• 2020年03月16日

    福島の漁業・その後

     東日本大震災から9年、福島県浜通りを取材してきました。
     去年から今年にかけてはJR常磐線の全線開通やJヴィレッジのグランドオープン、オリンピックの聖火リレーのスタートが福島県浜通りに決まるなど明るい話題も豊富。のはずだったのですが、一連の新型コロナウイルス対応で人が集まるようなイベントが自粛を余儀なくされ、各地の追悼式典も中止や縮小が相次ぎました。
     3月11日当日を除くと、コロナに押されてあまり報道も多くなかった印象。ですが、一歩ずつ確実に復興しています。

     3月10日の放送では、拙著『「反権力」は正義ですか』(新潮新書)でも触れた福島の漁業のその後を追いました。2年前の2018年に県の水産試験場を取材したのですが、当時は庁舎の建て替え工事の真っ最中で、いわき市小名浜にあった仮庁舎にお邪魔しました。


     当時は、出荷制限を受けていた魚種が10種類程度あり、まずは全魚種出荷できるようにするのが大目標でした。
     福島県沖で獲れるほとんどの魚種が出荷制限をクリアしましたが、残った魚種の制限クリアが遅れたのには理由がありました。
     まず、それらの魚の多くは福島県沖ではほとんど掛からない魚だったこと。たまたまモニタリング時に掛かって検査した結果基準値を上回った場合、出荷制限魚種と認定されてしまいます。普段掛からない魚なので、次回試験操業時にも掛からずに、制限魚種のままリストに残ってしまいます。結果、消費者には「福島の海域では、まだ出荷制限が残っている!」という負のイメージが残り続けることになってしまいました。
     さらに、この出荷制限を解くには、同じ海域で獲らなければいけないという決まりもありました。魚はその性質にもよりますが、大海原を自由に泳ぎ回るものです。同じ魚種が同じところで掛かる保証はありません。その上、繰り返しになるが出荷制限がかかっていた魚の多くはそもそも福島沖ではあまりお目にかかれないような魚たち。
     メディアは出荷制限魚種がリストに残っていることを根拠に「復興はまだ道半ばです」とか、「原発事故の影響がまだ残っています」などと安易に結論付けてきましたが、その裏で福島の漁業関係者は、森の中である特定の葉っぱを一枚探すような、砂漠である特定の砂粒を探すような厳しい課題と戦っていたのでした。

     去年の7月、県の水産海洋研究センターがオープンしました。もともとあった県の水産試験場を改組し、新たな施設と新たな組織での再スタートです。
     水産試験場というと、魚の生態を解明することで水産資源の充実を図ったり、漁法の開発、養殖や畜養などの研究が主ですが、福島ではそこに放射性物質への対応や水産物の安全性を確保する研究拠点としての位置づけも付与されました。
     まさにその放射性物質への対応を最前線で行う放射能研究部の神山部長は、
    「震災後、手探り状態の中、1から我々も学び、放射性物質への対応をしてきた。今まではまず基準値を超えていないかを測るところからだったが、より詳密な検査ができる機器を入れたことで、魚類の体内や海洋の中で放射性物質がどう動くかなど、より根源的な研究もできるようになった。また、飼育実験も行える施設もできた。大学など他の研究機関との連携も行っていきたい」
    と、この新しい施設の意義を話してくれました。

     この9年で様々なことが分かってきたようで、その一つが魚の世代交代。前回の取材でも、海水魚はセシウムをため込まずに排出する性質があり、親から子へ放射性物質を受け渡すようなことはないということが分かったとこのブログにも記しましたが、9年たってほとんどの魚が震災後生まれとなったことも基準値超えがほとんど出なくなった要因の一つのようです。

     一方、現場ではその後も粘り強くモニタリング調査が続けられ、ついに先月25日、全魚種で出荷制限が解除となりました。最後まで残っていたコモンカスベ(エイの一種)は、県のモニタリング調査では国の基準である1キログラムあたり100ベクレルを下回り続けていたのですが、漁協の自主検査で去年の1月に100ベクレル超えが出たそうで、追加のモニタリングが続けられていました。
    去年2月以降、1008の検体を調査し、うち1001検体で検出限界値未満、残り7匹も一番高い検体で17ベクレルと国の基準を大幅に下回ったので解除となりました。

