毎週末、何かしらのメディアが世論調査を行っているので、週明けの新聞・テレビの見出しには世論調査の結果が項目として上がってきます。毎回聞かれる内閣支持率と支持政党についてなど、だいたい各社同じようなことを聞いているので、数字の違いこそあれ、時期が近ければ必然的に同じような結果になるんですが、陛下のご譲位についての設問では違いました。全く正反対の結果が見出しになっていて、おや?と思ったんですね。まずは見出しだけをご覧ください。
どれも「賛成」と答えた人の比率を載せているのでパッと見は判別しづらいんですが、上に挙げた3紙、朝日・読売・日経は一代限りの特例法への賛成が6割以上。一方、下に挙げた共同・産経の2紙はご譲位の制度の恒久化、あるいはそれに不可欠な皇室典範の改正にまで踏み込むべきだという回答が6割以上に上ったというのです。これが、片一方は議論が始まった当初の回答、もう一方が現在というなら自然ですが、いずれも今月に入ってから実施された世論調査。朝日以外はいずれも先週末、1月28日、29日に実施されたものなのです。
なぜ、こうした違いが出てきたのか?その理由は聞き方にありました。質問と回答を日経以外の各紙は載せていたので、それを見てみましょう。
<◆天皇の退位についてうかがいます。今の天皇陛下だけが退位できるようにするのがよいと思いますか。今後のすべての天皇も退位できるようにするのがよいと思いますか。天皇は退位すべきではないと思いますか。
・今の天皇陛下だけが退位できるようにする25
・今後のすべての天皇も退位できるようにする62
・天皇は退位すべきではない6
◆政府は今度の国会で、今の天皇陛下に限って退位できるようにする特別な法案を提出し、成立をめざす方針です。この方針に賛成ですか。反対ですか。
賛成63 反対27
◇(「賛成」と答えた63%の人に)その法案が成立した場合も、今後すべての天皇の退位のあり方についての議論を、さらに続ける方がよいと思いますか。その必要はないと思いますか。
続ける方がよい75〈47〉 その必要はない20〈12〉>
< 天皇陛下の「退位」などについてお聞きします。
Q あなたは、天皇陛下の退位について、どう対応するのがよいと思いますか。次の3つの中から、1つ選んで下さい。
答 1.今の天皇陛下だけに認める特例法をつくる 33
2.今後のすべての天皇に認める制度改正を行う 59
3.退位を認める必要はない 4
4.答えない 4
Q 政府は、今の天皇陛下に限って退位できるようにする特例法案を、今の国会に提出する方針です。この法案に、賛成ですか、反対ですか。
答 1.賛成 69 2.反対 23 3.答えない 7
Q 政府は、特例法が制定された場合も、将来のすべての天皇の退位を認める制度改正について、検討を続けるべきだと思いますか、その必要はないと思いますか。
答 1.続けるべきだ 75 2.その必要はない 17 3.答えない 8>
共同通信の世論調査については質問と回答を探し切れなかったので引き写します。
<問5 天皇陛下の退位について政府は、特別法で今の陛下一代に限って退位できるようにする方針です。一方、将来の天皇も退位できるように皇室典範を改正するべきだとの意見もあります。あなたはどう思いますか。
一代限定の特別法で対応すべきだ 26.9
皇室典範改正ですべての天皇に適用するべきだ 63.3
退位できるようにする必要はない 4.6
分からない・無回答 5.2>
<Q6. 現在の皇室制度では規定がない天皇の退位について、政府の有識者会議が論点を整理して公表しました。退位について、将来の天皇も含む恒久的な案よりも、今の陛下1代に限る案の方が望ましいとの考えをにじませています。あなたは、退位についてどう考えますか。次の中から1つ選び、お知らせください。
・今の天皇陛下1代に限り、退位できるようにすべきだ 31.4
・今後のすべての天皇を対象に退位できるよう、恒久的な制度に変えるべきだ 60.8
・天皇は退位すべきではない 6.4
・わからない・言えない 1.4>
質問と回答を見てわかる通り、特例法賛成多数と打った朝日・読売は、まずご譲位というシステム一般についての質問をした後に特例法のことを聞いています。一方、共同・産経はご譲位についてどう考えるかを直接問うているんですね。朝日・読売もご譲位一般について聞いた最初の質問ではすべての天皇の譲位に賛成という人が多数を占めています。この質問の段取りで、2番目に聞いた特例法についての賛成意見を見出しにまで持ってくるのはちょっと強引な印象を受けますね。
ただ、こうした、一見すると正反対の結果が出たことは過去にもありました。最も顕著だったのは、安保法制審議のまっただ中。その時は、政治的にいわゆる保守と見られている産経や読売の世論調査では賛成が多く出、いわゆるリベラルと見られている朝日や毎日、共同通信の調査では反対が多く出ていて、それぞれが反対が多い!いや、賛成優勢!と見出しにしていました。
今回面白いのは、政治的なスタンスでは異なる朝日と読売が同じように「特例法に賛成多数」という見出しを掲げ、やはりスタンスの異なる産経と共同通信が「恒久化に賛成多数」という見出しを掲げている点です。
推測するに、朝日や読売はちょっと強引な解釈であっても政権の意向に沿った形での報じ方を重視した可能性があります。一方で、普段はぶつかる産経と共同が同じ見出しというのは、産経が右派の一部にあるご譲位そのものにも懐疑的な意見を反映し、また、今回のご譲位という問題提起を契機に憲法改正議論を喚起するためには特例法といった中途半端なやり方ではダメだという意見を反映しているのではないでしょうか?また、共同については、野党の主張である、特例法ではなく皇室典範の改正ですっきりした形を取るべきだという意見を反映したものなのでしょう。
普通は新聞を何紙も読む人はいませんし、いたとしても世論調査の質問と回答なんていう細かい記事まで目を通す人はそういませんから、どちらか一方の意見が世の中の大勢だと思ってしまう人がいても不思議ではありません。聞き方ひとつで回答が変わる世論調査。見出しをつけて印象を引っ張っていく危うさを感じずにはいられません。
ただ、一つ救いだったのは特例法多数を打った朝日・読売両紙がその直後の質問で、特例法賛成であってもご譲位の議論は続けていくべきかという質問をしていて、両紙とも7割を超える人が賛成と回答している点です。まずは特例法で今上陛下のご譲位を行い、しかる後にのちの天皇一般のご譲位についても制度化していく。ひところ言われた「二段階論」が国民の一致する議論の進め方だと思うのですが、いかがでしょうか?