• 2020年04月20日

    「コロナ後の世界」に希望を見出そう

     2020年4月7日、新型コロナウイルス感染症の急速な拡大を受けて日本政府は、「新型インフルエンザ等対策特別措置法」に基づく緊急事態宣言を発令しました。16日には対象を全国に拡大、13都道府県が特定警戒都道府県に指定されました。

     7日の緊急事態宣言から10日ほどが経過した、ニッポン放送のある日比谷・有楽町。店舗や施設の休業、イベントや集会の中止、在宅勤務により、平日でも人が少なく閑散としています。日本のみならず世界の経済は停滞し、IMFは今年の世界経済が大恐慌以降で最悪の景気後退に陥る可能性が高いとの見通しを示しています。

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     私はニッポン放送のラジオ番組「飯田浩司のOK!Cozy up!」の中で、新型肺炎について1月2日から警鐘を鳴らしてきました。が、初期段階からここまでの事態になることを予測できるはずはなく、報じるタイミングでの事実をベースに、その後起きうる可能性を含めて解説してきたつもりですが、そのほとんどにおいて、楽観的な可能性は症例が増えていく中で医学的に否定され、悲観的な可能性が現実のものとなっていくことが繰り返されています。

     本稿では、新型コロナウィルスについてこれまでの経緯を改めて振り返り、「コロナ後の世界」に向けて今我々は何をすべきか、考えていきたいと思います。

     2019年12月31日。日産自動車の前会長カルロス・ゴーン氏がレバノンに逃亡したというニュースが日本を騒がせた日、「中国・武漢で原因不明の肺炎」という不気味なニュースが報じられました。「中国湖北省武漢市で原因不明のウイルス性肺炎の発症が相次いでいる。同市当局の発表によると、これまでに27人の症例が確認され、うち7人が重体という。中国政府が専門チームを現地に派遣し、感染経路などを調べている」(朝日新聞)。実はこの前日、武漢市の眼科医・李文亮氏がグループチャットに「武漢市の華南海鮮市場でSARSが発生している」と発信。李医師は虚偽情報を流したと警察から処分を受けた後、自身も新型コロナウィルスに感染、2月7日に亡くなりました。(後に中国当局は李医師への処分を撤回)

     2020年1月7日には肺炎の原因が新型のコロナウィルスであることが判明。16日には日本国内でも武漢市から帰国した30代中国人男性の感染が確認されました。23日、武漢市が都市封鎖を宣言しますが、WHOは24日、緊急事態宣言を「時期尚早」と見送り。この頃、中国では春節の連休が始まります。29日、日本政府は武漢から邦人を帰国させるためのチャーター機を派遣。そして31日、中国以外の国々での感染者数増加を受け、WHOが公衆衛生上の緊急事態を宣言しました。

     2月5日、集団感染が発生し横浜沖で停泊していたダイヤモンド・プリンセス号の乗員乗客に14日間の隔離措置を開始。8日、武漢在住の日本人男性が死亡。日本人初の死者となります。11日、WHOが一連の疾患を「COVID-19」と命名。13日には神奈川県在住の80代女性が死亡。国内初の死者となりました。24日、日本政府の専門家会議が「この1〜2週間が感染拡大に進むか、終息するかの瀬戸際」との認識を発表。27日、日本政府が全国の学校休校を要請します。

     3月5日、日本政府が中国の習国家主席の来日延期を発表。中国と韓国全土からの入国制限も実施します。11日、WHOが「パンデミックに相当」との見解を発表。13日、日本の国会で新型インフルエンザ特別措置法が可決。アメリカではトランプ大統領が国家非常事態を宣言しました。19日、政府の専門家会議が「オーバーシュート」による医療崩壊と、「ロックダウン」措置の可能性を懸念。20~22日は全国で花見や大型格闘技イベントが開催され、いわゆる"自粛が緩んだ"と言われた3連休です。24日、東京オリンピック・パラリンピック開催の1年延期が決定。27日にはイギリスのボリス・ジョンソン首相の感染が確認され、29日にはタレントの志村けんさんが新型コロナウィルスによって亡くなりました。

