2017年02月13日

PKOタテマエの議論を止めよ

 先週から今週にかけて、日米首脳会談や北朝鮮のミサイル発射など、海外からの大きなニュースが立て続けに入ってきました。その裏で行われている国会の審議はちょっと隅に追いやられている感じですが、こちらも地味に揉めています。金田法相のいわゆる"共謀罪"を巡るチグハグな答弁、文部科学省の天下り問題に並んで問題視されているのが、南スーダンPKO日誌問題。先週半ばに「ない」とされていた日誌が実はあったとなり、防衛省から公表されました。

『激しい銃撃戦・戦闘... 南スーダン陸自文書、緊迫の記述』(2月8日 朝日新聞)https://goo.gl/quh7s9
<昨年7月の南スーダンでの戦闘状況について、防衛省が7日に公表した文書からは、激しい衝突が陸上自衛隊の派遣部隊のすぐそばで繰り広げられていた様子が浮かぶ。紛争当事者間の停戦合意などの「PKO参加5原則」が保たれているのか、議論が再燃する可能性もある。>

『南スーダン陸自日報 「ジュバで戦闘」を明記 PKO停止を危惧』(2月8日 東京新聞)https://goo.gl/emd9b2
<昨年七月の衝突では、稲田朋美防衛相が同年秋の臨時国会で「国際的な武力紛争の一環として行われる人の殺傷や物の破壊である法的意味の戦闘行為は発生していない」と強調。防衛省の武田博史報道官は七日の記者会見で、日報の「戦闘」について「一般的な意味で用いた。政府として法的な意味の戦闘が行われたとは認識していない」と説明した。>

 野党は、当初「廃棄した」とされていた日報の存在が後になって発覚したということで公文書管理の在り方を問題視して批判していますが、それ以上に日報の中に「戦闘」という表記があったことを問題視し、国会で執拗に質問して攻め立てています。

『野党、3閣僚に照準=「問題隠蔽」と徹底追及』(2月9日 時事通信)https://goo.gl/ebjCpR
<日報に現地で「戦闘」があったと表記されているのに、稲田氏は「法的な意味での戦闘行為ではない」と強調している点。野党側は現地情勢がPKO参加5原則から逸脱している可能性もあるとみて、明確な説明を求めていく。>

また、国会の外でも抗議のデモが行われました。

『稲田朋美防衛相の南スーダン隠ぺい開き直り答弁に国会前で抗議デモ! 憲法を蹂躙する稲田は即刻辞任しろ!』(2月11日 リテラ)https://goo.gl/ahTNq9
<寒空の下、国会前に響き渡るコール。──昨日10日、国会前では、南スーダンへの自衛隊PKO派遣の撤退を求める抗議行動がおこなわれた。主催者発表によると、その数は500人。新聞社やテレビ局の取材陣も数多く詰めかけた。
 もちろん、今回の抗議の発端となったのは、南スーダンの自衛隊による日報において、昨年7月の大規模な交戦を「戦闘」と明記していたにもかかわらず、稲田朋美防衛相は頑として「衝突」と言い換えてきただけでなく、「戦闘」としなかったのは「憲法9条上の問題になるから」と平然と言いのけたことだ。>

 この記事にある通り、この問題は突き詰めれば憲法9条につながっていく問題です。なぜ「戦闘」ではなく「衝突」なのか?それは、「戦闘」となると、「戦力の不保持」、「交戦権の否定」を掲げる憲法9条と矛盾するからですね。ただ、現場はいちいち細かな文言まで気にしていられません。現場が「戦闘」と表現するような激しい衝突がもしあったとすれば尚更です。

 そもそも、かつてのPKOと違い、90年代半ばからのPKOは何のリスクもないようなところには派遣されません。ある程度のリスクがあるからこそ、PKOが組織されるわけですね。それについては、国連の公式説明にもなされています。

『平和維持活動の歴史 ~ 黎明期から冷戦後の興隆期、そして現在』(国際連合広報センターHP)https://goo.gl/DWNojF
<1990年代半ば:再評価の時
初期のミッションが全般的に成功を収めたことで、国連PKOに対する期待は、その遂行能力を超えて高まりました。特に1990年代半ばには、安全保障理事会が十分に強力なマンデートの認可も、十分な資源の提供も行えないような状況が生じ、問題が表面化しました。
(中略)
平和維持要員は、戦闘当事者が和平合意を守らなかったり、十分な資源も政治的支援も受けられなかったりする状況に直面するようになり、注目の的となっていたこれら3件のPKOに対する批判は高まりました。民間人の死傷者が増大し、戦闘が継続する中で、国連PKOの評判も悪化しました。>

 PKO活動による死者数も、去年12月までの累計で3400人あまりに及んでいますが、特に90年代半ばの旧ユーゴ、ルワンダ、ソマリアでのPKOなどがあり、年間100人を超える死者を出しているのです。そうした変化したPKOと、我が国としてどう関わっていくのか?国会の内外での議論で決定的に欠けているのはこの視点です。大臣のクビを取ろうとするのも野党としては重要なのかもしれませんが、そもそものPKOの是非について議論するのも重要なのではないでしょうか?稲田大臣や安倍総理の答弁ぶりを批判して「憲法を踏みにじるな!」という主張があちらこちらで見られますが、その方々にぜひ参照してほしいのが、憲法前文です。

『日本国憲法』(e-Gov)https://goo.gl/AHQTl

前文にもいろいろな批判が存在しますが、参照してほしいのはその部分ではなく、こちら。
<われらは、平和を維持し、専制と隷従、圧迫と偏狭を地上から永遠に除去しようと努めてゐる国際社会において、名誉ある地位を占めたいと思ふ。>

 憲法前文で誇り高く謳われているこの一節。まさにこの精神に最も適っているのがPKOの活動なのではないでしょうか?もちろん、だからといって闇雲に参加するべきだというわけではありません。この前文の精神に適うという我が国にとってのメリットの部分と、派遣国の情勢によるリスクを天秤にかけてその都度判断するというのが、問題に対する誠実な態度でしょう。その時に重要となるのが、現場から上がってくる情報。これが議論のベースになるわけですから、正確な情報が上がってくることが不可欠ですが、今国会の内外で行われている「戦闘」という文言にまつわる議論は、今後正確な情報が上がってくるのを妨げるような気がしてなりません。
 政府・与党側も憲法問題やPKOの是非に関する具体的な議論に入って派遣が滞るのを危惧して「戦闘」ではなく「衝突」だと言い募り、野党側も文言が政府の説明と食い違うという一点だけで大臣の首を取ろうとしている。PKO派遣の是非まで話を進めると、そもそも南スーダンへの派遣を決めたのは民主党政権時代ですから、自分たちへのブーメランのように批判の矢が飛んでくるのもマズイと思っているのかもしれません。

 しかし、これでは現場は国会で問題にならないような情報しか上げないようになってしまうでしょう。不幸にも殉職した隊員がいた場合にも、「事故死」と報告されてしまうかもしれません。すでに日本のPKO5原則が厳格に守られるような事案は多くないことは、国際協力の当事者の間では常識となっています。現実とかい離した議論を続けているうちに、矛盾がどんどんと積み重なっています。与党も野党も、タテマエの議論をいい加減止めて、本質をついた議論を期待したいものです。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
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