     とはいえ、現在も県によるモニタリングと漁協が行う自主検査の2段構えで基準値超えの魚が市場に出回らないように厳しい検査体制を敷いています。
     自主検査を行っている場所の一つでもある小名浜魚市場も取材しました。市場を運営する小名浜機船底曳網漁協の中野聡さんは、
    「国の基準の(1キログラムあたり)100ベクレルよりも厳しい50ベクレルを合格基準としてやっている。さらに、25ベクレルを超えてきた魚は県の施設で検体の精密検査をしてもらうという段取りを組んでやっている」
    と説明してくれました。

     まさに、消費者の安心を勝ち取るために、現場としてできることは何でもやるという姿勢で必死に検査をしているのです。その姿勢は、生産したコメを全量全袋検査している福島の農業関係者の姿と重なりました。
    「安全は科学的に証明できるが、安心は個々人の心の問題だから左右できない。こちらとしては、安全を数字で示すために何でもする」
    と検査場で切々と私に訴えたコメの生産者の方々と目の前の中野さんの姿が重なって見えたのです。そのことを中野さんに話すと、
    「でもね飯田さん。農業と漁業ではまた違った難しさがあるんですよ。我々はランダムにサンプリングで検査を行っている。もちろん統計的に有意な形で抜き取り検査をしているが、本当はコメみたいに全数検査したい。ただ、それをやっていたら魚はすべてダメになってしまうでしょ?農業は後追いできる。どこで誰がどんな環境で育てて、その結果としての放射線量まで紐づけできる。でも、魚はどこから来たかわからないでしょ?より難しいんですよ」

     しかし、だからといってあきらめるわけではありません。最後まで出荷制限を受けていたコモンカスベの対応こそ、福島の漁業関係者の姿勢の表れだと言います。
    「基準値を超えたものは正直に出す。これに尽きる。正直に情報を出して、市場には出さない。」

    何のために検査を行っているのかをしっかりと見据えて仕事をされているのを感じました。それは、食べる人の安全を守るということ。自分たちにとっては不都合な数字であっても、あるいはあればこそきちんと公表し、人々の口に入らないように迅速に対処する。この積み重ねによって、信頼を勝ち取っていくよりほかに方法はないと覚悟を決めています。

     それゆえ、いま最も心配されているのが根拠不明のデマの類です。
     この新型コロナウイルスの流行に伴って、マスクやトイレットペーパー、ティッシュペーパーなどの紙製品、果ては納豆まで買い占めが起こり、棚から物が消えたという現象が起こりました。需要が供給を超えたマスクはまだしも、トイレットペーパーやティッシュペーパーはその大部分が国内製造で中国で流行したから品薄になるようなものでもなく、また流通機能はマヒしたわけではないので待っていれば入荷するというのに、大騒ぎがなかなか収まりません。
     メーカーや流通業者、それに政府までが在庫は豊富にあり、あわてる必要はないと画像付きで訴えてもなかなか収束しないこの騒ぎを、福島の漁業関係者は息をひそめて見つめています。

     福島の海産物が科学的に安全であることは数字を見ればわかるし、市場に出ているものは厳しい基準をクリアしたもの。モニタリング調査の結果はホームページを見ればほぼリアルタイムに近い形で可及的速やかに載せている。
     福島第一原発の敷地内に貯められている処理水を適切に処理し、希釈して放出していも科学的には安全であると言える。
     論理では十分に説明がつくが、これだけ根拠不明のデマが出回る日本社会でふとした拍子にバッシングされたら取り返しがつかなくなってしまうのではないか...。

     福島の農林水産業を取材すると、結論はいつも同じになるのですが、科学的には安全であると数字が証明しています。その上で、安心は一人ひとりで違うものですから、誰々が言ってたからとか、テレビでやってたからではなく、まずは数字を見てご自身で判断いただければと思います。ホームページ上にモニタリング調査の数値がほぼリアルタイムに近い形でタイムラグなくアップされています。

