2017年2月

  • 2017年02月28日

    ポスト・トゥルースの時代

    「チェック、ダブルチェック...」
    事実をしっかりと確認し、さらにウラ取りもして、それでも本当に書いていいのかギリギリまで逡巡するデスクの姿...。2008年に公開された映画『クライマーズ・ハイ』でのワンシーンです。1985年の日航123便墜落事故を報じる地元紙記者の戦いを描いた横山秀夫氏の原作を映画化。冒頭のセリフをつぶやいた日航機事故担当全権デスクの悠木は堤真一さんが演じていました。
     事故原因についての取材を続けている最中、どうやらこれだという「圧力隔壁の破壊」にたどり着いた取材班は、事故調査委員会のキーマンに接触。ネタを当てた結果、あいまいな回答を受けますが、現場の記者は普段接している「サツカン(警察官)ならイエスです」と報告。これを受けた悠木が冒頭のセリフを呟きながら、紙面に載せるかどうかを逡巡するわけです。

     当時私は入社4年目。今のような報道に関わる仕事をしていたわけではなく、泊まり勤務をしながらたまに呼ばれて単発の中継レポーターを任されるという、いわば、アナウンサーとしての仕事が少ない状況でした。それだけに、あのセリフが強烈に印象に残ったんですね。
     寝食を忘れて取材をし、他社に抜かれないように情報を守りながらキーマンと接触、あと一歩で紙面に載るというこの特ダネを、それでも記者の良心において載せていいのかを逡巡している。これぞ報道なんだなぁと、憧れを持ってスクリーンを見つめていたのを良く覚えています。

     さて、今しきりに報道されている森友学園を巡る件について、果たしてこのような「チェック、ダブルチェック」が働いているのでしょうか...。どうも、「怪しいに違いない」「不透明に違いない」といった印象付けの報道が先行してしまっていて、きちんとしたファクトが出てきているのか疑問があります。さらに、土地の取得にまつわる問題に加えて、運営者の森友学園のユニークな教育方針など、様々な「マスコミ的な突っ込みどころ」が出来るだけに、面白おかしく日々取り上げられ、問題の本質がどんどんとぼやけて行っています。

     まずは国有地の取得にまつわる経緯について整理していきましょう。

    『国有地を格安売却の経緯は?「森友学園」問題Q&A』(2月24日 日刊スポーツ)https://goo.gl/97EN7q
    <土地は、上空が大阪空港への飛行ルートに当たり、国土交通省大阪航空局が騒音対策のため保有していました。学園側が小学校用地として取得を希望し、財務省近畿財務局が交渉に当たりましたが、学園側はまとまった資金を用意できないとして、期間中に購入する前提で2015年5月、10年間の定期借地契約を締結し、校舎建設工事が始まりました。>
    <その後、用地の地中からごみが見つかり、大阪航空局は撤去費用を8億円余りと見積もりました。不動産鑑定士の更地の評価額は9億5600万円でしたが、16年6月、近畿財務局は撤去費用などを差し引いた1億3400万円で売却しました。>

     加えて、この森友学園の小学校に安倍総理夫人の昭恵さんが名誉校長を務めていたということがあり、8億円のディスカウントが総理サイドとの関係の深さによって値引きされていたのではないかという疑いがかけられたわけです。

     肝となるのは、総理サイドとの繋がりをもって売却先が森友学園に決まったのかどうか。さらに、この繋がりをもって値引きが行われたのかどうか。
    そして、この8億円の値引きというのが論理的なものなのかどうかの2点です。

     まず、売却先の選定については、国有地売却についてはまず立地の自治体に打診があり、次に学校法人や社会福祉法人などに打診が行きます。その2つに全く要望がなければ一般競争入札に移行するというプロセスを踏むようです。

    『森友学園問題、衆院委で追及 政府「手続き適正だった」』(2月27日 朝日新聞)https://goo.gl/eNcIii
    <民進・福島伸享氏 他の学校や豊中市が取得に意欲を見せたのに、随意契約で国有地を払い下げる単独交渉があった。

     財務省・佐川宣寿理財局長 (当該国有地の)取得要望の受け付けを開始し、大阪府、豊中市から「要望がない」との回答書を受理した。受け付け開始期間の最後に、森友学園から取得要望書が提出された。適切な手続きにのっとった。

     福島氏 なぜ一般競争入札ではなく、随意契約にしたのか。

     佐川局長 府、市からの要望がないなか、森友学園から要望があり、適正に随意契約を始めた。>

     この答弁を見る限り、売却先の選定について、筋が通っているように見えるますが...。また、仮に総理でないにせよ、政治家サイドからの圧力なり示唆があったとすれば、そうした打診をされた官僚側は必ず応接録を付けておかなくてはいけません。そのあたりは、ザ・ボイス火曜日のコメンテーター、元財務官僚の高橋洋一さんが話していました。

    『高橋洋一の霞ヶ関ウォッチ 安倍首相「働きかけ」有無の調べ方 「国有地売却」問題のキモ』(2月23日 J-CAST)https://goo.gl/bszwf5
    <政治家から働きかけを受けた場合、応接録を作る。作らないと、責任はすべて役所が被ることになるから、役人側の保身のためでもある。日時、方法、内容などが具体的に記されるので、どこの役所でも定型化された様式があるくらいだ。>