     そして4月7日、止まらない感染拡大を受けて日本政府は7都府県を対象に緊急事態宣言を発令します。16日には緊急事態宣言の対象を全都道府県に拡大、13都道府県が特定警戒都道府県に指定されました。16日の時点で、全世界の感染者数は約205万人、回復者は約51万人、死者約13万人。日本では感染者数8,582人、回復者901人、死者136人となっています。

     こうして振り返ってみると、改めて感染拡大の早さに驚かされます。新型コロナウィルスの感染力の強さを示す基本再生産数(R0)は、WHOで1.4~2.5と推定されており、季節性インフルエンザの2~3やSARSの2~5を下回りますが、新型インフルエンザ(H1N1)の1.4~1.6、MERSの0.6よりも高いとみられています。新型コロナウィルスの感染の特徴として政府の専門家会議は、「症状の軽い人も、気がつかないうちに、感染拡大」させ、また「一定条件(いわゆる3密)を満たす場所において、一人の感染者が複数人に感染」させることでクラスターが発生、これが連鎖し、感染が急速に拡大していく可能性を指摘しています。なお、日本全国の実効再生産数(ある集団のある時刻における再生産数)は現在1前後、東京都では1.7(3/ 21~30)と、専門家会議は推計しています。

     また新型コロナウィルスの致死率(死亡者/感染者)は初期段階、WHO等により2~3%程度と推計されていましたが、欧州で流行してから高まってきており、現在世界平均で約6.4%。感染していても気付かないケースが多く実際の致死率はもう少し低いとみられており、現時点ではかなり変動的です。SARSの致死率約10%、MERSの約34%と比べると低いとはいえ、季節性インフルエンザの0.1%と比較すれば遥かに高く、WHOは2009年に流行した新型インフルエンザと比べても致死率が10倍高いとの見解を示しています。国別で見ると、日本は致死率約1.5%、アメリカは約4.4%、イタリアは約13%、ドイツは約2.5%、フランスは約12%、イギリスは約13%、中国は約4.1%、韓国は約2.1%。日々変動しますが、国によってかなり差があります。日本は"検査対象を絞っているから感染者数が少ない"と一部で批判(医療崩壊を防ぐためなのですが)されることがあるのですが、(感染者数が少なければ致死率は上がりやすいにも関わらず)世界の中でもかなり低い致死率にとどまっています。

     「若者は重篤化しない」「春になれば消えるさ」「アメリカのCDC(疾病対策センター)は最強」などの楽観的な見方が、症例を重ねるにつれてことごとく「そうじゃなかった」と分かっていく中で、日本の感染者数・致死率が比較的低く抑えられているのは、多少の好材料ではあります。ただその理由については「BCG接種の影響説」などあるものの、現状でははっきりと分かっていません。

     また「毎年流行する季節性インフルエンザのほうが被害が大きい」という意見があります。16日時点の新型コロナウィルスの感染者8,582人(回復者901人)、死亡者136人に対して、季節性インフルエンザは年間感染者数が約1000万人、直接的及び間接的な年間死亡者数は約1万人と厚労省は推計しています。確かに現状の数字では、例年の季節性インフルエンザの方が被害が大きいのは事実です。しかし東北大学の押谷仁教授は新型コロナウィルスについて、『重症化した人ではウイルスそのものが肺の中で増えるウイルス性肺炎を起こす』、『感染連鎖が非常に見えにくい』、『対抗するワクチンや治療薬、有効なツールがない』ことを指摘し、季節性インフルエンザと同列に見ることに警鐘を鳴らしています。

     新型コロナウィルスは新たな世界的脅威です。まだ分かっていないこともたくさんあります。それぞれのフェーズで、暫定的な結果から導き出された「仮説」には、正しかったことも、結果的に間違っていたこともあります。事態が流動的である以上、受け取る側が常に情報を更新し、精度の高い状態に保つ必要がある、そんな状況なのだと思います。私は現在、ニッポン放送でニュース番組を担当しています。放送に至る過程で取材と事実確認を行い、精度を高めた情報を提供しているつもりです。先が見えないこの時代、流動的な状況に対応して事実に即した更新情報をお届けすることが、「コロナ後の世界」に意識を向ける『希望』へつながるのではないかと思うのです。

