2015年10月

  • 2015年10月27日

    普天間移設、政府の本気

     今週はアタマから、普天間飛行場の移設について様々な動きがありました。仕掛けたのは、東京の政府側。なかんずく、総理官邸です。

     まず、普天間飛行場の移設先、名護市辺野古周辺の辺野古・豊原・久志の3区と政府の懇談会が月曜の夕方に開かれました。

    『久辺3区に直接振興費 政府、辺野古推進で来月にも』(10月27日 琉球新報)
    <米軍普天間飛行場の移設先の名護市辺野古周辺の辺野古、豊原、久志の3区(久辺3区)と政府の懇談会が26日夕、首相官邸で開かれ、政府側は久辺3区区長らに対して、本年度の予算から直接振興費を交付する方針を伝えた。>

     沖縄の振興に関する国からの交付金は通常、県や市町村に交付されるものですが、今回は異例なことに、辺野古周辺の3区に直接交付されます。というのも、地図で見ると良く分かるのですが、名護市というのは東西に非常に広く、基地の移設で直接影響を受ける久辺3区は東側の海沿いにあります。一方、名護市の中心部は山を越えた西側。こちらの方が人口が多く、交付金を使ってインフラを整備するニーズが大きいんですね。

     以前、辺野古に住んでいる方々を一軒一軒回って取材したことがあるんですが、せっかくの交付金が名護市中心部のインフラ整備に偏っていると不満を漏らす方もいらっしゃいました。当時、辺野古商工会の会長をなさっていた飯田昭弘さんは、
    <インフラ整備に関していえば、どうしても人口の多いところが得をします。予算が落ちる名護市街には立派な公民館やコミュニティーセンターができるのに、辺野古はなぜ......という思いがあります。>
    (7月13日 ポリタス)http://goo.gl/1I1iCl
    と話してくれました。
    移設に反対の沖縄のメディアも本土のメディアも、
    「前代未聞の異例のこと。まさにアメとムチ。金で県民の心を踏みにじるのか!」
    というように批判しますが、ある意味この直接交付金は地元の要望に応えたものでもあるんですね。

     さて、こうしてまず地元辺野古の要望に応えたあと、翌日には沖縄県・翁長知事に対しては強烈なカウンターパンチを繰り出しました。

    『辺野古埋め立て、代執行へ=沖縄知事決定の効力停止-移設作業、近く再開・政府』
    (10月27日 時事通信)http://goo.gl/eNmgAX
    <政府は27日午前の閣議で、米軍普天間飛行場(沖縄県宜野湾市)の名護市辺野古移設に関し、翁長雄志知事による辺野古の埋め立て承認取り消しは違法だとして、地方自治法に基づき、国が知事に代わって埋め立てを承認する「代執行」の手続きに着手することを了解した。>

     このニュース、実は2段階あります。
     まず時系列で整理すると、仲井間前知事が承認した埋め立てを翁長現知事が取り消しました。当事者である防衛省沖縄防衛局はこの取消について10月14日、審査請求と執行停止の申し立てを行いました。で、この件について、今日、国土交通大臣は行政不服審査法に基づいて執行停止の決定を行ったわけです。いわば、「(翁長知事の)取り消しを差し止めた」ということで、これでまず埋め立て工事が出来るようになります。

     政府としてはこれだけでも当初の目的を達したわけですが、さらに閣議での口頭了解で、この翁長知事の承認取り消しが違法な処分であると確認。普天間の危険性の継続、アメリカとの信頼関係に悪影響など著しく公益を害すると断じた上で、所管大臣の国交大臣において、代執行等の手続きに着手することが政府の一致した方針として了解されました。

     地方自治法に基づく代執行は、245条の8に詳しい記述があります。
    『地方自治法』http://goo.gl/XsFmp

     これによると、この件で政府側はまず翁長知事の承認取り消しを取り消すよう「勧告」することができ、これが期限までに行われなかった場合、同じように期限を定めて「指示」することができます。それでも取消の取消を行わなかった場合、高等裁判所に対し、訴えをもって、当該事項を行うべきことを命ずる旨の裁判を請求することができるのです。