  • 2020年02月17日

    消費税増税現場への影響

     国内のニュースは、中国湖北省武漢市を中心に拡大の一途をたどる新型肺炎についてでほぼ一色になってしまっています。いよいよ国内で日本人同士での感染が報告され、市中感染であることが濃厚になる中、自衛の手段などを報道するのは必要なことでしょう。
     一方で、普段であれば大きく取り上げられそうなニュースが小さかったり印象に残らなかったりします。経済に関するニュースなど、真っ先に端に追いやられるものですが、インパクトは普段以上の数字が出てしまいました。

    <内閣府が17日発表した2019年10~12月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除く実質で前期比1.6%減、年率換算では6.3%減だった。5四半期ぶりにマイナス成長に転じた。19年7~9月期は年率換算で0.5%増だった。消費増税前の駆け込み需要の反動減が響いたほか、大型台風や暖冬による消費の伸び悩みも重荷となり、年率でのマイナス幅は14年4~6月期(7.4%減)以来の大きさだった。QUICKが集計した民間予測の中央値は前期比1.0%減で、年率では3.9%減だった。>

    民間予想がマイナス4%前後だったことを考えると、市場の想定以上のマイナスとなったわけです。政府発表の一次資料を見ますと、その痛手がわかります。


     これを見ると、内需が徹底的に傷んだことが良くわかります。季節調整済みの実質でマイナス2.1%。さらにその中でも民間需要の落ち込みが顕著で、同マイナス2.9%という厳しい落ち込みとなっています。

     この急落に対して新聞各紙は判で押したように「駆け込み需要の反動や台風、暖冬」を原因に挙げていますが、果たしてどうでしょうか?
     駆け込み需要の反動減を言うのであれば、まず消費税増税した10月1日の直前は駆け込み需要があって内需が伸びていなくてはいけませんが、肝心の7~9月期の国内需要は季節調整済みの実質でプラス0.4%。民需は同プラス0.2%に過ぎません。駆け込み需要がなかったのに反動減だけがあったわけで、これは消費税増税が純粋に需要を押し下げたという方が理にかなっているのではないでしょうか?

     台風の影響は確かに甚大でしたが、全国の数字を積み上げたGDPの値にどこまで影響するのかは考えなくてはいけません。何しろ、毎年のように台風が来ていますが、どうして今回だけGDPの値に甚大な影響を与えることになったのか?
     また、暖冬の影響を言いますが、1月からの数字ならまだしも、今回発表になったのは10月~12月の数字ですから、そもそも期間の前半は冬ですらありません。
     内閣府からのレクチャーをそのまま各社記事にしているのでしょうが、私のような素人でも数字を見ればわかることがなぜ記事にならないのか?不思議でなりません。こういう記事の積み重ねが誤った経済判断を招き、結果的に政策判断を誤らせるとしたら、これほど罪深いことはありません。
     拙著『反権力は正義ですか』でも記しましたが、経済は人の生き死にを左右するのです。詳細はお読みいただければと思いますが、経済的要因の自殺率と失業率の間には高い相関があることが分かっています。失業率は当然経済状況に依存します。不景気で失業率が改善することはめったにないのですから。

     さて、この経済減速の要因については、上に挙げた駆け込み需要の反動や台風、暖冬に加えて、今回の新型肺炎も理由にしながら、巧妙に消費税増税の影響が隠されてしまっています。それだけに、実体経済にどれだけの影響があるのか、現場での聞き込みが重要になります。
     私が担当している朝6時からの番組『OK!Cozy up!』では、今週「消費税増税から人手不足まで ちまたのニュース 意外な裏側」と題してお送りしておりますが、今日は練馬のスーパーアキダイの秋葉社長に話を伺いました。


