2015年04月01日

ROEブームに疑問

 新聞の経済欄を中心に、『ROE』という指標が注目されています。日本語に直すと『自己資本利益率』というものなんですが、政府の成長戦略の中にもこのワードが使われています。

『「日本再興戦略」改訂2014-未来への挑戦-』http://goo.gl/EEsjKe
<コーポレートガバナンスの強化により、経営者のマインドを変革し、グローバル水準の ROE の達成等を一つの目安に、グローバル競争に打ち勝つ攻めの経営判断を後押しする仕組みを強化していくことが重要である。>

 この成長戦略自体は去年の6月下旬に閣議決定されているんですが、年度末を控えた今年3月ごろから各紙こぞってROEを言い出すようになりました。

『日立・三菱重がROE目標』(3月17日 日本経済新聞)http://goo.gl/b3cnMD
<資本効率を重視する経営が国内の上場企業で広がっている。日立製作所と三菱重工業は、限られた元手でどれだけ利益を稼げるかを示す自己資本利益率(ROE)を経営目標に導入する。(中略)株式市場が重視するROEを取り入れて稼ぐ力を一段と高め、日本企業の平均を上回る10%超を目指す。>

 この10%超というのが、成長戦略の言うところの「グローバル水準のROE」の目安なんだそうです。では、そもそもROEとはどういった指標か?

『証券用語解説集 ROE』(野村証券HP)http://goo.gl/055ZHt
<Return On Equityの略称で和訳は自己資本利益率。企業の自己資本(株主資本)に対する当期純利益の割合。
計算式はROE=当期純利益÷自己資本またはROE=EPS(一株当たり利益)÷BPS(一株当たり純資産)。>

 もっともシンプルな計算式は、当期純利益÷自己資本でしょう。この数値を良くするためには、当期純利益を増やすか、自己資本(≒株式)を減らすかをすればいいことになります。ここで当期純利益を増やすことに注力すれば会社の健全な発展を促せるんですが、20年のデフレを引きずる我が国ではなかなか難しい。
 そうなると、自己資本を減らす方向に注力する会社が出てくることは致し方ないことです。己資本の減らし方で最も簡単なのが、自社の株を買って償却してしまう方法です。案の定、2014年度の自社株買いは猛烈な勢いで増えています。

『14年度の自社株買い、3.3兆円=株主還元強化で7割増-上場企業』(3月24日 時事通信)http://goo.gl/RMLQAK
<上場企業による自社株買いの総額が2014年度は約3兆2900億円に達し、前年度実績(約1兆9500億円)を約7割上回る見込みであることが24日、アイ・エヌ情報センター(東京)の調査で分かった。>

 問題はこの自社株買いの原資なんですが、これを借金で賄う例もあるようです。というのも、ちょっと専門的な話になるんですが、借金をして負債が増えても資本が圧縮できれば(自社株買いをすれば)ROEは増大するんですね。さらに、発行済み株式総数が小さくなりますから、1株あたりの利益も改善され、見かけ上は株価の上昇要因となります。

 ただ、財務状況は借金をする分当然悪化します。本来はこうした財務状況だとか本業の見通しなどを総合的に判断しなくてはいけないんですが、このところはとにかくROE、ROEとそればかりを見る記事が増えています。

 そもそも、成長戦略でROEを重視している一方で、政府は経済界にしきりに賃上げを求めています。ROE上昇のための自社株買いも、賃上げも、基本的に原資は余剰資金。さらに言えば、設備投資だって企業に余裕がなければできません。せっかくアベノミクスや消費増税延期でできた余裕も、ROEブームに踊らされることで一部株主にしか恩恵が及ばないかもしれません。

 ではなぜこんなにROEが独り歩きしているのか?あるエコノミストに話を聞くと、
「結局、株を持っている投資家や証券会社の思惑があるんだよね。不健全だろうがなんだろうが株価さえ上がればOKという人が出てきている。ま、景気が良くなってくると、こういう流行ワードが出てくるのは世の常なんだけど...」
と答えてくれました。

 思惑含みの市場参加者や、それを取材し代弁するマスコミは世の常として、企業経営者の立場で考えても自社株買いは魅力的に映ります。自社株買いをすることでROEが上がって株価が上がれば、株主総会を乗り切りやすくなり、株主から追及されなくなる。さらに、自分も株式を持っていれば、含み益も増大する。

 一方で、賃上げをしたり設備投資したりすると、その判断が株価にどうプラスか説明しなければならないし、その説明通り株価が上がるとも限りません。経営者の立場に対してどっちがリスクが高いかと言われれば、賃上げや設備投資の方がリスクが高いと言わざるをえません。

 ミクロの世界では、自社株買いを選ぶ経営者が増えるのは自明の理なわけです。その上、政府が成長戦略でROE上昇を推進しているわけですからね。ただ、その結果、マクロ経済的視点で見ると、個人消費はじめ内需は冷え込んだまま。日本全体でみると、景気の足を引っ張っている結果です。ROEブームもほどほどにしておかないと、副作用が大きすぎる気がします。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
「飯田浩司そこまで言うか!」

■会員制ファンクラブ(CAMPFIREファンクラブ)
「飯田浩司そこまで言うか!ONLINE」

最新の記事
アーカイブ

トップページ