2015年11月

  • 2015年11月24日

    ダブル選維新圧勝の波紋

     大阪ダブル選挙は地域政党・大阪維新の会の圧勝に終わりました。府知事選、市長選共に、8時に投票箱が閉まった瞬間に各新聞・通信・テレビが維新側候補の当選確実を打つという、「瞬殺」でありました。

    『大阪維新2氏、ダブル選圧勝 府知事・市長』(11月23日 東京新聞)http://goo.gl/eX5gYe
    <大阪府知事、市長のダブル選は二十二日、知事に現職松井一郎氏(51)が再選、市長に新人で元衆院議員吉村洋文氏(40)が初当選を果たし、共に橋下徹大阪市長率いる地域政党・大阪維新の会が勝利した。五月の住民投票で否決された「大阪都構想」への再挑戦を掲げ、自民党推薦候補をそれぞれ大差で破った。>

     この選挙に関しては、投票日を一週間前に控えた週末に各社が行った世論調査で、維新側の優勢が伝えられていました。「優勢」、あるいは「やや優勢」といった表現で、実際の数字は記事には出てきていませんが、その当時すでに永田町界隈では維新側の完勝が予想されていました。内々に出回っていた実際の数字では、各社の調査がおおむね10~15ポイント差で維新側の優勢を示していたので、驚きをもって受け止められました。いうのも、特に市長選については、前回5月の住民投票では都構想反対が僅差で勝利していただけに、この世論調査の結果が出るまではある程度の接戦が予想されていたからです。
     ある政界関係者は当時、
    「告示直後の自民党の内々での調査では2、3%柳本(自民側候補)リードで出ていたんだ。それより前は2ケタ差で柳本がリードしていたから、だいぶ詰められてきたという印象で、維新に勢いがあるなぁという雰囲気だった。しかし、まさか1週前の段階で10ポイント以上もリードするとは...」
    と話していました。そして、当日までその勢いは衰えず、維新が圧勝となったというわけです。

     投票率は50%をわずかに上回った程度ということで、前回の住民投票の時と比べると組織票の存在感が際立つはずが、「ふわっとした民意」(橋下氏)に頼る維新が勝ったというのは、ウラを返すと住民投票の時ほど組織がフル回転しなかったということを示しています。そういえば、大阪住民投票当時、反対が僅差で勝利したという結果を見て地元の記者たちはささやいていました。
    「最後の最後に反対派の大動員があった...。それに維新が負けた...」
     後日いろいろ話を聞くと、この住民投票の時には期日前投票に反対派が動員をかけましたから、投票日前の調査では圧倒的な差で反対派が先行していたんです。ところが、投票日の午前中に投票所に足を運んだ人の出口調査で、期日前の反対票を上回る勢いで賛成票が投じられていることが分かったんですね。このペースで行けば、僅差で都構想は賛成多数になりそうでした。それを反対派が瞬間に、大量動員が始まりました。特に大阪市内の南部、南東部、西成区、平野区などで、公明党、共産党が組織を挙げて反対票の掘り起こしを行い、その結果形勢は再び逆転。僅差で反対派が勝ったんです。

     逆に今回は、あの時ほどの組織戦が展開されなかったということになります。これは、住民投票当時と今回のダブル選の行政区別得票を見比べると良く分かります。

    『大阪都構想住民投票@開票結果(確定票)区別一覧』http://goo.gl/I1eTOQ
    『平成27年11月22日 執行  大阪市長選挙の開票結果  確定』http://goo.gl/M2tSM

     前回1万票近い大きな差がつき僅差反対という結果の原動力となった、2つの区を見てみましょう。
     まずは、平野区。前回は、賛成46072票に対して、反対56959票でした。ところが今回は、賛成(吉村)40730に対し、反対(柳本)32759。1万票差反対優勢が、8000票差賛成優勢にひっくり返っています。
     続いて、住吉区。前回は、賛成38623に対し、反対45950。今回は、賛成(吉村)33872に対し、反対(柳本)28001。こちらも7000票反対優勢が、6000票の賛成優勢にひっくり返っています。区別得票数全体で見ても、反対派の柳本候補が制することが出来たのは、地元の西成区のみ。それでもわずか13票差ですから、いかに組織が動かなかったかがわかります。

