2016年1月

  • 2016年01月25日

    大雪が映し出す日本人の姿

     暖冬だと言われていた今年の冬ですが、ここへ来て列島各地、雪に悩まされています。今日もマイナス10度を超える寒気が南下し、列島各地、沖縄本島まで観測史上初の雪が降りました。

    『記録的大雪...空の便や新幹線に影響も』(1月25日 日本テレビ)http://goo.gl/t0DCWr
    <この冬、最も強い寒波に見舞われた日本列島では、各地で記録的な大雪となっている。この雪の影響で、交通機関にも影響が出ている。
     空の便は各航空会社とも、長崎や鹿児島など西日本の各空港を発着する便を中心に欠航が出ている。25日正午現在で、全日空で54便、日本航空で34便、日本エアコミューターで19便、スターフライヤーで12便、スカイマークで8便などとなっている。各航空会社はホームページなどで最新の状況を確認するよう呼びかけている。
     一方、鉄道は、JR西日本によると、沿線一帯に降り積もった雪の影響で、山陽新幹線は始発から速度を落として運転している。>

     今回は西日本を中心に雪が降り、鉄道、航空など交通インフラに大きな影響がでましたが、先週は関東が雪の大打撃を受けました。

    『昼まで入場規制する駅も 都心で積雪、鉄道混乱』(1月18日 朝日新聞)http://goo.gl/CeF3Lx
    <週明けの18日の朝、首都圏に降り積もった雪の影響で、東京都心の交通網は運休や遅延などが相次いだ。通勤・通学に混乱が生じたほか、車のスリップ事故や歩行者の転倒事故で消防が出動した。>
    <運転見合わせとなったJR青梅線。小作駅(羽村市)では足止めされた通勤、通学客が構内からあふれ、付近のコンビニやハンバーガーチェーン店までいっぱいになった。勤務先とひんぱんに携帯電話で連絡するスーツ姿の会社員や、待ち時間に英語の参考書を読む高校生もいた。>

     「雪に弱い都心」という文言は、毎年雪が降るたびに見出しに踊るわけですが、今回は特別でした。記事にもある通り、普段の半分程度に運転本数を減らしたことで集まった乗客をさばききれず、駅への入場制限をかけざるを得なくなりました。
    どうしてこんなことになったのか?雪で電車が遅れる原因は様々ありますが、最も大きな原因はポイント故障です。ポイント、つまり線路が2つに分かれたり、あるいは合流したりする部分で、この切り替えの部分が動かなくなると、電車が通れなくなりダイヤが大幅に乱れます。

    『ポイント(転てつ機)』(一社・日本民営鉄道協会HP)http://goo.gl/kAjv7k
    <ポイントは「転轍機」と書きます。轍はわだち(車輪の跡)のことで、路線を変える装置です。つまり、列車の通り道を切り替える装置で列車運行上、重要な役目をもっています。>
    <ポイントの泣き所は厳しい寒さに弱いことです。とくに大雪の日などはポイントが凍りついて動かず、ダイヤ混乱の原因となります。しかし、最近は雪の日に一晩中電車を走らせたり、ポイントを暖めるなどして正常運転が確保されています。>

     民鉄協会の説明にある通り、電車を走らせることで凍らないようにする、あるいはポイントヒーターで雪や氷を溶かしたりして対策しています。ただし、ヒーターは一つ一つのポイントに設置するには非常にコストがかかる。それゆえ、前者の電車を走らせるということで凍結防止しようとします。
     では、雪の朝に切れ目なく電車を走らせられるか?
     晴れていれば、朝のラッシュ時など切れ目なく列車を走らせることが出来ますが、大雨や雪の時には駅での乗客の乗降に余分に時間がかかります。雪の降り方によっては、速度制限を掛ける必要もあり、それも遅れにつながります。それやこれやで、じわじわと遅れが蓄積されていき、場合によっては列車が渋滞してしまうような事態に発展してしまう可能性があるわけです。そうなると、切れ目なく走らせてポイント凍結を防ぐことができなくなります。そこで、事前に列車の本数を減らして、駅間は走り抜けられるように設定したわけですが、今回はそれが裏目に出たんですね。

