2014年6月

  • 2014年06月30日

    対話!対話!というけれど、その相手は誰?

     安倍政権は発足以来日中関係について、「対話のドアは常にオープンである」と言い続けています。これに対し、国内のリベラルメディアは、「対話しろ!こちらから対話しろ!何はなくとも対話しろ!」の大合唱でした。それだけに、明日、日中局長級協議開催となると大きく取り上げます。

    『日中の局長級協議 開催で調整』(NHK 6月30日)http://goo.gl/QtNo7p
    <外交筋はおよそ2か月前に就任したばかりの孔局長との顔合わせが主な目的だとしていますが、沖縄県の尖閣諸島や歴史認識を巡って冷え込んだ状態が続いている日中関係の改善と、途絶えたままになっている日中首脳会談の実現に向けた糸口を探る話し合いも行われるとみられます。>

     これまでも、こと日中関係に関しては野党の党首や元総理が動いただけでも大きく扱われています。私も、どんなパイプであれ、日本の国益に反しない限り対話ができればいいんですが、問題はこういった動きが的確にカウンターパートに届いているかどうか?どうも、そこのところがあまり報じられていない気がするんですね。要するに、的確な相手を選んでいるのか?というところです。

     そこで、中国政府、中国共産党の権力構造を分析する必要があるんですが、これについて今月中旬、興味深いニュースがありました。

    『首相のしきる経済まで掌握した「習皇帝」』(6月16日 東亜日報)http://goo.gl/nOMtQm
    <15日付の国営新華社通信などによると、習主席は13日、組長として第6次中央財経領導小組(財経小組)会議を開き、エネルギー消費と供給、技術、収拾システムで4大革命が必要だと力説した。同通信は、今回の財経小組の執行部がいつ確定したのか明らかにせず、習主席が組長、李克強首相が副組長として出席したと紹介した>

     さすがは最近国を挙げて中国に接近している韓国のメディア。日本のメディアよりも的確に分析しています。
    <政治などは国家主席が、経済部門は首相が取りしきる中国の集団指導体制が「皇帝主席」習近平の「1人支配体制」に転換しつつある。>
    とまで断じているのです。この財経小組は今まで5回会合をしてきたんですが、誰がトップかを明らかにしてきませんでした。経済に関する会議ですから、慣例通り李克強首相が組長を務めているであろうと誰もが思っていましたので、今回習主席がトップと発表されて中国ウォッチャーたちは驚いたわけです。ついにここまで習主席への権力集中がすすんだかと。

     今までの集団指導体制と違って習主席への権力集中が顕著になるということは、どの外交チャンネルが習主席と繋がっているのかを見極める必要があるということです。日本の感覚であれば、外交関係は外務省に決まっているだろうと思うんですが、中国ではそうではないというのが専門家の見立てです。では一体どこが習主席と繋がっているのか?断定的なことは言えませんが、ある防衛の専門家は去年11月の3中全会(党中央委員会第三回全体会議。習近平政権の政策方針を打ち出す重要政治会議)で設置が決まった中国版NSCに注目します。この中国版NSCは去年11月に設置は決まったものの、その後半年音沙汰なく、4月に第1回会合が開かれました。

    『中国、国家安全委員会が初会合』(4月16日 日本経済新聞)http://goo.gl/57nBgG

     当時は小さなニュースとして、扱ってもせいぜいベタ記事程度。というのも、まだ顔ぶれがはっきりしていなかったから位置づけが分からなかったのです。

    <同委員会は習氏が主席、李克強首相と全国人民代表大会(国会に相当)の張徳江委員長が副主席を務めるが、その他の構成員は公表されていない。国営中央テレビも初会合の映像を伝えず、顔ぶれは不明なままだ。>

