2014年06月10日

経済欄の不都合な真実

 新聞の経済欄はこのところ、『消費増税の影響軽微!』のオンパレードとなっています。

『街角景気、増税影響和らぐ 「横ばい」下回るも5月は3・5ポイント上昇』(6月9日 産経新聞)http://goo.gl/41I07G
<内閣府が9日発表した5月の景気ウオッチャー調査によると、街角の景気実感を示す現状判断指数は前月比3・5ポイント上昇の45・1となり、2カ月ぶりに改善した。百貨店やスーパーなどで消費税増税に伴う駆け込み需要の反動減が和らいだ。消費者心理を表す消費者態度指数も5月は6カ月ぶりに上昇した。>

『IMF、消費増税の影響「うまく乗り切りつつある」 対日審査』(5月30日 日本経済新聞)
<声明は4月の消費増税の影響について「うまく乗り切りつつある」との見解を示した。企業の設備投資増加や設備稼働が上向いている点に触れ、「経済の底力は強まっている」との見方を示し、「今年後半には再び景気が回復する」との予想を示した。>

『消費増税後の景気:雇用と物価、堅調 落ち込みも「想定内」』(5月31日 毎日新聞)http://goo.gl/8QXjoq
<30日に公表された経済指標で、消費増税後の4月に消費や生産が落ち込んだものの、雇用や物価は堅調だったことが確認された。増税分の価格への転嫁が進んでいることは、企業や消費者のデフレ意識が後退していることを示していると言えそうだ。>

 各々の指数は良かったり悪かったりするわけで、新聞を斜めから読みがちな私などは「総じていい数字を大きく報じているんじゃないかなぁ」という印象があったんですが、先日内閣府から発表された『景気動向指数』を見てあながち間違ってもいないのかなぁと思いました。

『4月の景気動向指数 2か月ぶり悪化』(6月6日 NHK)http://goo.gl/bhrOlg
<ことし4月の景気動向指数は、消費税率引き上げの影響で、化粧品や日用品、自動車など幅広い品目で販売が落ち込んだことなどから、景気の現状を示す指数が2か月ぶりに悪化し、内閣府は基調判断を「足踏みを示している」に下方修正しました。>

 景気動向指数には3種類の指標があります。景気の動きに対して「いつ」反応を示すかでわかれるんですが、今回問題になったのは景気の動きに合わせて反応を示す「一致指数」というもの。これ以外に、景気の動きに先行して動く「先行指数」、遅れて反応を示す「遅行指数」という3種類があります。あまり言及されていませんが、先行指数は3か月連続で下落。消費増税前から、景気に先行して動く指数は落ち続けているということで、景気の先行きに対して不安があるということがわかります。ここで、生データを見てみると、さらに驚愕の事実が分かりました。景気の現状は、もっともっと厳しいかもしれません。

『景気動向指数 -平成26年4月分(速報)-』(6月6日 内閣府)http://www.esri.cao.go.jp/jp/stat/di/Preliminary.pdf

 まず、3ページから5ページにCI各指数が載っていますが、4月分はほとんどが赤文字。増税前の駆け込み需要からの反動減が際立っているのかもしれませんが、それにしても先行指数の「中小企業売り上げ見通しD.I.」が前月差-15.9とガタ落ちしていたり、一致指数の商業販売額が小売・卸売ともに前月差10ポイント以上落ち込んでいます。内需の冷え込みが、消費増税の影響軽微と言える以上に落ち込んでいるのではないかという疑念を抱きます。

 さて、ここまでは景気動向指数(CI)についての話でした。一方昔は、新聞の見出しにDIというものがあったのを覚えているでしょうか?それも、さほど昔の話ではなく、私が大学で経営学を学んでいた時(2000年代前半)もDIだった覚えがあります。そこで調べてみますと、実は、内閣府は2008年3月分まではDIを中心に発表していたんですが、それ以降CIというものを中心に公表するよう変わっていたんですね。この2つ、何が違うかと言えば、

・CI 景気変動を「量的」に把握する指数
・DI 景気変動の「方向性」を把握する指数

 これだけではよくわかりません。そこで金融用語辞典を見てみますと、

『金融用語辞典 【景気動向指数】』http://www.findai.com/yogo001/0022y01.html

CI(composite indexes) 基準となる年(この場合、平成22年)を100として、一致指数が100より上昇していれば景気は拡張局面に、逆に100より低下していれば景気は後退局面にあることがわかります。一致指数の変化の大きさは、景気の拡張や後退の大きさをあらわします。

DI(diffusion indexes) 採用された指標を3ヶ月前の数値と比較して、改善(プラス)、変化なし(横ばい状態)、悪化(マイナス)に分類します。改善(プラス)を1、変化なし(横ばい状態)を0.5としてそれぞれ合計して採用指標数で割ると、指数を計算できます。一致指数が50%以上なら景気が上向き、50%以下なら景気が下向きと判断されます。

 要するに、CIは平成22年と比べてどうかを指数化している。一方、DIは各指標のうちプラスのものがどれだけ含まれているかを数字化しているものと思えばいいでしょうか。そして、DI指数は50以上なら景気が良く、50以下なら景気が悪い。たしかに、バブル絶頂の1989年末は100.0。一方、リーマンショックの2008年9月~12月は0.0でした。そう考えてDIの数字を見てみると、愕然とします。

【2014年4月】
・DI先行指数 11.1
・DI一致指数 20.0
・DI遅行指数 25.0

 景気の動きに先立って動くDI先行指数などは、1月こそ80.0だったものの、2月(30.0)→3月(20.0)と来て、4月は11.1。このDIは3か月前との比較の数字を1か月ごとに連ねていくものですから、おおむね3か月は数字を見ないといけないと言われています。つまり、3か月分の数字を見れば、大体の景気の流れを見ることができるわけですね。ということは、景気の先行きを示す先行指数が3か月連続で50を割って、さらに数字がどんどん落ち込んでいるというのは、景気が下向きの方向に行っているのではないでしょうか?少なくとも、先行きは非常に厳しいと判断していいのではないでしょうか?
 内閣府はCIを見て「景気は足踏みしている」と書きますが、そんな甘いものではないと思います。いわんや、『街角景気、増税影響和らぐ』『消費増税後の景気:雇用と物価、堅調』なんて楽観的な数字は大見出しで書きつつ、このDIのような不気味な数字はほとんど報じないのは、社会の木鐸たる新聞として正しい在り方なのでしょうか?
 さらに言えば、そこから「景気は大丈夫だ。財政再建のためには消費税を10%へ再増税だ!」という意図が透けて見える報道は本当に正しい在り方なのか?
 私は、景気の腰はまだまだ弱いと思っています。その上、さらなる増税なんて...。この警鐘が、素人の見当違いで終わればいいんですが...。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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