     では、なぜ前回ほどの組織戦が展開されなかったのか?大阪政界関係者は、公明党の姿勢の違いを強調します。
    「今回は1週前の各社世論調査で維新が圧倒的な差をつけたので、公明党が恐れをなした。衆院選小選挙区では府内4選挙区に現職がいる公明は基本的に維新を敵に回したくない。1週前までは様子見ムードだったけど、あれでほぼ決まった。維新側は公明にプレッシャーをかけるつもりで最後まで手を緩めなかったからね」
     選挙期間中に来年の通常国会の日程がほぼ固まり、衆参ダブル選挙の可能性が残る日程となったことも、公明党の組織戦を押しとどめる方向に作用したようです。ある意味官邸からの水面下でのサポートが功を奏したと言えるかもしれません。

     この結果でもう一度練り直された都構想案が出てきて、住民投票にかけられるでしょう。一度否決しているだけに難しいのではないかという向きもありますが、これは間違いなく通ります。それも、圧勝で通る可能性だって決して夢ではありません。もちろん、公明党の消極的な賛成が今回の選挙でほぼ決まったからです。

     それに続くのは、都構想を引っさげた国政政党おおさか維新の躍進、そして与党との連携。参院選の結果によっては、すでに押さえている衆議院のみならず、参議院でも改憲の発議に届く3分の2の議員数を自・公・おおさか維で超えてくるかもしれません。ついに、改憲の目が出て来るか?官邸の高笑いが聞こえてくるようです。
  • 2015年11月16日

    MRJ 世界へ羽ばたくためには?

     先週水曜、国産初のジェット旅客機MRJ(ミツビシ・リージョナル・ジェット)が初飛行を果たしました。テレビ・ラジオでは生中継やその日の昼・夕方のニュース、新聞ではその日の夕刊、翌日の朝刊と大きく取り上げられたので、その知らせに接した方も多いと思います。

    『国産旅客機・MRJが初飛行に成功 名古屋空港に着陸』(11月11日 朝日新聞)http://goo.gl/zWkcII
    <国産初のジェット旅客機MRJ(ミツビシ・リージョナル・ジェット)が11日午前、初飛行を果たした。開発を担う三菱航空機が、愛知県営名古屋空港(同県豊山町)で最初の飛行試験に成功した。国産旅客機の開発は、1962年に初飛行したプロペラ機YS11以来、半世紀ぶり。欧米の下請けに専念してきた日本の航空産業にとって節目となる。>

     初飛行は当初予定から4年以上遅れましたが、成功裏に終わったということで今後に向けて明るいニュースとして伝えられています。ただ、現在のところ受注はANAやJALといった国内航空大手などで400機ほど。目標はその6倍の2500機ということです。ここからいかに受注を増やしていくか、世界に向けて売って行かなければいけません。

     このMRJの武器は燃費と客室の快適性と言われています。たしかに、燃費は航空会社にとっては重要で、だいたい総コストの3割以上を占めると言われています。それゆえ、少しでも燃料費を抑えようと先々まで長期契約をしたり、少しでも軽くて燃費のいい飛行機を導入したりするわけです。その努力を取材すると本当に涙ぐましく、国際線で出すワインのボトルをガラスからペットボトルに変えるだけでも馬鹿にできない額になるそうです。