     ここがポイントで、ある政界関係者は、
    「行政不服審査法という土俵で戦っているうちは、政府は受け身だ。審査の裁決が出て埋め立てが出来るようになっても、県側が提訴して止めようとすることが出来る。つまり、県のペースだ。ところが、地方自治法の代執行はステップを踏んでいくと最終的には提訴することになる。司法の場で争うのは同じなんだけど、代執行なら国のペースで進めることが出来る。早く決着つけようと政府も腹を括ったわけさ」
    と解説してくれました。ということは、もちろん、激しい批判が出るのは承知の上。さらに続けて、
    「こんなことできるのは、もう臨時国会を開く気が全くないからだよ。国会開いたら、こんなに追及されるテーマはないからね」
     タイミングもばっちりだったわけですね。

     その上、大きな決定だったはずですが、この日の夕刊一面はこのニュースではありませんでした。

    『米駆逐艦、人工島12カイリに 対中国「航行は自由」』(10月27日 朝日新聞)http://goo.gl/nvbTXL

     東京版では東京新聞を除く夕刊はすべてこのニュースが一面トップ。まさか、そこまで見越しての決定ではないと思いますが...。
  • 2015年10月19日

    観艦式を取材して

     昨日、平成27年度自衛隊観艦式が行われました。

    『自衛隊の艦艇36隻、オスプレイなど参加 相模湾で観艦式』(10月18日 産経新聞)http://goo.gl/11fLNH
    <安倍晋三首相は18日、神奈川県沖の相模湾で行われた海上自衛隊の観艦式に出席した。>
    <観艦式には自衛隊の艦艇36隻と航空機37機が参加。米国、オーストラリア両海軍に加え、通常の観艦式では初めて韓国、インド、フランス各海軍の艦船も観閲を受けた。>

    2015観艦式.jpg
    相模湾で行われた、平成27年度自衛隊観艦式

     陸・海・空の三自衛隊が1年ごとに持ち回りで行う観閲行事の一つで、前回2012年は民主党政権下で行われましたから、安倍政権になって初めての観艦式となります。私は前回に続いて取材に行ってきましたが、今回行ってみて感じたのは「より鮮明になった対中シフト」です。具体的には、日米同盟を中心とする価値観を同じくする国々の連携と三自衛隊の統合運用となります。

     まずは、価値観を同じくする各国の連携。記事にもある通り、前回に続いて参加したアメリカ、オーストラリアのみならず、今回、インド、フランス、韓国が初めて参加しました。また、予定にはなかったアメリカの空母ロナルド・レーガンが観閲式を行う水域に登場。観閲艦くらまに対して敬礼を行い、くらまに乗艦していた観閲官、安倍総理も返礼を行いました。
     手元に前回の観艦式式次第と今回の式次第があるので比較してみると、今回の方が海外からの参加艦艇、航空機が多くなっています。前回はアメリカ、オーストラリア、シンガポールから各1隻ずつ、合計3隻でしたが、今回はオーストラリア、インド、フランス、韓国から各1隻。アメリカからはチャンセラーズビル、マスティンの駆逐艦2隻に非公式ながら空母ロナルド・レーガン。さらに、哨戒機P-8AポセイドンとMV-22オスプレイも参加しました。ちなみに、前回は海上自衛隊創設60周年を記念する、ある意味特別な観艦式だったのですが、それよりも多い。今回は国際連携というものが大きなテーマであったことがよくわかります。
     余談ですが、MV-22オスプレイ、非常に静かでしたねぇ。もちろん、飛行モードで飛んでくるのを船の上から見ていましたから、ヘリモードの時にどれだけの音を立てるのかは分かりませんでしたが。

     さて、話を戻して、今回の観艦式の2大テーマ。続いては「三自衛隊の統合運用」に移りましょう。もちろん、今回も前回も陸上自衛隊や航空自衛隊の航空機は参加していました。ただ、前回はそれ以上に「海、離島を守る」というテーマが強く、受閲艦艇部隊の中に海上保安庁の巡視船やしまが参加予定でした。結局、尖閣諸島周辺に外国の公船や漁船が押し寄せてきたため、直前で参加を取りやめましたが、手元のガイドにはしっかりと名前が書いてあります。実際、参加取りやめが発表された時には、残念だというため息とともに「いいぞ!がんばれ海保!」という声が上がっていたことを今も鮮明に覚えています。