     総理との関連を主張し、「怪しい」と言うのであれば、高橋さんが言うようにまず応接録を請求すればいいと思います。

     次に、8億円のディスカウントについてですが、算出した国土交通省は一部取材に答えていて、「8億円という額が工事単価として高すぎることはない。適切な工事単価です」(国交省の担当者)というコメントを出しています。私も官邸筋や霞が関を取材してみましたが、国土交通省はその豊富な公共事業の経験から、詳細な工事の単価表を持ってるそう。業者からは杭を打った地下9.9mまでにゴミがあったと指摘されたので、これを敷地面積8770平米に当てはめるとこの程度のコストがかかると算出したそうです。不動産の売却に関しては、基本的に売主が土地をきれいにしてから売却する必要があります。ゴミが埋まっていることが発覚した場合には、一義的には元の持ち主、この場合は国側がゴミを撤去してから売らなくてはいけません。

     ただ、ゴミが埋まっているからと言って、全くその土地が使えなくなるわけではありません。たとえば、次の持ち主がしばらく駐車場に使うのであればそこまでゴミの撤去を徹底しなくてもいいのかもしれません。(もちろん、環境関連の関係法令を順守することは前提ですが)その場合には、埋まっているゴミの撤去でコストがかかる分を土地の値段から差っ引いて売却することもできます。結局、元の持ち主が直接ゴミを撤去するか、その分のコストを買い主側に払う形で売却価格から差っ引くかの違いだけですね。
     今回は後者を選んだというわけです。傍証となりますが、この問題となった土地から北西へ1キロほどの別の土地ではゴミの処理に14億円が見積もられた事例もあります。この土地も今回問題となった土地と同じく、伊丹空港の騒音対策で国が買い上げていた土地です。

    『地中ゴミ「別の土地」は多額出費』(2月23日 MBS)https://goo.gl/PXjkmA
    <豊中市はおととし、学校給食センターを建てるため国から引き継いだ新関空会社から7200平方メートル余りの土地を購入しました。その額7億7000万円余り。しかし購入後、多数のガレキが埋まっていることが判明します。

     「過去の地歴などを調べると田畑だったので、まさかこんなの(ゴミ)が出てくるとは思わなかった。撤去費用として議会に上程しているのは14億3000万円」(豊中市学校給食課 小野雄慈課長)

     土地価格の倍近い14億円以上の撤去費用がかかるという試算。実はガレキの中には有害物質の「アスベスト」も含まれていたことから、費用が高額となったのです。>

    この記事では売却価格が豊中市と森友学園で不公平だという締めになってしまっていますが、問題はそこではないと思います。アスベストという特殊要因があったからかもしれませんが、この豊中市の新給食センターの事例は7200平米の土地でゴミの撤去費用の14億。8770平米の森友学園の土地はゴミの撤去費用8億円。こうして比べてみると、「(ゴミの撤去費用を計算せず)周囲の価格と比べて極端に安い値段で売却された」、「8億円があまりに高すぎる」という報道が、事実より印象によった報道だったと言えないでしょうか?

     また、8億円のゴミ撤去費用が見積もられたのに、森友学園の理事長サイドは撤去費用について1億円ほどしかかからないとメディアに話しています。従って7億円分やはり得しているじゃないか!という批判もありますが、売却後土地をどう使うのかは買い主の意志です。どうやら杭を打つ必要のあった校舎の地下についてはゴミを搬出し、その分が1億円ほどだったようですが、校舎は敷地面積全体の半分以下。他の部分までゴミを運び出せばそれなりの金額がかかってきてしまうんでしょう。
     とはいえ、森友学園のごみ処理の方法については、土地取得の経緯とは別に、問題があった可能性もありますので、それについては今後行われる豊中市の調査結果を待ちたいと思います。

     いずれにせよ、現在報道されている事実に基づくと、森本学園への国有地売却について問題があるとすれば、近畿財務局および国土交通省のディスカウントの算定に誤りがあった可能性くらいしか見当たりません。新給食センターの事例との整合性も含めて、詳しい単価表が出てくれば、この問題も解決します。国会審議で議員側から資料提出を求めればすぐに出てくるようにも思うんですが...。一連の「怪しい」「おかしい」と言い募る報道の在り方は、まさしく"ポスト・トゥルース"。最後に、この記事をご紹介しましょう。

    『今年の単語に「ポスト・トゥルース」 英辞典が選定』(2016年11月17日 朝日新聞)https://goo.gl/znKfSN
    <世界最大の英語辞典であるオックスフォード英語辞典は16日、2016年を象徴する「今年の単語(ワード・オブ・ザ・イヤー)」に、形容詞「post-truth」を選んだと発表した。意味は「世論形成において、客観的事実が、感情や個人的信念に訴えるものより影響力を持たない状況」としている。>

    海の向こうの問題のように言われていますが、まさに足元で進行しているような気がします。アメリカやイギリスを見ると、行きつく先はどうなるのでしょうか...。
  • 2017年02月20日