     放送でも少し触れましたが、今回の消費税増税はキャッシュレス取引のポイント還元などもあり、今までの増税の中で最も混乱したそうです。
     特に問題になったのが、キャッシュレス決済。
     お客さんと直接触れ合う小売店では従来現金での決済が大半でした。お金に色はついていませんから、お客さんから入ったお金をそのまま取引先との支払いにすることも物理的には可能だったわけです。
     それが、キャッシュレス決済になると、各運営会社からの入金を待たなくてはなりません。その期間の分だけお金は回らずに塩漬けになってしまうわけですね。
     各運営会社で決済から入金までの時間差はまちまちですが、いろいろ取材してみると「○○Pay」といったスマホ決済は比較的短く2,3日というところもありました。一方、クレジットカード会社は長く、月末締め翌月末支払いというところも。そうすると、最長で丸々2か月資金が寝てしまうことになります。
     ところが、仕入れ先はそこまで支払いを待ってくれるわけではありません。そもそも今まではタイムラグなしで回していただけに、手元に資金が乏しくても右から左へお金を流していくことで商売が回っているところがありました。
     今回のキャッシュレス導入で生じたこの時間差が意外と経営に影響します。
     アキダイの秋葉社長も、
    「取引先には現金で決済していくから、手元からどんどん資金が減っていく。一方で入金は1か月2か月後。当然手元資金がどんどん減っていって、銀行に融通してもらうしかなくなった」
    とこぼしていました。
     知り合いの税理士さんに聞くと、こうした例はこの年末けっこう見かけたそうです。特に、業績が好調で堅実に商売をしてきた会社で当座資金ショートしかかる例が多かったようです。大手であれば潤沢な手元資金で乗り切れますし、個人商店的な小規模企業であればタイムラグで生じる資金需要もさほど大きくないので乗り切ることが出来る。ところが、小から中規模程度の比較的優良な企業が今回一番苦しんだといいます。

     秋葉社長は最後に一言漏らしました。
    「政府は果たして我々中小企業を必要としているのだろうか?今回のやり方を見ていると、大企業中心の分かりやすい経済に移行しようとしていると疑問をもってしまう」

     2019年度版中小企業白書によれば、中小企業は全企業の99.7%を占め、従業員数も全体の7割、付加価値も全体の約53%とのことです。雇用の面からも付加価値創造の面からも、日本経済を支えているのは中小企業です。
     ここを痛める消費税増税はやはり悪手であったと言わざるを得ません。
  • 2020年02月12日

    総力戦

     このところ毎日のように、新型コロナウイルスについてのニュースが更新されていき、国内メディアの報道はもうこれ一色という感じになってきました。1か月以上前からこれは大変なことになるかもしれないと警鐘を鳴らしてきましたが、結果として予想通りとなってしまい力不足を実感しています。
     中国・湖北省武漢を中心に、大都市圏を中心に中国各地に拡大しているこの新型コロナウイルス由来の肺炎。日本では先月中旬から患者が出始め、原稿を執筆している12日午後の時点で、クルーズ船ダイヤモンドプリンセス乗船者を含めて174人となりました。特に深刻なのは、このダイヤモンドプリンセスで検疫業務にあたっていた検疫官からも感染が確認されたことです。

    <集団感染が広がっている。クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の船内で検疫をしていた厚生労働省の男性検疫官が、新型コロナウイルスに感染していたことがわかった。
    検疫官の感染確認は、初めて。
    この男性検疫官は、2月3日から4日まで、船内で乗客の体温の測定や質問票の回収業務を行っていたが、9日に発熱などの症状があり、ウイルス検査の結果、新型コロナウイルスの陽性反応が出たという。
    船内では、医療用マスクや手袋を着用し、作業ごとに消毒をしていたが、防護服は着用していなかった。>

     なによりも、検疫官がなぜ防護服着用で作業をしていなかったのか?船内で体温の測定や質問票の回収作業を行っていたということであれば、事前に相当長い時間を感染が疑われる方々とともにすることがわかっていたはずです。
     2月3日時点ですでに、この新型コロナウイルスが人から人へ感染したと数多くの報告例があり、国内でも感染が疑われる中国・武漢からの観光客を長時間載せていた観光バスの運転士やガイドの感染が報告されていました。あらかじめ濃厚接触が予想されているのであれば、なぜ防護服を導入できなかったのか?
     もしそれが、当時防護服が手配できない品薄状態が原因であれば、より多くの問題を孕みます。たしかにその時期(今もですが)、巷ではマスクや防護服が店頭から消えていました。