     さらに問題を大きくしたのが、降ったタイミングの悪さと雪の質の悪さでした。ある鉄道会社の保線担当幹部は、
    「降りはじめが深夜で、3時4時ごろからピークを迎えたのは最悪だった。あの時間帯は(車庫からの)出庫の時間帯。そこで雪が積もって架線にトラブルを抱えると、他の無事な列車の出庫にも影響する。京王線が大混乱したのはまさにそれが原因」
    と話してくれました。

    『大雪で朝の首都圏混乱 京王線の架線切れ、電車本数2~3割に』(1月19日 スポーツニッポン)http://goo.gl/81HfC0
    <特にひどかったのが多摩地区と新宿を結ぶ京王線。雪で車庫の架線が切れて車両が出せなくなるなどして一時、通常の2~3割の本数で運行。ただでさえ大混雑する路線での間引き運転で、世田谷区の千歳烏山駅などではホームに人があふれた。>

     これには少し説明が必要です。
     鉄道の架線というのは、街中の電線とは違って雪の重みで切れてしまうような弱いものではありません。かなり強い力でピンと張るように設計されていますので、雪ごときではびくともしません。むしろ弱いのは、電気を集めるパンタグラフ。ばねや空気圧で架線に押し上げ、架線に押しつけて電気を取っているんですが、これが雪の重みで下がってしまうそうなんです。して、ある程度架線とパンタグラフの間に空間が出来てしまうと、スパークしてしまい、その熱で架線が溶け切れてしまうようなんですね。出庫の際には運転士がぐるっと電車の周りを回って点検をしてから電車を動かします。パンタグラフ周辺に雪が積もっていれば、場合によっては雪を落としてから出すこともあるでしょう。しかし、雪の勢いが強ければだんだんと積もっていく。そして、悪いことにちょうど車庫の出口付近に差し掛かった時に架線が切れてしまうと、後ろの電車たちは出せば活躍できるのに全く使えなくなってしまうのです。

     それからもう一つ。雪の質の悪さ。我々は雪が降ったんだから本格的な冬が来たと思いがちなんですが、前述の保線担当幹部は、
    「いや、あの雪はむしろ暖冬の証拠ですよ。だって、水分をたっぷり含んでベシャベシャだったでしょ?あんなに重い雪は春の雪。本来この時期の雪はもっとサラサラしていて積もるまでに時間がかかるものなんだけど、今回は想定よりもかなり早く積もった。その結果、想定よりも早くパンタが下がってしまったんだと思う」
    と分析してくれました。

     雪の質の悪さ、降りはじめのタイミング、そして運転本数の減少。これらが作用して、先日の交通混乱が引き起こされました。
     同じ雪が降っても、それが昼間や夕方、夜ならここまでの大混乱にはならなかったでしょう。朝は何百万という人がほぼ同じタイミングで都心へ向けて毎朝大移動しているわけで、そこで雪が降り電車が止まると、即座にあれだけの大混乱になるわけです。
     最近、台風接近の時には早めに仕事を切り上げて帰宅を促すということが定着しつつあります。ところが、朝に関しては雪が降ろうと大雨になろうと電車が動いていれば出勤すべきという空気がいまだにあるようです。前日までの報道を見ていると、「雪が降るので早めに家を出るべき」と繰り返されていましたが、むしろ朝こそオフピーク、仕事の開始の後ろ送りを言うべきだったのではないでしょうか?
     都心の朝の大雪が、日本人の働き方への疑問を投げかけています。
  • 2016年01月18日

    日銀のDNA

     年初からの株価の下落が続いています。週明け18日の東京株式市場・日経平均株価も続落し、終値で1万7千円を割り込みました。

    『東証続落、終値1万7千円割れ 原油安、米景気懸念で』(1月18日 共同通信)http://goo.gl/v4U3OD
    <週明け18日の東京株式市場の日経平均株価(225種)は続落し、終値は前週末比191円54銭安の1万6955円57銭となった。1万7000円を割り込んだのは、中国経済への不安が強まった昨年9月29日以来、約4カ月ぶり。>

     こうなってくると、市場は日銀の追加緩和への期待が高まります。国会の予算委員会でも、連日、日銀の黒田総裁を参考人として召致し、追加緩和、今後の金融政策について質問しています。