     専門家が特に注目していたのは、この「その他の構成員」の部分。特に、事務方をどこがとるのかが注目されていました。なぜなら、この中国版NSCは習主席肝いりの組織。その主導権をどこの省庁が握るかによって、今後中国政府内でどこの省庁が主導権を握るかが分かるからです。
     大方の予想は2つ。外交関連だけに、外交部が事務局を出すか。あるいは、この中国版NSCは国内治安を受け持つという予想もありましたから、公安部から事務局が出るか。いずれにせよ、公安、外務の綱の引っ張り合いだろうというのが専門家の見立てでした。しかし、それらの予想は鮮やかに裏切られます。
     最近判明した中国版NSCの事務方トップは、党中央弁公庁主任の栗戦書氏。政府側の外交部でも公安部でもなく、党側が主導権を握ったことを意味します。そして、その意味するところは、この中国版NSCにおいても習主席に権限が集中していることと、党中央弁公庁主任という習主席最側近が事務方トップということで、中国版NSCは習主席への最短ルートとなったということです。

     さらに言えば、外交部の役割の低下です。実は外交部、中国外務省は海洋政策でも役割を減らされ続けています。2012年の後半に党中央に「中央海洋権益工作領導小組」という組織が設けられ、去年には国務院に「国家海洋委員会」が設置されました。さらに、その下にある国家海洋局が再編され、権限と予算が大幅に増やされています。そんな流れの中で、従来海洋政策を担ってきたはずの外交部辺海局、条約局の役割が低下してきているというのです。

     習近平国家主席への権力の集中著しい中にあって、どんどん影響力を減らしていく中国外務省(外交部)。ということは、従来の外交ルート、中国外務省相手に折衝したところでタカが知れています。前述の防衛専門家は、
    「今後はNSCに注目だ。中国版NSCは外交部以上に習主席と繋がっている。となると、カウンターパートとなる日本版NSCも当然忙しくなるだろう」
    と話してくれました。
     日露関係と同じく、公式ルートの外務省同士がこう着した時にセカンドトラックたるNSCの存在感が増す。それだけでも、NSCを設置した意義があるというものです。安倍政権の対中政策を批判するなら、どこの部署を窓口にしているのかも踏まえたうえで批判しなくてはなりません。中国外務省と対話していれば安心。中国外務省と対話できない安倍政権はけしからんという文脈の報道は、あまりに本質を外しています。それとも、日本のNSCに存在意義が出てしまってはメンツが潰れてしまうメディアがあるのでしょうか?
  • 2014年06月23日

    電力自由化の影の部分

     先日閉幕した平成26年通常国会。内閣提出・議員提出合わせて82本の法案が成立した中、会期後半に気になる法律の改正案が成立しました。電気事業法改正案です。

    『電力小売り 完全自由化 28年めど 改正電事法が成立』(6月11日 産経新聞)http://goo.gl/v0cTfF
    <電力小売りの全面自由化を柱とする改正電気事業法が11日、参院本会議で自民、公明、民主各党などの賛成多数で可決、成立した。安倍晋三政権が3段階で進める電力システム改革の第2弾で、平成28年をめどに家庭が電力会社を自由に選べるようにする。政府は、大手電力10社が地域ごとに販売を独占する家庭向け電力供給の市場を開放し、新規参入を促してサービスの多様化や料金引き下げにつなげる考えだ>

     どの新聞の記事も大体、「新規参入を促してサービスの多様化や料金引き下げにつなげる...」というような内容のことが書いてありました。たしかに、教科書通りに理解すれば、独占状態にあった市場で競争がなかったところに、競争が生まれれば各企業が切磋琢磨するからサービスは良くなり料金は下がるはず。そうなってくれれば、私も一消費者として喜ばしい限り。しかし、少し調べるとそうもいかないことがわかります。原因は、『再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度』です。

    『なっとく!再生可能エネルギー』(資源エネルギー庁HP)http://goo.gl/9hAe8L

     出力規模などにもよりますが、太陽光発電で1Kw/時あたり32円で20年間。風力は同じく1Kw/時あたり22円で20年間。他に、地熱、水力、バイオマスについて価格が決められています。これは法律で買い取り価格が決められていて、さらに、今のところは発電された全量を買い取ることが電力会社に義務付けられています。

