月11日)

・「ザ・ボイススペシャル 福島県の農業は今」
(2018年1月2日)

・「ザ・ボイススペシャル 密着・不発弾処理隊 今なお眠る2200トンとの戦い」
(2014年12月30日)

・「ザ・ボイススペシャル 辺野古の声」
(2013年12月30日)

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