     とはいえ、MRJは小型とはいえジョット旅客機。カタログベースで一機当たり4680万ドル(およそ47億円)。いくら燃費が良くても、それだけで決め手になる程単純なものではありません。一つポイントとなるのが販売後のサポート体制です。航空機、特に旅客機というものは売ってそれでおしまいというわけではなく、常にメンテナンスをしていかなくてはなりません。不測の事態に備えて部品をストックしておくのはもちろんですが、それでも対応できなくなったときにはメーカーから取り寄せることになります。その時にモノを言うのが全世界に張り巡らされた支店網。ここから先、こういったネットワークを一から構築する必要があります。

     また、実際に整備に当たる整備士、運行するパイロットたちはその機材専属となります。MRJ担当はMRJ整備・運行に特化した訓練を受け、ライセンスを取得しなくては仕事ができないんですね。たとえば、今ボーイングの機材を担当している整備士やパイロットも、MRJ担当になったらライセンスを別途取り直す必要があるというわけです。まり表に出てきませんが、そこのコスト負担も導入した航空会社には発生するわけですね。

     こうした売った後に発生するサービスに関しては、非常に規模がモノを言います。「鶏が先か卵が先か」という例えのとおり、初期の赤字に目をつぶって数を売って行けば、サービス網が整備されていき、その利便性が次の発注を生んでいく。この正の循環にいかに進んでいくかが真のポイントです。

     逆に、いかに燃費が優れていようと、いかに高スペックであろうと、このサービス網の使い勝手が悪いとトータルのコストが割高になってしまい受注が伸びません。
    そうなると、サービス網を拡大するわけにもいかず、貧弱なままのサービス網では受注も伸びなくなる。かつて日の丸を背負ったYS-11というプロペラ機は、まさにこの負の循環に陥って受注が伸び悩み、わずか11年で生産停止に追い込まれました。

     同じ轍を踏まないために、国内航空会社だけでは足りず海外へ討って出なくてはいけません。そのとき、過度に目先の採算ばかりを追うのは絶対に避けるべきです。メディアも目先の赤字をことさらに取り上げるのではなく、初飛行の報道のような暖かい目で、そして何より長い目で見ることが日の丸ジェットへの援護射撃になると思います。
  • 2015年11月12日

    リベラルの社会保障観

     衆参両院の予算委員会閉会中審査が終わりました。TPPについての審議という建前で開かれたわけですが、ふたを開けてみるとやっぱり新大臣のスキャンダル追及ばかりがクローズアップされて、あまり実のある議論にならなかった印象があります。野党第一党、民主党の岡田代表は自ら質問にも立ちましたが、政権側の答弁には不満だらけだったようです。

    『岡田代表が予算委員会での論戦を終えて記者団の取材に応える』(11月10日 民主党HP)https://goo.gl/tgHInL
    <記者団から、今日の答弁をどう評価するかと問われ、「安倍総理自身の観点で話している部分のほうが多く、こちらの問いに答えることはほとんどなかった。議論をかみ合わせようという気持ちがなければ、それぞれ言いっぱなしになってしまう。私が尋ねていることについて、正面から答える、国民の皆さんに説明するという気持ちが、残念ながら今回も見られなかった」と感想を述べた。>

     岡田代表は今回、(1)憲法改正(集団的自衛権の全面的な容認)(2)日中韓首脳会談と安倍談話(3)アベノミクスの成果(4)新3本の矢について議論をしました。持ち時間1時間のうち、この4つのテーマにほぼ均等に時間を取りましたが、特に突っ込んでいたのが新三本の矢。その中でも2本目・3本目の矢である介護・子育てという社会保障政策です。メニューは網羅的に並べているが、具体的にどこをどの程度増やすのかを何度も聞いていました。というのも、岡田代表としては財源問題が非常に気になるようです。

    <「(前略)『骨太の方針』にある『高齢化に伴う社会保障費の伸びを5千億円に抑え込んでいく』という決定は維持されているから、いったいどこからお金が出てくるのか。楽観的な経済前提に立って税収は上がると言うが、実際には穴が開くことははっきりしており、それをどう埋めるかの説明もない。このままでは財政規律が緩み、非常に憂慮すべき状況だ」と批判した。>

