2015年4月

  • 2015年04月28日

    続・新たなロジック

     2月の末に発見した『新たなロジック』ですが、徐々に経済面のメインストリームに進出しています。何の話かというと、国債保有に関するバーゼル銀行監督委員会規制。2月25日の拙ブログでは日本経済新聞の金融欄の小さな記事を紹介しました。

    『新たなロジック発見!』http://www.1242.com/blog/iida/2015/02/25212401.html

     このバーゼル委員会の新規制とは、長期国債は今までリスクゼロとされてきましたが、これについてもリスクを考えて引当金や自己資本を積み増すよう規制を強化するという内容。さて、この新規制については5月末までに素案を公表する予定で、ここへ来てその素案の内容についての記事が出てきました。そして、そこに「国債暴落の懸念」や「財政の健全化」を織り込んだ上で一面トップに扱われるようになってきたので私としては危機感が募るのです。先日、日曜日の日本経済新聞は一面トップでこのバーゼル規制について扱いました。

    『銀行の国債保有 規制=バーゼル委=』(日本経済新聞 4月26日)http://goo.gl/Xd3DRN
    ※公式HPは途中までしか無料で読めないので、個人ブログをリンクしています
    <銀行が持つ国債に新たな国際規制が設けられる見通しとなった。主要国からなるバーゼル銀行監督委員会は、国債の金利が突然上昇(価格は下落)して損失が出ても経営に影響が出ないようにする新規制を、2016年にもまとめる。>

    また、別の日ですが毎日新聞も紙幅を割いて報じています。
    『バーゼル銀行監督委:国債などリスク反映した規制を議論』(毎日新聞 4月24日)http://goo.gl/ozSVDM
    <金利の急上昇(価格の急落)で損失が出ても経営が揺らがないよう、銀行に自己資本の積み増しを求める可能性がある。規制のあり方によっては、多くの国債や債権を持つ邦銀への影響も避けられず、業界や金融庁が警戒している。>

     これらの記事のリードでは銀行の経営への影響を示唆する程度ですが、読み進んでいくと結局国債暴落論につながっていきます。

    <いずれにせよ適用後は、銀行にとって大量の国債を持っていることがリスク要因となる。日本の国債発行額は約860兆円に上り、そのうち銀行は1割強を占める大きな受け皿だ。日銀の異次元金融緩和で長期金利は歴史的な低水準にあるが、仮に金利が上がる局面で銀行が国債の売りの姿勢を強めれば流れに拍車をかけかねない。>(日経)

    <銀行はリスク量に応じて自己資本を積んで備えているが、規制強化でリスク量を一律に増やされると、自己資本の水準達成に向けた増資や、国債など保有資産の売却を迫られることになる。日本国債の大口保有者である邦銀の「国債離れ」が進めば、国債価格が下落(金利は上昇)し、実体経済に影響しかねない。>(毎日)

     いずれも新規制により国債が暴落するリスクを言い募っているわけですが、以前のエントリーでも書いた通り、日本国債にどこまでリスクがあるのか?というところが抜け落ちています。そもそもこの規制の発端は、ギリシャ危機でした。

    <欧州債務危機でギリシャなどの国債価格が急落した経験から、英国やドイツは規制強化を主張。>(毎日)

     イギリスやドイツはギリシャやスペインの国債で大やけどをしたかもしれませんが、それを根拠にして日本の国債や米国債までいっしょくたにして議論をするのか?という話です。どうもドイツなどは財政均衡主義を教条的に適用しようとしているフシがあり、国債はどこの国でもすべて危ない!我が国のように無借金経営こそが国の財政の在り方だとばかりに規制を強化しようとしているように見えます。ドイツが勝手にそうする分には我々も内政不干渉ですから関係ないことですが、これを他の各国に適用するのは大きなお世話以外の何ものでもありません。というか、金利がマイナスになろうとしているほど信頼されている(というか、欧州域内には他に投資先がないと思われている)自国の国債にもわざわざ引当金を積ませるつもりなんでしょうか?在金融緩和を推し進めている欧州中銀の姿勢とも正反対ではないかと疑問に思わずにいられません。