     現状普及が遅れているとされる再生可能エネルギーの普及を目的に、参入企業にインセンティブを持たせるために買い取り価格が高めに設定されているわけですが、問題はこれを電力会社が負担するということ。電力会社は営利企業ですから、利益を出すためにこの買い取り価格分は利用者の電気料金に転嫁されます。さらに、この買い取り価格は今から20年間固定ですから、この先爆発的に再生可能エネルギーが普及してコストが下がったとしても、その恩恵は消費者には及びません。ただただ、発電業者がその利ざやを総取りするわけで、小売り自由化をしたところで電気料金は下がらない可能性が高いということです。

     さらに、現状大規模高効率の蓄電池というものは多くありませんから、電気は原則貯めておくことができません。常に需要と供給が一致するように、実は発電側は微妙な調整を随時行っているんですね。そんな状況の中で、国は法律で『全量』買い取りを義務付けているわけです。ということは、電気使用量の増減に関わらず再生可能エネルギーでできた電力は使われなくてはならなくなります。電力供給会社からすれば、コストの高い電気を最優先でまずは仕入れなければならない。火力発電などの既存の安定的で安くできる電気は後回しにせざるを得ません。そうなれば供給会社はどうしたって高コスト体質になりますし、発電会社はワリのいい太陽光や風力以外の発電方法を取ろうとはしないでしょう。結果、ワリはいいが自然相手で不安定な発電方法が日本の主流となり、電力供給は不安定になりはしないでしょうか?

     消費者の側からの視点でまとめれば、発電コストの高い再生可能エネルギー由来の電気を固定価格買い取り制度で全量買い取りが義務付けられている以上、電気料金は下がらない。その上、この制度を続ける以上、電力供給が不安定になる可能性が高い。結果、消費者は高くて不安定な電力を買わざるを得なくなる。あまりメディアは報じませんが、自由化の理想とは正反対の結果を生む可能性を秘めていると私は危惧しています。

     再生可能エネルギー先進国のドイツでは、そのリスクがすでに現れているようです。少し前ですが、こんな報告書が出されました。

    『ドイツの再生可能エネルギー法は失敗だったのか?』(JBPress 3月12日)http://goo.gl/KxSuul
    <2月26日、ドイツで衝撃的なリポートが発表された。EFI(Expertenkommission Forschung und Innovation=研究・革新専門家委員会)といって、2006年にドイツ政府によって作られた6人の専門家からなる調査グループの提出したリポートだ。(中略)EFIのホームページに載っている同リポートの要約は、「EFIは、再生可能エネルギー法の継続を正当であるとする理由は見つけることができない。再生可能エネルギー法は電気代を高騰させるのみで、気候変動の防止も技術改革も促進しない」となっている。>

     ドイツでは電気料金に占める再生可能エネルギー補助金の割合は5分の1に上り、電気料金を払っているのか補助金を払っているのかわからない状況。そして、多少効率が悪くても低コストならば確実に補助金が手に入るということで、発電企業側はわざわざ高い研究開発費を払って効率を求めるモチベーションが生まれず、結局技術革新も促進しないということを、この提言では指摘しています。日本のメディアはこの報告書についてはさほど報じれらませんでしたが、海外メディアは詳しく報じていました。

    『Germany must scrap its green energy law, say experts(ドイツ政府はグリーンエネルギー促進法を捨て去るべきと専門家が提言)』(ロイター 2月26日)http://goo.gl/6S5w1z

     脱原発、発送電分離のモデルとされるドイツでは、すでに自由競争の負の側面が顕在化して来ているわけです。「安いエネルギーがいいか、多少高くても安全で地球にやさしいエネルギーがいいか選択できるのが八送電分離なのです」と、ドイツの例を引きながら説明されることが多いのですが、そのドイツではどのエネルギーを選ぼうとも平均的に値段が上がってしまっています。この先行事例にどう学ぶか?それとも同じ轍を踏むのか?国民的議論がないままに電気事業法が改正されてしまったのは、ちょっと気になりました。
  • 2014年06月17日

