先週水曜、国産初のジェット旅客機MRJ(ミツビシ・リージョナル・ジェット)が初飛行を果たしました。テレビ・ラジオでは生中継やその日の昼・夕方のニュース、新聞ではその日の夕刊、翌日の朝刊と大きく取り上げられたので、その知らせに接した方も多いと思います。
<国産初のジェット旅客機MRJ(ミツビシ・リージョナル・ジェット)が11日午前、初飛行を果たした。開発を担う三菱航空機が、愛知県営名古屋空港(同県豊山町)で最初の飛行試験に成功した。国産旅客機の開発は、1962年に初飛行したプロペラ機YS11以来、半世紀ぶり。欧米の下請けに専念してきた日本の航空産業にとって節目となる。>
初飛行は当初予定から4年以上遅れましたが、成功裏に終わったということで今後に向けて明るいニュースとして伝えられています。ただ、現在のところ受注はANAやJALといった国内航空大手などで400機ほど。目標はその6倍の2500機ということです。ここからいかに受注を増やしていくか、世界に向けて売って行かなければいけません。
このMRJの武器は燃費と客室の快適性と言われています。たしかに、燃費は航空会社にとっては重要で、だいたい総コストの3割以上を占めると言われています。それゆえ、少しでも燃料費を抑えようと先々まで長期契約をしたり、少しでも軽くて燃費のいい飛行機を導入したりするわけです。その努力を取材すると本当に涙ぐましく、国際線で出すワインのボトルをガラスからペットボトルに変えるだけでも馬鹿にできない額になるそうです。
とはいえ、MRJは小型とはいえジョット旅客機。カタログベースで一機当たり4680万ドル(およそ47億円)。いくら燃費が良くても、それだけで決め手になる程単純なものではありません。一つポイントとなるのが販売後のサポート体制です。航空機、特に旅客機というものは売ってそれでおしまいというわけではなく、常にメンテナンスをしていかなくてはなりません。不測の事態に備えて部品をストックしておくのはもちろんですが、それでも対応できなくなったときにはメーカーから取り寄せることになります。その時にモノを言うのが全世界に張り巡らされた支店網。ここから先、こういったネットワークを一から構築する必要があります。
また、実際に整備に当たる整備士、運行するパイロットたちはその機材専属となります。MRJ担当はMRJ整備・運行に特化した訓練を受け、ライセンスを取得しなくては仕事ができないんですね。たとえば、今ボーイングの機材を担当している整備士やパイロットも、MRJ担当になったらライセンスを別途取り直す必要があるというわけです。まり表に出てきませんが、そこのコスト負担も導入した航空会社には発生するわけですね。
こうした売った後に発生するサービスに関しては、非常に規模がモノを言います。「鶏が先か卵が先か」という例えのとおり、初期の赤字に目をつぶって数を売って行けば、サービス網が整備されていき、その利便性が次の発注を生んでいく。この正の循環にいかに進んでいくかが真のポイントです。
逆に、いかに燃費が優れていようと、いかに高スペックであろうと、このサービス網の使い勝手が悪いとトータルのコストが割高になってしまい受注が伸びません。
そうなると、サービス網を拡大するわけにもいかず、貧弱なままのサービス網では受注も伸びなくなる。かつて日の丸を背負ったYS-11というプロペラ機は、まさにこの負の循環に陥って受注が伸び悩み、わずか11年で生産停止に追い込まれました。
同じ轍を踏まないために、国内航空会社だけでは足りず海外へ討って出なくてはいけません。そのとき、過度に目先の採算ばかりを追うのは絶対に避けるべきです。メディアも目先の赤字をことさらに取り上げるのではなく、初飛行の報道のような暖かい目で、そして何より長い目で見ることが日の丸ジェットへの援護射撃になると思います。