     「新型コロナウイルス禍」が本当の収束を迎えるのはワクチンが完成し、普及した時でしょう。それを含めて集団免疫を獲得した時とも言えるかもしれません。しかしそれは1年半~2年後くらいだろうと言われています。それまでどういう状態が続くのでしょうか。まず現状の「緊急事態宣言」状態が専門家会議の試算通りに運用されれば、感染拡大は抑えられるはずです。しかし経済活動に極めて強いブレーキがかけられているので、不況による死者が出ないように政府が巨大な財政出動を行なったとしても、社会全体への負荷は計り知れません。そこで、感染の状況を見て自粛のブレーキを緩めるタイミングがいずれ来るでしょう。その結果、再び感染が一気に拡大しては元も子もありません。極めて繊細な運転が求められます。地域ごとの状況に合わせた対応も必要でしょう。私も書きながら行政にとって非常に難易度の高い運用だろうと思います。有効な治療薬が見つかればその難易度が下がるかもしれません。また、中国のような独裁的で監視可能な統治方法であれば、ひょっとしたら比較的容易に実現できるのかもしれません。でも日本が民主的で自由な社会でありつつけるには、今の枠組みの中で団結し、乗り切る必要があるのです。

     「サピエンス全史」などで知られるイスラエルの歴史学者・哲学者のユヴァル・ノア・ハラリ氏は朝日新聞(4/15)のインタビューで、感染症の脅威にうまく対応できるのは、長い目で見れば独裁より民主主義であると指摘し、「独裁の場合は、誰にも相談をせずに決断し、速く行動することができる。しかし、間違った判断をした場合、メディアを使って問題を隠し、誤った政策に固執します。これに対し、民主主義体制では政府が誤りを認めることがより容易になる。報道の自由と市民の圧力があるからです」と述べています。

     緊急事態宣言が発令されたあと、一部識者やメディアがこの宣言について「自粛"要請"でどこまで効果があるのか」と批判していました。そうした批判があること自体は、我が国に言論の自由がある以上何の問題もありません。が、以前は「私権を制限する権限を政府に与える緊急事態宣言は危険」と批判してきたのに、発令された途端に今までの言説と逆行し、私権を制限することを容認するような意見を平然と述べる姿に驚かされました。彼ら、彼女らにとっては「政権批判」で一貫しているのでしょうが、その言説は見事にねじ曲がっています。そして、政権批判のためには私権の制限すら主張してしまうというのは、私は危険な思想だと思います。民主主義国家にとって私権は大切にしなくてはならない普遍的な価値です。このような国難にあって一部制限せざるを得なくなっても最小限にしなくてはならないし、適切な権力行使であったかを事後にきちんと検証できなくてはいけません。そうした留保もなしに一足飛びに「要請ではヌルい」となれば、それは独裁と監視社会を自ら呼び込むことに他ならないと思うのです。

     今はまさに「コロナ後の世界」にふさわしい統治システムがどうあるべきか、試されている歴史的な転換点なのだと感じます。私達国民は政府に、国会に、徹底した政策議論を求めて民主主義の強さを発揮させ、自分たちも感染拡大防止に有効な行動をとり、団結してこの戦いに勝利しなければなりません。コロナへの恐怖で前を向くことを諦めたり、感情的な分断に陥れば、人類はウィルスに敗北し、「コロナ後の世界」は、私たちの祖国を含めて、独裁と監視が支配する偏狭なものとなってしまうでしょう。今こそ「知識」と「見識」を尊重し、冷静で多角的な視野をもって行動することが、『コロナ後の世界』に希望を見出すことにつながるのだと、私は強く思っています。共にこの国難を乗り切りましょう。

  • 2020年04月14日

    不十分な経済対策

     中国・武漢発祥の新型コロナウイルスについて、番組では1月の初めからその脅威に警鐘を鳴らし続けていました。が、正直に言えばここまで苛烈なものになるとは思いもよりませんでした。

     東京オリンピック・パラリンピックに影響を及ぼすかもしれないとまでは言いましたが、世界経済への影響は桁外れです。もはや、リーマンショックを引き合いに出すことすらためらわれるほどの大規模な下押し圧力。否応なしに社会生活を変えざるを得ないというのは、20世紀の大恐慌時代以来なのかもしれません。