     そうした問題点を指摘せずに、一律に国債と見ればどれもリスクだとばかりに書き立てる我が国のメディアにも首をかしげざるを得ません。経済用語を駆使して書いてはいますが、結局言いたいことは「日本もギリシャもドイツもアメリカも財政が破たんするリスクは同じだ!」ということですから、これがいかにとんでもないものかが分かろうというものです。

     さらに、これらの記事の問題は、見出しだけを見ると今すぐにでも規制が始まるように見えるところ。しかし、決してそんなことはないことが本文には書いてあります。

    <これまでの議論では、金利リスクの基準などの具体案は固まっていない。欧州債務危機でギリシャなどの国債価格が急落した経験から、英国やドイツは規制強化を主張。これに対し、長期国債を多く持つ銀行が多い日米の当局は「一律の規制強化ではなく、各国当局の裁量を認めてもらいたい」(金融庁幹部)と、柔軟な規制のしくみを求めている。>(毎日)

     まだ、これからの話し合いで決まるって、記事の終わりには書いてあるわけです。ん~、新聞は最後まで読まないといけませんね。というか、トンデモ論を根拠にした規制強化に対しては「裁量を認めてもらいたい」なんていう下手に出た姿勢ではなく、「各国で適切に管理するということで一律強化に反対」という姿勢を示さなくてはいけません。実際、日米はそうした警戒姿勢であるという報道もあります。羹(あつもの)に懲りてなますを吹くドイツに、日本の金融界もメディアも振り回されているのではないでしょうか?そうまでしてバーゼル新規制→銀行の国債売却→国債暴落を言い募るのには何の意図があるのか?疑ってしまいます。
  • 2015年04月21日

    アシアナ機事故が物語るもの

     広島空港でのアシアナ航空機事故から1週間。今日の閣議後の会見で太田国交大臣は、事故機は27日朝までに撤去する意向を示しました。

    『アシアナ航空機 27日までに撤去へ』(4月21日 日テレNEWS24)http://goo.gl/gfgNJv
    <今月14日に広島空港で着陸に失敗したアシアナ航空機は、27日までに撤去を完了する見込みであることがわかった。
    これは、太田国交相が閣議後の会見で明らかにしたもの。滑走路近くの事故機では、撤去準備が進められている。撤去後は、視程5000メートルの運航条件は1600メートルまで緩和される。>

     この事故の原因について様々な報道がなされていて、パイロットの操縦ミス説、着陸直前にダウンバーストという下降気流で叩きつけられた説、それらの複合説など様々な分析がなされています。事故直前までは着陸最低気象条件である視程1600mをクリアしていたんですが、ものの1、2分で霧がかかり、一気に視界が悪くなった指摘があります。さらに、下降気流が発生した可能性も、国の運輸安全委員会からも指摘されています。

     一方で、広島空港は17日から運用を再開しましたが、事故で電波誘導施設が破損した関係で、雨や霧の影響を受けやすくなっています。早速、悪天候になった先週末19、20日は欠航が相次ぎました。

    『広島空港 20日もほとんどの便が欠航へ』(4月19日 NHK)http://goo.gl/ku50PC
    <アシアナ航空機の事故で、着陸機を電波で誘導する施設が壊れたままの広島空港では、雨で視界不良が見込まれるため、19日すべての便が欠航となりましたが、20日も大雨のおそれがあることから、広島空港を発着するほとんどの便の欠航が決まりました。>

     なぜ施設の破損によって悪天候に弱くなってしまうのか?雨で視界が悪くても、精密な電波誘導装置が空港側にも航空機側にも設置・搭載されていれば、それを使って着陸が可能という規則があります。広島空港は、ILSという無線誘導の中でも最も優秀な「カテゴリーⅢ」というものが使われていました。ところが、これが壊れてしまったので着陸できない便が増えてしまったというわけです。さて、この先どの程度増える可能性があるのか?国土交通省がこんなデータを出しています。

