2019年09月17日

台風15号被災地取材記

 私が担当している『OK!Cozy up!』も含め、先週からずっと台風15号の被害を取り上げています。ニッポン放送のAM送信所は千葉県木更津市にあり、台風で停電。非常用の発電機を使って放送を継続しましたが、月曜日の朝、この発電機も停止。やむ無く都内足立区にある予備送信所からの放送に切り替えました。その後、非常用電源を確保し木更津からの放送を再開しましたが、弊社もまた台風の猛威に翻弄されました。

 送信所があることもあり、千葉県にはリスナーが本当に沢山いらっしゃいます。その方々がニッポン放送に宛てて、メールやツイッターで現状を知らせてくださったのですが、切実な声ばかり。電柱が根本から折れ、暴風で屋根が飛ばされ、ガラスが割れた被災地の写真を添付し、「停電がこんなに長引くとは!」「停電で家畜を涼ませることも搾乳も出来ず、このままでは死んでしまう!」「どうしてこの惨状を報道してくれないのか!?」憤りを通り越して慟哭のような声が多数寄せられました。

 一言に千葉県と言っても非常に広く、都心に近い市川から房総半島の南端の南房総や館山までは優に100キロを越えます。メディアの取材がそこまで間に合っておらず、発災後暫くは被害があまり報じられませんでした。停電で通信環境が悪化し、県も被害の把握が低調だったこと。他の道府県であれば存在する各系列の地方局が存在せず、千葉にあるのは少人数の支局だけで広範に及んだ被害地域すべてをカバーするにはマンパワーが足らなすぎたことなども当初の報道が少なかった原因でしょう。

 また、東京の放送局は自分たちの周りの台風被害が片付けば、再びあおり運転や韓国の法相、内閣改造を報じ出しました。被災地の一部で停電が解消しだした水曜当たりから、被災地の方々があまりに報道が少ないことに気づかれたそうです。停電が続いていた成田市で取材をすると、「見捨てられたのかと思った」と気持ちを吐露してくれた方がいました。その後、現場からSNS等で発信し出してようやく被災地報道中心に切り替わったわけです。

 私自身も台風が通りすぎた当日の交通障害などに気を取られ、被害が甚大だった房総の状況にまで想像力が追いつかなかったのは反省しなければなりません。悲痛なメールの数々に、横っ面をひっぱたかれたような衝撃を受けました。ここへ来て停電が続くことで東京電力への批判が官側からもメディアからも出ていますが、初動の遅れは同じようなものでしたし、停電がここまで広範囲に長期に渡らなければ初動の遅れも問題にならなかったのかもしれません。

 そういう私も、金曜日にようやく被災した南房総市、館山市に取材に入ることができました。根元から曲がった電柱、崩れたブロック塀、割れたガラス、横出しのままの車...。発災から5日目でしたが、その光景は大地震の後かと見紛うものでした。風速40mまでは耐えられるように設計されているはずの電柱が根元から45度以上曲がっているの本当に信じられない光景で、何かトリックアートの世界に迷い込んでしまったのかと思うほどでした。
 窓ガラスが割れ、玄関のドアが開けっぱなしになっている家々もありました。深夜に吹き荒れた暴風雨、お住いの方々はさぞ恐ろしい経験をなさったのだろうと思うと、いたたまれない気持ちになります。

南房総市3.JPG

 街のそこここで高所作業車を見ました。今回の停電が長引いた理由は高圧線の鉄柱倒壊により大動脈が断たれたこともありますが、それ以上に最終的に各家屋に配電する電線が電柱の倒壊により使えなくなったことが大きいなと感じました。
 現場によってケースバイケースなのでしょうが、私が取材した南房総市の現場では折れ曲がった電柱はそのままでは当然送電に使えず、一度曲がった電柱を撤去し、その後新たに電柱を建てて引き直していました。そもそも風速40mに耐えうる電柱ですから、中には鉄筋が入っています。それを撤去し、その後新たに設置するわけですから、設置だけでも時間がかかるわけです。撤去に際しても高所作業車を使って接続されている電線を除去するなどの処置をしなくてはいけません。それらを見ると、ああこれは時間がかかるなぁと実感しました。作業には、東電だけでなく協力会社などが当たっていて、関東一円のナンバープレートの見本市のようになっていましたが、それでも徐々にしか進まないのも良くわかりました。

南房総市4.JPG

 去年の北海道胆振東部地震で引き起こされた北海道ブラックアウトと今回の停電の長期化が比較されますが、あのブラックアウトは電力供給そのものが激減し、需要との間で著しくバランスが崩れたことが原因でした。地震の激しかった一部地域以外は送電網は堅持されていたので、供給側の発電所が復旧すればほぼ全道で給電が復活したのです。
 それに対して、今回の停電は送配電の末端がことごとく破壊されてしまいましたから、一つ一つ地道に復旧していく必要があるわけです。それゆえ、規模は全道ブラックアウトの方が大きかったのですが、復旧には今回の方が時間を要しているわけですね。
 ということは、再発防止に向けての処方箋だって北海道の事例と今回の事例では異なります。
 風速40mに耐えられる電柱では足らなかったわけですから、さらに増強した電柱を作っていくのか?電線の地中化も言われますが、これはコストがかかるのと、もし地中化した電線が浸水するなどして停電した場合には、今回と違い地中を掘り返して作業する必要がありますからおそらくもっともっと復旧に時間がかかるでしょう。そうしたリスクを許容するかどうかも議論しなくてはいけません。
 天災に"耐える"設備作りも必要ですが、私は同時に迅速に復旧する強靭なシステムこそ必要なのではないかと考えます。人的な余裕や資材などのストック面での余裕が、いざ有事があった際の迅速な復旧を可能にします。
 問題は、こうした余裕の部分は平時には「無駄」と切って捨てられてしまうものである点です。リスクとコストを勘案して、各企業はこうした余裕を引き当てているわけですが、これだけ自然災害が頻発する昨今、その引き当てのレベルがあまりにコストを重視して削りすぎてはいなかったのか?そろそろ見直すべき時期に来ているのではないでしょうか?

 さて、今回の台風でも、国や近隣自治体、自衛隊などが人員を派遣していますが、その支援の状況は各省庁や自治体ごとに把握し、横の連携がなかなか出来ませんでした。しかし、去年から防災科学技術研究所(防災科研)が災害対応支援を目的としてクライシスレスポンスサイトを公開しています。これは、防災科研が運用しているSIP4Dと呼ばれる基盤的防災情報流通ネットワークで集約した情報を目的別に統合し公開しているもの。停電、給水、通信状況やドローン映像などが地図上にプロットされ、見ることができます。


 今回、私も取材に当って見てみたんですが、通信状況の部分が非常に活用できました。というのも、南房総市役所の周辺は当時、私の使っているドコモでは3Gの通話は可能でもデータ通信が制限されていて、画像の送信や放送に使う機材の使用は出来なかったのです(放送は別キャリアで行ったので問題ありませんでした)。事前に現地の通信状況が把握できれば、通信状況の良いところに移動して放送するなり送稿するなりの対処が可能です。今回は通信状況やスマホの充電状況によって使えない可能性もありますが、今後の備えとしてブックマークしておくと役立ちそうです。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
「飯田浩司そこまで言うか!」

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