     大恐慌後の世界的なデフレが第二次世界大戦の引き金を引いたように、現在の経済的苦境の扱いを間違えば将来に禍根を残すことになります。その上、このコロナウイルスは少しずつ時期をずらしながら世界中で蔓延しているので、各国の対応が横並びで比較できるわけです。アメリカが2兆ドル(日本円にしておよそ220兆円)、GDP比で1割ほどの経済対策を講じるとされる一方、日本は事業規模で108兆円、GDP比で2割という大規模な経済対策を行うのだという触れ込みです。

     ですが、多くの方が指摘している通り、この108兆円には前年度補正予算の未執行分や今年度予算の一部、さらに税金や社会保険料の納付延期分も含まれているなど、大いに水増しされています。真水と呼ばれる、直接GDPを押し上げる財政出動の規模はだいたい17兆円ほどしかありません。財投債という債券を発行して投資や融資に充てる財政投融資が10兆円規模でありますから、これを真水に足し合わせて財政出動27、8兆円という見方もできますが、もともとの解釈では財政投融資は財政出動とはみなさないことになっています。
     困窮世帯への30万円の給付など使い勝手に疑問が残るところも多く、私も大変不満です。ただ、不十分ですがこれが第一弾の経済対策として国会審議に上っていますから、足りない部分は第二、第三の対策に向けて議論をしていきたいと思います。

     一方で、この対策に対して「財政規律」の面からの批判も少なからずあります。発表された直後には、こんな記事も。

    <政府の過去最大に上る緊急経済対策は、世界的な新型コロナウイルス感染拡大を受け、大規模な財政出動を急ぐ主要国と足並みをそろえた形だ。事業規模はリーマン・ショック時の56.8兆円を大幅に上回る108.2兆円に達し、日本の国内総生産(GDP)の2割に相当。コロナ収束後の景気回復を見据える安倍晋三首相は「諸外国と比べても相当思い切ったものだ」と訴えたが、危機的状況にある財政再建への道が一段と険しくなるのは必至だ。>

     この期に及んでもまだ財政再建を言って財政出動を渋るのか!?と呆れたのですが、さすがに最近はこのコロナ禍の経済への悪影響が深刻の度を増してきて、財政再建を旗印に大々的に批判するのは憚られるようです。遠回しに財政出動を批判するのですが、その典型例がこちらの論文。


     長文な上に海外、特にアメリカの動きやウイルスの特性などの話も盛り込まれているのでなかなか読むのに難儀しますが、表立って批判するのは一世帯あたり30万円の給付の基準の複雑さや申請手法の煩雑さについて。そして、この困窮ぶりを見れば財政出動を否定するわけにはいかないが、財政出動とセットで行われる日銀による国債買い入れの増額を問題視して、このまま日銀が政府財政を支え続ければ財政規律も中央銀行の独立性も失われてしまう!と、暗に財政出動をけん制しています。

     私は、日銀の役割は日銀法に書いてある通り物価の安定であると思っていて(本当は雇用の安定も書き加えるべきと思いますが)、現在物価が上昇していない局面が続いているわけですから緩和的になって当然だろうと思います。このブログにも過去に書きましたが、日銀はこの物価が上がらない局面にもかかわらず、保有国債の残高を減らしているということが分かっています。
     ということは、追加で国債を買い入れる余裕は十分にあるということです。今こそ日銀の秘めたる実力を発揮するときであり、財政と金融の両輪でこのコロナ禍を全力で乗り切るべきときでしょう。

     この有事に財政規律を強調して経済対策を批判するのももちろん言論の自由でありますが、今後さらに経済への悪影響が深刻になることが予測される今、第2、第3の経済対策を打ちづらくしてしまう恐れもあります。どうか、現場で苦しむ方々へ手を差し伸べることを第一に、財政規律などやらない理由を探すことのないよう文字通りの全力を尽くしてもらいたいものです。
  • 2020年04月02日

    コロナ禍の裏で

     世の中、中国・武漢を発祥とする新型コロナウイルスの話題一色という感じになってきました。ニュース番組をやっていると当然この話題が中心で、それを2カ月も続けていると日常になりつつありますが、驚くのは普段ニュースをあまり見ない私の妻やバラエティー班のディレクターも時候の挨拶のようにコロナを話題にするようになったことです。
     それだけ世の中の関心がグッとこの新型ウイルスに寄ってきているということですが、そうなると新聞やテレビ、ラジオといったメディアの報道がそれ一色になり、普段であれば重要なニュースが思ったほど大きく報じられないという現象が起こります。新聞は紙面の大きさに限界がありますし、テレビ・ラジオも放送時間の制約がありますから仕方がないことなのですが、こういう時だからこそ冷静にニュースの大きさを判断したいものです。
     その意味で、むむっ!?っと思ったのがこちらのニュース。

