2014年7月

  • 2014年07月28日

    人手不足は問題か?

     このところ、人手不足に関する報道が様々なところでされるようになってきました。特に、サービス業や製造業、建設業などで深刻で、業績を圧迫しているという論調です。

    『焦点:「人手不足ショック」が低価格ビジネス直撃、企業業績に暗雲も』(7月24日 ロイター)http://goo.gl/CEmaJ0
    < アベノミクス景気の副作用ともいえる労働力不足が、製造業、非製造業を問わず、企業活動に深刻な影響を広げている。東京五輪をにらんだ工事需要が増えている建設業だけでなく、デフレ下で低価格を武器に成長してきた外食、小売り、格安航空、さらには地方の中小企業などでも状況の悪化が続く。>

    『人手不足 3社に1社が必要人数確保できず』(7月24日 NHK)http://goo.gl/o9JeQp
    <人手不足が懸念されるなか、先月までの3か月間にアルバイトや中途社員の採用で必要な人数を確保できなかった企業が全体の3分の1に上ることが、民間の調査で分かりました。>

     2つ、代表的な報道を引きましたが、それ以外も人手不足が景気の足を引っ張る可能性があるという論調で、ロイターに至っては、人手不足問題は「アベノミクスの副作用」とまで断定しています。そして、どの記事を読んでいても、企業側の対応策や望ましい解決策として「外国人労働者の導入を視野に」しましょうという流れになっています。

     上記、ロイターの記事では、みずほ総合研究所のシニアエコノミスト、山本康雄氏の話として、
    <「労働市場をもっと流動化させる努力が必要だ。それによって成長産業へ人材をシフトする一方、外国からの移民も含めた労働者数の拡大も必要になる」>
    と紹介し、NHKも控え目ながら、
    <「人手不足への特効薬はなく、企業は、少ない人員で業務を進められるよう、人材活用を構造的に見直していく必要がある」>
    として、まずは効率化を図るべきとしています。

     しかし、人が欲しいなら、なぜ「賃上げ」しないんでしょうか?我が国は完全雇用の状態ではありません。アベノミクスで景気が回復したおかげで徐々にその状態に近づいていますが、それでも5月の失業率は3.5%。まだ未就業の人がいる以上、その人を振り向かせるためには雇用条件を良くすること、すなわち「賃上げ」するのが一番手っ取り早いと思うんですが、なぜそれを解決策として書かないんでしょうか?もちろん、企業に取材すれば、固定費が増大する賃上げをするなんて口が裂けても言わないでしょう。それ以外の方法があれば、まずはそこに誘導すべく努力するでしょう。しかし、それは企業経営者の視点。メディアはそれはそれとして大局的にどうすることが望ましいかを考えるべきなのではないでしょうか?もともと総理は「賃上げが最終目標」と繰り返していて、経済3団体にも繰り返し繰り返し申し入れを行っていました。ということは、賃上げをしなければ人手を確保できない、周りの環境が賃上げせざるを得なくなっているというのは正しい流れなのではないでしょうか。

     しかも、現状で「実質賃金」はむしろ下がっています。
    『5月の"実質賃金指数"、3.6%減から3.8%減に下方修正--11カ月連続で前年下回る』(マイナビニュース 7月22日)http://goo.gl/BKYzFt
    <現金給与総額についても、速報値の前年同月比0.8%増の26万9,470円から同0.6%増の26万8,859円に下方修正。現金給与総額に物価変動の影響を加味した実質賃金指数も、同3.6%減から同3.8%減に下方修正し、11カ月連続で前年を下回った。下げ幅は前月より拡大し、2009年12月(同4.3%減)以来の大きさとなった>

     たしかに春闘の結果、大企業を中心に賃上げはあったものの、物価も上がったせいで実質的に買えるものが少なくなったというのは、最近の肌感覚でも納得できるものです。ここで賃上げではなく、良くて効率化による現状維持、悪くすれば低賃金の外国人労働者導入による賃金抑制となれば、GDPの6割を占める個人消費が間違いなく冷え込みます。GDPが増えなければ、当然不景気ということになり、デフレ脱却の芽を摘み取ることになりかねません。そうなれば、結局国内企業の業績だって落ち込んでしまうかもしれません。どうも企業は目先のコストカットに目を奪われるあまり、長期的な利益を逸しようとしているように見えます。むしろ、過去20年間のデフレで賃金が抑制され続けてきたそのツケを、ようやく企業が払うときが来たということではないでしょうか?

