2014年06月17日

【集団的自衛権】 リアリズムを持った議論を

 集団的自衛権について、各メディアも盛んに報じています。しかしながら、与党協議がもつれればもつれるほど政局の話が多くなってきていて、そもそも何が議論されているのかわからなくなってきました。
 もともと安倍総理が提唱していた『集団的自衛権』とは、片務的な日米安保条約を双務的にするために必要なものだという説明で、総理の兼ねてからの持論でした。

『自民党総裁選候補者データ 安倍晋三氏』https://www.jimin.jp/sousai12/candidate/abe.html#shoken
<日本は信頼を取り戻し確固たる日米同盟を築くため、集団的自衛権の行使を認める憲法解釈に変更する必要があります。>

『第165回国会における安倍内閣総理大臣所信表明演説』(平成18年9月29日)
<大量破壊兵器やミサイルの拡散、テロとの闘いといった国際情勢の変化や、武器技術の進歩、我が国の国際貢献に対する期待の高まりなどを踏まえ、日米同盟がより効果的に機能し、平和が維持されるようにするため、いかなる場合が憲法で禁止されている集団的自衛権の行使に該当するのか、個別具体的な例に即し、よく研究してまいります。>

 これに対して、政権の主張に近い読売・産経はこれに賛意を示しました。
 一方、朝日・毎日・東京は、日米安保条約は片務的ではない。旧安保はアメリカに日本防衛義務がないなど片務的であったが、今の新安保はアメリカに日本防衛義務が生じ、一方日本はアメリカを防衛しようとしてもできないから、基地の提供という義務を負っている。双方義務を負っているんだから、これは双務的である!という主張。そして、そもそも現憲法下、現憲法解釈のもとでも十分双務的であるんだから、安倍総理のいうように恥じることなど何もない。日本は応分の義務をすでに背負っているのだから、これ以上集団的自衛権などと踏み出す必要がないとしています。

 しかし、ここには論理の矛盾があるように思うのです。日米安保条約が双務的であるのなら、これはその時点で集団的自衛権をすでに実質的に行使しているのではないか?なぜなら、日米安保条約は日本を守るという個別的自衛権の事案のみならず、「極東の安全に資する」という一文が加わっているので、安保条約を双務的に履行しているとするならば我が国が極東の安全に力を発揮していることになる。実際、日米安全保障条約を根拠に、日本復帰後の沖縄の基地から長距離爆撃機B-52は北ベトナムを爆撃したわけで、安保条約が双務的であるならば、事実上集団的自衛権を認めているようなものではないでしょうか?

 一方で、我が国周辺の状況というのはやはり厳しくなっているようです。先日、『中国とどうつきあうか?』というテーマで、防衛省防衛研究所主任研究官の増田雅之氏の講演を聞く機会があったんですが、まず中国の現行の南シナ海、東シナ海での膨張について、「その行動のベースには『アメリカの衰退』という情勢分析があることは間違いない」とのこと。さらに、中国は2009年までの『韜光養晦』政策(周りの諸国との軋轢を回避しようという政策)を消極的であったと反省し、周辺国との軋轢もお構いなしの進出が続いています。南シナ海に関してはアメリカはこれ以上コミットしないであろうと読んでいて、実効支配で既成事実を積み上げることでアメリカがさらにコミットしづらい状況を作り出すことを目的としているようです。そして、現状、読み通りの状況が生まれつつあることを指摘しています。
 そういった周辺状況の下、日中の戦力差は、現在国防費の公表ベースで中国が日本の3倍。2020年には7~8倍。30年には12~3倍となります。もちろん、兵の練度、近代戦への対応力は圧倒的に日本に分がありますが、兵のレベルは劣っていようとも物量で、人海戦術でやられる可能性は残されています。何しろ、規模の違う国であり、一対一では敵わない。
 そこで日米同盟の重要性がクローズアップされるわけですが、アメリカが引き気味にコミットする可能性がある以上、地域の国々を強くすることの重要性を強調していました。

 専門家による長期的な分析をもってしても、今後個別的自衛権のみで我が国を守るのは苦しい。その上、今後ますます厳しくなっていくことが予想されています。もはや、一刻の猶予もなし。国会会期末まであと5日。リアリズムを持った議論を期待します。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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