    <防衛省によると、30日午後8時半ごろ、屋久島の西約650キロの公海上で、海上自衛隊の護衛艦「しまかぜ」が中国籍の漁船「MINFVDINYU」と衝突した。しまかぜ側に人的被害はなく、漁船側にも行方不明者はいない。しまかぜは警戒監視任務中だった。>

     このニュース、見出しだけ見ると護衛艦が主語で相手が中国漁船。あたかも護衛艦が事故を起こしたかのようです。



     NHKも共同通信もそろって、しまかぜ「が」中国漁船「と」衝突したという見出し。では公式発表ではどういった表現だったかといえば、こうしたプレスリリースでした。


     細かな表現の違いを気にしすぎだと言われるかもしれませんが、護衛艦「と」中国漁船「が」衝突というリリース通りの表現が、とくに詳細が不明な第一報段階では適当な表現だったのではないでしょうか?拙著『「反権力」は正義ですか』でも引きましたが、1980年代から90年代までの何か、常に自衛隊は悪である、憲法違反なのであるという、昔からの価値観を引きづっているように思えてなりません。

     さて、今回の事案、どちらに責任があったのかというのは詳細が出てこなくてはわかりません。この件は、プレスリリースにもある通り東シナ海の公海上で起こったことです。となると、旗国主義に基づき、各々の船籍国の法律で裁くということになります。したがって、日本の海上保安庁が管轄権を持つのは護衛艦しまかぜのみ。中国漁船の乗組員を取り調べたり、漁船を操作したりすることはできません。
     ですが、今回は護衛艦側にも装甲に穴が開いたことが分かっています。
     問題はこの穴の位置です。今日、鹿児島に回航されたしまかぜを報じる記事の中に具体的な穴の場所がありました。

    <東シナ海で中国の漁船と衝突した海上自衛隊の護衛艦「しまかぜ」が、鹿児島県の谷山港沖に移動しました。
     4月1日午前、鹿児島県の谷山港沖まで移動し、停泊した護衛艦「しまかぜ」。左舷の後ろ側には、ぶつかった衝撃でできた横1メートルほどの黒い亀裂が確認でき、海上保安庁の船が捜査のために近づいていきます。>

    左舷後ろ側に傷跡が確認できる。ということは、漁船はしまかぜを右に見ながら衝突したことになります。さて、ここで海の交通法規の基本です。海の上ではどちら側通行でしょうか?

    <海の海上法規の原則は次の二つです。
     「海の上では、右側通行」
     「動きやすい船が、動きにくい船を避ける」>

     そう、右側通行です。

     今回の事案の詳細は分かっていませんが、並走してぶつかればもっと横に長く亀裂ができるはずですから一般的には互いに横の方向を見て近づく場合になるでしょう。(十字に交差するイメージ)海上衝突予防法では、「他の船を右に見る船は、他の船の進路を避ける。」と定めています。
     漁船から見るとしまかぜは右手前方に位置していたはずです。そうなると、漁船側が右に舵を切るなり減速・停止するなりして回避行動をとらなくてはいけません。
     人や自動車以上にすぐに止まることができない船舶の場合は、双方で避けようとすると相手の動きを読み誤った場合かえって接近して危険になることがあります。ですから、一方に回避義務があり、他方はそのまま何もせずに通過するのもまたルールとなっているのです。

     また、漁船の大きさがほとんど報じられていないので確たることは言えませんが、報道によればこの漁船は乗組員が13名であるとのことです。一般的に10名程度の乗組員の漁船は100トンから200トンクラスと言われます。
     一方でしまかぜは基準排水量4650トン。20倍以上の差があるわけです。
     大きな船ほど急な動きはできないと言われます。ですから、この場合はやはり、漁船の側が避けることを求められるのです。

