ペット連れの旅行というのも、日本でも徐々に身近なものになってきています。子育てが終わった夫婦がペットを飼い、家族同然のペットとともに旅行にも行きたいというニーズが高まったようです。ペットフード協会の2016年の推計では、犬の飼育頭数が987万8千頭、猫が984万7千頭。合計で1972万5千頭に上ります。一方で、総務省統計局が推計した15歳未満の人口、いわゆる子どもの数は2017年4月1日現在で1571万人。子どもの数よりも犬と猫の合計の方が多いんですね。
昨今注目されるシニア消費と相まって、この国内のペット関連需要を何とかつかもうと各社がアイディアをひねっています。旅行に関して言えば、今までペットの同伴が難しかった交通機関でペット連れOKの試みが始まっているのです。ペットと一緒にフェリーに乗れるのが、商船三井グループのさんふらわぁ。従来のフェリーでも、専用ゲージにあずかる形で一緒に乗ることができたのですが、家族と離れ離れとなるとやはりストレスがかかるもの。さんふらわぁの一部航路では、基本個室利用で、個室まではゲージに入れて運び、室内は自由にさせられるというプランを作っています。さらに、一部新造船では船内にドッグランまであるそうです。
また、航空会社も今まではスーツケースと同じくチェックイン時預かりとなっていましたが、機内まで同伴できるチャーターフライトを年に何度か行っています。
<日本航空(JAL)は27日、機内で犬と一緒に旅行ができる「JALチャーター便で行くワンちゃんとの旅 ワンワンJET鹿児島」を行った。ペットはこれまで機内ではなく貨物室で預かっていたが、同乗したいという乗客からの声があるため、同社初のペット同伴フライトとなった。国内では、全日空が同様のフライトを昨年5月に実施している。>
こうして、各社がシニア消費を狙ってしのぎを削っているわけですが、先行きに全く不安がないかというと、そうでもありません。日本総研が今年1月にこんなレポートを出しています。
<シニア世代、とりわけ年齢層60歳代(以下、60代)の個人消費が伸び悩み。いわゆる団塊世代(1947~49年生まれ)が2007年以降順次60歳を迎えるにあたり、余暇を楽しむなどして消費をけん引するとの期待が台頭。しかし、実際の消費支出額は小幅な増加にとどまるなど、盛り上がりを欠く状況>
<団塊世代を含む現在の60代で、余暇関連支出を中心に消費が伸び悩む理由として、金銭的なゆとりがないことが指摘可能。>
退職金の減額、子育て後の資産形成期である50代も早期の役職定年制などで所得が伸び悩み、さらに年金もさほど伸びないとなると、従来のように60代完全引退のシニア世代に消費を期待するのは難しいかもしれません。が、私はさほど悲観していません。ペットとともに旅行できる環境が整うことは、外国人観光客を呼び込むに当たって非常に大きな財産になるのではないかと思うんですね。先日、ペット同伴でありながらフルサービスのホスピタリティを受けられるホテル、『レジーナリゾート旧軽井沢』を取材した折、そんなことを感じました。
ペット同伴の宿泊施設を検索すると確かに様々出てくるのですが、ペンションタイプなどが多く、一般のリゾートホテルのようなフルサービスはまだあまりありません。このレジーナリゾートを運営する東京建物リゾートは、蓼科や富士河口湖、箱根、伊豆などすでに5つのリゾートを運営。今回取材した旧軽井沢は、今月11日に正式オープンします。木材をふんだんに使った施設は全部で26室。開放的な高い天井に、大きな窓。テラスから外を見れば森が広がり、この時期は紅葉が見ごろを迎えていました。
犬と同伴が可能な施設でも、部屋の中だけだったり、部屋の中でもケージに入れないといけなかったりしますが、ここは基本的にどこでも犬と一緒に行けます。そのため、施設のそこここに犬のリードをつないでおけるフックが。これもよく見ると犬の顔を型どっていて愛犬家の心をくすぐるようです。
旅の楽しみといえば食事。これも犬と一緒に取ることができます。ここは衛生面が気になるところですが、基本的にゲストはみな犬好き。トラブルになることはほとんどないようです。
リードをつないでおくか、小型犬なら専用のカートに入れて一緒に食卓を囲むこともできます。もちろん、犬用のメニューもシェフが腕を振るっています。
驚いたのは、バーも犬連れOKという点。メニューには、犬用のカクテル(!)まであり、バーテンダーが一杯ずつ心を込めて作るそうです。ここまで来ると「人間じゃないんだから、犬にそこまでやるか?」という向きもいらっしゃるでしょうが、ここまでサービスするのがまさに「お・も・て・な・し」。特にカネに糸目をつけない富裕層には受けるのかもしれません。スタッフの方は他のレジーナリゾートから移ってきた方が多かったのですが、話を伺うと、
「もちろん今は日本人のワンちゃん連れの方が大半ですが、徐々に外国人の方も多くなってきています」
と言っていました。
軽井沢は近年、海外の大富豪が別荘の建設を計画したりして、海外富裕層からの注目も集まっている土地。特に欧米は日本以上にペットとともにバカンスを過ごすことが身近です。実際、「travel with dog」と検索してみると、出るわ出るわ。飛行機の乗り方から宿泊施設の選び方、旅行前の準備などなど、様々なノウハウ紹介サイトが存在します。訪日外国人数が恒常的に年間2千万人を超えてくる中、この先はどう特色を出していくのかが問われます。今後「インバウンド・プラスワン」が注目されていくかもしれません。