2015年04月21日

アシアナ機事故が物語るもの

 広島空港でのアシアナ航空機事故から1週間。今日の閣議後の会見で太田国交大臣は、事故機は27日朝までに撤去する意向を示しました。

『アシアナ航空機 27日までに撤去へ』(4月21日 日テレNEWS24)http://goo.gl/gfgNJv
<今月14日に広島空港で着陸に失敗したアシアナ航空機は、27日までに撤去を完了する見込みであることがわかった。
これは、太田国交相が閣議後の会見で明らかにしたもの。滑走路近くの事故機では、撤去準備が進められている。撤去後は、視程5000メートルの運航条件は1600メートルまで緩和される。>

 この事故の原因について様々な報道がなされていて、パイロットの操縦ミス説、着陸直前にダウンバーストという下降気流で叩きつけられた説、それらの複合説など様々な分析がなされています。事故直前までは着陸最低気象条件である視程1600mをクリアしていたんですが、ものの1、2分で霧がかかり、一気に視界が悪くなった指摘があります。さらに、下降気流が発生した可能性も、国の運輸安全委員会からも指摘されています。

 一方で、広島空港は17日から運用を再開しましたが、事故で電波誘導施設が破損した関係で、雨や霧の影響を受けやすくなっています。早速、悪天候になった先週末19、20日は欠航が相次ぎました。

『広島空港 20日もほとんどの便が欠航へ』(4月19日 NHK)http://goo.gl/ku50PC
<アシアナ航空機の事故で、着陸機を電波で誘導する施設が壊れたままの広島空港では、雨で視界不良が見込まれるため、19日すべての便が欠航となりましたが、20日も大雨のおそれがあることから、広島空港を発着するほとんどの便の欠航が決まりました。>

 なぜ施設の破損によって悪天候に弱くなってしまうのか?雨で視界が悪くても、精密な電波誘導装置が空港側にも航空機側にも設置・搭載されていれば、それを使って着陸が可能という規則があります。広島空港は、ILSという無線誘導の中でも最も優秀な「カテゴリーⅢ」というものが使われていました。ところが、これが壊れてしまったので着陸できない便が増えてしまったというわけです。さて、この先どの程度増える可能性があるのか?国土交通省がこんなデータを出しています。

『広島空港ILS高カテゴリー化事業 事後評価資料』(国土交通省大阪航空局・中国地方整備局)http://goo.gl/IdTyzE

 この資料の10ページに、『救済便数の状況』という項目があります。救済便というのは、もしこの高性能ILSを使わなかったとしてどれだけの航空便が着陸できなかったのかを表したもの。これには、
<平成22年度から平成24年度の3ヵ年平均で、救済便数(着陸便のみ)は66便となった。>
となっています。これはカテゴリーⅢからその一世代前のものになったとしてこの数字ですから、今回ILSを全く使えないままとなると、さらに増える可能性は高いわけです。

 さて、この空港、使ったことのある人ならわかると思いますが、全くの山の上に空港があります。標高は330m。着陸していくときに窓から外を見ていると山並みがグングン機体に迫ってくるような印象を受けます。航空関係の方に話を伺うと、「山には近づくな」というのは鉄則と言います。風が山に当たって気流が乱れることが多く、雲が発生しやすい。かつて、乗客サービスのために富士山に近づきすぎて乱気流に巻き込まれ、機体が空中分解したという事故もありました。(BOAC機空中分解事故)山というものはそれほど航空関係者にとっては鬼門なわけですが、そこに着陸していかなくてはいけないのが広島空港なのです。それゆえ、ダウンバーストが起こったというのも頷けます。

 また、霧が多いというのも、辛坊治郎さんが番組で指摘していましたが、山ですから霧というより雲が発生しているわけですね。この雲が晴天の中にポツポツあるくらいならいいんですが、標高330mの山の上に垂れ込めるように広がった時は完全にアウトになってしまいます。すなわち、これから梅雨のシーズン、台風のシーズンに差し掛かると非常に心許ない。予言しておきます。今年末までに累計三ケタの欠航、行き先変更が出るでしょう。それほど、厳しい条件の場所にこの空港は作られているのです。

 こんな厳しい条件下で毎日離着陸しなくてはいけないわけですから、一概にパイロットの技量の責任にするのはちょっと厳しすぎるのではないでしょうか?もちろん、第一義的には乗務員の責任が追及されるべきですが、他方この空港の立地条件が引き起こした側面はないのか?
これについて指摘しているメディアはあまり見かけません。

 なぜこんなところに空港が作られたのか?

 戦後、インフラ整備、公共投資の一環で全国にあまたの空港が作られました。実に、現在日本には97もの空港があるのです。
おしなべれば、各都道府県に2つずつ空港がある計算になるわけですね。中には気流が多少悪くても無理して作った空港や、地元の実力者が対立し、折衷案のような不便な位置に作られた例もあると聞きます。いずれにせよ、今回の事故はこの空港の厳しい立地も浮き彫りにしたものとも言えます。
パイロットの責任に帰するだけでなく、構造的な原因分析も必要ではないでしょうか?今後、地方創生、国土強靭化の中で公共投資をする際にも非常に参考になることが多いと思います。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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