     結局、財政規律最優先という財政タカ派の本性が表れています。委員会での質問では、財政健全化はいつやるのだ?という趣旨で、消費税増税も促しています。岡田代表の論理では、新三本の矢のような総花的な社会保障政策をやるのだとすると、それ相応の財源が必要となる。今の8%の消費税では到底足りず、増税するしかない。なければ、こんな総花的なメニューはひっこめるしかない。増税か、介護・子育て支援を削るか、2つに1つだということです。

     ちなみに、社会保障費は放っておくと年間およそ1兆円ずつ自然増があると言われています。今年の夏に出たいわゆる骨太の方針、経済財政運営と改革の基本方針2015では、この1兆円を5000億円に削ろうという方針が示されています。

    『「経済財政運営と改革の基本方針 2015」の概要』(内閣府HP)http://goo.gl/bM6s3u
    <・安倍内閣のこれまで3年間の経済再生や改革の成果と合わせ、社会保障関係費の実的な増加が高齢化による増加分に相当する伸び(1.5 兆円程度)となっていること、済・物価動向等を踏まえ、その基調を2018年度まで継続していくことを目安とし、効率化、予防等や制度改革に取り組む。>

     向こう3年で1.5兆円ですから、年間5000億円。放っておくと1兆円増える社会保障費をどう圧縮するか、あるいはその分入ってくるお金を増やすか。民主党は増税以外の選択肢はないかのような口ぶりでしたが、見方は様々。先日社会保障を最前線で見ている社会福祉法人の幹部の話を聞いたんですが、彼が言うには終末期医療がポイントだと言っていました。社会保障が手厚いと言われるヨーロッパで介護の現場を見て歩いたそうですが、
    「無理な延命をすることなく、生活の質(クオリティー・オブ・ライフ)を重視している姿に驚いた。たとえば、胃ろうはほとんどやらない。尊厳死も認められているしね」
    と語っていました。胃ろうとは、口から食物を摂るのが難しくなった方に、お腹に穴をあけて胃に管を入れ水分や栄養・医薬品を投与するための処置です。高齢になると食道の弁の働きが弱まって、食物が誤って肺に行ってしまう誤嚥(ごえん)を起こしやすくなります。こうなると、詰まらせて窒息したり、肺炎になることもあります。れを未然に防ぐために胃ろうを勧められることが多いのです。ただ、そういった手術やその後のケアは非常にお金がかかる。結果として、年齢階層別でみると、明らかに高齢者の医療費が社会保障費全体を圧迫しています。

    『平成25年度国民医療費』(厚生労働省HP)http://goo.gl/YF6qy1
    <年齢階級別にみると、0~14 歳は 2 兆 4,510 億円(構成割合 6.1%)、15~44 歳は 5 兆 2,004億円(同 13.0%)、45~64 歳は 9 兆 2,983 億円(同 23.2%)、65 歳以上は 23 兆 1,112 億円(同57.7%)となっている。
    人口一人当たり国民医療費をみると、65歳未満は17万7,700円、65歳以上は72万4,500円となっている。>

     資料をさらに読み込むと、65歳以上は平均72万円あまりですが、70歳以上では81万5800円、75歳以上の後期高齢者では90万3300円となっています。やはり、終末期の医療費にいかにメスを入れていくか?手厚い医療と生活の質をどう両立させていくのか?このあたりが論点となってきます。

     こんなことは専門家なら誰もが知っていることなんですが、みんな世論の非難を恐れて躊躇しています。そういえば、第2次安倍政権が発足してすぐ、こんなニュースもありましたね。

