2014年06月23日

電力自由化の影の部分

 先日閉幕した平成26年通常国会。内閣提出・議員提出合わせて82本の法案が成立した中、会期後半に気になる法律の改正案が成立しました。電気事業法改正案です。

『電力小売り 完全自由化 28年めど 改正電事法が成立』(6月11日 産経新聞)http://goo.gl/v0cTfF
<電力小売りの全面自由化を柱とする改正電気事業法が11日、参院本会議で自民、公明、民主各党などの賛成多数で可決、成立した。安倍晋三政権が3段階で進める電力システム改革の第2弾で、平成28年をめどに家庭が電力会社を自由に選べるようにする。政府は、大手電力10社が地域ごとに販売を独占する家庭向け電力供給の市場を開放し、新規参入を促してサービスの多様化や料金引き下げにつなげる考えだ>

 どの新聞の記事も大体、「新規参入を促してサービスの多様化や料金引き下げにつなげる...」というような内容のことが書いてありました。たしかに、教科書通りに理解すれば、独占状態にあった市場で競争がなかったところに、競争が生まれれば各企業が切磋琢磨するからサービスは良くなり料金は下がるはず。そうなってくれれば、私も一消費者として喜ばしい限り。しかし、少し調べるとそうもいかないことがわかります。原因は、『再生可能エネルギーの固定価格買い取り制度』です。

『なっとく!再生可能エネルギー』(資源エネルギー庁HP)http://goo.gl/9hAe8L

 出力規模などにもよりますが、太陽光発電で1Kw/時あたり32円で20年間。風力は同じく1Kw/時あたり22円で20年間。他に、地熱、水力、バイオマスについて価格が決められています。これは法律で買い取り価格が決められていて、さらに、今のところは発電された全量を買い取ることが電力会社に義務付けられています。

 現状普及が遅れているとされる再生可能エネルギーの普及を目的に、参入企業にインセンティブを持たせるために買い取り価格が高めに設定されているわけですが、問題はこれを電力会社が負担するということ。電力会社は営利企業ですから、利益を出すためにこの買い取り価格分は利用者の電気料金に転嫁されます。さらに、この買い取り価格は今から20年間固定ですから、この先爆発的に再生可能エネルギーが普及してコストが下がったとしても、その恩恵は消費者には及びません。ただただ、発電業者がその利ざやを総取りするわけで、小売り自由化をしたところで電気料金は下がらない可能性が高いということです。

 さらに、現状大規模高効率の蓄電池というものは多くありませんから、電気は原則貯めておくことができません。常に需要と供給が一致するように、実は発電側は微妙な調整を随時行っているんですね。そんな状況の中で、国は法律で『全量』買い取りを義務付けているわけです。ということは、電気使用量の増減に関わらず再生可能エネルギーでできた電力は使われなくてはならなくなります。電力供給会社からすれば、コストの高い電気を最優先でまずは仕入れなければならない。火力発電などの既存の安定的で安くできる電気は後回しにせざるを得ません。そうなれば供給会社はどうしたって高コスト体質になりますし、発電会社はワリのいい太陽光や風力以外の発電方法を取ろうとはしないでしょう。結果、ワリはいいが自然相手で不安定な発電方法が日本の主流となり、電力供給は不安定になりはしないでしょうか?

 消費者の側からの視点でまとめれば、発電コストの高い再生可能エネルギー由来の電気を固定価格買い取り制度で全量買い取りが義務付けられている以上、電気料金は下がらない。その上、この制度を続ける以上、電力供給が不安定になる可能性が高い。結果、消費者は高くて不安定な電力を買わざるを得なくなる。あまりメディアは報じませんが、自由化の理想とは正反対の結果を生む可能性を秘めていると私は危惧しています。

 再生可能エネルギー先進国のドイツでは、そのリスクがすでに現れているようです。少し前ですが、こんな報告書が出されました。

『ドイツの再生可能エネルギー法は失敗だったのか?』(JBPress 3月12日)http://goo.gl/KxSuul
<2月26日、ドイツで衝撃的なリポートが発表された。EFI(Expertenkommission Forschung und Innovation=研究・革新専門家委員会)といって、2006年にドイツ政府によって作られた6人の専門家からなる調査グループの提出したリポートだ。(中略)EFIのホームページに載っている同リポートの要約は、「EFIは、再生可能エネルギー法の継続を正当であるとする理由は見つけることができない。再生可能エネルギー法は電気代を高騰させるのみで、気候変動の防止も技術改革も促進しない」となっている。>

 ドイツでは電気料金に占める再生可能エネルギー補助金の割合は5分の1に上り、電気料金を払っているのか補助金を払っているのかわからない状況。そして、多少効率が悪くても低コストならば確実に補助金が手に入るということで、発電企業側はわざわざ高い研究開発費を払って効率を求めるモチベーションが生まれず、結局技術革新も促進しないということを、この提言では指摘しています。日本のメディアはこの報告書についてはさほど報じれらませんでしたが、海外メディアは詳しく報じていました。

『Germany must scrap its green energy law, say experts(ドイツ政府はグリーンエネルギー促進法を捨て去るべきと専門家が提言)』(ロイター 2月26日)http://goo.gl/6S5w1z

 脱原発、発送電分離のモデルとされるドイツでは、すでに自由競争の負の側面が顕在化して来ているわけです。「安いエネルギーがいいか、多少高くても安全で地球にやさしいエネルギーがいいか選択できるのが八送電分離なのです」と、ドイツの例を引きながら説明されることが多いのですが、そのドイツではどのエネルギーを選ぼうとも平均的に値段が上がってしまっています。この先行事例にどう学ぶか?それとも同じ轍を踏むのか?国民的議論がないままに電気事業法が改正されてしまったのは、ちょっと気になりました。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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