2020年02月12日

総力戦

 このところ毎日のように、新型コロナウイルスについてのニュースが更新されていき、国内メディアの報道はもうこれ一色という感じになってきました。1か月以上前からこれは大変なことになるかもしれないと警鐘を鳴らしてきましたが、結果として予想通りとなってしまい力不足を実感しています。
 中国・湖北省武漢を中心に、大都市圏を中心に中国各地に拡大しているこの新型コロナウイルス由来の肺炎。日本では先月中旬から患者が出始め、原稿を執筆している12日午後の時点で、クルーズ船ダイヤモンドプリンセス乗船者を含めて174人となりました。特に深刻なのは、このダイヤモンドプリンセスで検疫業務にあたっていた検疫官からも感染が確認されたことです。

<集団感染が広がっている。クルーズ船「ダイヤモンド・プリンセス」の船内で検疫をしていた厚生労働省の男性検疫官が、新型コロナウイルスに感染していたことがわかった。
検疫官の感染確認は、初めて。
この男性検疫官は、2月3日から4日まで、船内で乗客の体温の測定や質問票の回収業務を行っていたが、9日に発熱などの症状があり、ウイルス検査の結果、新型コロナウイルスの陽性反応が出たという。
船内では、医療用マスクや手袋を着用し、作業ごとに消毒をしていたが、防護服は着用していなかった。>

 なによりも、検疫官がなぜ防護服着用で作業をしていなかったのか?船内で体温の測定や質問票の回収作業を行っていたということであれば、事前に相当長い時間を感染が疑われる方々とともにすることがわかっていたはずです。
 2月3日時点ですでに、この新型コロナウイルスが人から人へ感染したと数多くの報告例があり、国内でも感染が疑われる中国・武漢からの観光客を長時間載せていた観光バスの運転士やガイドの感染が報告されていました。あらかじめ濃厚接触が予想されているのであれば、なぜ防護服を導入できなかったのか?
 もしそれが、当時防護服が手配できない品薄状態が原因であれば、より多くの問題を孕みます。たしかにその時期(今もですが)、巷ではマスクや防護服が店頭から消えていました。

<マスク以上に品薄状態になっているのが防護服です。主に中国に本社を置く日本法人から問い合わせが多いといいます。現状、品薄の状態で1カ月以上待ちだということです。>

 1月末の時点で品薄状態。一か月待ち。これでは、2月初旬に急遽対応しようとしても間に合わないのも当然かもしれません。しかし、ある所にはあるのです。

<【2月8日 Xinhua News】阿里巴巴(アリババ、Alibaba)公益基金会は7日、日本が中国に医療用防護服10万着を追加支援することを明らかにした。防護服は同会を通じ、需給がひっ迫している中国の病院に届けられる。アリババグループはさらに、日本の電力各社と日本原子力研究開発機構(原子力機構)から2万4200着の放射線防護服を調達、あわせて必要とする機関に送付される。>

 AFPの記事ですが、元は中国・新華社通信です。中国の公式発表に近いものですから、間違いはないでしょう。日本から防護服2万4千着あまりが中国に渡っていたのです。
 これが平時ならば美談ですし、困っている隣国に手を差し伸べることに異論はありません。政治体制の違いや安全保障上の対峙点などは中国の姿勢を全く容認できるものではありませんが、緊急時の人道的な支援は出来る範囲でするべきであるというのが私の立場です。もちろん、その際にも言うべきはきちんと言い、かつ本当に困っている人のもとに届くよう、場合によっては横流しを監視するために要員を派遣するなども必要かもしれません。

 ですが、今回は日本国内も有事に等しい状況になりつつあります。現場で防護服が足らなくなっているにも関わらず、在庫の防護服をそちらに回さず中国にもっていくのは「出来る範囲の」支援を完全に超えてしまっています。
 人によってはこれで中国に恩を売るのだと言いますが、中国が日本に対して恩を感じていたらなぜ今この瞬間にも尖閣周辺に公船を派遣して日本の主権に挑戦し、航空機を領空ギリギリに飛ばして航空自衛隊を挑発してくる必要があるのでしょうか?
 それに、そもそも無理をしてまで恩を売る必要はありません。恩を売るというとなんだか上から目線ですが、無理をしてまで防護服を送るのはただ単に「媚びを売る」行為に過ぎません。

 政府はようやく今日になって中国全土への渡航延期勧告ならびに在留邦人の早期一時帰国を呼び掛けるスポット情報を出しました。


 となると、中国全土から邦人の引き上げが行われる可能性が高くなってきます。そうでなくとも湖北・浙江以外からの旅客は日本への入国がほとんど支障なくできる状況ですから、潜在的な感染者が多数流入し、かつそれが人から人へと拡散するリスクが高まっています。
 残念ながら、もはや水際で防ぐというフェーズを超えてしまった可能性があるのです。専門家の方々も軸足を水際から治療へと変えてきています。

<人から人への感染や無症状の感染者が国内で確認され、既に各地でウイルスが静かに拡散している可能性は高い。そうすると水際対策の効果は薄くなる。これまで日本の水際対策は一定の効果を見せているが、これ以上強化すべきではない。むしろアクセルを緩めるべき時がきている。>

これを読むと、「緩めるとはどういうことだ!?」と思ってしまいますが(私もそう思いました)、肝心なのはその先です。

<(中略)今やるべきことは、水際対策の強化よりも国内対策だ。ウイルスが広がっても適切な治療を迅速に提供できるようにすることだ。
感染症の専用入院施設は全国で約1800床。軽症患者まで入院させればすぐに埋まってしまう。重症者を優先して治療する仕組みが重要だ。>

 今武漢で起こっているとされている医療崩壊は、医療機関が捌ける数をはるかに超える人々が押し寄せた結果、罹患していない人が病院で待っている間に感染したり、軽傷だった人が重症化したり、疲弊し免疫力が低下した医療関係者にも感染が広がり、さらに医療の供給量が減少して捌ける数が激減し...と負のスパイラルに陥った結果でした。
 同じことを起こさないためにも、万全の医療体制を組んで立ち向かわなくてはなりません。特に重症者を診る医療関係者のためにも、防護服、マスクなどの物資は潤沢に供給しなくてはいけません。

 初手の水際対策では残念ながら防げず、我が国に侵入を許したこの新型コロナウイルス。治療体制で失敗は許されません。

 そのためにも、物資の確保は最重要となるわけです。それでも、今、防護服やマスクを中国に送りますか?

 さて、ニッポン放送の各番組で取り上げられたコロナウイルスについての情報や専門家コメントをPodcastに集約しました。 最新の情報、有識者の見解を得るひとつの情報源としてぜひご活用ください。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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