    教育無償化の論点

     国会は2017年度本予算が衆院を通過しようかというところですが、一方で教育に関する政策が与野党の注目を集め出しています。授業料などを免除する「教育無償化」。先週は自民党が検討する特命チームを立ち上げ、初会合を開きました。

    『教育無償化、実現するには... 自民、財源の論議スタート』(2月16日 朝日新聞)https://goo.gl/44sKcc
    <授業料などを免除する「教育無償化」の実現に向け、自民党は15日、対象や財源を検討する特命チームの初会合を開いた。教育政策の目玉にしたい考えだが、費用をどう賄うかが最大の課題だ。財源確保のために「教育国債」の新設も検討する考えで、財務省には警戒感が広がっている。>

     教育無償化は再分配政策に分類されると同時に未来への投資でもあります。特に子どもの貧困対策に効くだろうと言われていますから、どちらかといえばリベラル方向の政策。ですから、民進党が推進するのは頷けるんですが、自民党も検討チームを立ち上げたというのが「経済は(どちらかといえば)ハト派」という安倍政権を映しているようにも思えます。

     そもそも"子どもの貧困"といいますが、2013年の国民生活基礎調査によれば、相対的貧困状態の子どもが16.3%。6人に1人が相対的貧困状態といえます。そして、相対的貧困とは、世帯の可処分所得(いわゆる手取り収入)を世帯人員の平方根で割って調整した「等価可処分所得」を低い順に並べた中央値の半分未満の世帯。というと難しそうですが、具体的にはざっくりと計算すると3人世帯で年収207万円以下の世帯。月収ベースで17万円以下という世帯です。

     3度のご飯はきちんと食べられ、かつ公教育を選択すれば教育を受けることは出来ます。が、塾へ行ったり、大学へ進学したりというまとまった金額が必要となる高等教育は難しい水準ですね。こう書くと、「なんだそこそこもらっているじゃないか!」「俺だって昔はそんなもんで...」といった批判が飛んでくること請け合いです。

     が、まず過去と比較することがナンセンス。当時とは物価水準が違う、インフレ期や人手不足期であれば貧困でもチャンスは転がっていた等々、社会を取り巻く状況が違います。物価水準が高くなっている上に、20年続くデフレで進む社会階層の固定化。よく"貧困の連鎖"と呼ばれる問題が深刻化を増しています。それが最も顕著なのが、高等教育への進学のハードルが上がっていることなのです。

    『貧困と生活保護(26) 貧しい家庭の子も、大学進学をあきらめないで』(2016年3月4日 ヨミドクター)https://goo.gl/AAMQT2
    <中学卒業後の進路の比較を示します。保護世帯の子どもの(高校)進学率は90%を超えているものの、一般より低い数字です。>
    ※中学卒業者全体の進学率は99%弱。

    <次は、高校卒業後の進路の比較です(データ出所は同じ)。生活保護世帯、児童養護施設、ひとり親家庭の子どもの進学率は、一般より大幅に低く、とりわけ大学・短大への進学率は大きな差があります。>
    ※高校全日制・定時制全体で76%。生活保護世帯では31.7%。児童養護施設の子ども22.6%。ひとり親家庭の子ども41.6%。

     さらに、この金額だけが貧困のファクターではありません。ベタベタと常に集団生活しろとまでは言いませんが、ある程度の人とのつながりがなくてはより高い教育を受けるチャンスやビジネスのチャンスをつかむことはできません。そうしたチャンスは、中学よりは高校、高校よりは大学と、高等教育の場に行けば行くほど機会が増えるもの。経済的にそれが難しいのであれば、公的に支援することも必要だというのは頷ける理屈です。

     こういうことを書くと、「親の貧困は結果であって、自己責任だ!」という批判を受けることがあります。が、親の貧困も、その親の貧困の結果なのかもしれません。デフレが20年も30年も続いているわけですから、すでに2世代、3世代と貧困が連鎖してしまっていることだって考えられます。そう考えると、足元の貧困から抜け出すために、小さなことを気にしていてはいけないと思うのです。

     相対的貧困状態の子どもが6人に1人はいると書きました。逆の見方をすれば、この人たちの所得を引き上げることができれば、まだまだ日本には伸びる余地が大いにあるということです。こういうと語弊があるかもしれませんが、これが10年後、20年後への成長戦略とも言えるのではないでしょうか?