     一方、今回は統合運用に非常に力を割いていて、たとえば今回は海上自衛隊のエアクッション艇LCAC(エルキャック)に陸上自衛隊の車両を実際に乗せて参加したり、今回初めて航空自衛隊のブルーインパルスが飛行展示を行ったりしています。前回と今回のこの違いが何を意味するかと言えば、海保との連携は「いかに離島を守るか?」に重点が置かれているものなのに対して、三自衛隊の統合運用とは「いかに離島を奪還するか?」ということに重きが置かれているということです。まさに島が盗られようとしているときならば海の警察力たる海保が前面に出て、海上自衛隊はその後詰として存在感を発揮することで抑止力となります。しかし、すでに島が盗られてしまった後ならば、海保ではなく三自衛隊がいかに素早く、力を合わせて展開が出来るかがカギを握ります。3年の時間を経て、想定される危機のレベルがいかに高まってしまっているか、今回の受閲艦艇部隊、航空部隊の陣容から読み取ることが出来るのです。

    LCAC.jpg
    海上自衛隊エアクッション揚陸艇LCAC

     また、観閲式では毎回必ず、最高指揮官たる内閣総理大臣から隊員各位に向けての訓示が行われますが、これを見ても、今回対中シフトが鮮明になっていることが分かります。

    『平成24年度自衛隊観艦式 野田内閣総理大臣訓示』(平成24年10月14日 首相官邸HP)http://goo.gl/Bl5E0

    『平成27年度自衛隊観艦式 安倍内閣総理大臣訓示』(10月18日 首相官邸HP)http://goo.gl/3ug9m3

    隊員の任務に対する表現一つとっても、3年前、当時の野田総理は、
    <海洋国家・日本の「礎」である海。我が国最大のフロンティアである海。我が国の海を守るという諸君の職責は、日本人の存在の基盤そのものを守ることに他なりません。>
    と表現したのに対して、今回安倍総理は、
    <海に囲まれ、海に生きる。海の安全を自らの安全とする国が、日本です。我々には、「自由で、平和な海を守る国」としての責任がある。その崇高なる務めを、諸君は、立派に果たしてくれています。>
    と表現しました。海の安全が自らの安全であり、自由で、平和な海を守る国としての責任を強調。明言していませんが、もちろん自由で平和な海を乱す国、中国の存在を暗示しています。

     さらに海外からの参加各国に謝意を表したうえで、
    <日本は、皆さんの母国をはじめ、国際社会と手を携えながら、「自由で平和な海」を守るため、全力を尽くします。>
    と世界に対して日本の決意を明らかにしました。そして、
    <日本を取り巻く安全保障環境は、一層厳しさを増しています。望むと望まざるとに関わらず、脅威は容易に国境を越えてくる。もはや、どの国も、一国のみでは対応できない時代です。>
    と、危機感をあらわにしています。

     折しも、総理がこうした訓示を行った翌日、防衛省統合幕僚本部がこんな統計データを発表しました。

    『中国機に緊急発進231回 上半期で最多』(10月19日 共同通信)http://goo.gl/RVUC63
    <防衛省統合幕僚監部は19日、日本の領空を侵犯する恐れがある中国機に対し、航空自衛隊の戦闘機が本年度上半期(4~9月)に231回、緊急発進(スクランブル)したと発表した。国・地域ごとの緊急発進回数の公表を始めた2001年度以降で、上半期として最多。>

     安倍総理は今回の訓示を締めくくって、
    「隊員の諸君。
     諸君の前には、これからも、荒れ狂う海が待ち構えているに違いない。」
    と語りました。波の高い日本近海をどう乗り越えていくのか?その覚悟を感じる今回の観艦式でした。
  • 2015年10月15日

    デフレの原因

     景気の先行きが怪しくなってきました。先日発表された10月の月例経済報告も、1年ぶりに下方修正されました。

    『景気判断、1年ぶり下方修正...月例経済報告』(10月14日 読売新聞)http://goo.gl/YwKRv2
    <政府は14日、10月の月例経済報告を発表し、前月と比べた景気全体の判断を「一部に鈍い動きもみられる」から「一部に弱さもみられる」に引き下げた。>