    『黒田日銀総裁「現時点で追加緩和をする考えはない」 参院予算委』(1月15日 日本経済新聞)http://goo.gl/fxLyoO
    <金融政策については「現時点で追加緩和をする考えはない」としたが「物価の基調に変化が生じたら、ちゅうちょなく政策を調整する用意はある」とも述べた。民主党の石橋通宏委員への答弁。>
    『物価目標の実現めざし、持続に必要な時点まで緩和継続=黒田総裁』(1月18日 ロイター)http://goo.gl/gc5Pv7
    <日銀の黒田東彦総裁は、18日の参院予算委員会で、2%の物価安定目標に関し、「物価目標の実現めざし、持続に必要な時点まで緩和を継続する」との認識をあらためて示した。藤巻健史委員(お維)への答弁。>

     ただ、金融緩和に対しては以前から批判的な声も少なくありません。さらに、去年12月に金融緩和の補完策が発表されてからは、「やっぱり無理な政策。金融緩和は限界を迎えた!」「これ以上無理をすると破たんする!」といった論調も目立つようになってきました。

    『日銀緩和補強策「サプライズ」不発 先行き不安視広がる』(12月19日 毎日新聞)http://goo.gl/KL0Mft
    <(補強策は)保有する国債の償還までの平均期間を「7〜10年程度」から「7〜12年程度」に延長する。より長い金利の低下を促し、設備投資などお金を使いやすい環境にする狙い。さらに、上場投資信託(ETF)の買い入れペースを、現在の年3兆円から3000億円増額する。>
    <金融市場では補強措置をいったん好感しつつも、直後に「日銀の金融政策の限界を感じた」との失望が広がり、株価、為替相場とも乱高下した。>
    <市場からは「短期決戦だったはずの政策の長期化に備えた措置だが、泥沼化してきたとの印象が拭えない」(BNPパリバ証券の河野龍太郎チーフエコノミスト)と冷めた見方も出ている。
    黒田総裁が打ち出す政策に、市場は「円安・株高」で応え、デフレ脱却を後押ししてきたが、緩和効果の行き詰まりとともに、日銀と市場とのコミュニケーションにも陰りが見え始めた>

     この補強策は、金融政策決定会合の中でも賛否の別れたものであったことが、年明けに出された出席者の「主な意見」でわかっています。

    『「緩和の限界意識」と反対意見も 日銀「主な意見」初公表 昨年12月17~18日の金融政策決定会合』(1月8日 産経新聞)http://goo.gl/Ilys9n
    <賛成が多かったが、反対意見には、「国債管理政策への関与を強め、金融政策の正常化に要する時間を長期化させる」「大規模緩和を長期化させる可能性が出てくる」などがあった。>

     デフレ脱却よりもはるか前から、すでに出口戦略を議論しています。これは注目すべきポイントで、こうした日銀の体質がデフレ脱却のチャンスをみすみす逃したというのが、最近出てきた過去の金融政策決定会合の議事録から見ることが出来ます。

    『バブル警戒で緩和解除機運 日銀決定会合05年7~12月議事録』(1月15日 日本経済新聞)http://goo.gl/FxzNJG
    <日銀は15日、2005年7~12月の金融政策決定会合の議事録を公表した。当時は消費者物価指数(CPI)の上昇が視野に入り、日銀が06年3月に決める量的緩和政策の解除に向けて動き始めた時期。バブル再燃への警戒から緩和解除に前のめりになっていく様子が浮かび上がった。>
    <福井俊彦総裁がバブルの兆しに言及したのは10月12日の会合。地価や株価の過熱に対し、他の委員も「1980年代後半のバブル期に発生した現象に似てきている」(12月16日、福間年勝委員)と同調。解除待ったなしの空気が高まった。>
    <緩和解除を急いだ裏には米国が利上げを進めるなど「世界全体で金融政策をノーマライゼーション(正常化)しようとしている」(同日、水野温氏委員)状況もあった。>

     今とウリ二つだと思いませんか?アメリカが金融緩和をやめて利上げに転じているから、日本もそろそろ出口戦略を考えなければいけない。金融緩和というのは異常事態であって、機会を見つけて可及的速やかにやめなくてはならない。10年後の今もまったく同じ議論をしています。

     さらにこの議事録の中では、福井総裁が「(量的緩和は)異例な政策、ないし異常な政策」と表現(11月会合)。これに対して「『異例』にしていただけないか。『異常な政策』という言葉はかなりショッキングな響きを持つ」(中原眞委員)と批判され、「つい極端な表現を使ってしまうのだが。異例な政策だな」(福井総裁)と返答しています。