     さて、問題はこの教育無償化の財源をどうするのかという点。自民党の特命チームは教育国債だけでなく、幅広く検討するとしています。連立を組む公明党は、この教育国債には消極的です。

    『公明党・井上義久幹事長 教育国債案に消極的 「将来世代に借金残す」』(2月17日 産経新聞)https://goo.gl/dRadQn
    <公明党の井上義久幹事長は17日の記者会見で、(中略)教育政策に使途を限定する「教育国債」案に関しては「将来世代に借金として残る形だ。今の世代が次世代の教育について責任を持つ仕組みがふさわしい」と消極的な姿勢を示した。>

     民進党の野田幹事長はより具体的に、消費税など全て恒久財源で賄うとインタビューで答えています。

    『民進・野田幹事長「恒久財源5兆円提示」 衆院選公約で』(1月11日 日本経済新聞)https://goo.gl/OkJmN4
    <民進党の野田佳彦幹事長は10日、日本経済新聞のインタビューで、目玉政策に据える教育無償化など「人への投資」に必要な5兆円を、消費税など全て恒久財源で賄うよう努める考えを示した。>

     与野党問わず、消費税増税などを財源にする、あるいはどこか削れるところを削って、いわば緊縮財政の果実として教育無償化を成し遂げようという意見が多く見られます。これは結局、増税された側、あるいは予算を削られた側から教育費を支出する子育て世代へお金を水平移動させるようなもの。取られた方からすれば、面白くありません。
     その上、消費税の増税は2014年4月の増税後の景気の下押しを見て明らかなように、好景気の時ならまだしも今増税をするのは危険です。また、一方で緊縮財政を行いながら一方で教育無償化という財政支出を行うのは、国民経済全体で見ればプラスマイナスゼロですから景気への作用は良くて中立です。

     教育国債は将来世代へ借金を残すと批判されますが、今教育に投資するという損を取ることで将来の得を取る唯一の方法だと私は思います。教育支出を投資と考えると、これほど利回りの良い投資はないと、あのOECD(経済協力開発機構)が言っています。

    『最も有利な投資は「学位」 OECD調査』(2013年9月23日 CNN)https://goo.gl/51aTW6
    <「今の時代、教育ほど有利な投資先はないだろう。利回りは10~15%にも及ぶ。今、同様の利回りが期待できる投資先が他にあるだろうか」と語るのはOECD教育局のアンドレア・シュライヒャー氏だ。>

     借金を元手に投資をするのは何もおかしいことではありません。その上、教育を受けて高収入を得た人が日本人であることをやめない限り、日本政府からすれば徴税という形で確実にリターンが保証されています。これに適度なインフレが重なれば、増収プラスインフレで十分にペイできます。乱暴な話ですが、もし日本政府が投資ファンドなら、なぜこんなローリスクハイリターンな商品に投資しないのかと責められこそすれ、投資して批判されることはないでしょう。教育無償化、ポイントは一点だけ。財源です。
  • 2017年02月13日

    PKOタテマエの議論を止めよ

     先週から今週にかけて、日米首脳会談や北朝鮮のミサイル発射など、海外からの大きなニュースが立て続けに入ってきました。その裏で行われている国会の審議はちょっと隅に追いやられている感じですが、こちらも地味に揉めています。金田法相のいわゆる"共謀罪"を巡るチグハグな答弁、文部科学省の天下り問題に並んで問題視されているのが、南スーダンPKO日誌問題。先週半ばに「ない」とされていた日誌が実はあったとなり、防衛省から公表されました。

    『激しい銃撃戦・戦闘... 南スーダン陸自文書、緊迫の記述』(2月8日 朝日新聞)https://goo.gl/quh7s9
    <昨年7月の南スーダンでの戦闘状況について、防衛省が7日に公表した文書からは、激しい衝突が陸上自衛隊の派遣部隊のすぐそばで繰り広げられていた様子が浮かぶ。紛争当事者間の停戦合意などの「PKO参加5原則」が保たれているのか、議論が再燃する可能性もある。>

    『南スーダン陸自日報 「ジュバで戦闘」を明記 PKO停止を危惧』(2月8日 東京新聞)https://goo.gl/emd9b2
    <昨年七月の衝突では、稲田朋美防衛相が同年秋の臨時国会で「国際的な武力紛争の一環として行われる人の殺傷や物の破壊である法的意味の戦闘行為は発生していない」と強調。防衛省の武田博史報道官は七日の記者会見で、日報の「戦闘」について「一般的な意味で用いた。政府として法的な意味の戦闘が行われたとは認識していない」と説明した。>

     野党は、当初「廃棄した」とされていた日報の存在が後になって発覚したということで公文書管理の在り方を問題視して批判していますが、それ以上に日報の中に「戦闘」という表記があったことを問題視し、国会で執拗に質問して攻め立てています。

    『野党、3閣僚に照準=「問題隠蔽」と徹底追及』(2月9日 時事通信)https://goo.gl/ebjCpR
    <日報に現地で「戦闘」があったと表記されているのに、稲田氏は「法的な意味での戦闘行為ではない」と強調している点。野党側は現地情勢がPKO参加5原則から逸脱している可能性もあるとみて、明確な説明を求めていく。>

    また、国会の外でも抗議のデモが行われました。

    『稲田朋美防衛相の南スーダン隠ぺい開き直り答弁に国会前で抗議デモ! 憲法を蹂躙する稲田は即刻辞任しろ!』(2月11日 リテラ)https://goo.gl/ahTNq9
    <寒空の下、国会前に響き渡るコール。──昨日10日、国会前では、南スーダンへの自衛隊PKO派遣の撤退を求める抗議行動がおこなわれた。主催者発表によると、その数は500人。新聞社やテレビ局の取材陣も数多く詰めかけた。
     もちろん、今回の抗議の発端となったのは、南スーダンの自衛隊による日報において、昨年7月の大規模な交戦を「戦闘」と明記していたにもかかわらず、稲田朋美防衛相は頑として「衝突」と言い換えてきただけでなく、「戦闘」としなかったのは「憲法9条上の問題になるから」と平然と言いのけたことだ。>