    『広島空港ILS高カテゴリー化事業 事後評価資料』(国土交通省大阪航空局・中国地方整備局)http://goo.gl/IdTyzE

     この資料の10ページに、『救済便数の状況』という項目があります。救済便というのは、もしこの高性能ILSを使わなかったとしてどれだけの航空便が着陸できなかったのかを表したもの。これには、
    <平成22年度から平成24年度の3ヵ年平均で、救済便数(着陸便のみ)は66便となった。>
    となっています。これはカテゴリーⅢからその一世代前のものになったとしてこの数字ですから、今回ILSを全く使えないままとなると、さらに増える可能性は高いわけです。

     さて、この空港、使ったことのある人ならわかると思いますが、全くの山の上に空港があります。標高は330m。着陸していくときに窓から外を見ていると山並みがグングン機体に迫ってくるような印象を受けます。航空関係の方に話を伺うと、「山には近づくな」というのは鉄則と言います。風が山に当たって気流が乱れることが多く、雲が発生しやすい。かつて、乗客サービスのために富士山に近づきすぎて乱気流に巻き込まれ、機体が空中分解したという事故もありました。(BOAC機空中分解事故)山というものはそれほど航空関係者にとっては鬼門なわけですが、そこに着陸していかなくてはいけないのが広島空港なのです。それゆえ、ダウンバーストが起こったというのも頷けます。

     また、霧が多いというのも、辛坊治郎さんが番組で指摘していましたが、山ですから霧というより雲が発生しているわけですね。この雲が晴天の中にポツポツあるくらいならいいんですが、標高330mの山の上に垂れ込めるように広がった時は完全にアウトになってしまいます。すなわち、これから梅雨のシーズン、台風のシーズンに差し掛かると非常に心許ない。予言しておきます。今年末までに累計三ケタの欠航、行き先変更が出るでしょう。それほど、厳しい条件の場所にこの空港は作られているのです。

     こんな厳しい条件下で毎日離着陸しなくてはいけないわけですから、一概にパイロットの技量の責任にするのはちょっと厳しすぎるのではないでしょうか?もちろん、第一義的には乗務員の責任が追及されるべきですが、他方この空港の立地条件が引き起こした側面はないのか?
    これについて指摘しているメディアはあまり見かけません。

     なぜこんなところに空港が作られたのか?

     戦後、インフラ整備、公共投資の一環で全国にあまたの空港が作られました。実に、現在日本には97もの空港があるのです。
    おしなべれば、各都道府県に2つずつ空港がある計算になるわけですね。中には気流が多少悪くても無理して作った空港や、地元の実力者が対立し、折衷案のような不便な位置に作られた例もあると聞きます。いずれにせよ、今回の事故はこの空港の厳しい立地も浮き彫りにしたものとも言えます。
    パイロットの責任に帰するだけでなく、構造的な原因分析も必要ではないでしょうか?今後、地方創生、国土強靭化の中で公共投資をする際にも非常に参考になることが多いと思います。
  • 2015年04月15日

    日本は生産性が低い?

    「日本は生産性が低い」

     このフレーズを新聞紙上でよく見かけます。テレビのニュースでもよく出てきます。
     「生産性が低い」からデフレからもなかなか脱却できずにいる。「構造改革」を行って「生産性」を向上させればデフレから脱却できる!
     大体そんなようなことが書かれています。今日の記事でもそうでした。

    『OECD「構造改革の強化が必要」 対日経済審査報告 女性の労働参加増加や外国人の活用など提言』(4月15日 日本経済新聞)http://goo.gl/F2hunm
    <経済協力開発機構(OECD)は15日、グリア事務総長の来日に合わせ、日本の経済政策に対する提言をまとめた対日経済審査報告書を発表した。
    (中略)
    生産性を高めるためコーポレートガバナンス(企業統治)の高度化や起業環境の改善も促しており、「アベノミクスを成功させるには(金融政策と財政政策、成長戦略の)3本の矢すべてを着実に実施することが必要」との見方を示した。>