    『麻生副総理「さっさと死ねるように」 高齢者高額医療で発言』(2013年1月21日 産経新聞)http://goo.gl/6XjXhU

     産経はこの程度の扱いでしたが、リベラル寄りの各紙は当時、鬼の首取ったかのように問題視して、大きく報じていましたよね。ま、言葉づかいはともかく、言っていることは社会保障費の圧縮を議論するうえで当然の問題意識だったはずなんですが...。話を聞いた社福の幹部も、
    「社会保障の専門家だけでなく、哲学者や宗教者、有識者を集めて国民的な議論をしないといけない。それでも、団塊の世代が後期高齢者になる2025年に間に合うかどうか、今がギリギリだと思う。」
    と話していました。持続可能な社会保障を考えるうえで避けて通れないテーマですが、どうも政治もマスコミも、寄ってたかって避けているような気がします。リベラルの受け皿となる民主党には、こういった議論をしてもらいたいものなんですが...。
  • 2015年11月03日

    続く反緊縮のうねり

     このブログで何度かご紹介してきた世界的な反緊縮の流れ。この流れはすなわち、グローバル主義への疑問でもあります。

     国を富ませようという考えの根本は一緒でも、その方法論の違いで2つの大きな流れがあります。ざっくりと言えば、ターゲットが企業なのか、家計なのか。これは、上からの景気浮揚か下からの景気浮揚かとも言われます。企業が稼ぐことで景気を上昇させ、それに引っ張られるように家計など国全体を富ませるか、家計の財布を温めて個人消費を活性化させて国全体の経済を引き上げていくのかという2つの方法論です。

     日本では、下からの景気浮揚は高度経済成長時代に見られました。もちろん企業側も輸出を増やして成長したという上からの景気浮揚の側面もありましたが、一方で賃金が増えた家計側が大量の消費をしたことで景気が断続的に上がっていった面も忘れてはいけません。「三種の神器」「3C」などといった家電購入ブームが起こり、我先にと電器屋さんに殺到しました。

     その後、日本も先進国の仲間入りし、安定成長時代に入りました。先進国共通の課題として、経済成長率の伸びが緩やかになるということがあります。賃金の上昇も緩やかになりますし、欲しいものは一通り手に入れたということで、家計に働きかけても思うほど景気が伸びない。そこで、企業が稼いで全体を引っ張って行ってもらおうという上からの景気浮揚の手法をとるようになります。業が稼ぎやすいように社会を変えることで景気を良くしようという新自由主義、構造改革路線です。

     日本も、21世紀に入ってからは今に至るまで企業の世紀。たとえば、各種の規制を取っ払って海外からも企業が入って来やすいようにしよう。外国企業が国内で稼いでくれれば日本の経済が成長する!外国企業が日本を選んでくれるよう、法人税を下げよう。ただ、下げるばっかりじゃ財政がきつくなるから使った分だけ税を納める消費税を上げよう。あるいは、財政がきつくなった分だけ公共サービスは縮小しよう。今まで公共セクターが担ってきたサービスも民間に開放すればその分企業が稼ぎやすくなって経済が成長するだろう。

     これらの施策により、企業は猛烈に潤いました。ただ、期待したようにそれが全体を押し上げたかというと微妙でした。当時よく「実感なき景気回復」と言われましたが、景気回復、つまりGDPの上昇と比べて、実質賃金が伸びなかったんですね。企業は稼いだお金を海外での投資に振り向けました。企業としては当然で、人件費の高い先進国でさらに給料を増やすよりも、人件費の低い新興国で投資した方が効率がいいからです。こうした流れは先進各国でおおむね共通していました。

     おかしいじゃないか、約束とちがうじゃないか、企業は潤っても俺たちの景気は良くならない。給料が上がらない。政府は俺たちをサポートするどころか、公共サービスはどんどん貧弱になっているじゃないか。

     そうしたことに先進各国で気づき始めたというのが反緊縮の流れというもの。ギリシャ危機に端を発したヨーロッパ、とくに南欧諸国で出てきたこの流れが、ついに大西洋を越えました。先日行われたカナダでの総選挙で、与党・保守党が大敗北。財政出動による景気浮揚を掲げた野党・自由党が政権を奪還したのです。