     そもそも、金融緩和を止めることを『正常化』と表現するあたりから、日銀が伝統的に金融緩和を異端視していることが良く分かるわけですが、本当にこの当時は金融緩和を止められるほど物価が上昇していたのでしょうか?この当時の物価の変動を見てみると、総合指数も、生鮮食品を除く総合(コア指数)も、食料(酒類を除く)及びエネルギーを除く総合(コアコア指数)も、前年同期比で見ると良くてゼロ、マイナスもザラです。

    『消費者物価指数(CPI)』(総務省統計局HP)http://goo.gl/lrjKXw

     数字を見ると、都心では急激な不動産価格の動きなどがあったかもしれませんが、少なくとも全国で見ればバブルのかけらもないわけです。バブル期は都心のみならず郊外、地方部でも不動産価格の急激な上昇があったからバブルだったわけで、今考えると当時の日銀の判断は「羹に懲りてなますを吹く」という諺を地で行っていたことがよくわかります。バブル期の反省なのか何なのか、バブルの芽とも言えないほど小さな物価上昇のサインであっても見逃さず、捉えて潰すというのが日銀の本能のようです。

     そして問題は、現在の日銀法には、日銀がこのような本能をむき出しにしたとき、政府の側にも国民にも止める術が一つもないということ。現在の日銀法というのは、2005年当時のものと同じ。では10年前どうだったのかというと、当時の福井日銀は政府の反対を振り切って金融緩和解除に突っ走りました。意見すること以外に何もできない政府も与党も全くの無力でした。早すぎる緩和解除は物価の足を引っ張り、特にコアコアCPIは2年以上マイナスから顔を出すことすらありませんでした。デフレ脱却に失敗したわけです。

     さあ、同じ轍を踏まずに今年を乗り切ることができるのか?そういえば、与党は今国会に日銀法改正案を出したいと言っていましたが、その後どうなったのでしょう?
  • 2016年01月13日

    国会論戦開始!ですが...

     通常国会の本格的議論が、15年度補正予算案審議から始まりました。足元の景気が厳しさを増す中、どうしたら景気を浮揚できるのかの議論を期待していたんですが、残念ながらそれは叶わぬ夢のようです。主・維新の統一会派は「何が何でも政権と対決しなくてはならない」と考えているようで、もう無理筋で否定的な質問に終始。正予算の効果、それが力不足なのか過剰なのかというような建設的な議論からは程遠い質問のオンパレードです。

    『ドル建てのGDP減少、気にする必要ない=安倍首相』(1月12日 ロイター)http://goo.gl/s1GnHu
    <安倍晋三首相は12日午後の衆院予算委員会で、安倍政権になってからドル建ての国内総生産(GDP)が減少しているとの指摘に対して、「ドルで給料をもらっている人はいない」とし、「為替が変動する中でドル建てのGDP減少を気にする必要はない」と述べた。維新の井坂信彦委員への答弁。>

     これが、対案路線で鳴らした維新の党の委員の質問なのか...。暗澹たる思いがします。一体、ご自身をどこの国の議員だとお思いなんでしょうか。
     総理の指摘を待つまでもなく、一般的な日本人は、日本円で給料を得、それを日本円で商品やサービスに替えて生活を維持しています。普段からアメリカドルを使う人は相当変わっているか、その人は日本人ではありません。日本円での所得を増やすのが日本人のための政策ではないのでしょうか?日本円でのGDPも米ドル建てと同様激減しているのであればそれは大問題です。2014年4月の消費増税以来、たしかに日本円建てのGDPも伸び悩んでいますから、そこを批判するのであればわかります。しかし、為替の円安進行を理由に米ドル建てでのGDP減少を問題視するとは。

     もしそれが大問題なのであれば、解決策は今すぐ金融緩和をやめて大幅に引き締め、結果的に円高ドル安に誘導していけばいいわけです。米ドルを円に換えて国内で投資していた海外の機関投資家からすればこれほど結構な話はありません。米ドルから見た為替差益がたんまり入るわけですからね。一方、日本国民の生活を考えると、それはまさに円高不況に苦しんだ民主党政権時代に逆戻りすることに他なりません。その苦しみを国民がもう忘れたとでも言うのでしょうか?一体どこを向かって政治をやっているのか、残念ながら日本国民を向いてはいないのではないかという疑念を抱いてしまいます。