     中国経済の減速、利上げを前にしたアメリカ経済の足踏みなど、主に外在要因で製造業が振るわなかったのが原因とされています。そして、判断が非常に難しいのが、足元の景気は下方修正した一方で、<中長期的には緩やかな回復基調が続いている>と書いているところ。景気がいいのか悪いのか、その瀬戸際にいるということでしょうか?安倍総理も9月末の会見で景気の現状に対してあいまいな口ぶりでした。

    『安倍晋三総裁記者会見(両院議員総会後)』(9月24日 自民党HP)https://goo.gl/7ZdY5U
    <もはや「デフレではない」という状態まで来ました。デフレ脱却は、もう目の前です。>

     揚げ足を取るようなことは書きたくないんですが、「もはやデフレではない」のであればデフレから脱却したということ。ところが直後に「デフレ脱却は、もう目の前です」と言っている。ということは、まだデフレの中にいるのか?各種経済指標も、プラス・マイナスまちまちで、どちらとも取れる。好景気でも不景気でもない。一言でいえば、「踊り場である」ということになりそうです。

     そうなると、次の一手は非常にデリケートになります。こういう時は、言葉の本来の意味に立ち返ることが重要です。「デフレ」とはいったい何なのか?まずは総理の見解を見てみましょう。

    『デフレは貨幣現象、金融政策で変えられる=安倍首相』(2013年2月7日 ロイター)http://goo.gl/RQKwVG
    <安倍晋三首相は7日午前の衆議院予算委員会で、デフレは貨幣現象であり、金融政策で変えられるとの認識を示した。(中略)安倍首相は「人口減少とデフレを結びつける考え方を私はとらない。デフレは貨幣現象であり、金融政策で変えられる。人口が減少している国はあるが、デフレになっている国はほとんどない」と答えた。>

     デフレは貨幣現象。これだけ見ると専門用語で難しそうに見えますが、大雑把に言えば、お金の量が足りないからデフレになっているのだということ。世の中に出回るお金の量が少ないと、お金の価値が上がっていく。そうなると、お金をモノに交換する(消費する)よりもお金のまま持っておいた方が得なのではないかという考えが働く。それがさらにお金を使わない方向に人々が流れて行って、デフレが深刻化するという考え方。これを打破するには、中央銀行の金融政策で世の中にお金をジャブジャブと流通させ、手元のお金を使わないとどんどん価値が下がるぞと思わせることが重要。アベノミクス第1の矢「異次元の金融緩和」は、こうした考えのもとで行われたものでした。

     一方、もう一つ、デフレは需要の不足が原因という説があります。デフレとは、物価が継続的に下がること。物価というのは大雑把に言えば、日本で売られているあらゆるものの値段を総合したものです。ということで、学校で習った「モノの値段がどう決まるか」という話が応用できるのです。需要曲線と供給曲線の交わったところで決まるという話を覚えていませんか?価格を縦軸、需要・供給の量を横軸に取った場合、買い手の心理は高ければ買わない。安ければ買いたい。ということで需要曲線は右下がりのグラフになります。一方、売り手の心理は高ければ売りたい。安ければ売りたくない。ということで供給曲線は右上がりのグラフになります。この2つの線が交わるところが、双方過不足なく満足する値段と量ということになるわけです。
     物価もその延長線上で、総需要と総供給の均衡点であると考えると、デフレ状態=物価が下がっているというのは供給に対して需要が弱いということ。アベノミクス第2の矢「機動的な財政出動」というのは、こういった考えから需要を下支える意図で行われたものでした。

     さて、この踊り場景気の中で打つ次の一手は、このデフレに対する認識が問われます。
     前者の説をとるなら、すでに金融緩和を進めていて貨幣量は足りているということになります。デフレからは脱却しつつあるということで、この流れのままで行けばいい。追加の景気対策などは必要ないとなるわけです。