     かつて、プレジャーボートが瀬戸内海で護衛艦おおすみと衝突するという事故がありました。この時も報道は護衛艦の責任を追及するものばかりで、海のルールなどは全く無視するかのような報道がなされました。その時に、船舶免許を持つ知り合いなどに聞いたところ、
    「あれだけの大型船と小型船じゃ運動性能が全然違うから、小回りのきく小型船が先に避けるのが海の常識だよ。第一、海の上であのプレジャーボートみたいな漁船から見たら、おおすみなんて『山』だよ。普通は恐くて近寄れないけどなぁ」
    と言っていました。

     また、大型船と並走すると、自然と引き寄せられるということも言っていました。今回は左舷航法に衝突していますから、舵を右に切って回避行動をとったものの、護衛艦の後方ギリギリを狙った結果引き寄せられて衝突してしまったのかもしれません。
     ただ、瀬戸内海や東京湾といった地形的条件が厳しく、狭い海域ではなく、まさに大海原という東シナ海で起こったことは不可解です。避けようと思えば妨げるものはなかったはずですから。

     不可解と言えば、この件について直後に防衛副大臣がSNSに投稿したことやその後の要人の対応も不可解です。山本防衛副大臣はかなり詳しくこの事故について書き込んでいました。

    <投稿には「ガス田の北西約52カイリ」「中国艦艇『ジャンダオ』を通じ中国語で被害状況を確認」など、防衛省が発表していない発生場所や現場の様子に関する情報が含まれていた。
     防衛省の伊藤茂樹報道官は31日の記者会見で「副大臣は掲載情報が確認中のものと気付き、速やかに投稿を削除した」と説明した。>

     これが事実ならば、現場近くには中国艦艇がいたということになります。ちなみに、ジャンダオというのは艦艇の形式を表すものだそうです。
     日中中間線近くに中国が開発を進めているガス田からもそう遠くないところに、中国艦艇。何をしていたんでしょうか?
     さらに、海上幕僚長も外務大臣も「意思疎通」や「再発防止」を繰り返し説き、原因究明はどこへ行ったんでしょうか?
     ここでもやはり、延期になった国賓での習近平国家主席の訪日を睨んで融和ムードなのでしょうか?
     報道によれば、しまかぜは警戒監視任務中だったようです。であれば、映像は撮っていなかったのか?そこにはありのままの事実が映されていると思うのですが。
  • 2020年03月26日

    自戒を込め、三連休を振り返る

     先週末の三連休、首都圏は非常にいい陽気でお出かけ日和でした。一連のコロナウイルスの自粛ムードの中でホッと一息という感じで、久しぶりに外に出てみよう、遠くへ出かけてみようという気持ちにさせる天気。その上、東京では桜が満開になったと聞いた日にゃ、家に閉じこもっている方が無粋てな感じで、お花見の名所は人でごった返しました。


     大規模スポーツイベントも行われ、世間に普段通りの雰囲気が戻ったようでした。
     そのきっかけの一つが、19日に行われた新型コロナウイルス感染症対策専門家会議。2~3日前から専門家会議がまとめる提言の一部(とされるもの)が報道され、イベントの自粛が一部解除されるのではないか?全国一斉休校は解除となるのではないかという相場観が出来ていました。3月19日、深夜に及ぶ議論の末に出された専門家会議の提言は自粛というブレーキを弱めるのか、それとも引き続き強くかけ続けるのかの判断に迷うもの。これを伝える見出しも両論併記となりました。


     とはいえ、世の中の雰囲気は「そろそろ自粛も一段落だろう」というものでしたから、「現在は一定程度抑制」「一斉休校は4月解除」といったポジティブな部分が目立ち、依然残る大きなリスクの部分があまり報じられませんでした。専門家会議を受けて翌日開かれた新型コロナウイルス感染症対策会議では、イベントに関して決して開催を容認したわけではありませんでしたが、縛りが少し緩くなったかのような報道が相次ぎました。


     一連の自粛要請を受け経済が徐々に回らなくなってきているという分析が出てきていて、自粛一辺倒では国民が持たないという意見も専門家会議の中で出てきていたようです。そうしたことが、ニュアンスとして伝わったのかもしれませんが、専門家会議の提言を見ると報道とは違った厳しい雰囲気に驚かされます。


     特にこのイベントの部分を見ると、大規模イベントの取扱いについて書いているように見えます。大人数が集まり、換気が十分でなく、お互いが話すなどの接触が予期されるイベントは感染のリスクが高いと以前から言われていました。ということは、たとえば屋外で行うイベントであるとか少人数のイベント、お互い話をしないようなクラシックコンサートや映画であれば大丈夫なのではないか?という風に解釈してしまいがちですが、この提言の後段にはこんな記述もあります。