     まとめれば、人件費をどう捉えるかという問題なのでしょう。
     「必要悪のコスト」と捉えれば、とにかく抑制することが企業経営のセオリーとなるでしょう。
     一方、雇用者はイコール消費者であると考えれば、賃金の過度な抑制は回りまわって消費を冷え込ませ、最終的には企業経営を圧迫することになります。したがって、人件費を「リターンをくれるお客さんへの投資」と捉え、適正水準を維持する、場合によっては賃上げをするということになります。
     企業はどうも前者と捉え、経済マスコミもそんな企業の見方をそのまま報じているような気がしてなりません。その結果、賃金抑制が世の中の流れになっていき、結果として国民経済を冷え込ませるようなことがあっては元も子もありません。大局的観点から考えると、まだまだ賃上げが足りないと私は思うのです。
  • 2014年07月21日

    今そこにある危機

     先日、日曜日の日本経済新聞のコラムに興味深い記事がありました。
     『理論も導く「日中冷和」』というタイトルのこの記事。
     国際政治理論の2つの見方を引用しつつ、日中関係を分析しています。2つの見方というのは、一つは「リアリズム」という見方で、勢力の均衡によって紛争を防ぐという考え方。この時の「勢力」とは、軍事力や経済力、地理的要素を含みます。一方の「リベラリズム」とは2国間の関係や価値観に重きを置く考え方で、経済的に相互依存関係にあったり、あるいは民主主義国同士であれば戦争は起こらないという考えに基づいています。
     そのコラムでは、この2つの大きな価値観、5つの要素で日中関係を分析しています。「隣国同士」「大国同士」「経済相互依存がある」「共通の敵がない」「価値観(民主主義)を共有しない」。日中関係は、この5つすべての要素が当てはまります。相互依存が戦争を抑止し、他の要素が対抗意識を強めるから、時に危機をはらむ「冷たい平和」の構造となるのです。

     さて、現状は記事にある通りの『冷和』状態にある日中関係ですが、これが永久に続くわけではありません。とはいえ、リベラル系のメディアが言うように「とにかく対話」というわけでもありません。先に挙げた5つの条件の中では、「大国同士」というファクターで勢力均衡が崩れつつあるのです。

     防衛の専門家に話を聞くと、キッカケとなりそうなのは日中がぶつかる東シナ海ではなく、南シナ海とのこと。南シナ海といえば、先日中国は予定より早く石油探査装置を撤収させました。

    『中国、南シナ海での石油掘削作業が終了=新華社』(ロイター 7月16日)http://goo.gl/gMjleR
    < 中国国営の新華社は、同国とベトナムが領有権を争う南シナ海の西沙(英語名パラセル)諸島近海に設置された石油掘削装置(リグ)を使った作業が終了し、装置が移動されると伝えた。付近に石油やガスの埋蔵を確認したといい、新華社は中国石油天然ガス集団(CNPC)が「収集したデータを分析し、次のステップを決定する」と伝えた。>

     この説明を額面通り受け取る専門家はいません。資源関係の専門家は、そもそも石油掘削装置(オイルリグ)を使って資源探査を行うなんてものがナンセンスだそうです。探査の実績もないし、コストも高い。

    ・今回使われた海洋石油981(人民網)http://goo.gl/nqEnnA

    もしも本当に資源を求めているとしたら、次にパイプラインを敷設する海洋石油201という船が出てこなくてはなりません。

    ・海洋石油201(中国網)http://goo.gl/MBfkTM

     しかしながら、海洋石油201を出してくるどころか、海洋石油981も撤収してしまいました。したがって、資源以外に目的があるのは明白。では、なぜ金のかかるオイルリグを出してきたのか?専門家は、これを守るという口実で海警や海軍の展開を常態化することこそが真の目的であると指摘します。それこそ、南シナ海を自国の内海とするということ。そして、そこに戦略原潜を沈めておくことを目標としています。

     南シナ海は水深が深く、そこに原子力潜水艦を沈めておけばそう簡単には見つかりません。これに核ミサイルを積んでおけば、先ほど書いた東アジアの勢力均衡が一気に崩れることになりかねないのです。現在は、この潜水艦搭載型のミサイルJL2は推定射程が8000キロ程度。これを南シナ海から撃ったところでアメリカ本土には届きません。今、中国はこの射程を延ばしてアメリカ東海岸まで届かせようと躍起になっています。もし、射程が伸びたら...、その時には日米VS中の勢力均衡がガラガラと崩れるでしょう。

     理論上はこんなシミュレーションができます。
     中国が日本を攻撃した時、今までならアメリカは中国へ反撃します。なぜなら、中国のミサイルはどう頑張ってもアメリカまでは届かず、アメリカは無傷で反撃できたからです。しかし、ミサイルの射程が伸びてアメリカ東海岸まで脅威にさらされるようになれば、アメリカは今までのように反撃できるでしょうか?
     中国が日本を攻撃する。アメリカが仮に反撃する。すると、中国は南シナ海の潜水艦からアメリカへミサイルを発射する...。アメリカは、理論上自分達が無傷でいられないとわかっていても、日本のために核ミサイルを撃つようなことができるのか?私はできないと思います。

     つまり、①南シナ海を中国にとられる、②中国のミサイルの射程が伸びる、この2つが揃った瞬間に日本を守る『核の傘』が破れてしまうのです。そうなれば、日本の立場は劇的に弱くなってしまうでしょう。大国同士でなくなれば、小国は大国に従わざるを得なくなる。つまり、日本が中国の属国化してしまうという最悪のシナリオまで考えざるを得なくなるのです。もちろん、軍事力以外のファクターもありますから、すぐにそうなるという話ではありません。
    ただ、危機に一歩近づくのは確かでしょう。