     一方、後者の説をとるなら今だに総需要が不足しているとなる。実際、内閣府の調査では今も大きな需要不足があるということが分かっています。

    『4~6月期の需給ギャップ、マイナス1.6%に 内閣府試算』(9月17日 日本経済新聞)http://goo.gl/M8yDTq
    <内閣府は17日、4~6月期の国内総生産(GDP)改定値から試算した需給ギャップがマイナス1.6%になったと発表した。(中略)日本経済の需要と潜在的な供給力の差を示した金額換算の需給ギャップは、名目で約8兆円の需要不足となり、速報段階の9兆円程度から縮小した。>

     名目で8兆円に上る需要の不足があるから、これを補うために何らかの策を講じなくてはいけません。企業の設備投資や家計の消費活動に期待することもできますが、デフレで財布の紐が固い中ですから政府側が財政出動をして景気を刺激するのが最も手っ取り早い策でしょう。

     では、現政権はどちらに近いか?どうやら前者に偏って来ているようです。

    『景気判断を1年ぶり引き下げ 月例経済報告』(10月14日 産経新聞)http://goo.gl/uXlpYz
    <甘利氏は会見で、補正予算を含む景気対策について「現時点で(景気対策のための)補正予算は判断しない。7~9月期の(成長率の)結果などを総合評価する」との認識を示した。>

     菅官房長官はテレビ番組の中で、補正予算の審議については行うならば来年1月からの通常国会の冒頭で行うのが妥当なのではないかと言っていました。また、補正の編成についてはまだ決めていないとも述べていました。例年通り1月の下旬に通常国会召集となれば、補正予算の実質審議入りは2月アタマ。3月にようやく成立となれば、補正予算が効き始めるのは来春以降となってしまいます。の間に今踊り場の景気が悪い方に転がっていかないか...。私は需要不足を今すぐ何とかした方がいいと思うんですが。
  • 2015年10月05日

    世界のトレンド「反緊縮」、日本では?

     ヨーロッパを中心に「反緊縮」がじわじわと有権者の間で広がってきています。先週末にはポルトガルで総選挙が行われ、緊縮を進める与党が勝ちはしたものの過半数には至りませんでした。

    『ポルトガル総選挙は連立与党が勝利、過半数割れで政策譲歩の構え』(10月5日 ロイター)http://goo.gl/mvybev
    <開票率99.1%の段階で、連立与党の得票率は38.5%前後、野党社会党の得票率は32.4%。連立与党の獲得議席数は現段階でわずか100議席と、過半数となる116議席を大きく下回った。>
    <緊縮財政の緩和を公約に掲げていた社会党のコスタ党首は、選挙で勝利という目標は果たせなかったものの、辞任はせず、独自の政策を貫く方針を表明した。
    選挙では、左派政党「左翼ブロック」が得票率約10%と勢力を拡大。共産党は8.2%だった。>

     リーマンショック後景気を支えるために歳出を拡大させた各国は、その原資として国債発行に頼り、国債発行残高が拡大。国債利回りが上昇(価格は下落)し、残高を圧縮しなくては利回りが高いので国債発行が出来なくなりました。そこで、競うように緊縮財政政策を実行。歳出の大幅カットと増税、政府セクターのリストラを大規模に実施しましたが、これが各国で大不況を呼び込みました。
     失業率の高止まり、個人消費の冷え込み、物価の下落。
     富裕層やグローバルに活動する企業にとっては影響は軽微かもしれませんが、中所得層以下の庶民の生活にはこの政策の負の側面が直撃しました。危機の直後には「少しぐらいは我慢しよう」と思っていた有権者も、それが3年、4年と続くとさすがに堪忍袋の緒が切れたようです。この流れは、ポルトガル一国のことではありません。

    スペインでは、
    『スペイン地方選:ポデモス、バルセロナで勝利-首都でも台頭』(5月25日 ブルームバーグ)http://goo.gl/bfth1b
    <24日投開票のスペイン地方選で、反緊縮を掲げる新興政党ポデモス系の会派がバルセロナ市議会選で第1党となった。ポデモスは首都マドリードでも連立で過半数を獲得する公算がある。>