     この記事にある通り、この問題は突き詰めれば憲法9条につながっていく問題です。なぜ「戦闘」ではなく「衝突」なのか?それは、「戦闘」となると、「戦力の不保持」、「交戦権の否定」を掲げる憲法9条と矛盾するからですね。ただ、現場はいちいち細かな文言まで気にしていられません。現場が「戦闘」と表現するような激しい衝突がもしあったとすれば尚更です。

     そもそも、かつてのPKOと違い、90年代半ばからのPKOは何のリスクもないようなところには派遣されません。ある程度のリスクがあるからこそ、PKOが組織されるわけですね。それについては、国連の公式説明にもなされています。

    『平和維持活動の歴史 ~ 黎明期から冷戦後の興隆期、そして現在』(国際連合広報センターHP)https://goo.gl/DWNojF
    <1990年代半ば:再評価の時
    初期のミッションが全般的に成功を収めたことで、国連PKOに対する期待は、その遂行能力を超えて高まりました。特に1990年代半ばには、安全保障理事会が十分に強力なマンデートの認可も、十分な資源の提供も行えないような状況が生じ、問題が表面化しました。
    (中略)
    平和維持要員は、戦闘当事者が和平合意を守らなかったり、十分な資源も政治的支援も受けられなかったりする状況に直面するようになり、注目の的となっていたこれら3件のPKOに対する批判は高まりました。民間人の死傷者が増大し、戦闘が継続する中で、国連PKOの評判も悪化しました。>

     PKO活動による死者数も、去年12月までの累計で3400人あまりに及んでいますが、特に90年代半ばの旧ユーゴ、ルワンダ、ソマリアでのPKOなどがあり、年間100人を超える死者を出しているのです。そうした変化したPKOと、我が国としてどう関わっていくのか?国会の内外での議論で決定的に欠けているのはこの視点です。大臣のクビを取ろうとするのも野党としては重要なのかもしれませんが、そもそものPKOの是非について議論するのも重要なのではないでしょうか?稲田大臣や安倍総理の答弁ぶりを批判して「憲法を踏みにじるな!」という主張があちらこちらで見られますが、その方々にぜひ参照してほしいのが、憲法前文です。

    『日本国憲法』(e-Gov)https://goo.gl/AHQTl

    前文にもいろいろな批判が存在しますが、参照してほしいのはその部分ではなく、こちら。
    <われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。>

     憲法前文で誇り高く謳われているこの一節。まさにこの精神に最も適っているのがPKOの活動なのではないでしょうか?もちろん、だからといって闇雲に参加するべきだというわけではありません。この前文の精神に適うという我が国にとってのメリットの部分と、派遣国の情勢によるリスクを天秤にかけてその都度判断するというのが、問題に対する誠実な態度でしょう。その時に重要となるのが、現場から上がってくる情報。これが議論のベースになるわけですから、正確な情報が上がってくることが不可欠ですが、今国会の内外で行われている「戦闘」という文言にまつわる議論は、今後正確な情報が上がってくるのを妨げるような気がしてなりません。
     政府・与党側も憲法問題やPKOの是非に関する具体的な議論に入って派遣が滞るのを危惧して「戦闘」ではなく「衝突」だと言い募り、野党側も文言が政府の説明と食い違うという一点だけで大臣の首を取ろうとしている。PKO派遣の是非まで話を進めると、そもそも南スーダンへの派遣を決めたのは民主党政権時代ですから、自分たちへのブーメランのように批判の矢が飛んでくるのもマズイと思っているのかもしれません。

     しかし、これでは現場は国会で問題にならないような情報しか上げないようになってしまうでしょう。不幸にも殉職した隊員がいた場合にも、「事故死」と報告されてしまうかもしれません。すでに日本のPKO5原則が厳格に守られるような事案は多くないことは、国際協力の当事者の間では常識となっています。現実とかい離した議論を続けているうちに、矛盾がどんどんと積み重なっています。与党も野党も、タテマエの議論をいい加減止めて、本質をついた議論を期待したいものです。
  • 2017年02月07日

    この道は、いつか来た道...