    <上記のリスクは屋内・屋外の別、あるいは、人数の規模には必ずしもよらないことなどの観点から、大規模イベント等を通して集団感染が起こると全国的な感染拡大に繋がると懸念されます。>

     こうなると、実はイベント全般に対してできれば中止・延期をしてほしいが、専門家会議の段階ではそこまで強制力のある言い方はできない。そこで、開催可能な条件を示している体をとりつつ、実はどんなイベントも開催できない厳しい条件を示すことでイベントは止めろ!という意思を示した形でしょう。

     しかし、実際には真逆のイメージで国民に伝わり、結果かなり緩んだ雰囲気で三連休を迎えてしまいました。
     私自身もそんな雰囲気に呑まれたのは否定できません。周りとある程度の距離をとって、腰を落ち着けずに歩きながらの花見なら大丈夫だろうと、近所の公園に出かけていきましたから。

     そして昨日、東京都では一日としては最多となる41人の感染が確認されました。三連休で感染した方々が今後次々と顕在化してくる時期となり、折からの病床数のひっ迫と相まって都知事が外出自粛を要請するに至っています。
     「感染爆発の重大局面」は、専門家の危機感と経済への影響を少しでも軽減したい政府の思惑、自粛に疲れ少しでも明るい話題を欲したメディアや国民の三者のボタンの掛け違いがミスリードを生んだ面が否めません。改めて、どういった注意喚起をすればよかったのか考えています。

     最後に、番組で紹介した、全国の感染症病床の埋まり具合を一目で示すサイトをご紹介しておきます。


     24日現在、東京はすでに結核病床をコロナに回すなどして対応せざるを得なくなっているようです。こういう時こそ、凡事徹底。手洗いと、密を避けた外出を。
  • 2020年03月17日

    震災9年の浜通り

     震災から9年たった3月11日。

     この日の朝日新聞の東京最終版一面トップの見出しは『避難なお4.7万人 人口34万人減』でした。
     一方、地元福島の新聞、福島民友の一面トップの見出しはというと、『きょう震災9年 桜並木 再生の息吹』
     同じ3月11日を迎えるにあたり、どうしてこんなに違ってしまうのでしょうか?
     政権に批判的な立場からすれば、現政権が手掛けている復興政策が上手く行かない方が、「この政権は復興を成し遂げるにあたり不適切であるから、交代した方がいい」という主張に沿うのでしょう。そして、本当に復興が話にならないほど上手く行っていないのであれば、その主張に正当性が出てきます。

     朝日の見出しにある、震災後人口が減ったまま戻らないという問題。まずは、震災前から東北各県は人口減、過疎化が問題となっていたことを考える必要があります。
     そのうえで、原発事故でしばらくの間町に入ることもできなかった福島浜通りはインフラの整備がされなければ人が帰ってこないでしょう。
     避難指示が解除されたとしても、その時点でインフラがすべてピカピカに元通りになっているわけではありません。そこから人の出入りが自由になるわけですから、インフラ整備もそこから始まるわけです。当初は学校も、雇用の場も買い物の場もそろっていません。近隣地域にそういった施設がある場合はいいのですが、それでも居住圏からあまりに遠いと帰還をためらう要因になります。
     また、就学児を持つ家庭が典型ですが、引っ越しをするタイミングは新たな学年が始まる4月。多くの企業で新年度が始まるのも4月。人事をそこに合わせる企業も少なくありません。
     したがって、3月11日の時点で出てくる人口のデータ、1月か2月のデータとなるでしょうが、それらは4月になると大きく変わる可能性があるわけです。
     「なお○○人」という見出しはその時点としては間違っているわけではありません。が、過度に復興が進んでいない印象を与えるものになってはいないでしょうか?