    【集団的自衛権】 リアリズムを持った議論を

     集団的自衛権について、各メディアも盛んに報じています。しかしながら、与党協議がもつれればもつれるほど政局の話が多くなってきていて、そもそも何が議論されているのかわからなくなってきました。
     もともと安倍総理が提唱していた『集団的自衛権』とは、片務的な日米安保条約を双務的にするために必要なものだという説明で、総理の兼ねてからの持論でした。

    『自民党総裁選候補者データ 安倍晋三氏』https://www.jimin.jp/sousai12/candidate/abe.html#shoken
    <日本は信頼を取り戻し確固たる日米同盟を築くため、集団的自衛権の行使を認める憲法解釈に変更する必要があります。>

    『第165回国会における安倍内閣総理大臣所信表明演説』(平成18年9月29日)
    <大量破壊兵器やミサイルの拡散、テロとの闘いといった国際情勢の変化や、武器技術の進歩、我が国の国際貢献に対する期待の高まりなどを踏まえ、日米同盟がより効果的に機能し、平和が維持されるようにするため、いかなる場合が憲法で禁止されている集団的自衛権の行使に該当するのか、個別具体的な例に即し、よく研究してまいります。>

     これに対して、政権の主張に近い読売・産経はこれに賛意を示しました。
     一方、朝日・毎日・東京は、日米安保条約は片務的ではない。旧安保はアメリカに日本防衛義務がないなど片務的であったが、今の新安保はアメリカに日本防衛義務が生じ、一方日本はアメリカを防衛しようとしてもできないから、基地の提供という義務を負っている。双方義務を負っているんだから、これは双務的である!という主張。そして、そもそも現憲法下、現憲法解釈のもとでも十分双務的であるんだから、安倍総理のいうように恥じることなど何もない。日本は応分の義務をすでに背負っているのだから、これ以上集団的自衛権などと踏み出す必要がないとしています。

     しかし、ここには論理の矛盾があるように思うのです。日米安保条約が双務的であるのなら、これはその時点で集団的自衛権をすでに実質的に行使しているのではないか?なぜなら、日米安保条約は日本を守るという個別的自衛権の事案のみならず、「極東の安全に資する」という一文が加わっているので、安保条約を双務的に履行しているとするならば我が国が極東の安全に力を発揮していることになる。実際、日米安全保障条約を根拠に、日本復帰後の沖縄の基地から長距離爆撃機B-52は北ベトナムを爆撃したわけで、安保条約が双務的であるならば、事実上集団的自衛権を認めているようなものではないでしょうか?

     一方で、我が国周辺の状況というのはやはり厳しくなっているようです。先日、『中国とどうつきあうか?』というテーマで、防衛省防衛研究所主任研究官の増田雅之氏の講演を聞く機会があったんですが、まず中国の現行の南シナ海、東シナ海での膨張について、「その行動のベースには『アメリカの衰退』という情勢分析があることは間違いない」とのこと。さらに、中国は2009年までの『韜光養晦』政策(周りの諸国との軋轢を回避しようという政策)を消極的であったと反省し、周辺国との軋轢もお構いなしの進出が続いています。南シナ海に関してはアメリカはこれ以上コミットしないであろうと読んでいて、実効支配で既成事実を積み上げることでアメリカがさらにコミットしづらい状況を作り出すことを目的としているようです。そして、現状、読み通りの状況が生まれつつあることを指摘しています。
     そういった周辺状況の下、日中の戦力差は、現在国防費の公表ベースで中国が日本の3倍。2020年には7~8倍。30年には12~3倍となります。もちろん、兵の練度、近代戦への対応力は圧倒的に日本に分がありますが、兵のレベルは劣っていようとも物量で、人海戦術でやられる可能性は残されています。何しろ、規模の違う国であり、一対一では敵わない。
     そこで日米同盟の重要性がクローズアップされるわけですが、アメリカが引き気味にコミットする可能性がある以上、地域の国々を強くすることの重要性を強調していました。