    <マスク以上に品薄状態になっているのが防護服です。主に中国に本社を置く日本法人から問い合わせが多いといいます。現状、品薄の状態で1カ月以上待ちだということです。>

     1月末の時点で品薄状態。一か月待ち。これでは、2月初旬に急遽対応しようとしても間に合わないのも当然かもしれません。しかし、ある所にはあるのです。

    <【2月8日 Xinhua News】阿里巴巴(アリババ、Alibaba)公益基金会は7日、日本が中国に医療用防護服10万着を追加支援することを明らかにした。防護服は同会を通じ、需給がひっ迫している中国の病院に届けられる。アリババグループはさらに、日本の電力各社と日本原子力研究開発機構(原子力機構)から2万4200着の放射線防護服を調達、あわせて必要とする機関に送付される。>

     AFPの記事ですが、元は中国・新華社通信です。中国の公式発表に近いものですから、間違いはないでしょう。日本から防護服2万4千着あまりが中国に渡っていたのです。
     これが平時ならば美談ですし、困っている隣国に手を差し伸べることに異論はありません。政治体制の違いや安全保障上の対峙点などは中国の姿勢を全く容認できるものではありませんが、緊急時の人道的な支援は出来る範囲でするべきであるというのが私の立場です。もちろん、その際にも言うべきはきちんと言い、かつ本当に困っている人のもとに届くよう、場合によっては横流しを監視するために要員を派遣するなども必要かもしれません。

     ですが、今回は日本国内も有事に等しい状況になりつつあります。現場で防護服が足らなくなっているにも関わらず、在庫の防護服をそちらに回さず中国にもっていくのは「出来る範囲の」支援を完全に超えてしまっています。
     人によってはこれで中国に恩を売るのだと言いますが、中国が日本に対して恩を感じていたらなぜ今この瞬間にも尖閣周辺に公船を派遣して日本の主権に挑戦し、航空機を領空ギリギリに飛ばして航空自衛隊を挑発してくる必要があるのでしょうか?
     それに、そもそも無理をしてまで恩を売る必要はありません。恩を売るというとなんだか上から目線ですが、無理をしてまで防護服を送るのはただ単に「媚びを売る」行為に過ぎません。

     政府はようやく今日になって中国全土への渡航延期勧告ならびに在留邦人の早期一時帰国を呼び掛けるスポット情報を出しました。


     となると、中国全土から邦人の引き上げが行われる可能性が高くなってきます。そうでなくとも湖北・浙江以外からの旅客は日本への入国がほとんど支障なくできる状況ですから、潜在的な感染者が多数流入し、かつそれが人から人へと拡散するリスクが高まっています。
     残念ながら、もはや水際で防ぐというフェーズを超えてしまった可能性があるのです。専門家の方々も軸足を水際から治療へと変えてきています。

    <人から人への感染や無症状の感染者が国内で確認され、既に各地でウイルスが静かに拡散している可能性は高い。そうすると水際対策の効果は薄くなる。これまで日本の水際対策は一定の効果を見せているが、これ以上強化すべきではない。むしろアクセルを緩めるべき時がきている。>

    これを読むと、「緩めるとはどういうことだ!?」と思ってしまいますが(私もそう思いました)、肝心なのはその先です。

    <(中略)今やるべきことは、水際対策の強化よりも国内対策だ。ウイルスが広がっても適切な治療を迅速に提供できるようにすることだ。
    感染症の専用入院施設は全国で約1800床。軽症患者まで入院させればすぐに埋まってしまう。重症者を優先して治療する仕組みが重要だ。>

