2020年04月14日

不十分な経済対策

 中国・武漢発祥の新型コロナウイルスについて、番組では1月の初めからその脅威に警鐘を鳴らし続けていました。が、正直に言えばここまで苛烈なものになるとは思いもよりませんでした。

 東京オリンピック・パラリンピックに影響を及ぼすかもしれないとまでは言いましたが、世界経済への影響は桁外れです。もはや、リーマンショックを引き合いに出すことすらためらわれるほどの大規模な下押し圧力。否応なしに社会生活を変えざるを得ないというのは、20世紀の大恐慌時代以来なのかもしれません。

 大恐慌後の世界的なデフレが第二次世界大戦の引き金を引いたように、現在の経済的苦境の扱いを間違えば将来に禍根を残すことになります。その上、このコロナウイルスは少しずつ時期をずらしながら世界中で蔓延しているので、各国の対応が横並びで比較できるわけです。アメリカが2兆ドル(日本円にしておよそ220兆円)、GDP比で1割ほどの経済対策を講じるとされる一方、日本は事業規模で108兆円、GDP比で2割という大規模な経済対策を行うのだという触れ込みです。

 ですが、多くの方が指摘している通り、この108兆円には前年度補正予算の未執行分や今年度予算の一部、さらに税金や社会保険料の納付延期分も含まれているなど、大いに水増しされています。真水と呼ばれる、直接GDPを押し上げる財政出動の規模はだいたい17兆円ほどしかありません。財投債という債券を発行して投資や融資に充てる財政投融資が10兆円規模でありますから、これを真水に足し合わせて財政出動27、8兆円という見方もできますが、もともとの解釈では財政投融資は財政出動とはみなさないことになっています。
 困窮世帯への30万円の給付など使い勝手に疑問が残るところも多く、私も大変不満です。ただ、不十分ですがこれが第一弾の経済対策として国会審議に上っていますから、足りない部分は第二、第三の対策に向けて議論をしていきたいと思います。

 一方で、この対策に対して「財政規律」の面からの批判も少なからずあります。発表された直後には、こんな記事も。

<政府の過去最大に上る緊急経済対策は、世界的な新型コロナウイルス感染拡大を受け、大規模な財政出動を急ぐ主要国と足並みをそろえた形だ。事業規模はリーマン・ショック時の56.8兆円を大幅に上回る108.2兆円に達し、日本の国内総生産(GDP)の2割に相当。コロナ収束後の景気回復を見据える安倍晋三首相は「諸外国と比べても相当思い切ったものだ」と訴えたが、危機的状況にある財政再建への道が一段と険しくなるのは必至だ。>

 この期に及んでもまだ財政再建を言って財政出動を渋るのか!?と呆れたのですが、さすがに最近はこのコロナ禍の経済への悪影響が深刻の度を増してきて、財政再建を旗印に大々的に批判するのは憚られるようです。遠回しに財政出動を批判するのですが、その典型例がこちらの論文。


 長文な上に海外、特にアメリカの動きやウイルスの特性などの話も盛り込まれているのでなかなか読むのに難儀しますが、表立って批判するのは一世帯あたり30万円の給付の基準の複雑さや申請手法の煩雑さについて。そして、この困窮ぶりを見れば財政出動を否定するわけにはいかないが、財政出動とセットで行われる日銀による国債買い入れの増額を問題視して、このまま日銀が政府財政を支え続ければ財政規律も中央銀行の独立性も失われてしまう!と、暗に財政出動をけん制しています。

 私は、日銀の役割は日銀法に書いてある通り物価の安定であると思っていて(本当は雇用の安定も書き加えるべきと思いますが)、現在物価が上昇していない局面が続いているわけですから緩和的になって当然だろうと思います。このブログにも過去に書きましたが、日銀はこの物価が上がらない局面にもかかわらず、保有国債の残高を減らしているということが分かっています。
 ということは、追加で国債を買い入れる余裕は十分にあるということです。今こそ日銀の秘めたる実力を発揮するときであり、財政と金融の両輪でこのコロナ禍を全力で乗り切るべきときでしょう。

 この有事に財政規律を強調して経済対策を批判するのももちろん言論の自由でありますが、今後さらに経済への悪影響が深刻になることが予測される今、第2、第3の経済対策を打ちづらくしてしまう恐れもあります。どうか、現場で苦しむ方々へ手を差し伸べることを第一に、財政規律などやらない理由を探すことのないよう文字通りの全力を尽くしてもらいたいものです。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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