     専門家による長期的な分析をもってしても、今後個別的自衛権のみで我が国を守るのは苦しい。その上、今後ますます厳しくなっていくことが予想されています。もはや、一刻の猶予もなし。国会会期末まであと5日。リアリズムを持った議論を期待します。
  • 2014年06月10日

    経済欄の不都合な真実

     新聞の経済欄はこのところ、『消費増税の影響軽微!』のオンパレードとなっています。

    『街角景気、増税影響和らぐ 「横ばい」下回るも5月は3・5ポイント上昇』(6月9日 産経新聞)http://goo.gl/41I07G
    <内閣府が9日発表した5月の景気ウオッチャー調査によると、街角の景気実感を示す現状判断指数は前月比3・5ポイント上昇の45・1となり、2カ月ぶりに改善した。百貨店やスーパーなどで消費税増税に伴う駆け込み需要の反動減が和らいだ。消費者心理を表す消費者態度指数も5月は6カ月ぶりに上昇した。>

    『IMF、消費増税の影響「うまく乗り切りつつある」 対日審査』(5月30日 日本経済新聞)
    <声明は4月の消費増税の影響について「うまく乗り切りつつある」との見解を示した。企業の設備投資増加や設備稼働が上向いている点に触れ、「経済の底力は強まっている」との見方を示し、「今年後半には再び景気が回復する」との予想を示した。>

    『消費増税後の景気:雇用と物価、堅調 落ち込みも「想定内」』(5月31日 毎日新聞)http://goo.gl/8QXjoq
    <30日に公表された経済指標で、消費増税後の4月に消費や生産が落ち込んだものの、雇用や物価は堅調だったことが確認された。増税分の価格への転嫁が進んでいることは、企業や消費者のデフレ意識が後退していることを示していると言えそうだ。>

     各々の指数は良かったり悪かったりするわけで、新聞を斜めから読みがちな私などは「総じていい数字を大きく報じているんじゃないかなぁ」という印象があったんですが、先日内閣府から発表された『景気動向指数』を見てあながち間違ってもいないのかなぁと思いました。

    『4月の景気動向指数 2か月ぶり悪化』(6月6日 NHK)http://goo.gl/bhrOlg
    <ことし4月の景気動向指数は、消費税率引き上げの影響で、化粧品や日用品、自動車など幅広い品目で販売が落ち込んだことなどから、景気の現状を示す指数が2か月ぶりに悪化し、内閣府は基調判断を「足踏みを示している」に下方修正しました。>

     景気動向指数には3種類の指標があります。景気の動きに対して「いつ」反応を示すかでわかれるんですが、今回問題になったのは景気の動きに合わせて反応を示す「一致指数」というもの。これ以外に、景気の動きに先行して動く「先行指数」、遅れて反応を示す「遅行指数」という3種類があります。あまり言及されていませんが、先行指数は3か月連続で下落。消費増税前から、景気に先行して動く指数は落ち続けているということで、景気の先行きに対して不安があるということがわかります。ここで、生データを見てみると、さらに驚愕の事実が分かりました。景気の現状は、もっともっと厳しいかもしれません。

    『景気動向指数 -平成26年4月分(速報)-』(6月6日 内閣府)http://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/di/Preliminary.pdf

     まず、3ページから5ページにCI各指数が載っていますが、4月分はほとんどが赤文字。増税前の駆け込み需要からの反動減が際立っているのかもしれませんが、それにしても先行指数の「中小企業売り上げ見通しD.I.」が前月差-15.9とガタ落ちしていたり、一致指数の商業販売額が小売・卸売ともに前月差10ポイント以上落ち込んでいます。内需の冷え込みが、消費増税の影響軽微と言える以上に落ち込んでいるのではないかという疑念を抱きます。

