2015年04月15日

日本は生産性が低い?

「日本は生産性が低い」

 このフレーズを新聞紙上でよく見かけます。テレビのニュースでもよく出てきます。
 「生産性が低い」からデフレからもなかなか脱却できずにいる。「構造改革」を行って「生産性」を向上させればデフレから脱却できる!
 大体そんなようなことが書かれています。今日の記事でもそうでした。

『OECD「構造改革の強化が必要」 対日経済審査報告 女性の労働参加増加や外国人の活用など提言』(4月15日 日本経済新聞)http://goo.gl/F2hunm
<経済協力開発機構(OECD)は15日、グリア事務総長の来日に合わせ、日本の経済政策に対する提言をまとめた対日経済審査報告書を発表した。
(中略)
生産性を高めるためコーポレートガバナンス(企業統治)の高度化や起業環境の改善も促しており、「アベノミクスを成功させるには(金融政策と財政政策、成長戦略の)3本の矢すべてを着実に実施することが必要」との見方を示した。>

 ご覧のとおり、日本の生産性が低いのはもう前提で、その根拠については説明もされません。そして、この「生産性」を改善させなくてはアベノミクスは成功しない、デフレからの脱却もないそうなんです。

 しかし、生産性が一体どんな指標なのか?何となくのイメージはあっても、正確に把握している人はすくないんじゃないでしょうか?そこで、調べてみました。餅は餅屋ということで、公益社団法人日本生産性本部というところが、日本の生産性の動向について毎年レポートを出しています。

『労働生産性の国際比較』(日本生産性本部HP)http://goo.gl/3eZsR

 現在のところ最新版は2014年度版ということになるんですが、その中で労働生産性とは、「GDP÷就業者数」で表されています。その数値を上から並べると、1位ルクセンブルク、2位ノルウェー、3位アメリカという順番で、日本は22位なんだそうです。
たしかに、数値はOECD平均より低く、22位という順位もGDP世界3位の経済大国にしては低いといえるかもしれません。

 しかし、ランキングを見ると不思議なことがわかります。8位にイタリア、13位にスペイン、18位にギリシャと、ちょっと前に欧州経済危機の主役だった国々が日本よりも上位にランクインしています。ちょっと失礼ですが、これらの国々と比べて日本の生産性が低いと言われてもピンときませんよね。それに、だからと言って問題なのか?日本の方がずっと失業率は低いし、給料は高いはずです。

 ここに、生産性礼賛の問題点があるのです。もう一度、生産性算出の式を見てみましょう。

「労働生産性=GDP÷就業者数」

 ということは、労働生産性を高めるためには手段は2つあるんですね。一つはもちろん、GDPを増やすこと。分子を大きくすれば当然数値は良くなる。これが王道というものです。
 ところがもう一つ、分子の就業者数が少なくなると、こちらも労働生産性が高まってしまうんですね。今挙げたイタリア、スペイン、ギリシャ、さらに4位のアイルランドや7位のフランスも失業率は高止まりしています。当然、就業者数は少なくなっていきますから、それが労働生産性を高めることになってしまうんですね。皮肉なもんです。

 また、1位のルクセンブルクの分析には、
<ルクセンブルクは鉄鋼業のほか、ヨーロッパでも有数の金融センターがあることで知られ、GDPの半分近くが金融業や不動産業、鉄鋼業などによって生み出されている。法人税率などを低く抑えることで、数多くのグローバル企業の誘致にも成功している。こうした労働生産性の高い分野に就業者の3割近くが集中していることもあり、国レベルでみても労働生産性が極めて高い水準になっている。>
と、書かれています。

 要するに、金融や不動産といった一人で大金を稼ぎ出すような業種が中心の国は労働生産性が高くなる傾向がある。また、税制優遇などで大企業の登記上の本社を誘致すれば、実際に働いている人は最小限で大変な利益が計上されるので、こちらも労働生産性が高くなる。これを踏まえてみてみれば、1位のルクセンブルクのみならず、4位アイルランド、5位ベルギー、6位スイス、10位オーストリアはこういった金融立国、税制優遇の国々であることが分かります。

 さらに、人手を使わず大金を稼ぎ出せる業種といえば、天然資源。油田、ガス田などは一度掘り当てれば少数の技術者がいればいい。当然、労働生産性が高まります。北海油田を抱える2位ノルウェー、シェールガスの3位アメリカ、鉄鉱石の9位オーストラリア。これらの国々は天然資源があるから労働生産性が高いと説明ができるわけです。

 まとめると、労働生産性世界ランキング10位以内の国々は3つに分類できそうです。

・1つは、就業者数が減っている=失業率が高い国。
・次に、金融立国、税制優遇を行っている国。
・そして、天然資源が豊富にある国。

 では、日本はどうか?日本は、天然資源はない。金融よりは製造業やサービス業が中心。そして、アベノミクスによって就業者数は増えている。3つすべて当てはまりません。しかしこれは、国の稼ぎ方の違いですから仕方がありません。無理矢理金融立国にするのは、これだけの労働人口を抱えていますから現実的ではありません。過度の税制優遇は世界的に縮小する方向に向かっています。天然資源はありません。だからといって、就業者を減らすんでしょうか?それで労働生産性が高まって一体誰が喜ぶというんでしょうか?

 労働生産性は一つの指標であって、この数字を高めることを政策の目標にするのは危ないと思うんです。さらに言えば、「日本は生産性が低い。だからダメなんだ」というのは刷り込み、思い込みに過ぎないのではないでしょうか。思い込みを前提にした改革は、怪しいと思わなくてはいけません。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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