    『カナダ、トルドー氏「変革の時」 積極財政、中間層を重視』(10月20日 共同通信)http://goo.gl/mn39Qa
    <【オタワ共同】19日のカナダ総選挙(下院338議席)で圧勝し、次期首相となる自由党のトルドー党首は20日、地元モントリオールの支持者集会で演説し「真の変革の時だ」と訴えた。景気回復策として保守党と一線を画す積極財政を進め、富裕層よりも中間層を重視した政策に転換する考えだ。>

     積極財政についてはかなり前のめりな方針を掲げていて、インフラ整備などに600億カナダドル規模を投じるとのこと。向こう3年間はある程度の財政赤字も辞さないというのですから、腹を括っています。そのインパクトはフィナンシャルタイムズも社説で取り上げるほどでした。

    『[FT]新首相と中道左派に託したカナダ(社説)』(10月21日 日本経済新聞)
    <カナダ銀行(中央銀行)が景気刺激のための利下げをするさなかで、(筆者注:ハーパー前政権の)さらなる財政緊縮という公約はほとんど意味をなさなかった。一定範囲内の財政赤字を3年続けるという(筆者注:自由党の)トルドー氏の計画のほうが、よく練られている。カナダのインフラの多くは老朽化している。賢明に充てられるなら、トルドー氏の資本投資計画は十分なリターンを生んで価値あるものとなるだろう。

     このようなインフラ投資は、低成長下にある他の民主主義諸国にも強力なデモンストレーション効果をもたらしうる。米国のオバマ政権も同様の計画を持ちながら、何年も議会を通せずにいる。また、各国政府がかなり異なるアプローチをとっている欧州でも注視されることになる。さらにトルドー氏は、超富裕層への増税を財源とする中間層の減税も計画している。これも価値がある。他の先進諸国と同様、カナダでも格差は拡大している。>

     カナダのインフラがいかに老朽化しているかというのは、国の顔たる首相官邸でもこの有様だということが象徴しています。

    『雨漏りでも建て替えは浪費?カナダ首相官邸』(10月30日 WSJ)http://goo.gl/DU6HW9
    <10年ほど前に資金調達のため官邸を訪れたホスピスのボランティアは、ポール・マーティン首相の妻シェイラさんがドアを開けたときに信じられない光景を目にした。リビングの床に雨漏りを受けるバケツが置かれていたのだ。窓枠には結露を吸わせるタオルが並び、窓にはすきま風を防ぐためビニールがかぶせられていた。シェイラさんはボランティアの女性に、いつものことだと話したという。>

     しかし、これを我々は海の向こうのカナダの出来事と笑えるでしょうか?たしかに日本の総理官邸は立派な建物が永田町に建っています。しかし、たとえば全国の道路網は疲弊。悲鳴を上げているかのようです。

    『社会資本整備審議会道路分科会建議 道路の老朽化対策の本格実施
    に関する提言』(国土交通省HP)http://goo.gl/uwGMI8

    <Ⅰ.最後の警告-今すぐ本格的なメンテナンスに舵を切れ
    (中略)
    道路構造物の老朽化は進行を続け、日本の橋梁の 70%を占める市町村が管理する橋梁では、通行止めや車両重量等の通行規制が約 2,000 箇所に及び、その箇所数はこの 5 年間で 2倍と増加し続けている。地方自治体の技術者の削減とあいまって点検すらままならないところも増えている。>

     反緊縮の流れが太平洋を越えてくる日は来るのでしょうか?こうしたことを主張しているのが、左派ではなく保守政党である自民党の一部のみであるというのは、残念な限りです。日本の政治には、健全な中道左派が求められているのかもしれません。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
「飯田浩司そこまで言うか!」

■会員制ファンクラブ(CAMPFIREファンクラブ)
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