     こうしたデータを無理矢理解釈して政府の経済政策を根本から否定しようという動きは他にも見られます。たとえば、

    『衝撃 アベノミクス「GDP伸び率」あの民主党政権に完敗』(2015年12月16日 日刊ゲンダイ)http://goo.gl/ukrajl
    <民主党の山井和則衆院議員が今月、内閣府に対して民主党政権時代と安倍政権下で実質GDPはどれだけ伸びたのか――を比較できる数値を求めたところ、数値は民主党政権の方が断然、良かったのだ。>
    <内閣府経済社会総合研究所の調べによると、民主党が政権を奪取した2009年7~9月期から、政権を明け渡す12年10~12月期までの実質GDPの伸び率が「5.7%」だったのに対し、安倍政権が誕生(12年10~12月期)してから3年間(15年7~9月期)の実質GDPの伸び率は「2.4%」。つまり、同じ3年間を比べてみると、伸び率は民主党政権時代の方が安倍政権より2倍以上、数値が「良かった」のである。>
    <山井議員がこう言う。
    「(中略)今回は内閣府の公表数値です。数字はウソをつきません。安倍政権は消費税増税などを理由に言い訳するのでしょうが、民主党政権では東日本大震災がありました。それでも民主党政権の実質GDPの伸び率の方が上回っているのです。繰り返しますが、アベノミクスは失敗したのです」>

     では、実際のデータを見てみましょう。直近のデータで、12月に出ているGDPの2次速報値の中に、1997年までのデータが載っています。

    『2015(平成27)年7~9月期四半期別GDP速報(2次速報値)』(内閣府HP)http://goo.gl/ElQeK8

     支出側実質GDPの季節調整済みの数字を見てみますと、山井議員の言う期間、民主党の政権担当期間は09年7~9の489兆あまりから、12年10~12の517兆へ伸びています。一方、自民党の政権担当の12年10~12、517兆からどう増えているかというと、15年7~9で529兆あまり。伸び率から言えば、たしかに民主党政権時代の方が優秀といえるかもしれません。しかしながら、そのスタートの09年7~9月は、リーマンショックの影響がもろに残っていて、かなり低い水準からのスタートだったことが分かります。れだけ深刻な不景気だったからこそ民主党政権に世論が期待したわけですが、3年3か月の民主党政権ではついにリーマン前の水準には回復させられずに政権を明け渡しています。一方、第2次安倍政権は消費増税直前の2014年1~3月期に534兆円を記録。ーマンショック直前の529兆円を超えて、リーマン越えを果たしました。その後、消費増税の影響が尾を引き、このところ景気が足踏みを続けているのはご存知の通りです。

     事ほど左様に、本来問題にすべきは消費増税後の足踏みが続いている上に、そのまま世界景気の悪い方向への変動が続いている。これに耐えられるのかどうかではないでしょうか?今だにデフレギャップは7兆円あまりあって、国内には需要が足りない。海外の著名なエコノミストやノーベル賞教授がこぞって「財政出動して需要を作り出せ!」と言っているのに、政府が用意した補正予算はデフレギャップの半分にも満たない3.3兆円。の力不足を指摘するべきなのに、民主・維新の統一会派は予算の組み替え動議を出して、さらに財政出動を削り取り、その分借金を返す方に回そうとしています。

    『民維、補正予算案で組み替え動議提出へ 給付金撤回求める』(1月8日 日本経済新聞)http://goo.gl/onhJ4R
    <民主党と維新の党は8日の政策調整会議で、2015年度補正予算案の組み替え動議を提出する方針を決めた。所得の低い高齢者への1人3万円の臨時給付金や環太平洋経済連携協定(TPP)関連の国内対策費など約8000億円を削除し、国債の減額に充てるのが柱。保育や介護関連の施設整備の基金に積み増す1542億円も削る。>

     国家財政は家庭の財布とは違います。家庭の財布であれば借金を返せばその分可処分所得が増えますが、国の場合借金を返しても何も生みません。その分を新たな歳出に回せば、政府最終支出という形でGDPの押し上げ要素となり、受注した会社の所得になり、雇用された人の所得になります。

     誰かの支出は、別の誰かの所得になる。

     経済学の基礎の基礎のはずなんですが、どうやら野党議員の先生方は国民の方を見ていらっしゃらないようです。ある野党議員秘書が嘆きました。
    「民主がぼーっとしているから、政治に緊張感が足りない。これは国民にとっての不幸」

     さて、補正予算議論は"良識の府"参院側に回ります。"良識の府"らしい議論を期待したいところですが...。
  • 2016年01月05日

    で、いつ解散するの?