     今武漢で起こっているとされている医療崩壊は、医療機関が捌ける数をはるかに超える人々が押し寄せた結果、罹患していない人が病院で待っている間に感染したり、軽傷だった人が重症化したり、疲弊し免疫力が低下した医療関係者にも感染が広がり、さらに医療の供給量が減少して捌ける数が激減し...と負のスパイラルに陥った結果でした。
     同じことを起こさないためにも、万全の医療体制を組んで立ち向かわなくてはなりません。特に重症者を診る医療関係者のためにも、防護服、マスクなどの物資は潤沢に供給しなくてはいけません。

     初手の水際対策では残念ながら防げず、我が国に侵入を許したこの新型コロナウイルス。治療体制で失敗は許されません。

     そのためにも、物資の確保は最重要となるわけです。それでも、今、防護服やマスクを中国に送りますか?

     さて、ニッポン放送の各番組で取り上げられたコロナウイルスについての情報や専門家コメントをPodcastに集約しました。 最新の情報、有識者の見解を得るひとつの情報源としてぜひご活用ください。
  • 2020年01月31日

    反中国が正義とは限らない

    おかげ様で、拙著『反権力は正義ですか ラジオニュースの現場から』を今月17日に新潮社から上梓し、ありがたいことに増刷することができました。
    望外の出来事で非常に驚きましたが、一方でこれはこうしてブログを読んでくださる皆様、ラジオを聴いてくださる皆様あってのものと思っています。
    引き続きのご支援をどうぞよろしくお願いいたします。


    さて、本の中にも「安心と安全」について紙幅を割いて書きました。
    科学が風評に負ける。"市民感覚"が絶対視され、専門家が科学的な知見を述べても「政府寄りである」「安心できない」と風評だけが独り歩きするという事態を何度も見てきたからです。福島での風評被害とその払拭にいまだに悩まされる生産者の姿や、水質の問題などが誇張されて報じられた結果、開場が大幅に遅れた豊洲市場など、枚挙にいとまがありません。放送でも何度もお話していますが、科学的な根拠を持って「安全」を言うことは出来ますが、「安心」は受け手側の心の持ちようですから強制することはできません。それゆえ、100%の「安心」がないとダメだとマスコミのような影響力の大きな媒体が言い出すと物事が全く動かなくなります。

    実は、今回の新型コロナウイルス肺炎でも同じような現象がみられます。9年前であれば放射能の正しい理解が、今回であればどのようなウイルスであるのかの正しい理解がまずは重要なはずです。現時点では患者一人からうつる人数は1.4~2.5人。これはSARSと同じくらいの感染力です。一方、致死率は2~3%でSARSの約10%、MERSの約34%と比べると毒性は低いと言えます。また、今のところは大勢へ爆発的に感染する空気感染ではなく、つばなど飛沫によって感染するタイプとされています。番組でも複数の感染症専門家に聞きましたが、皆さん口を揃えて「手洗い、マスク着用、アルコール消毒などの一般的な感染症対策を」とおっしゃっていました。


    ところが、これに対して「中国の公式発表と同じじゃないか!」「失望した!大本営発表だ」といった批判も寄せられました。たしかに、中国の発表数字は眉唾ものかもしれません。中国からの渡航者の感染の多さを考えれば感染率はもっと高い可能性が濃厚ですし、死者数だってこれで収まるのか?本来であれば新型肺炎と診断すべき人を診断していないという疑惑が常について回ります。
    とはいえ、そうした怪しさを一旦脇に置いて、ウイルスの特性そのものを専門家が判断すれば、中国の発表と同じ部分が出てくるのもあり得る話です。それを証明するように、アメリカのCDC(疾病予防管理センター)も感染予防策として次のようなことを挙げています。

    ・少なくとも20秒間の石鹸での手洗い。水や石鹸がなければアルコールで手を消毒
    ・汚れた手で目・鼻・口に触れない
    ・病気の人との接触は極力避ける
    ・体調不良の場合は外出を控える
    ・咳やくしゃみの際はティッシュで口を覆い、そのティッシュは即座に捨てる
    ・頻繁に触るものは消毒、清掃する