     さて、ここまでは景気動向指数(CI)についての話でした。一方昔は、新聞の見出しにDIというものがあったのを覚えているでしょうか?それも、さほど昔の話ではなく、私が大学で経営学を学んでいた時(2000年代前半)もDIだった覚えがあります。そこで調べてみますと、実は、内閣府は2008年3月分まではDIを中心に発表していたんですが、それ以降CIというものを中心に公表するよう変わっていたんですね。この2つ、何が違うかと言えば、

    ・CI 景気変動を「量的」に把握する指数
    ・DI 景気変動の「方向性」を把握する指数

     これだけではよくわかりません。そこで金融用語辞典を見てみますと、

    『金融用語辞典 【景気動向指数】』http://www.findai.com/yogo001/0022y01.html

    CI(composite indexes) 基準となる年(この場合、平成22年)を100として、一致指数が100より上昇していれば景気は拡張局面に、逆に100より低下していれば景気は後退局面にあることがわかります。一致指数の変化の大きさは、景気の拡張や後退の大きさをあらわします。

    DI(diffusion indexes) 採用された指標を3ヶ月前の数値と比較して、改善(プラス)、変化なし(横ばい状態)、悪化(マイナス)に分類します。改善(プラス)を1、変化なし(横ばい状態)を0.5としてそれぞれ合計して採用指標数で割ると、指数を計算できます。一致指数が50%以上なら景気が上向き、50%以下なら景気が下向きと判断されます。

     要するに、CIは平成22年と比べてどうかを指数化している。一方、DIは各指標のうちプラスのものがどれだけ含まれているかを数字化しているものと思えばいいでしょうか。そして、DI指数は50以上なら景気が良く、50以下なら景気が悪い。たしかに、バブル絶頂の1989年末は100.0。一方、リーマンショックの2008年9月~12月は0.0でした。そう考えてDIの数字を見てみると、愕然とします。

    【2014年4月】
    ・DI先行指数 11.1
    ・DI一致指数 20.0
    ・DI遅行指数 25.0

     景気の動きに先立って動くDI先行指数などは、1月こそ80.0だったものの、2月(30.0)→3月(20.0)と来て、4月は11.1。このDIは3か月前との比較の数字を1か月ごとに連ねていくものですから、おおむね3か月は数字を見ないといけないと言われています。つまり、3か月分の数字を見れば、大体の景気の流れを見ることができるわけですね。ということは、景気の先行きを示す先行指数が3か月連続で50を割って、さらに数字がどんどん落ち込んでいるというのは、景気が下向きの方向に行っているのではないでしょうか?少なくとも、先行きは非常に厳しいと判断していいのではないでしょうか?
     内閣府はCIを見て「景気は足踏みしている」と書きますが、そんな甘いものではないと思います。いわんや、『街角景気、増税影響和らぐ』『消費増税後の景気:雇用と物価、堅調』なんて楽観的な数字は大見出しで書きつつ、このDIのような不気味な数字はほとんど報じないのは、社会の木鐸たる新聞として正しい在り方なのでしょうか?
     さらに言えば、そこから「景気は大丈夫だ。財政再建のためには消費税を10%へ再増税だ!」という意図が透けて見える報道は本当に正しい在り方なのか?
     私は、景気の腰はまだまだ弱いと思っています。その上、さらなる増税なんて...。この警鐘が、素人の見当違いで終わればいいんですが...。
  • 2014年06月03日

    山手線新駅の行き着くところ

     どういうわけか、このところ鉄道に関する大きなニュースが毎週出てきていますね。というわけで、今週も鉄道ネタ。決して趣味に走っているわけではないんですよ。

     今日、JR東日本が正式に山手線の新駅設置を発表しました。
    『山手線30番目の新駅正式発表...駅名公募も検討』(6月3日 読売新聞) http://goo.gl/rD02zs
    <JR東日本は3日、東京都港区港南の山手線品川―田町駅間に新駅を設置すると正式に発表した。2020年の東京五輪・パラリンピックまでの開業を目指し、駅名は今後、公募も含めて検討する。>

