2020年02月17日

消費税増税現場への影響

 国内のニュースは、中国湖北省武漢市を中心に拡大の一途をたどる新型肺炎についてでほぼ一色になってしまっています。いよいよ国内で日本人同士での感染が報告され、市中感染であることが濃厚になる中、自衛の手段などを報道するのは必要なことでしょう。
 一方で、普段であれば大きく取り上げられそうなニュースが小さかったり印象に残らなかったりします。経済に関するニュースなど、真っ先に端に追いやられるものですが、インパクトは普段以上の数字が出てしまいました。

<内閣府が17日発表した2019年10~12月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除く実質で前期比1.6%減、年率換算では6.3%減だった。5四半期ぶりにマイナス成長に転じた。19年7~9月期は年率換算で0.5%増だった。消費増税前の駆け込み需要の反動減が響いたほか、大型台風や暖冬による消費の伸び悩みも重荷となり、年率でのマイナス幅は14年4~6月期(7.4%減)以来の大きさだった。QUICKが集計した民間予測の中央値は前期比1.0%減で、年率では3.9%減だった。>

民間予想がマイナス4%前後だったことを考えると、市場の想定以上のマイナスとなったわけです。政府発表の一次資料を見ますと、その痛手がわかります。


 これを見ると、内需が徹底的に傷んだことが良くわかります。季節調整済みの実質でマイナス2.1%。さらにその中でも民間需要の落ち込みが顕著で、同マイナス2.9%という厳しい落ち込みとなっています。

 この急落に対して新聞各紙は判で押したように「駆け込み需要の反動や台風、暖冬」を原因に挙げていますが、果たしてどうでしょうか?
 駆け込み需要の反動減を言うのであれば、まず消費税増税した10月1日の直前は駆け込み需要があって内需が伸びていなくてはいけませんが、肝心の7~9月期の国内需要は季節調整済みの実質でプラス0.4%。民需は同プラス0.2%に過ぎません。駆け込み需要がなかったのに反動減だけがあったわけで、これは消費税増税が純粋に需要を押し下げたという方が理にかなっているのではないでしょうか?

 台風の影響は確かに甚大でしたが、全国の数字を積み上げたGDPの値にどこまで影響するのかは考えなくてはいけません。何しろ、毎年のように台風が来ていますが、どうして今回だけGDPの値に甚大な影響を与えることになったのか?
 また、暖冬の影響を言いますが、1月からの数字ならまだしも、今回発表になったのは10月~12月の数字ですから、そもそも期間の前半は冬ですらありません。
 内閣府からのレクチャーをそのまま各社記事にしているのでしょうが、私のような素人でも数字を見ればわかることがなぜ記事にならないのか?不思議でなりません。こういう記事の積み重ねが誤った経済判断を招き、結果的に政策判断を誤らせるとしたら、これほど罪深いことはありません。
 拙著『反権力は正義ですか』でも記しましたが、経済は人の生き死にを左右するのです。詳細はお読みいただければと思いますが、経済的要因の自殺率と失業率の間には高い相関があることが分かっています。失業率は当然経済状況に依存します。不景気で失業率が改善することはめったにないのですから。

 さて、この経済減速の要因については、上に挙げた駆け込み需要の反動や台風、暖冬に加えて、今回の新型肺炎も理由にしながら、巧妙に消費税増税の影響が隠されてしまっています。それだけに、実体経済にどれだけの影響があるのか、現場での聞き込みが重要になります。
 私が担当している朝6時からの番組『OK!Cozy up!』では、今週「消費税増税から人手不足まで ちまたのニュース 意外な裏側」と題してお送りしておりますが、今日は練馬のスーパーアキダイの秋葉社長に話を伺いました。


 放送でも少し触れましたが、今回の消費税増税はキャッシュレス取引のポイント還元などもあり、今までの増税の中で最も混乱したそうです。
 特に問題になったのが、キャッシュレス決済。
 お客さんと直接触れ合う小売店では従来現金での決済が大半でした。お金に色はついていませんから、お客さんから入ったお金をそのまま取引先との支払いにすることも物理的には可能だったわけです。
 それが、キャッシュレス決済になると、各運営会社からの入金を待たなくてはなりません。その期間の分だけお金は回らずに塩漬けになってしまうわけですね。
 各運営会社で決済から入金までの時間差はまちまちですが、いろいろ取材してみると「○○Pay」といったスマホ決済は比較的短く2,3日というところもありました。一方、クレジットカード会社は長く、月末締め翌月末支払いというところも。そうすると、最長で丸々2か月資金が寝てしまうことになります。
 ところが、仕入れ先はそこまで支払いを待ってくれるわけではありません。そもそも今まではタイムラグなしで回していただけに、手元に資金が乏しくても右から左へお金を流していくことで商売が回っているところがありました。
 今回のキャッシュレス導入で生じたこの時間差が意外と経営に影響します。
 アキダイの秋葉社長も、
「取引先には現金で決済していくから、手元からどんどん資金が減っていく。一方で入金は1か月2か月後。当然手元資金がどんどん減っていって、銀行に融通してもらうしかなくなった」
とこぼしていました。
 知り合いの税理士さんに聞くと、こうした例はこの年末けっこう見かけたそうです。特に、業績が好調で堅実に商売をしてきた会社で当座資金ショートしかかる例が多かったようです。大手であれば潤沢な手元資金で乗り切れますし、個人商店的な小規模企業であればタイムラグで生じる資金需要もさほど大きくないので乗り切ることが出来る。ところが、小から中規模程度の比較的優良な企業が今回一番苦しんだといいます。

 秋葉社長は最後に一言漏らしました。
「政府は果たして我々中小企業を必要としているのだろうか?今回のやり方を見ていると、大企業中心の分かりやすい経済に移行しようとしていると疑問をもってしまう」

 2019年度版中小企業白書によれば、中小企業は全企業の99.7%を占め、従業員数も全体の7割、付加価値も全体の約53%とのことです。雇用の面からも付加価値創造の面からも、日本経済を支えているのは中小企業です。
 ここを痛める消費税増税はやはり悪手であったと言わざるを得ません。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
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