2015年11月12日

リベラルの社会保障観

 衆参両院の予算委員会閉会中審査が終わりました。TPPについての審議という建前で開かれたわけですが、ふたを開けてみるとやっぱり新大臣のスキャンダル追及ばかりがクローズアップされて、あまり実のある議論にならなかった印象があります。野党第一党、民主党の岡田代表は自ら質問にも立ちましたが、政権側の答弁には不満だらけだったようです。

『岡田代表が予算委員会での論戦を終えて記者団の取材に応える』(11月10日 民主党HP)https://goo.gl/tgHInL
<記者団から、今日の答弁をどう評価するかと問われ、「安倍総理自身の観点で話している部分のほうが多く、こちらの問いに答えることはほとんどなかった。議論をかみ合わせようという気持ちがなければ、それぞれ言いっぱなしになってしまう。私が尋ねていることについて、正面から答える、国民の皆さんに説明するという気持ちが、残念ながら今回も見られなかった」と感想を述べた。>

 岡田代表は今回、(1)憲法改正(集団的自衛権の全面的な容認)(2)日中韓首脳会談と安倍談話(3)アベノミクスの成果(4)新3本の矢について議論をしました。持ち時間1時間のうち、この4つのテーマにほぼ均等に時間を取りましたが、特に突っ込んでいたのが新三本の矢。その中でも2本目・3本目の矢である介護・子育てという社会保障政策です。メニューは網羅的に並べているが、具体的にどこをどの程度増やすのかを何度も聞いていました。というのも、岡田代表としては財源問題が非常に気になるようです。

<「(前略)『骨太の方針』にある『高齢化に伴う社会保障費の伸びを5千億円に抑え込んでいく』という決定は維持されているから、いったいどこからお金が出てくるのか。楽観的な経済前提に立って税収は上がると言うが、実際には穴が開くことははっきりしており、それをどう埋めるかの説明もない。このままでは財政規律が緩み、非常に憂慮すべき状況だ」と批判した。>

 結局、財政規律最優先という財政タカ派の本性が表れています。委員会での質問では、財政健全化はいつやるのだ?という趣旨で、消費税増税も促しています。岡田代表の論理では、新三本の矢のような総花的な社会保障政策をやるのだとすると、それ相応の財源が必要となる。今の8%の消費税では到底足りず、増税するしかない。なければ、こんな総花的なメニューはひっこめるしかない。増税か、介護・子育て支援を削るか、2つに1つだということです。

 ちなみに、社会保障費は放っておくと年間およそ1兆円ずつ自然増があると言われています。今年の夏に出たいわゆる骨太の方針、経済財政運営と改革の基本方針2015では、この1兆円を5000億円に削ろうという方針が示されています。

『「経済財政運営と改革の基本方針 2015」の概要』(内閣府HP)http://goo.gl/bM6s3u
<・安倍内閣のこれまで3年間の経済再生や改革の成果と合わせ、社会保障関係費の実的な増加が高齢化による増加分に相当する伸び(1.5 兆円程度)となっていること、済・物価動向等を踏まえ、その基調を2018年度まで継続していくことを目安とし、効率化、予防等や制度改革に取り組む。>

 向こう3年で1.5兆円ですから、年間5000億円。放っておくと1兆円増える社会保障費をどう圧縮するか、あるいはその分入ってくるお金を増やすか。民主党は増税以外の選択肢はないかのような口ぶりでしたが、見方は様々。先日社会保障を最前線で見ている社会福祉法人の幹部の話を聞いたんですが、彼が言うには終末期医療がポイントだと言っていました。社会保障が手厚いと言われるヨーロッパで介護の現場を見て歩いたそうですが、
「無理な延命をすることなく、生活の質(クオリティー・オブ・ライフ)を重視している姿に驚いた。たとえば、胃ろうはほとんどやらない。尊厳死も認められているしね」
と語っていました。胃ろうとは、口から食物を摂るのが難しくなった方に、お腹に穴をあけて胃に管を入れ水分や栄養・医薬品を投与するための処置です。高齢になると食道の弁の働きが弱まって、食物が誤って肺に行ってしまう誤嚥(ごえん)を起こしやすくなります。こうなると、詰まらせて窒息したり、肺炎になることもあります。れを未然に防ぐために胃ろうを勧められることが多いのです。ただ、そういった手術やその後のケアは非常にお金がかかる。結果として、年齢階層別でみると、明らかに高齢者の医療費が社会保障費全体を圧迫しています。

『平成25年度国民医療費』(厚生労働省HP)http://goo.gl/YF6qy1
<年齢階級別にみると、0~14 歳は 2 兆 4,510 億円(構成割合 6.1%)、15~44 歳は 5 兆 2,004億円(同 13.0%)、45~64 歳は 9 兆 2,983 億円(同 23.2%)、65 歳以上は 23 兆 1,112 億円(同57.7%)となっている。
人口一人当たり国民医療費をみると、65歳未満は17万7,700円、65歳以上は72万4,500円となっている。>

 資料をさらに読み込むと、65歳以上は平均72万円あまりですが、70歳以上では81万5800円、75歳以上の後期高齢者では90万3300円となっています。やはり、終末期の医療費にいかにメスを入れていくか?手厚い医療と生活の質をどう両立させていくのか?このあたりが論点となってきます。

 こんなことは専門家なら誰もが知っていることなんですが、みんな世論の非難を恐れて躊躇しています。そういえば、第2次安倍政権が発足してすぐ、こんなニュースもありましたね。

『麻生副総理「さっさと死ねるように」 高齢者高額医療で発言』(2013年1月21日 産経新聞)http://goo.gl/6XjXhU

 産経はこの程度の扱いでしたが、リベラル寄りの各紙は当時、鬼の首取ったかのように問題視して、大きく報じていましたよね。ま、言葉づかいはともかく、言っていることは社会保障費の圧縮を議論するうえで当然の問題意識だったはずなんですが...。話を聞いた社福の幹部も、
「社会保障の専門家だけでなく、哲学者や宗教者、有識者を集めて国民的な議論をしないといけない。それでも、団塊の世代が後期高齢者になる2025年に間に合うかどうか、今がギリギリだと思う。」
と話していました。持続可能な社会保障を考えるうえで避けて通れないテーマですが、どうも政治もマスコミも、寄ってたかって避けているような気がします。リベラルの受け皿となる民主党には、こういった議論をしてもらいたいものなんですが...。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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