2015年04月28日

続・新たなロジック

 2月の末に発見した『新たなロジック』ですが、徐々に経済面のメインストリームに進出しています。何の話かというと、国債保有に関するバーゼル銀行監督委員会規制。2月25日の拙ブログでは日本経済新聞の金融欄の小さな記事を紹介しました。

『新たなロジック発見!』http://www.1242.com/blog/iida/2015/02/25212401.html

 このバーゼル委員会の新規制とは、長期国債は今までリスクゼロとされてきましたが、これについてもリスクを考えて引当金や自己資本を積み増すよう規制を強化するという内容。さて、この新規制については5月末までに素案を公表する予定で、ここへ来てその素案の内容についての記事が出てきました。そして、そこに「国債暴落の懸念」や「財政の健全化」を織り込んだ上で一面トップに扱われるようになってきたので私としては危機感が募るのです。先日、日曜日の日本経済新聞は一面トップでこのバーゼル規制について扱いました。

『銀行の国債保有 規制=バーゼル委=』(日本経済新聞 4月26日)http://goo.gl/Xd3DRN
※公式HPは途中までしか無料で読めないので、個人ブログをリンクしています
<銀行が持つ国債に新たな国際規制が設けられる見通しとなった。主要国からなるバーゼル銀行監督委員会は、国債の金利が突然上昇(価格は下落)して損失が出ても経営に影響が出ないようにする新規制を、2016年にもまとめる。>

また、別の日ですが毎日新聞も紙幅を割いて報じています。
『バーゼル銀行監督委:国債などリスク反映した規制を議論』(毎日新聞 4月24日)http://goo.gl/ozSVDM
<金利の急上昇(価格の急落)で損失が出ても経営が揺らがないよう、銀行に自己資本の積み増しを求める可能性がある。規制のあり方によっては、多くの国債や債権を持つ邦銀への影響も避けられず、業界や金融庁が警戒している。>

 これらの記事のリードでは銀行の経営への影響を示唆する程度ですが、読み進んでいくと結局国債暴落論につながっていきます。

<いずれにせよ適用後は、銀行にとって大量の国債を持っていることがリスク要因となる。日本の国債発行額は約860兆円に上り、そのうち銀行は1割強を占める大きな受け皿だ。日銀の異次元金融緩和で長期金利は歴史的な低水準にあるが、仮に金利が上がる局面で銀行が国債の売りの姿勢を強めれば流れに拍車をかけかねない。>(日経)

<銀行はリスク量に応じて自己資本を積んで備えているが、規制強化でリスク量を一律に増やされると、自己資本の水準達成に向けた増資や、国債など保有資産の売却を迫られることになる。日本国債の大口保有者である邦銀の「国債離れ」が進めば、国債価格が下落(金利は上昇)し、実体経済に影響しかねない。>(毎日)

 いずれも新規制により国債が暴落するリスクを言い募っているわけですが、以前のエントリーでも書いた通り、日本国債にどこまでリスクがあるのか?というところが抜け落ちています。そもそもこの規制の発端は、ギリシャ危機でした。

<欧州債務危機でギリシャなどの国債価格が急落した経験から、英国やドイツは規制強化を主張。>(毎日)

 イギリスやドイツはギリシャやスペインの国債で大やけどをしたかもしれませんが、それを根拠にして日本の国債や米国債までいっしょくたにして議論をするのか?という話です。どうもドイツなどは財政均衡主義を教条的に適用しようとしているフシがあり、国債はどこの国でもすべて危ない!我が国のように無借金経営こそが国の財政の在り方だとばかりに規制を強化しようとしているように見えます。ドイツが勝手にそうする分には我々も内政不干渉ですから関係ないことですが、これを他の各国に適用するのは大きなお世話以外の何ものでもありません。というか、金利がマイナスになろうとしているほど信頼されている(というか、欧州域内には他に投資先がないと思われている)自国の国債にもわざわざ引当金を積ませるつもりなんでしょうか?在金融緩和を推し進めている欧州中銀の姿勢とも正反対ではないかと疑問に思わずにいられません。

 そうした問題点を指摘せずに、一律に国債と見ればどれもリスクだとばかりに書き立てる我が国のメディアにも首をかしげざるを得ません。経済用語を駆使して書いてはいますが、結局言いたいことは「日本もギリシャもドイツもアメリカも財政が破たんするリスクは同じだ!」ということですから、これがいかにとんでもないものかが分かろうというものです。

 さらに、これらの記事の問題は、見出しだけを見ると今すぐにでも規制が始まるように見えるところ。しかし、決してそんなことはないことが本文には書いてあります。

<これまでの議論では、金利リスクの基準などの具体案は固まっていない。欧州債務危機でギリシャなどの国債価格が急落した経験から、英国やドイツは規制強化を主張。これに対し、長期国債を多く持つ銀行が多い日米の当局は「一律の規制強化ではなく、各国当局の裁量を認めてもらいたい」(金融庁幹部)と、柔軟な規制のしくみを求めている。>(毎日)

 まだ、これからの話し合いで決まるって、記事の終わりには書いてあるわけです。ん~、新聞は最後まで読まないといけませんね。というか、トンデモ論を根拠にした規制強化に対しては「裁量を認めてもらいたい」なんていう下手に出た姿勢ではなく、「各国で適切に管理するということで一律強化に反対」という姿勢を示さなくてはいけません。実際、日米はそうした警戒姿勢であるという報道もあります。羹(あつもの)に懲りてなますを吹くドイツに、日本の金融界もメディアも振り回されているのではないでしょうか?そうまでしてバーゼル新規制→銀行の国債売却→国債暴落を言い募るのには何の意図があるのか?疑ってしまいます。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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