    イギリスでも、
    『英国:労働党首に強硬左翼のコービン氏 党内に批判多く』(9月12日 毎日新聞)http://goo.gl/IN3TWv
    <5月の英総選挙で大敗した労働党の党首選挙が12日に行われ、核廃絶を訴える強硬左派のジェレミー・コービン氏(66)が得票率59.5%で当選した。>
    <コービン氏は、最大の支持母体である労働組合の出身で、1983年に下院議員当選。反緊縮財政や富裕層への課税強化を党首選の公約に掲げた。電力などエネルギー関連会社や鉄道の国有化も提唱している。>

    さらに、アメリカでも、
    『今後の選挙戦占う緒戦2州でクリントン氏が苦戦 戦略の練り直し必要』(9月7日 産経新聞)http://goo.gl/842FHj
    <クリントン氏はニューハンプシャーで無所属のバーニー・サンダース上院議員に逆転され、アイオワでも追い上げられている。>
    <米NBCテレビと米マリスト大が6日発表した世論調査によると、来年2月1日に初戦の党員集会が予定されるアイオワでのクリントン氏への支持は7月の49%から38%に低下。逆に、2位のサンダース氏は25%から27%に増えた。>
    ちなみに、バーニー・サンダース候補は自ら民主社会主義者であると名乗っているほどで、緊縮政策には反対です。

     さて、これら各国のリベラル勢力の流れに共通するのは、イギリス労働党のコービン党首も党首選公約にある通り、反緊縮とセットで金融緩和、財政出動を景気浮揚の手段として考えていること。

     反緊縮、金融緩和、財政出動。

     先日発表された新・3本の矢ではなく、アベノミクス当初はこうした世界の流れを先取りするものでした。すなわち、大規模な金融緩和と機動的な財政出動。これにより景気は確実に浮揚しかかったんですが、消費増税という緊縮政策によって吹っ飛んでしまいました。そして今度の新・3本の矢はアベノミクスリセットではなく、対症療法のような不完全なもの。ならば今こそ、日本でもリベラル勢力がリベラルのスタンダードな経済政策『反緊縮・金融緩和・財政出動』を打ち出せば大いに支持される可能性があるということです。消費増税という緊縮政策以後、何となく景気がいいんだか悪いんだかというモヤモヤした空気だからこそチャンスがある。しかしながら、その受け皿となり得る民主党は残念ながら期待外れです。先日はこんなニュースがありました。

    『民主・維新、参院選で共通公約 公務員給与2割減、明記へ 安保法は「廃止」』(10月5日 日本経済新聞)http://goo.gl/8up1xM
    <民主党と維新の党が来年夏の参院選に向け、政策協議機関でまとめる共通公約の概要が分かった。維新の看板政策でもある「身を切る改革」を民主党が受け入れ、国家公務員の給与の2割減を明記するほか、国会議員の定数削減も盛り込む方針。>
    <民主党は公務員給与2割減で維新に譲歩したため、維新が慎重姿勢を崩していない消費税増税などの受け入れを迫る考え。>

     公務員給与に手を突っ込むということは、民主党の支持母体・連合の中心、公務員労組が難色を示すのは火を見るよりも明らかです。しかし、それを押さえてでも消費増税をしたいというのですから、よほど緊縮財政を推し進めたいということなんでしょうか?これでは自民党以上に緊縮路線一直線です。さらに、金融緩和は物価上昇を招いて庶民の暮らしを苦しくすると批判しています。
     そのくせ、民主党は新たにまとめるという経済政策の中では「分厚い中間層を作る」としているそうで、農業では農家への戸別所得補償制度の復活、雇用は非正規雇用の割合を37%から30%以下にする目標を示すとのこと。一体緊縮したいのか、反緊縮なのか、経済政策に一貫性がありません。

     あえて期待点を探すとすれば、それは野党各党との選挙協力です。消費税絶対反対の共産党との政策協議の中でもし消費増税推進を取り下げられれば、そして、維新の党との協議の中で維新の主張する金融緩和を取り込めば、『反緊縮・金融緩和・積極財政』というリベラルの世界的な本流となるんですが...。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
「飯田浩司そこまで言うか!」

■会員制ファンクラブ(CAMPFIREファンクラブ)
「飯田浩司そこまで言うか!ONLINE」

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