    ※このCDCのページには、感染者がどういった行動を取ったらいいのか、その世話をする家族や同居者は?濃厚接触者は?というのが細かく説明されていて、非常に参考になります。

    中国そのものを信頼できない、嫌いであるというのは個人の信条ですから変えられません。ただ、専門家がその知見から話すことが中国政府全否定でなければ認められないというのは、正しく恐れることとはかけ離れてはいないでしょうか。むしろ私には、専門家の知見の軽視、結論ありきの議論に見えます。それでは、体制の維持を優先して情報を隠蔽していたとされる中国共産党と同じ穴の狢でしょう。
  • 2019年11月05日

    首里城火災 徹底した原因究明と責任追及を

     毎朝6時から8時までの生放送を担当していますが、この時間帯にニュースが刻一刻と動くことはあまり多くありません。動いても、海外でテロや災害などが起こった場合に限られていて、日本国内でニュースが動くのは非常にまれです。
     その、稀な出来事が、不幸な形で起こってしまいました。沖縄県那覇市で起こった首里城正殿などの炎上です。
     番組の準備をしている最中から速報がひっきりなしに入ってきて、生放送が始まっても消し止めることができず、正殿、南殿、北殿といった主要な建物の全焼の速報が入るものの、鎮火の一報はついぞ放送中に入ることはありませんでした。

    <31日午前2時40分ごろ、那覇市の世界遺産、首里城跡に復元された首里城から煙が上がっていると119番があった。消防や沖縄県警によると、首里城正面の中央部分にある正殿から出火し、激しく炎上。北殿、南殿などに延焼し、建物と門の計7棟を焼いて約11時間後に鎮火した。けが人はいなかった。>

     火災直後はどうしてこんな大規模な火災が発生してしまったのか?原因を究明する報道が流れました。この一週間、首里城周辺では首里城祭というイベントが開かれていて、この週末の3連休に向けて様々なイベントが予定されていました。火元とみられた正殿の前の広場である"御庭"では、当日未明まで設営作業が行われていたようです。


     その他、警備員からの証言などでどうやら正殿屋内から出火したのではないかということがその日のうちに報道され、翌1日には現場検証が行われるのでそこで大方の出火原因が特定されるのではないかという流れになっていきました。しかし、その1日、沖縄県知事の玉城デニー氏が突如上京し、国に対して再建の請願を行ったあたりから報道のペースが鈍り始めます。

    <沖縄県の玉城知事は1日、内閣府で衛藤沖縄・北方担当大臣と面会し、首里城の早期再建に向けて協力を要請したのに対し、衛藤大臣は「全力で頑張りたい」と応じました。>

     その後、菅官房長官とも会談し、全力で取り組むという言質を引き出しています。この日は、首里城を含む国営沖縄記念公園の指定管理者である美ら島財団が会見を行いましたが、責任については曖昧な答えに終始しました。

    <首里城の火災を受け、沖縄美ら島財団の花城良廣理事長は1日の記者会見で、スプリンクラーの必要性を問われ「設置義務があったかどうかは、私どもは関係しない」と述べた。その上で「県、国を含めて検討するところ」と述べ、財団を含めた三者で話し合うべき課題との認識を示した。火災を巡っては1日時点で出火原因が特定されておらず、責任の所在が定まっていない。>

     指定管理者にも関わらず、責任回避の態度というのはメディアから大バッシングがあってもおかしくないのですが、不思議なことにそういった議論には至っていません。今年2月に国から県に管理が移管された際もスプリンクラーの増設が必要という議論がなされなかったし、5月と7月の設備点検でも不備は報告されなかったから責任は問われないという態度。財団が財団なら県も県で、記事中で県幹部の発言を引いていますが、

    <出火原因が法的な不備や設備の点検不足などに該当しない不可抗力だった場合、責任の所在は「誰にもないのではないか」との認識を示した。>

    とのこと。これも本来ならば大事件で、これだけの大火事があったのに責任が誰にもないなんてことをどうして世論が許すというのでしょうか?それをそのまま批判もなく書くというのも違和感を禁じえません。それどころか、「なぜ火事が起きたのか?」ではなく「なぜ火事が燃え広がったのか?」に論点をすり替えて、こんな記事を掲載する始末です。