     ご覧のとおり、日本の生産性が低いのはもう前提で、その根拠については説明もされません。そして、この「生産性」を改善させなくてはアベノミクスは成功しない、デフレからの脱却もないそうなんです。

     しかし、生産性が一体どんな指標なのか?何となくのイメージはあっても、正確に把握している人はすくないんじゃないでしょうか?そこで、調べてみました。餅は餅屋ということで、公益社団法人日本生産性本部というところが、日本の生産性の動向について毎年レポートを出しています。

    『労働生産性の国際比較』(日本生産性本部HP)http://goo.gl/3eZsR

     現在のところ最新版は2014年度版ということになるんですが、その中で労働生産性とは、「GDP÷就業者数」で表されています。その数値を上から並べると、1位ルクセンブルク、2位ノルウェー、3位アメリカという順番で、日本は22位なんだそうです。
    たしかに、数値はOECD平均より低く、22位という順位もGDP世界3位の経済大国にしては低いといえるかもしれません。

     しかし、ランキングを見ると不思議なことがわかります。8位にイタリア、13位にスペイン、18位にギリシャと、ちょっと前に欧州経済危機の主役だった国々が日本よりも上位にランクインしています。ちょっと失礼ですが、これらの国々と比べて日本の生産性が低いと言われてもピンときませんよね。それに、だからと言って問題なのか?日本の方がずっと失業率は低いし、給料は高いはずです。

     ここに、生産性礼賛の問題点があるのです。もう一度、生産性算出の式を見てみましょう。

    「労働生産性=GDP÷就業者数」

     ということは、労働生産性を高めるためには手段は2つあるんですね。一つはもちろん、GDPを増やすこと。分子を大きくすれば当然数値は良くなる。これが王道というものです。
     ところがもう一つ、分子の就業者数が少なくなると、こちらも労働生産性が高まってしまうんですね。今挙げたイタリア、スペイン、ギリシャ、さらに4位のアイルランドや7位のフランスも失業率は高止まりしています。当然、就業者数は少なくなっていきますから、それが労働生産性を高めることになってしまうんですね。皮肉なもんです。

     また、1位のルクセンブルクの分析には、
    <ルクセンブルクは鉄鋼業のほか、ヨーロッパでも有数の金融センターがあることで知られ、GDPの半分近くが金融業や不動産業、鉄鋼業などによって生み出されている。法人税率などを低く抑えることで、数多くのグローバル企業の誘致にも成功している。こうした労働生産性の高い分野に就業者の3割近くが集中していることもあり、国レベルでみても労働生産性が極めて高い水準になっている。>
    と、書かれています。

     要するに、金融や不動産といった一人で大金を稼ぎ出すような業種が中心の国は労働生産性が高くなる傾向がある。また、税制優遇などで大企業の登記上の本社を誘致すれば、実際に働いている人は最小限で大変な利益が計上されるので、こちらも労働生産性が高くなる。これを踏まえてみてみれば、1位のルクセンブルクのみならず、4位アイルランド、5位ベルギー、6位スイス、10位オーストリアはこういった金融立国、税制優遇の国々であることが分かります。

     さらに、人手を使わず大金を稼ぎ出せる業種といえば、天然資源。油田、ガス田などは一度掘り当てれば少数の技術者がいればいい。当然、労働生産性が高まります。北海油田を抱える2位ノルウェー、シェールガスの3位アメリカ、鉄鉱石の9位オーストラリア。これらの国々は天然資源があるから労働生産性が高いと説明ができるわけです。

     まとめると、労働生産性世界ランキング10位以内の国々は3つに分類できそうです。

    ・1つは、就業者数が減っている=失業率が高い国。
    ・次に、金融立国、税制優遇を行っている国。
    ・そして、天然資源が豊富にある国。

     では、日本はどうか?日本は、天然資源はない。金融よりは製造業やサービス業が中心。そして、アベノミクスによって就業者数は増えている。3つすべて当てはまりません。しかしこれは、国の稼ぎ方の違いですから仕方がありません。無理矢理金融立国にするのは、これだけの労働人口を抱えていますから現実的ではありません。過度の税制優遇は世界的に縮小する方向に向かっています。天然資源はありません。だからといって、就業者を減らすんでしょうか?それで労働生産性が高まって一体誰が喜ぶというんでしょうか?