     私が今年の3月11日に向けて取材した福島県の浪江町を例にとりますと、2017年の3月31日に町の中心部などで避難指示が解除されましたが、震災前2万人あまりを数えた人口は、1200人あまりにまで減っています。帰還率は7%程度と1割に満たない数字です。
     ただ、町を回ってみるとようやくインフラが整ってきた段階。学校は、なみえ創成小・中学校が2018年4月に開校し、次の4月で3度目の春を迎えます。買い物に関しては、先日NHKのドキュメント72時間でも取り上げられたイオン浪江店が去年7月にオープンし、ようやく整いました。雇用に関しては、震災前は原発関係の雇用者が中心でしたが、現在の廃炉作業で往年のような大規模な雇用を生み出すことは期待できません。新たな産業を起こさなくてはいけないということで、町の北側の海沿いに産業団地を新たに整備し、今月完成しました。

    <浪江町が同町北東部の棚塩地区に整備している棚塩産業団地の利用が7日、始まる。利用開始を前に町は4日、同団地を報道陣に公開した。
     東北電力から無償譲渡された浪江・小高原発の旧建設予定地を、2018(平成30)年4月に産業団地として整備を始めた。約47ヘクタールの用地に、世界最大級の水素製造拠点「福島水素エネルギー研究フィールド」と福島ロボットテストフィールドの無人航空機滑走路、木材製造工場「福島高度集成材製造センター」が整備されている。>

     東京ドーム11個分という広大な敷地の大部分にソーラーパネルが敷き詰められていて、ここで作った電気で水を分解。水素を取り出し、それをエネルギーとして活用するそうです。雇用を考えると、かつての原発のような人口集約型ではなくイノベーション型の新産業ですから一気に爆発的な雇用を生み出すわけではありません。ただ、こうした未来へ向かっての新産業は目先の雇用だけでなく、今の子供の世代を根付かせることも期待されているようです。

     町の産業振興課・課長補佐の磯貝智也さんは、
    「この福島県浜通りで育った子供たち、高校生や高専生が卒業後、地域で魅力ある仕事を見つけられるかどうか。若い世代を出ていかずに、ここにはこんな夢のある仕事があるんだ。そのために勉強しよう、努力しようというきっかけになってほしい。新産業を誘致するのは、そんな狙いもあるんです」
    と語ってくれました。10年、20年先の浪江を見据えて今種を蒔き、育てていく。今は小さな一歩であるかもしれません。しかし、そこから千里の道を見通すような関係者の情熱に触れることができました。何よりも、どうせ被災地だからとあきらめるのではなく、ゼロからなんだから挑戦してみようという前向きな姿勢に共感しました。

     こうした前向きな話は、産業団地の開所などが出来事として触れられるだけで、東京ではあまり触れられてきませんでした。一方で、この3月に避難指示が解除された双葉町の様子は写真や映像で大きく報道されました。
     直近まで人も帰れない、9年間自由な人の出入りがなかった町ですから、震災直後の建物の様子が今も残っています。崩れたブロック塀や潰れた屋根、海沿いに行けば津波で流されひっくり返った自動車や1階部分を津波で抜かれてしまった家、倉庫...。
     2013年に警戒区域から再編され、許可を受けた人の立ち入りが認められた直後に取材に入った浪江町がまさにこうした風景でした。このような写真や映像に触れれば、「福島県浜通りはいまだにどこもこうした光景が広がっているのんだ」と思う人がいても不思議ありません。
     しかし、実際は避難指示が解除されたタイミングの違いこそあれど、それぞれの町が再び住民を迎える体制を整えつつあります。
    たしかに復興は道半ばです。

     それを、「まだ半ばまでしか来ていない」と嘆くのか、半ばまでの道のりを見つめて「ここまで来た」と言うのか?今までの取材もそうですが、今回の取材でも現地で嘆く人はほとんどおらず、「ここまで来たんだ」、「こんなことやっているんだ」と自分の町を誇らしげに紹介してくれる人がほとんどでした。
     前述の磯貝さんも、
    「帰還率を考えると凄く小さい数字のようにも思えるんですが、平成29年(2017年)3月31日に避難指示が解除になって、最初は100人に満たないぐらいだった。そこから3年で10倍以上人口が増えているエリアって日本全国でどこにもない!そうやって明るく考えていくことが大事だと思っていて、この浪江で新しいことがこんなに起こっているんだ。それに携われるんだよと明るい話題をどんどん提供していきたい」
    と話してくれました。拙著『「反権力」は正義ですか』(新潮新書)でも書きましたが、困っている人に寄り添う段階から、立ち上がった人に寄り添う段階になったと思います。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
「飯田浩司そこまで言うか!」

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