     この路線を使っている方はお分かりだと思いますが、この品川と田町の間には、もともと大きな車両基地がありました。往年は、通勤電車だけでなく、特急電車、寝台特急専用の客車、そしてそれを引っ張る機関車も休んでいました。特急、急行が一堂に会する車両基地で、まさしく東海道線の華。我々鉄道ファンはこの田町の車両センターの脇を通るたびに視線が釘付けにされていました。
     そこも今や、機関庫も何も皆なくなり、工事の真っ最中。まず駅を造り、周りには高層ビルを建てるという再開発計画が進んでいます。操車場を潰して、そこを再開発というのは汐留にあった貨物駅を再開発した汐留シオサイトと同じ。汐留貨物駅に関してはすでに役割を終えていたので計画を実行に移しやすかったわけですが、今回は旅客線で使用していたところを潰すわけですから、用意に時間がかかりました。

     実は、この新駅構想は、実は東北縦貫線計画と連動しているのです。そのメドが立ったので、今回正式に新駅構想が発表されたというのはあまり触れられていません。

    『東北縦貫線の開業時期、愛称について』(2013年12月9日 JR東日本) http://goo.gl/VZGdGA
    <上野~東京間の開業時期について 2014年度末>
    『完成間近「上野東京ライン」 新幹線直上の鉄路を歩く』(5月4日 日本経済新聞) http://goo.gl/RYluJD
    <新路線が建設されたのは上野―東京間という都心部。とりわけ神田駅周辺は狭いエリアにビルが立ち並び、新たに鉄道を敷く用地がない。このため東日本旅客鉄道(JR東日本)は、神田駅付近の東北新幹線の高架橋上にもう一段新しい高架橋を建て、そこに上野東京ラインを走らせるルートを選んだ。>

     なぜ、この東北縦貫線が田町の新駅構想とリンクするのかというと、車庫問題。東海道線は田町と国府津に車庫がありますが、そのうち田町を潰す。すると、東京終着の列車をどこに戻すのか?という問題が生じます。この手当をしない限り、田町は潰せません。そこで、東北縦貫線が浮上してくるのです。

     現在、東北線は上野が終点。そこで折り返す列車は上野~秋葉原間の留置線に入るか、尾久にある車庫に帰ります。東北縦貫線上野~東京間が開通すれば、東海道線の電車も尾久まで回送して問題解決となるわけですね。東北縦貫線はもっぱら、上野~秋葉原間の山手線・京浜東北線の混雑解消が目的と報道されてきましたが、こういうわけで実は田町再開発構想ともリンクしているのですんですね。

     そして、そのためにJR東日本は東海道線でも東北線でも、着々と準備をしてきました。それが、先週も書いたブルートレインの廃止。というのも、寝台特急専用客車は昼の間は留置しておくよりほかに使い道がありません。それゆえ車庫は必要不可欠だったんですが、今回はその車庫を潰したい。そこで、東海道線側のブルートレインは2009年3月のダイヤ改正ですでに廃止されました。
     一方、東北線側のブルートレインだって関係ない話ではありません。尾久の車両基地に東海道線の車両も入ってくれば、ブルートレインに場所を与えるほどの余裕がなくなってきます。そこで、東北線のブルートレインは、『あけぼの』が今年3月に廃止され、『北斗星』は2015年末に廃止が決まったわけです。

     結局、山手線新駅構想、田町再開発計画を引き金に、最終的にはブルートレイン廃止に至るという、「風吹いて桶屋が儲かる」ような図式が成立するんですね。となると、JR東日本は鉄道会社なのか不動産会社なのか...?もちろん、営利企業であり上場企業なので、利益を出さなければいけないわけですからこれが時代の流れというものなのでしょうが、鉄道ファンとしてはちょっと切ない話です。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
「飯田浩司そこまで言うか!」

■会員制ファンクラブ(CAMPFIREファンクラブ)
「飯田浩司そこまで言うか!ONLINE」

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