     プリンストン大学のクリストファー・シムズ教授が来日しました。メディアのインタビューに答えたり、講演をしたりと様々な日程をこなしました。私も、先週水曜に都内で行われた講演を取材したんですが、その後の報じられ方を見て、以前フランスの経済学者、トマ・ピケティ氏が来日したときのデジャヴを見ているようでした。

     奇しくも2年前の同じ1月末から2月初めに来日していたピケティ氏。当時、雑誌・テレビに引っ張りだこになったわけですが、日本記者クラブで行われた会見で消費増税について否定的な発言をしてから空気が一変。ご本人の離日とタイミングを合わせるように潮が引くように取り上げられなくなりました。日本記者クラブでの会見と、それを各メディアがどう取り上げたのかは当時、私もこのブログで書いてますので良く覚えています。

    『ピケティ報道とお上への忖度』https://goo.gl/g3OZFl

     では、今回のシムズ教授に対する報道はどうだったのか?私が取材できた先週水曜の講演というのが、日本経済研究センターと一橋大学が開催したセミナーです。まずは、主催者が出している講演録から。

    『国は「将来の増税なし」と宣言し、インフレ誘導を―物価水準の財政理論でシムズ氏らが講演』(2月2日 日本経済研究センター)https://goo.gl/2Gnw7g

     前半はシムズ教授の講演、その後パネル討論という流れでおよそ2時間にわたって行われました。全体を通じてのテーマは「物価は何で決まるのか」。シムズ教授が提唱するFTPL(物価水準の財政理論)の説明と、その考え方を足元の日本経済にどう適用できるのかが中心となりました。
     まず、FTPLについては、<FTPLは財政と物価の関係を示す経済理論の1つ。財政赤字を穴埋めするために増税するのでなく、政府が恒久減税などでインフレ期待を引き起こし足元の消費を拡大させる>となっています。通常は政府が国債を発行して歳出を拡大すれば、その分の負債は将来的に増税をしたり成長に伴う税収増で賄います。ところが、FTPLでは政府が増税による財政健全化を放棄します。すると、国債を発行すればするほど信用が損なわれ価格が下落(=国債利率が上昇)。結果、適度な国債発行を維持すれば適度なインフレ状態を作り出すことが出来る。逆に、国債発行を絞ってしまうと(=財政出動を絞ってしまうと)逆に国債利率が下落しデフレを加速してしまう。従って、特に日本のようにすでにデフレに染まりきり、インフレ予想が容易に信じられない世の中では国債発行による財政出動がデフレ脱却のキーになるという主張です。

     その主張に沿うと、財政健全化を墨守する姿勢そのものがデフレへの圧力ということになります。財政健全化のために消費増税が必要だ!というのも、デフレ脱却の足を引っ張っているということ。実際、シムズ教授は<「政府はインフレが債務の重荷を減らすことを明示する。消費増税の延期もありうる選択だ。そのような方策を実施することで、資産保有者や個人にとって国債の魅力度が低下し、財の消費をするようになる」>と講演で語っています。

     さて、それを各紙はどう報じたのか?意外なことに紙面では朝日新聞がシムズ教授の主張を正確に報じていました。

    『物価2%上昇へ「増税延期宣言を」 財政政策重視、シムズ教授』(2月2日 朝日新聞)https://goo.gl/K78x70
    <財政支出を増やすことで物価を上げるという理論で注目されている米プリンストン大のクリストファー・シムズ教授が1日、東京都内で講演した。シムズ氏は日本政府と日本銀行が目指す「年2%」の物価上昇目標の達成に向け、「消費増税は先延ばしすると宣言するべきだ」と提言した。>

     また、紙面ではさほど触れなかったものの、Web上では最も正確に書いたのが産経新聞です。

    『「日本の消費税増税は正しくない選択だった」 ノーベル経済学賞学者が指摘』(2月2日 SankeiBiz)https://goo.gl/Limj5y
    <さらに「(2014年4月の消費税増税は)正しくない選択だった」と強調。「増税時期は物価水準とリンクさせるのが効果的だ」として「増税先延ばしを宣言する必要がある」と説いた。>

     見出しにもあるんですが、パネル討論で司会から「消費増税は正しくなかったか?」と聞かれ、シムズ教授は「Yes! I think」と明快に答えていました。続けて、「それがあったからアベノミクスは上手くいかなかった」とも言い切っています。現在物価が伸び悩んでいるわけですが、この原因をそもそも金融緩和が効かなかったのだとするアベノミクス批判に対し、明快に否定してみせたわけですね。

     一方、シムズ教授の発言を引きつつ、それとは真逆の主張をにじませたのが毎日新聞です。

    『脱デフレ クリストファー・シムズ米プリンストン大教授、増税凍結で 専門家、財政拡大の正当化を懸念』(2月2日 毎日新聞)https://goo.gl/RK5qC1

     見出しからしてシムズ教授の理論に懐疑的なことがありあり。「財政拡大の正当化を懸念」って、そもそも財政拡大は悪いことという前提があり、だから「正当化」という開き直りを「懸念」しているようです。もちろん、リードも悪意全開です。

    <増税や財政再建目標を凍結することがデフレ脱却につながるとの主張で、一橋大などの招きで来日し、日銀などで講演会を行った。背景には日銀の大規模金融緩和が手詰まりに陥っていることがある。専門家からは、大規模な財政出動や財政健全化目標の棚上げを正当化する口実になりかねないと危惧する声も出ている。>

     どうでしょう?「大規模な財政出動や財政健全化目標の棚上げ」は絶対に許せないというのがにじみ出ていますね。シムズ氏の理論はそれらを「正当化」する「口実」なんだそうです。「口実」って、「言いのがれの言葉や材料。言い訳。」という言葉ですから、ノーベル経済学者の理論を言い訳として使うな!と毎日は暗に批判しているわけですよね。全く、どれだけ緊縮・増税したいのか...。

