2017年8月

  • 2017年08月14日

    先の大戦での海の男たち

     明日8月15日で、大東亜(太平洋)戦争が集結して72年となります。戦没者を追悼し、平和を祈念するこの日、日本武道館では政府主催の全国戦没者追悼式が行われます。正午には先の大戦へ思いをいたし、亡くなられた方に対し1分間の黙とうがあります。

     個人的な話ですが、母方の祖母が去年亡くなり、その遺品を整理している中で祖父が出征した際の戦記が出てきました。理系の学徒として兵に取られた祖父は、内地で教官として数学などを教えた後、戦況厳しいビルマ(現:ミャンマー)へと送られました。本当に、よくぞ戻ってきてくれたものだと思います。彼が戻らなければ、私はこの世にいなかったわけです。
     一方、父方の祖父は戦争についてあまり語りませんでしたが、赤紙一枚の工兵として満州に行っていたようです。その時に銃弾を浴びて負傷し変形した爪を見せてくれたことを覚えています。

     両祖父共に外地へと向かったのですが、任地まで運んだのが輸送船でした。輸送船を操っていたのは、軍属として徴用された船会社の社員やその後統合された船舶運営会の船員たち。海軍軍人ではありませんでした。
     彼らは戦線の拡大とともに輸送範囲を広げ、さらに戦況の悪化に伴って悲惨な運命をたどります。余り知られていませんが、その死亡率が陸軍20%、海軍16%に比べて何と43%。徴用された船員の実に半数近くが海に散って行ったのです。
     大戦初期には兵員や物資輸送で各地に向かい、各地から戦略物資を満載して日本本土へと向かった輸送船。当然、アメリカをはじめ連合国側はこのシーレーン攻撃に集中します。大東亜(太平洋)戦争では、開戦からわずか数時間で最初の撃沈船が生まれ、戦死者が発生しました。
     大戦中期以降は戦死による熟練船員の減少を補うために、各海員学校などで速成された14歳、15歳の少年船員も数多く徴用されました。十分な護衛も得られずに、易々と敵艦の餌食になり、14歳から19歳の少年船員1万9千人余を含む6万609人もの船員が犠牲となり、1万5518隻の船舶が撃沈されました。戦前、世界第3位の海運大国だった我が国は、その商用船舶の9割以上を消失、文字通り壊滅したのでした。
     これら、知られざる戦没船と殉職船員については、成山堂書店から『海なお深く―徴用された船員の悲劇―』という本が出ています。

    『海なお深く―徴用された船員の悲劇―』(成山堂書店)https://goo.gl/ZihPeq

     さて、戦前・戦中・戦後を通して船員を送り出し続けてきたのが海員学校。今は独立行政法人海技教育機構(JMETS)に統合され、机上、実技双方で未来の海運界を担う人材を育てています。私も何度も練習船や海技学校を取材していますが、彼ら実習生にとって一大関門となるのが遠洋航海。5隻の練習船がほとんど休みなく船員を育てているわけですが、そのうちの1隻、銀河丸が今月5日、横浜港新港5号岸壁からシンガポールへ向け出港しました。
     実習生164名を乗せて予定通り出港した銀河丸。出港早々台風5号の洗礼を浴びたということですが、それも実習のうち。実は彼らには、遠洋航海での所定の実習に加えて、今回特別な任務が与えられています。それが、先の大戦で犠牲となった戦没先輩船員への哀悼の意を表するとともに不戦の誓いを新たにする「船上慰霊式」。シンガポールまでの航海中に3か所の海域(いずれも南シナ海)で行うそうです。

    『練習船「銀河丸」が遠洋航海に出航しました』(JMETSホームページ)https://goo.gl/h7dvSx

     この「船上慰霊式」は(公財)日本殉職船員顕彰会と共同で行うもので、ご遺族から顕彰会に送られた手紙を預かり、献酒・献花とともに海上に手向けます。3度行う慰霊式は、第1回が11日(金)フィリピン西方海域、第2回が13日(日)ベトナム東方~南方海域、そして第3回が14日(月)マレーシア南東方海域でそれぞれ行われました。
     寄せられた手紙は合計51通。年配のご遺族の方からは「小さいうちに父を亡くしたのでこれまで父に手紙を書いたことが一度もなかったが、今回、初めて父に手紙を書く機会が得られて良かった。」といったの言葉も寄せられたそうです。殉職した船員の子どもの世代でも70代~80代なので、父へ宛てての手紙が多かったようですが、中には未亡人の方から顕彰会へ感謝の電話も寄せられたそうです。