     今年は1月4日が月曜日で、今週からすでにトップギアでの仕事を余儀なくされている方も多いかもしれません。国会も1月4日に召集されたので、永田町にも何だか慌ただしい空気が漂っています。総理の年頭記者会見もこの日の10時から行われましたので、記者も関係者も議員も、早くもトップギアで仕事をする空気。もちろん、動かすだけで税金が消えていく国会ですから、目一杯働いてもらうに越したことはありません。

     ただ、この何となくソワソワしたこの空気は1月4日がスタートだったからだけではありません。すでに何度も報じられていますし、ザ・ボイスでも何度も扱った「衆参ダブル選挙」の観測がまことしやかにささやかれているからというのも大きいようです。

    『参院選へ与野党攻防=くすぶるダブル選、緊迫も-今年の政局展望』(1月1日 時事通信)http://goo.gl/7Q002z
    <2016年の政局は、最大の政治決戦となる夏の参院選をにらみ、与野党が4日召集の通常国会を舞台に激しい攻防を繰り広げる展開となる。安倍晋三首相が参院選に勝利して長期政権への足場固めを狙うのに対し、民主党は野党共闘を進めて反転攻勢をうかがう。首相が参院選に合わせて衆院解散・総選挙に踏み切るとの臆測もくすぶり、政局が一気に緊迫する可能性もはらむ。>
    <与野党が注視するのが衆参ダブル選の可能性。世論の反発や景気の落ち込みが予想される消費税増税後の衆院解散を避けるなら、夏の参院選との同時実施が安倍政権にとって「得策」(自民党幹部)との見方からだ。通常国会会期末の6月1日に解散すれば、公職選挙法の規定により、7月10日の同日選が可能となる。>

     1月から3月のGDP一次速報が出るのがだいたい5月の中旬から下旬。二次速報値でも6月の初旬。前回の消費税増税先送りの時と同じように、その数字を一つの大義名分として増税の再延期を決定。衆院解散、ダブル選挙で国民の信を問うのではないかというのが主なシナリオです。昨年末にすでにくすぶっていたこのダブル選。野党問わず、ダブル選についての言及が年が明けても止まりません。

    『衆参ダブル選、否定的な見解...菅官房長官』(1月4日 読売新聞)http://goo.gl/qmfUIX
    <菅官房長官は3日の文化放送のラジオ番組で、次期衆院選が夏の参院選と同日選となる衆参ダブル選について、「個人的には必ずしも有効だとは思わない」と述べ、否定的な見解を示した。>

    『小沢氏「同日選、少しずつ現実味」』(1月2日 日本経済新聞)http://goo.gl/E3m2Zi
    <生活の党の小沢一郎共同代表は1日、今夏の衆参同日選の可能性に関して「少しずつ現実味を帯びてきた」と指摘し、野党勢力の大同団結が必要だとの認識を示した。自身に近い国会議員らを東京都内の私邸に集めて開いた新年会で語った。>

    『衆参ダブル選挙、ないのでないか=甘利再生相』(1月4日 ロイター通信)http://goo.gl/o5LXGy
    <甘利明経済再生相は4日の年頭閣議後会見で、取り沙汰されている衆参ダブル選挙の可能性について「首相の専権事項だが、個人的にはないのでないか」と述べた。>

     総理の判断を縛るわけにはいきませんから、ダブル選はないのでは?という意見は閣僚に多いわけなんですが、政界関係者もだいたい半信半疑。というのも、「ない」という根拠もまた、もっともらしいのです。

     たとえば、公明党が反対している。公明党と、その支持母体、創価学会が反対しているから、与党としては解散総選挙に踏み切りづらいというのが理由です。院選だけでも、選挙区と比例代表の2票を投じるこの選挙。候補者名や政党名を浸透させるのが単独でも大変なのに、それに加えて衆院選までは厳しいという意見です。

     さらに最近ささやかれる噂は、「それでは東京オリンピックに間に合わない」という説。仮に今年衆参ダブル選挙をやるとすると、参議院議員の任期は6年ですから2022年7月までとなりオリンピックにバッティングしませんが、衆議院議員の任期は4年ですから2020年7月までとなり、見事にオリンピックと被ってしまうんですね。ちなみに、オリンピックの方はすでに日程が確定しています。