     労働生産性は一つの指標であって、この数字を高めることを政策の目標にするのは危ないと思うんです。さらに言えば、「日本は生産性が低い。だからダメなんだ」というのは刷り込み、思い込みに過ぎないのではないでしょうか。思い込みを前提にした改革は、怪しいと思わなくてはいけません。
  • 2015年04月06日

    沖縄の米軍基地負担を数字で表すと?

     アメリカ軍普天間飛行場の名護市辺野古への移設に向けて、先週末、菅官房長官と翁長沖縄県知事の会談が行われました。

    『菅官房長官と翁長知事 初会談は平行線に』(4月5日 NHK)http://goo.gl/6FDBFI
    <沖縄のアメリカ軍普天間基地の移設計画を巡り、政府と沖縄県の対立が深まるなか、菅官房長官と沖縄県の翁長知事が初めて会談しました。菅官房長官が、普天間基地の危険性の除去に向けて計画への理解を求めたのに対し、翁長知事は計画の断念を求め、会談は平行線に終わりました。>

     会談前から菅官房長官は、一度の会談だけで物事がいきなり進むことは考えづらいと語っていた通り、会談は平行線に終わったようです。しかし、今後も話し合いを続けようということでは一致したとのことで、一歩前進と評価する新聞がある一方、対立は深まったという意見もあります。

     会談では、いくつかの数字が紹介されて、沖縄の基地負担などの課題が論じられました。まず、「約74%」という数字です。

    『翁長知事と菅官房長官の会談 冒頭発言の全文』(4月6日 沖縄タイムス)http://goo.gl/XClLez
    <菅官房長官:政府としては国土面積の1%に満たない沖縄県に約74%の米軍基地が集中していることについて、沖縄県民に大きなご負担をお願いしていることについて重く受け止めている。>
    <翁長知事:沖縄は全国の面積のたった0・6%に74%の米軍専用施設が置かれ、まさしく戦後70年間、日本の安全保障を支えてきた自負もありますし、無念さもあることはあるんですよね。>

     翁長知事が正確に言っているんですが、沖縄は全国の面積の0.6%に、アメリカ軍の「専用」施設のうちの74%が置かれています。この、「専用」施設というのがクセもので、自衛隊との共用施設はこの数字には入って来ません。では、どんなところが共用施設かというと、防衛省がその一覧を出しています。

    『米軍と自衛隊が共同使用している防衛施設』(防衛省HP)http://goo.gl/hiCu0k

     ちょっと小さな字で見づらいんですが、よくよく見ていくと、米軍にとって重要な施設は共用施設に置かれています。たとえば、在日米軍司令部と第5空軍司令部が置かれている横田飛行場、アメリカ海軍第7艦隊の司令部が置かれている横須賀海軍施設、在日アメリカ陸軍司令部が置かれているキャンプ座間、空母艦載機を受け入れる厚木海軍飛行場、海兵隊航空部隊が常駐する岩国飛行場、第7艦隊の一部が駐留する佐世保海軍施設などが、共用施設の中に入っているのです。ということは、先に挙げた「74%」の母数にはこれらの基地は入っていないということになります。今挙げた施設は、誰しもが本土のアメリカ軍基地と言われれば名前を挙げるメジャーな基地。「74%」と言われると沖縄の圧倒的な負担感がある気がしますが、実際にこれらの基地が数字の中に入っていないと言われるとちょっと違和感がありますよね。

     では、これら共用の基地も含めた全体に対しての割合はどうかというと、これ、実は沖縄県の資料にもしっかり書き込まれています。

    『沖縄の米軍及び自衛隊基地(統計資料集)平成26年3月』(沖縄県HP)http://goo.gl/vwMSEB

    <(オ)米軍施設・区域の全国比
    全国の米 軍 施 設 ・ 区 域 :132施設 1,027,153千㎡
    本土の米 軍 施 設 ・ 区 域 :99施設  795,393千㎡
    沖縄の米 軍 施 設 ・ 区 域 :33施設  231,761千㎡
    全国に占める本県の比 率  : 25.0%  22.6%>

