2014年06月30日

対話!対話!というけれど、その相手は誰?

 安倍政権は発足以来日中関係について、「対話のドアは常にオープンである」と言い続けています。これに対し、国内のリベラルメディアは、「対話しろ!こちらから対話しろ!何はなくとも対話しろ!」の大合唱でした。それだけに、明日、日中局長級協議開催となると大きく取り上げます。

『日中の局長級協議 開催で調整』(NHK 6月30日)http://goo.gl/QtNo7p
<外交筋はおよそ2か月前に就任したばかりの孔局長との顔合わせが主な目的だとしていますが、沖縄県の尖閣諸島や歴史認識を巡って冷え込んだ状態が続いている日中関係の改善と、途絶えたままになっている日中首脳会談の実現に向けた糸口を探る話し合いも行われるとみられます。>

 これまでも、こと日中関係に関しては野党の党首や元総理が動いただけでも大きく扱われています。私も、どんなパイプであれ、日本の国益に反しない限り対話ができればいいんですが、問題はこういった動きが的確にカウンターパートに届いているかどうか?どうも、そこのところがあまり報じられていない気がするんですね。要するに、的確な相手を選んでいるのか?というところです。

 そこで、中国政府、中国共産党の権力構造を分析する必要があるんですが、これについて今月中旬、興味深いニュースがありました。

『首相のしきる経済まで掌握した「習皇帝」』(6月16日 東亜日報)http://goo.gl/nOMtQm
<15日付の国営新華社通信などによると、習主席は13日、組長として第6次中央財経領導小組(財経小組)会議を開き、エネルギー消費と供給、技術、収拾システムで4大革命が必要だと力説した。同通信は、今回の財経小組の執行部がいつ確定したのか明らかにせず、習主席が組長、李克強首相が副組長として出席したと紹介した>

 さすがは最近国を挙げて中国に接近している韓国のメディア。日本のメディアよりも的確に分析しています。
<政治などは国家主席が、経済部門は首相が取りしきる中国の集団指導体制が「皇帝主席」習近平の「1人支配体制」に転換しつつある。>
とまで断じているのです。この財経小組は今まで5回会合をしてきたんですが、誰がトップかを明らかにしてきませんでした。経済に関する会議ですから、慣例通り李克強首相が組長を務めているであろうと誰もが思っていましたので、今回習主席がトップと発表されて中国ウォッチャーたちは驚いたわけです。ついにここまで習主席への権力集中がすすんだかと。

 今までの集団指導体制と違って習主席への権力集中が顕著になるということは、どの外交チャンネルが習主席と繋がっているのかを見極める必要があるということです。日本の感覚であれば、外交関係は外務省に決まっているだろうと思うんですが、中国ではそうではないというのが専門家の見立てです。では一体どこが習主席と繋がっているのか?断定的なことは言えませんが、ある防衛の専門家は去年11月の3中全会(党中央委員会第三回全体会議。習近平政権の政策方針を打ち出す重要政治会議)で設置が決まった中国版NSCに注目します。この中国版NSCは去年11月に設置は決まったものの、その後半年音沙汰なく、4月に第1回会合が開かれました。

『中国、国家安全委員会が初会合』(4月16日 日本経済新聞)http://goo.gl/57nBgG

 当時は小さなニュースとして、扱ってもせいぜいベタ記事程度。というのも、まだ顔ぶれがはっきりしていなかったから位置づけが分からなかったのです。

<同委員会は習氏が主席、李克強首相と全国人民代表大会(国会に相当)の張徳江委員長が副主席を務めるが、その他の構成員は公表されていない。国営中央テレビも初会合の映像を伝えず、顔ぶれは不明なままだ。>

 専門家が特に注目していたのは、この「その他の構成員」の部分。特に、事務方をどこがとるのかが注目されていました。なぜなら、この中国版NSCは習主席肝いりの組織。その主導権をどこの省庁が握るかによって、今後中国政府内でどこの省庁が主導権を握るかが分かるからです。
 大方の予想は2つ。外交関連だけに、外交部が事務局を出すか。あるいは、この中国版NSCは国内治安を受け持つという予想もありましたから、公安部から事務局が出るか。いずれにせよ、公安、外務の綱の引っ張り合いだろうというのが専門家の見立てでした。しかし、それらの予想は鮮やかに裏切られます。
 最近判明した中国版NSCの事務方トップは、党中央弁公庁主任の栗戦書氏。政府側の外交部でも公安部でもなく、党側が主導権を握ったことを意味します。そして、その意味するところは、この中国版NSCにおいても習主席に権限が集中していることと、党中央弁公庁主任という習主席最側近が事務方トップということで、中国版NSCは習主席への最短ルートとなったということです。

 さらに言えば、外交部の役割の低下です。実は外交部、中国外務省は海洋政策でも役割を減らされ続けています。2012年の後半に党中央に「中央海洋権益工作領導小組」という組織が設けられ、去年には国務院に「国家海洋委員会」が設置されました。さらに、その下にある国家海洋局が再編され、権限と予算が大幅に増やされています。そんな流れの中で、従来海洋政策を担ってきたはずの外交部辺海局、条約局の役割が低下してきているというのです。

 習近平国家主席への権力の集中著しい中にあって、どんどん影響力を減らしていく中国外務省(外交部)。ということは、従来の外交ルート、中国外務省相手に折衝したところでタカが知れています。前述の防衛専門家は、
「今後はNSCに注目だ。中国版NSCは外交部以上に習主席と繋がっている。となると、カウンターパートとなる日本版NSCも当然忙しくなるだろう」
と話してくれました。
 日露関係と同じく、公式ルートの外務省同士がこう着した時にセカンドトラックたるNSCの存在感が増す。それだけでも、NSCを設置した意義があるというものです。安倍政権の対中政策を批判するなら、どこの部署を窓口にしているのかも踏まえたうえで批判しなくてはなりません。中国外務省と対話していれば安心。中国外務省と対話できない安倍政権はけしからんという文脈の報道は、あまりに本質を外しています。それとも、日本のNSCに存在意義が出てしまってはメンツが潰れてしまうメディアがあるのでしょうか?
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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