2020年01月31日

反中国が正義とは限らない

おかげ様で、拙著『反権力は正義ですか ラジオニュースの現場から』を今月17日に新潮社から上梓し、ありがたいことに増刷することができました。
望外の出来事で非常に驚きましたが、一方でこれはこうしてブログを読んでくださる皆様、ラジオを聴いてくださる皆様あってのものと思っています。
引き続きのご支援をどうぞよろしくお願いいたします。


さて、本の中にも「安心と安全」について紙幅を割いて書きました。
科学が風評に負ける。"市民感覚"が絶対視され、専門家が科学的な知見を述べても「政府寄りである」「安心できない」と風評だけが独り歩きするという事態を何度も見てきたからです。福島での風評被害とその払拭にいまだに悩まされる生産者の姿や、水質の問題などが誇張されて報じられた結果、開場が大幅に遅れた豊洲市場など、枚挙にいとまがありません。放送でも何度もお話していますが、科学的な根拠を持って「安全」を言うことは出来ますが、「安心」は受け手側の心の持ちようですから強制することはできません。それゆえ、100%の「安心」がないとダメだとマスコミのような影響力の大きな媒体が言い出すと物事が全く動かなくなります。

実は、今回の新型コロナウイルス肺炎でも同じような現象がみられます。9年前であれば放射能の正しい理解が、今回であればどのようなウイルスであるのかの正しい理解がまずは重要なはずです。現時点では患者一人からうつる人数は1.4~2.5人。これはSARSと同じくらいの感染力です。一方、致死率は2~3%でSARSの約10%、MERSの約34%と比べると毒性は低いと言えます。また、今のところは大勢へ爆発的に感染する空気感染ではなく、つばなど飛沫によって感染するタイプとされています。番組でも複数の感染症専門家に聞きましたが、皆さん口を揃えて「手洗い、マスク着用、アルコール消毒などの一般的な感染症対策を」とおっしゃっていました。


ところが、これに対して「中国の公式発表と同じじゃないか!」「失望した!大本営発表だ」といった批判も寄せられました。たしかに、中国の発表数字は眉唾ものかもしれません。中国からの渡航者の感染の多さを考えれば感染率はもっと高い可能性が濃厚ですし、死者数だってこれで収まるのか?本来であれば新型肺炎と診断すべき人を診断していないという疑惑が常について回ります。
とはいえ、そうした怪しさを一旦脇に置いて、ウイルスの特性そのものを専門家が判断すれば、中国の発表と同じ部分が出てくるのもあり得る話です。それを証明するように、アメリカのCDC(疾病予防管理センター)も感染予防策として次のようなことを挙げています。

・少なくとも20秒間の石鹸での手洗い。水や石鹸がなければアルコールで手を消毒
・汚れた手で目・鼻・口に触れない
・病気の人との接触は極力避ける
・体調不良の場合は外出を控える
・咳やくしゃみの際はティッシュで口を覆い、そのティッシュは即座に捨てる
・頻繁に触るものは消毒、清掃する

※このCDCのページには、感染者がどういった行動を取ったらいいのか、その世話をする家族や同居者は?濃厚接触者は?というのが細かく説明されていて、非常に参考になります。

中国そのものを信頼できない、嫌いであるというのは個人の信条ですから変えられません。ただ、専門家がその知見から話すことが中国政府全否定でなければ認められないというのは、正しく恐れることとはかけ離れてはいないでしょうか。むしろ私には、専門家の知見の軽視、結論ありきの議論に見えます。それでは、体制の維持を優先して情報を隠蔽していたとされる中国共産党と同じ穴の狢でしょう。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
「飯田浩司そこまで言うか!」

■会員制ファンクラブ(CAMPFIREファンクラブ)
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