     それでも、まだシムズ理論を紹介しているだけ毎日はマシです。このセミナーを後援し、パネル討論の司会まで出している日本経済新聞はもっとひどい。ここまで縷々書いてきたとおり、このセミナーはそのほとんどを日本経済の今後について議論をしていました。それは、先ほども挙げた日本経済研究センターの講演録でも明らかです。ところが、これが日経にかかるとそんなことはすっ飛ばして、私には枝葉の議論に見えたアメリカ・トランプ大統領の経済政策についてがメインであるかのような記事になりました。

    『トランプ氏の財政策は「人気取り、財源欠く」 シムズ米大教授』(2月2日 日本経済新聞)https://goo.gl/gxmQkb
    <「法人減税やインフラ投資といった人気取りの政策を掲げるが、財源に具体性を欠く」。来日中のクリストファー・シムズ米プリンストン大教授は1日、トランプ米大統領が掲げる財政拡大策に警鐘を鳴らした。
     日本経済研究センターと一橋大が都内で開いたシンポジウムのパネル討論で発言した。「インフレ圧力の抑制が難しくなる懸念がある」とも指摘した。>

     パネル討論では、司会の経済部長がしきりに消費増税によって社会保障財政を改善し、それにより将来不安を払しょくし期待に働きかける。そしてデフレから脱却できるのではないか?と聞いていました。「期待に働きかける」という一点ではFTPLと同じですが、その政策経路は全く逆。むしろ、消費増税による緊縮姿勢が見えれば、将来にわたってのインフレ期待がしぼんでしまうというのがシムズ氏の主張のはず。その意味では、シムズ氏が消費増税に賛成するはずがないのですが、それをしきりに聞き、意に沿う答えが得られなかったので紙面ではシムズ氏の主張を丸ごと削ってしまったのか...。そう勘繰ってしまいたくなる日経の紙面作り。自社のホールを使い、自社の関連団体が主催し、自社も後援に入っているセミナーについての記事がここまで曲げられているとは正直驚きでした。残念ながら、2年前とメディア環境は変わっていないようです。したがって、当欄の締めも2年前と同じです。

     自説に沿わなければ、扱いは極力小さく、あるいはゼロで。これも「報道の自由」の範疇なんでしょうか?
  • 2017年02月01日

    世論調査の落とし穴

     毎週末、何かしらのメディアが世論調査を行っているので、週明けの新聞・テレビの見出しには世論調査の結果が項目として上がってきます。毎回聞かれる内閣支持率と支持政党についてなど、だいたい各社同じようなことを聞いているので、数字の違いこそあれ、時期が近ければ必然的に同じような結果になるんですが、陛下のご譲位についての設問では違いました。全く正反対の結果が見出しになっていて、おや?と思ったんですね。まずは見出しだけをご覧ください。

    『退位めぐる特例法案「賛成」は63% 朝日新聞世論調査』(1月17日 朝日新聞)https://goo.gl/8mzNwA

    『退位「特例法案」に賛成69%...読売世論調査』(1月29日 読売新聞)https://goo.gl/94T1Bc

    『天皇退位、特例法に「賛成」64% 本社世論調査』(1月29日 日本経済新聞)https://goo.gl/ZNcLhK

    『米国第一に「懸念」83% 退位「典範改正支持」63% 共同世論調査』(1月30日)https://goo.gl/qkojWL

    『譲位「恒久制度化」60・8% 9・5ポイント減少も依然最多 「一代限り」は上昇』(1月31日 産経新聞)https://goo.gl/2Y2db9

     どれも「賛成」と答えた人の比率を載せているのでパッと見は判別しづらいんですが、上に挙げた3紙、朝日・読売・日経は一代限りの特例法への賛成が6割以上。一方、下に挙げた共同・産経の2紙はご譲位の制度の恒久化、あるいはそれに不可欠な皇室典範の改正にまで踏み込むべきだという回答が6割以上に上ったというのです。これが、片一方は議論が始まった当初の回答、もう一方が現在というなら自然ですが、いずれも今月に入ってから実施された世論調査。朝日以外はいずれも先週末、1月28日、29日に実施されたものなのです。
     なぜ、こうした違いが出てきたのか?その理由は聞き方にありました。質問と回答を日経以外の各紙は載せていたので、それを見てみましょう。

    『世論調査―質問と回答〈1月14、15日実施〉』(1月17日 朝日新聞)https://goo.gl/XbtvSN
    <◆天皇の退位についてうかがいます。今の天皇陛下だけが退位できるようにするのがよいと思いますか。今後のすべての天皇も退位できるようにするのがよいと思いますか。天皇は退位すべきではないと思いますか。
    ・今の天皇陛下だけが退位できるようにする25
    ・今後のすべての天皇も退位できるようにする62
    ・天皇は退位すべきではない6

    ◆政府は今度の国会で、今の天皇陛下に限って退位できるようにする特別な法案を提出し、成立をめざす方針です。この方針に賛成ですか。反対ですか。
    賛成63 反対27