    <那覇市首里当蔵町の首里城の正殿や北殿、南殿など計7棟が焼失した火災で、正殿の外に設置されていた「放水銃」と呼ばれる消火設備5基のうち1基を、2013年12月までに国が撤去していたことが1日、分かった。沖縄総合事務局の担当者は本紙の取材に「火災発生時にも放水銃4基で対応できると判断し、代わりの防水設備を設置しなかった」と回答した。今回の火災は、スプリンクラーなどの消火設備の不足が大規模な延焼につながったと専門家らは指摘しており、安全管理の見通しの甘さが改めて浮き彫りになった。>

     まるで国の管理が甘かったから全体を焼失してしまったかのような書きぶりですが、そもそも今回の火災では火の勢いが強すぎて現場に近づけず、残った4つの放水銃を使うことは一切できませんでした。もし4基をフルに使ってそれでも消し止められずに全焼したのならともかく、使えなかったのですからこの見出しと本文はミスリードどころか半分以上詭弁の類でしょう。メディアが責任追及ではなく論理のすり替えを行うのは一体どうしたことなのでしょうか?
     同じ沖縄での事件でも、米軍機墜落といった米軍の不祥事の場合、地元メディアは事故原因の解明や責任者の処分を容赦なく追及しているはずです。このままではご都合主義との批判は免れないのではないでしょうか。

     もちろん、首里城が焼失したことは同じ日本人の一人として痛恨事ですし、再建に国を挙げて協力するのは当たり前のことです。仮に伊勢神宮が焼け落ちたり、姫路城が焼け落ちた場合でも同じことを主張するでしょう。琉球の豊かな文化も、日本の文化の一部分であります。中華圏の文化が入っているからと批判をする向きもありますが、それを言い出したら長崎の街並みやくんちだって中華圏の文化とのミックスですし、中華圏の影響を受けた文化財など枚挙にいとまがありません。沖縄県政の批判から転じて首里城再建を批判する向きもありますが、それは切り分けて考えるべきであると私は思います。

     ただ、再建には税金を入れる以上、原因究明だけはしっかりとしていただかなければ、再建の正当性が疑われます。その主体として県や県知事の対応には正直疑問が残るのです。今のところ、火元に関しては分電盤のショートが疑われています。

    <正殿などが全焼した首里城火災で実況見分を進める那覇署対策本部は3日、火元とみられる正殿北側1階部分の焼け跡から分電盤とみられる焦げた電気設備を回収した。対策本部は火災発見当時の施錠状況や防犯カメラの解析から現時点で、外部侵入による事件性は低いとみており、電気系統の不具合も視野に捜査を進める。4日以降、回収した電気設備がショートを起こした可能性を含め火災との関連を詳しく調べる方針。>

     普段使っている分電盤から出火したものなのか、それとも、上に挙げた首里城祭のイベント設営向けに設置した分電盤だったのか?直前深夜に渡るイベント設営がどう影響しているのか?そのあたりの検証が待たれます。それに、そもそもこの"御庭"は深夜に渡る設営が基本的に認められない場所なのにどうして深夜1時にまで設営が行われていたのかも検証しなくてはいけません。というのも、国営沖縄記念公園における行為の禁止等に関する取扱要領の細則には「深夜に及ぶ設営は原則認めない。」と明記されているのです。


     例外的に深夜に及ぶ設営を認めたのは一体どの主体なのか?普通に考えれば指定管理者たる美ら島財団のはずですが、この疑問に答える記事を探し出すことはできませんでした。分電盤からの出火にも様々な要因が考えられますから短絡的にイベント設営との関連を断定することはできませんが、うやむやにせずに検証して欲しいと思います。
     繰り返しますが、でなければ再建の正当性すら揺らぎかねません。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
「飯田浩司そこまで言うか!」

■会員制ファンクラブ(CAMPFIREファンクラブ)
「飯田浩司そこまで言うか!ONLINE」

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