    <この度はお世話になります。船長さんに伝えてほしいことがあります。
    「私は98 歳になりましたが、主人が戦死してからのこの70 年余りの間、ずっと南方の海に手紙
    を送りたいと思っていました。今回、その思いが叶い大変嬉しく思います。よろしくお願いい
    たします。」
    手紙には、
    「あなたに大変お世話になったこと感謝しています。あなたが一度目の遭難で無事に帰ってきて、
    再び海に出るときは、大変心配でした。それは、一度目の時に沢山の方が亡くなったのを知っ
    ていましたから。私はいま丈夫に暮らしています。いずれ、そちらでお会いできる日を楽しみ
    にしています。」と書いてありますとのことでした。>

     実習生たちが慰霊式を行う海は、南シナ海。今は平和な海ですが、年を追う毎にきな臭さが増す海域でもあります。今も昔も、日本にとって海運は生命線。しかしそれは、日本のみならず、中国も韓国も、アジア各国ともに変わりません。勇ましいことを言い、岩礁を埋め立てる前に、70年余り前にどんなことがあったのか?海の男たちがどういった運命をたどったのか?冷静に見つめられる日にしたいものです。

     銀河丸は17日にシンガポールに到着。22日にシンガポールを発ち、9月4日(月)に大阪港に到着する予定です。一路平安なる航海を祈ります。
  • 2017年08月07日

    ヒアリ対策に何をすべき?

     6月の半ばに兵庫県尼崎市で国内で初めて確認され、その後日本各地で発見報告が相次いでいるヒアリ。強い毒を持ち、最強のアリとも報道されていて、そのおどろおどろしい画像とともに大騒ぎになっています。刺されると強く激しい痛みや腫れを感じ、重度の場合数分から数十分後にアナフィラキシー症状を発症。呼吸困難や血圧の低下、意識障害などの症状が出て、海外では死亡例も報告されているようです。
     今のところ、海外からのコンテナなど荷物に紛れて入ってきているケースがほとんどで、国内で定着したかどうかは今後の推移を見守るという状況。従って、上陸はしてもそこから広がることを食い止めようと関係機関が躍起になっています。
     今日は横浜市が対策会議を開きました。

    『横浜港のヒアリで連絡会議 水際対策で連携を確認』(8月7日 NHK)https://goo.gl/rGwZFC
    <強い毒を持つ南米原産のヒアリが横浜港をはじめ、全国の港などで相次いで見つかっていることを受け、横浜市は7日、関係機関との連絡会議を立ち上げ、ヒアリの定着を防ぐための水際での対策に連携して取り組むことを確認しました。>

     行政だけに任せず、自分で動き出す人も多くいるようです。何しろ、「この小さなアリが人を死に至らしめることがある!」という部分が大きく報道され、これは駆除しなくてはならん!そうだ!殺虫剤だ!ということで、殺虫剤を製造・販売する会社や害虫駆除を専門とする会社の株価が上がっています。

    『ヒアリ駆除へ殺虫剤好調、出荷2倍増 フマキラー株価も上昇』(7月25日 産経新聞)https://goo.gl/1eu3Sw
    <南米原産の強毒アリ「ヒアリ」が日本各地の港湾などで確認され、定着が危惧される中、殺虫剤の出荷が伸びている。アース製薬やフマキラーは、今月に入り関連商品の出荷が2倍程度に増加。フマキラーの株価は上場来高値を更新するなど、投資家も熱い視線を注いでいる。>

     たしかに、近所のホームセンターに買い物に出かけても、入り口付近の目立つところに殺虫剤コーナーが大々的に展開されています。また、食品スーパーの入り口、野菜売り場の脇の目立つところにも殺虫剤。普段であれば考えられないような売り場展開がされているというのも、それだけ皆さん危機感をもってこのヒアリを見ているということですね。