    『大会日程』(東京オリンピック・パラリンピック競技大会組織委員会HP)https://goo.gl/0t6uv2
    <オリンピック競技大会開催概要
    正式名称:第32回オリンピック競技大会(2020/東京)
    英文名称:The Games of the XXXII Olympiad
    開催期間:2020年7月24日(金)~8月9日(日)
    競技数:28競技>

     とはいえ、オリンピックを意識して解散を先延ばしにすると、予定通りならば2017年4月の消費増税がやって来ます。消費増税をした上で選挙をやった場合、どんなに対策に財政出動を積み重ねても景気が悪くなってしまうのは前回5%から8%に上げたときで証明済み。しろ、消費税を上げてもビクともしなかったのは、導入時の1989年だけ。の時はバブル景気のまっただ中で、そのくらいの超好景気でない限り消費税増税は景気に冷や水となってしまうのは歴史が証明しています。いうことで、景気が悪くなった中で解散総選挙をやって勝てるのか?おそらく無理でしょう。増税をさらに先送りするなら当然もう一度民意を問う必要がありますが、増税するならするで、戦術上勝てそうな2017年4月よりも前に解散総選挙をやっておきたいと思うのが人情というもの。そこで浮上してくる日程が、秋から冬解散の可能性です。ある政界関係者が教えてくれました。

    「増税と解散を切り離して純粋にいつ解散すれば勝てそうかで考えると、臨時国会冒頭、あるいは臨時国会のお尻での解散だって考えられる。参院選と衆院選を分ければ公明党は納得するし、通常国会をせいぜい小幅延長で閉じざるを得ない以上、秋に臨時国会を開くことには野党も反対できない。とはいえ冒頭はちょっと乱暴だから、可能性が高いのは臨時国会閉幕直前解散かな。12月投票の選挙は安倍政権にとってはゲンがいいからね」

     この仮説、そもそも安倍総理が総理としてオリンピックの開会式に立つということが前提となってますから、そこまでの長期政権を志向するのか?というところが問題になってくるわけです。オリンピックまで総理でいるためには、自民党総裁の任期の縛りも変更しなくてはいけませんしね。ただ、中曽根総理の時のように選挙に勝てば総裁任期の延長だって可能なわけで、そうなるとますます勝てるときに選挙するのではないか?と周りは考えます。

     このソワソワ感、しばらくはやみそうにありません。
  • 2016年01月01日

    謹賀新年

     明けましておめでとうございます。旧年中もザ・ボイスをお聞きくださいましてありがとうございました。来る2016年も、皆様の期待に応えられるような番組作りをしていきますので、どうぞよろしくおねがいいたします。

     2015年も様々な現場に足を運び、取材する機会に恵まれました。年内最後の放送となった12月28日の放送でもお話しましたが、様々なツテを頼って福島第一原発構内を取材することができました。汚染水をためるタンクが林立する構内は、さながら港のコンビナート。かつては「緑の原発」と言われるほど植栽が豊かだったそうですが、それらはほとんど伐採され、山も削られて更地になり、タンクの増設用地となっています。になった山肌をモルタルで固めているんですが、そうすると雨が降ってもしみこまず、乾けばホコリが舞うという現場でした。
     説明されて驚いたのは、このタンクの中に入っている水の成分。地下水が解け落ちた核燃料に触れてできた高濃度汚染水がたくさん入っているものとばかり思っていましたが、実はそういったものは少数。ALPS(多核種除去装置)でほとんどの放射性物質を除去したトリチウム水がほとんどなんだそうです。たしかに細かいトラブルは報道されていますから現場もまだまだ万全ではないのでしょうが、報道から受ける「汚染水が処理できずに途方に暮れている」というイメージとはギャップがありますね。

     事ほど左様に、現場に行って見ると目からウロコの事実がたくさん転がっています。現場で作業に当たっている人たちからすれば、こんなこと取るに足らないことでしょう。しかし、現場から遠く離れた我々一般人には新鮮に映る。このギャップを少しでも埋めるべく、今年もできる限り現場に足を運んで取材してきたいと思います。

     今年も、『ザ・ボイス そこまで言うか!』をどうぞよろしくお願いいたします。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
「飯田浩司そこまで言うか!」

■会員制ファンクラブ(CAMPFIREファンクラブ)
「飯田浩司そこまで言うか!ONLINE」

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