    ◇(「賛成」と答えた63%の人に)その法案が成立した場合も、今後すべての天皇の退位のあり方についての議論を、さらに続ける方がよいと思いますか。その必要はないと思いますか。
     続ける方がよい75〈47〉 その必要はない20〈12〉>

    『「2017年1月 電話全国世論調査」』(1月30日 読売新聞)https://goo.gl/Xanbsf
    < 天皇陛下の「退位」などについてお聞きします。
    Q あなたは、天皇陛下の退位について、どう対応するのがよいと思いますか。次の3つの中から、1つ選んで下さい。
    答 1.今の天皇陛下だけに認める特例法をつくる  33 
      2.今後のすべての天皇に認める制度改正を行う 59 
      3.退位を認める必要はない           4    
      4.答えない  4 

    Q 政府は、今の天皇陛下に限って退位できるようにする特例法案を、今の国会に提出する方針です。この法案に、賛成ですか、反対ですか。
      答 1.賛成 69    2.反対 23    3.答えない  7 

    Q 政府は、特例法が制定された場合も、将来のすべての天皇の退位を認める制度改正について、検討を続けるべきだと思いますか、その必要はないと思いますか。
      答 1.続けるべきだ 75    2.その必要はない 17    3.答えない  8>

    共同通信の世論調査については質問と回答を探し切れなかったので引き写します。
    <問5 天皇陛下の退位について政府は、特別法で今の陛下一代に限って退位できるようにする方針です。一方、将来の天皇も退位できるように皇室典範を改正するべきだとの意見もあります。あなたはどう思いますか。
     一代限定の特別法で対応すべきだ 26.9
     皇室典範改正ですべての天皇に適用するべきだ 63.3
     退位できるようにする必要はない 4.6
     分からない・無回答 5.2>

    『政治に関するFNN世論調査』(1月31日 FNN)https://goo.gl/ydVsPq
    <Q6. 現在の皇室制度では規定がない天皇の退位について、政府の有識者会議が論点を整理して公表しました。退位について、将来の天皇も含む恒久的な案よりも、今の陛下1代に限る案の方が望ましいとの考えをにじませています。あなたは、退位についてどう考えますか。次の中から1つ選び、お知らせください。
    ・今の天皇陛下1代に限り、退位できるようにすべきだ 31.4
    ・今後のすべての天皇を対象に退位できるよう、恒久的な制度に変えるべきだ 60.8
    ・天皇は退位すべきではない 6.4
    ・わからない・言えない 1.4>

     質問と回答を見てわかる通り、特例法賛成多数と打った朝日・読売は、まずご譲位というシステム一般についての質問をした後に特例法のことを聞いています。一方、共同・産経はご譲位についてどう考えるかを直接問うているんですね。朝日・読売もご譲位一般について聞いた最初の質問ではすべての天皇の譲位に賛成という人が多数を占めています。この質問の段取りで、2番目に聞いた特例法についての賛成意見を見出しにまで持ってくるのはちょっと強引な印象を受けますね。

     ただ、こうした、一見すると正反対の結果が出たことは過去にもありました。最も顕著だったのは、安保法制審議のまっただ中。その時は、政治的にいわゆる保守と見られている産経や読売の世論調査では賛成が多く出、いわゆるリベラルと見られている朝日や毎日、共同通信の調査では反対が多く出ていて、それぞれが反対が多い!いや、賛成優勢!と見出しにしていました。
     今回面白いのは、政治的なスタンスでは異なる朝日と読売が同じように「特例法に賛成多数」という見出しを掲げ、やはりスタンスの異なる産経と共同通信が「恒久化に賛成多数」という見出しを掲げている点です。
     推測するに、朝日や読売はちょっと強引な解釈であっても政権の意向に沿った形での報じ方を重視した可能性があります。一方で、普段はぶつかる産経と共同が同じ見出しというのは、産経が右派の一部にあるご譲位そのものにも懐疑的な意見を反映し、また、今回のご譲位という問題提起を契機に憲法改正議論を喚起するためには特例法といった中途半端なやり方ではダメだという意見を反映しているのではないでしょうか?また、共同については、野党の主張である、特例法ではなく皇室典範の改正ですっきりした形を取るべきだという意見を反映したものなのでしょう。

     普通は新聞を何紙も読む人はいませんし、いたとしても世論調査の質問と回答なんていう細かい記事まで目を通す人はそういませんから、どちらか一方の意見が世の中の大勢だと思ってしまう人がいても不思議ではありません。聞き方ひとつで回答が変わる世論調査。見出しをつけて印象を引っ張っていく危うさを感じずにはいられません。

     ただ、一つ救いだったのは特例法多数を打った朝日・読売両紙がその直後の質問で、特例法賛成であってもご譲位の議論は続けていくべきかという質問をしていて、両紙とも7割を超える人が賛成と回答している点です。まずは特例法で今上陛下のご譲位を行い、しかる後にのちの天皇一般のご譲位についても制度化していく。ひところ言われた「二段階論」が国民の一致する議論の進め方だと思うのですが、いかがでしょうか?
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
「飯田浩司そこまで言うか!」

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