     しかしながら、こうした殺虫剤のバカ売れに対して専門家に取材すると懸念を抱いている方が多くいました。というのも、こうした殺虫剤はヒアリをピンポイントで駆除するわけではなく、固有のクロアリなども一緒に駆除してしまいます。
     今のところ、ヒアリは基本的に居心地の良いコンテナの中に巣を作っていると考えられています。これがコンテナを出て国内で拡散するには、兵隊アリがいくらいてもダメで、ヒアリの女王アリが飛んでいって羽を落として卵を産み、新たにコロニーを組織していかなくてはいけません。ここがポイントで、女王アリが新たな拠点を見つけ、穴を掘って巣を作ろうとした時点で日本の固有種が女王アリを殺してしまえば拡散しません。羽を落とした直後の女王アリは守ってくれる兵隊アリがいないから丸裸も同然です。ということは、非常に弱く、固有種のクロアリでも十分に殺すことができます。
     クロアリは非常に縄張り意識が強く、自分の縄張りに異物が入ってきた場合には容赦なく殺します。ですから、今のようなヒアリの侵入初期には固有種であるクロアリを殺さずに大事にすることが非常に重要になります。ヒアリの女王アリは一つの巣の中に100匹~1000匹単位でいるということで、固有種に比べると多く、守る側としては固有のクロアリが一匹でも多く必要ということになるわけですね。

     ヒアリを警戒することは重要ですが、殺虫剤の乱用は全くの逆効果になる可能性があります。ヒアリを見つけたら、まずは行政へ連絡して対応してもらうこと。クロアリを見つけたら殺さずに応援してあげることが必要なようです。

    参考:環境省ヒアリ特設ページ
  • 2017年08月02日

    8月1日の発言についてお詫びと訂正

    今週火曜日放送の5時冒頭で紹介した、フィナンシャルタイムズと日経新聞の記事について、私が事実誤認して発言した部分があったので訂正します。
    まず番組で紹介したのは、IMFの筆頭副専務理事、デヴィッド・リプトン氏がFTのインタビューに答えたこちらの記事。

    『Abenomics a 'success',declares IMF』(6月19日 FINANCIAL TIMES)https://goo.gl/yZsBPt

    IMFの年次総会後にインタビューに答え、日本に対して「現時点での通貨・財政政策の立場に満足している(原文:We're comfortable with the present stance of monetary and fiscal policy)」と話しています。
    また、物価上昇率がこの4年ほとんど上昇せず、これを理由にアベノミクスが失敗であると日本国内で議論されていることを念頭に、政策の失敗という考えを否定し、「私はアベノミクスを成功したものとして考えなければならないと思う」(原文:Mr Lipton rejected any suggestion the policy had failed. "I think we should be considering Abenomics as something that has been successful,")と話しました。
    そのあと、財政政策の急激な引き締めを戒め、代わりにIMFとしては消費税を0.5%~1%刻みで定期的に上昇させる仕組みなども提案。
    昨今日本国内でも話題に上がる金融緩和の手じまい、いわゆる出口戦略についても否定しました。(原文:Mr Lipton also rejected any suggestion that the Bank of Japan should start plotting an exit from its monetary easing.)
    また、賃金上昇については、去年の年次審査報告書で、政府を含めてすべての雇用者に対し年間3%賃金を上げるべきだと提案していましたが、リプトン氏はそうした議論が「進んだ」と述べています。

    続けて、日経新聞のIMF年次審査報告書についての記事を紹介しました。

    『「アベノミクスは目標未達」 IMF年次審査報告書』(8月1日 日本経済新聞)https://goo.gl/5Mc8dH
    <国際通貨基金(IMF)は7月31日公表した日本経済の年次審査報告書で「アベノミクスは前進したが、目標には未達だ」と指摘し、日銀の金融緩和継続と政府の賃金引き上げ政策を求めた。財政政策は「中期的には健全化が必要」としつつも、短期的な財政刺激策が経済成長と物価の押し上げにつながるとの見方を示した。>

    この二つの記事に関する宮崎哲弥さんとの会話の中で、
    私は日経新聞の記事が上記FTのインタビュー記事を翻訳したものだと勘違いし、
    「日経新聞がFTの記事を誤訳した」という主旨の発言をしています。

    しかし、日経新聞の記事はFTのインタビュー記事を翻訳したものではなく、
    IMF年次審査報告書をベースに、別の内容を扱った記事です。
    従って、FTの記事にある"Success"を日経新聞が<未達>と誤訳して記事にしたわけではありません。
    お詫びして訂正いたします。
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飯田浩司

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ザ・ボイス そこまで言うか
月~木 16:00~
辛坊治郎ズーム そこまで言うか
土 13:00~

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