     ということで、全体では22.6%で北海道に次いで2番目ということになります。ただ、これは年に一度使うか使わないかという広大な演習場まですべてを含んだ数字ですから、この「約23%」という数字だけをもって沖縄だって他の都道府県と同じくらいの負担だということはできません。しかしながら、「74%」と「23%」では印象が全く違いますから、負担の軽減を議論するのであれば、まずは数字を正確に理解する必要があります。

     また、沖縄県内の基地負担軽減についても翁長知事は数字を基に政府を批判しています。

    『<翁長知事冒頭発言全文>「粛々」は上から目線』(4月6日 琉球新報)http://goo.gl/OUzv52
    <翁長知事:嘉手納以南の相当数が返されると言うんですが、一昨年に小野寺前防衛大臣が来た時に「それで、どれだけ基地は減るのか」と聞いたら、今の73・8%から73・1%にしか変わらない。0・7%だ。
     なぜかというと那覇軍港もキャンプキンザーもみんな県内移設だから。県内移設なので、普天間が4分の1の所に行こうがどうしようが、73・8%が73・1%にしか変わらない。
     官房長官の話を聞いたら全国民は「相当これは進むな」「なかなかやるじゃないか」と思うかもしれないけれど、パーセンテージで言うとそういうことだ。>

     たしかに、面積の議論で言えば73.8%から73.1%に減るに過ぎません。しかしながら、この負担軽減の問題を面積で考えるのは少し問題があります。そこには土地の利用価値、経済性が考えられていないからです。

     具体例を挙げれば、面積で考えれば沖縄県で一番広大な米軍施設は北部演習場です。先ほど参照した沖縄県が出した資料、『沖縄の米軍及び自衛隊基地(統計資料集)平成26年3月』によれば、沖縄県全体で231平方キロあまりに対して、北部演習場は78平方キロあまり。占有率は33%強となります。私も何度か沖縄に取材に行きまして、北部演習場にも行きましたが、ここは沖縄本島北部の森林地帯。山あり川あり林ありのジャングルです。

     仮にこの北部演習場が返還されたとすると3割強の負担軽減になるわけですが、面積にこだわる翁長知事にとっては、それでいいのか?返還されても使い道のないジャングルよりは、面積は小さくとも経済的メリットの大きい嘉手納以南の返還を選ぶ方が合理的な選択と言えるのではないでしょうか?73.8が73.1にしか減らないから政府は仕事をしていない、まやかしだと批判するのは、批判のための批判にすぎない気がします。

     一事が万事、今後も話し合いを続けるということであれば、現状に沿った冷静な議論を期待したいと思います。
  • 2015年04月01日

    ROEブームに疑問

     新聞の経済欄を中心に、『ROE』という指標が注目されています。日本語に直すと『自己資本利益率』というものなんですが、政府の成長戦略の中にもこのワードが使われています。

    『「日本再興戦略」改訂2014-未来への挑戦-』http://goo.gl/EEsjKe
    <コーポレートガバナンスの強化により、経営者のマインドを変革し、グローバル水準の ROE の達成等を一つの目安に、グローバル競争に打ち勝つ攻めの経営判断を後押しする仕組みを強化していくことが重要である。>

     この成長戦略自体は去年の6月下旬に閣議決定されているんですが、年度末を控えた今年3月ごろから各紙こぞってROEを言い出すようになりました。

    『日立・三菱重がROE目標』(3月17日 日本経済新聞)http://goo.gl/b3cnMD
    <資本効率を重視する経営が国内の上場企業で広がっている。日立製作所と三菱重工業は、限られた元手でどれだけ利益を稼げるかを示す自己資本利益率(ROE)を経営目標に導入する。(中略)株式市場が重視するROEを取り入れて稼ぐ力を一段と高め、日本企業の平均を上回る10%超を目指す。>

     この10%超というのが、成長戦略の言うところの「グローバル水準のROE」の目安なんだそうです。では、そもそもROEとはどういった指標か?