     今の南シナ海の情勢は、日本の『核の傘』が破られる2つの条件のうちの1つが満たされるかどうかの瀬戸際にいる。つまり、我が日本が中国の属国化してしまう危機の瀬戸際にいる。飛躍していると言われるかもしれませんが、我々日本人はそういう危機感を持って南シナ海情勢を見ていかなくてはいけません。
  • 2014年07月17日

    相思相愛?維新と結いの行方

     今に始まったことではありませんが、大阪・橋下市長の政局勘といったものがどうもズレてしまっています。弱り目に祟り目といったところかもしれませんが、この一週間だけでもこんなことがありました。

    『滋賀知事選、自公推薦候補の支持表明 維新・橋下代表』(7月10日 朝日新聞)http://goo.gl/RXPjGP
    <橋下氏は「官邸サイドの協力も得ながら大阪市、大阪府の行政が進んでいることも間違いない。菅(義偉)官房長官が推しているということなら小鑓さんを応援するべきだ」と説明した。>

     維新はいつから連立与党になったのか?官房長官が推しているからといってなぜそれが支援する理由になるのかも釈然としませんが、結果小鑓候補は落選してしまいました。投票日3日前に、わざわざ負け馬に乗ったわけです。それも、各マスコミの世論調査や官邸筋の非公開の調査でも劣勢が判明していたにも関わらず...。

     そんな流れの悪さを払しょくしようと、野党再編に動いていて、まずは昔から仲の良い江田さんの結いの党に近づいています。政党の合併に移る前に、国会の両院内での活動を一緒に行う会派合流を行いました。

    『橋下維新、結いと衆院で統一会派 野党第2会派に』(朝日新聞 7月9日)http://goo.gl/zzTVJI
    <分裂した日本維新の会の橋下徹共同代表が率いるグループと結いの党は9日、統一会派「日本維新の会・結いの党」の結成を衆院に届け出た。(中略)国会質疑は、会派ごとに質問時間が割り当てられている。維新の会派のままでは、分裂する橋下維新と石原新党が同じ会派として質問に立つことになるため、会派を分けることにした。>

     国会の中での活動を同じくするということで、男女の仲で言えばすでに同棲や事実婚状態のようなもの。さらに、今日、いわば結納まで交わたんじゃないかという報道もされています。

    『維新・結い新党、橋下・江田氏の「共同代表制」が有力 9月に結党大会』(産経新聞 7月17日)http://goo.gl/9YQBTy
    <結いは同日(16日)、維新が国会内で開いた両院議員懇談会に初めて参加。新党の結党大会を9月7日に東京都内のホテルで行うことを決めた。>

     親戚通しの顔合わせまで済ませ、その席で結婚式の日取りまで決めたということで、もう結婚に向かってまっしぐらの相思相愛カップル。仲睦まじくて前途有望と言えそうですが、本人同士はぴったり一致していると思っていても、傍から見ている他人には隙間が見えることがあります。
     維新と結いではよく言われる安全保障政策がそれにあたります。先ほどの統一会派についての朝日新聞の記事にも、
    <だが、集団的自衛権をめぐっては、限定的に行使を認める維新と、「個別的自衛権の範囲内で対応できる」と考える結いとの間で一致していない。>
    との指摘があるわけですね。
     今はそのすり合わせを先送りして、まずはお互いの愛を確かめ合っているところでしょうが、ふとしたしぐさに気持ちが現れるのは男女の仲も政党も同じ。今回は、統一会派で初めて国会活動をした、いわば「初めての共同作業」を終えた直後でした。

    『野党 閉会中審査をさらに要求』(7月16日 NHK)http://goo.gl/ZXTKev
    <国会内で行われた会談には民主党、日本維新の会の橋下共同代表のグループ、日本維新の会の石原共同代表のグループが発足させる次世代の党、みんなの党、共産党、結いの党、生活の党、社民党の8つの党や会派の国会対策委員長が出席しました。>

    この記事のどこに隙間が見えるのかといえば、その顔ぶれ。ある野党国対関係者が教えてくれました。
    「野党第一党の民主党が各会派に出席するか声を掛けていったんだ。維新と結いは同一会派だから、国会活動の代表は一人でいい。ただ念のため、結いの国対に『維新の石関さんが出るからいいよね?』って聞いたら、『いや、ウチも出ます』って言うんだ。会派は一緒なのに、ちょっと違和感があるよね」

     集団的自衛権という、維新と結い両党の関係にとってデリケートな問題なだけに、ひょっとしたら同床異夢ということなのか?それとも、まだ会派統一から日が浅いから今回だけの特例なのか?調べてみると、結党大会の9月7日は先負。選挙で勝った負けたの政党の結党大会で先負とは、ゲンの悪さは否めませんが...。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
「飯田浩司そこまで言うか!」

■会員制ファンクラブ(CAMPFIREファンクラブ)
「飯田浩司そこまで言うか!ONLINE」

最新の記事
アーカイブ

トップページ