    『証券用語解説集 ROE』(野村証券HP)http://goo.gl/055ZHt
    <Return On Equityの略称で和訳は自己資本利益率。企業の自己資本(株主資本)に対する当期純利益の割合。
    計算式はROE=当期純利益÷自己資本またはROE=EPS(一株当たり利益)÷BPS(一株当たり純資産)。>

     もっともシンプルな計算式は、当期純利益÷自己資本でしょう。この数値を良くするためには、当期純利益を増やすか、自己資本(≒株式)を減らすかをすればいいことになります。ここで当期純利益を増やすことに注力すれば会社の健全な発展を促せるんですが、20年のデフレを引きずる我が国ではなかなか難しい。
     そうなると、自己資本を減らす方向に注力する会社が出てくることは致し方ないことです。己資本の減らし方で最も簡単なのが、自社の株を買って償却してしまう方法です。案の定、2014年度の自社株買いは猛烈な勢いで増えています。

    『14年度の自社株買い、3.3兆円=株主還元強化で7割増-上場企業』(3月24日 時事通信)http://goo.gl/RMLQAK
    <上場企業による自社株買いの総額が2014年度は約3兆2900億円に達し、前年度実績(約1兆9500億円)を約7割上回る見込みであることが24日、アイ・エヌ情報センター(東京)の調査で分かった。>

     問題はこの自社株買いの原資なんですが、これを借金で賄う例もあるようです。というのも、ちょっと専門的な話になるんですが、借金をして負債が増えても資本が圧縮できれば(自社株買いをすれば)ROEは増大するんですね。さらに、発行済み株式総数が小さくなりますから、1株あたりの利益も改善され、見かけ上は株価の上昇要因となります。

     ただ、財務状況は借金をする分当然悪化します。本来はこうした財務状況だとか本業の見通しなどを総合的に判断しなくてはいけないんですが、このところはとにかくROE、ROEとそればかりを見る記事が増えています。

     そもそも、成長戦略でROEを重視している一方で、政府は経済界にしきりに賃上げを求めています。ROE上昇のための自社株買いも、賃上げも、基本的に原資は余剰資金。さらに言えば、設備投資だって企業に余裕がなければできません。せっかくアベノミクスや消費増税延期でできた余裕も、ROEブームに踊らされることで一部株主にしか恩恵が及ばないかもしれません。

     ではなぜこんなにROEが独り歩きしているのか?あるエコノミストに話を聞くと、
    「結局、株を持っている投資家や証券会社の思惑があるんだよね。不健全だろうがなんだろうが株価さえ上がればOKという人が出てきている。ま、景気が良くなってくると、こういう流行ワードが出てくるのは世の常なんだけど...」
    と答えてくれました。

     思惑含みの市場参加者や、それを取材し代弁するマスコミは世の常として、企業経営者の立場で考えても自社株買いは魅力的に映ります。自社株買いをすることでROEが上がって株価が上がれば、株主総会を乗り切りやすくなり、株主から追及されなくなる。さらに、自分も株式を持っていれば、含み益も増大する。

     一方で、賃上げをしたり設備投資したりすると、その判断が株価にどうプラスか説明しなければならないし、その説明通り株価が上がるとも限りません。経営者の立場に対してどっちがリスクが高いかと言われれば、賃上げや設備投資の方がリスクが高いと言わざるをえません。

     ミクロの世界では、自社株買いを選ぶ経営者が増えるのは自明の理なわけです。その上、政府が成長戦略でROE上昇を推進しているわけですからね。ただ、その結果、マクロ経済的視点で見ると、個人消費はじめ内需は冷え込んだまま。日本全体でみると、景気の足を引っ張っている結果です。ROEブームもほどほどにしておかないと、副作用が大きすぎる気がします。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
「飯田浩司そこまで言うか!」

■会員制ファンクラブ(CAMPFIREファンクラブ)
「飯田浩司そこまで言うか!ONLINE」

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