2016年2月

  • 2016年02月15日

    深刻さを増す足元の経済

    2015年10月~12月期のGDP速報値が発表されました。
    『2015(平成27)年10~12月期四半期別GDP速報 (1次速報値)』(内閣府HP)http://goo.gl/LUEz8g

    この手の指標の発表があると、判で押したように各社同じような分析が並びます。

    『GDP、年率1.4%減 2四半期ぶりマイナス成長』(2月15日 朝日新聞)http://goo.gl/1AqK1G
    <内閣府が15日発表した2015年10~12月期の国内総生産(GDP)の1次速報は、物価変動の影響を除いた実質成長率が前期(7~9月期)比で0・4%減だった。>
    <GDPの6割を占める個人消費は前期比0・8%減と、2四半期ぶりに落ち込んだ。暖冬で冬物衣料の売れ行きが鈍く、ガソリンや灯油の消費も減った。>

    『10~12月期GDP、2四半期ぶりマイナスに』(2月15日 読売新聞)http://goo.gl/xRXGOy
    『去年10~12月のGDP 2期ぶりマイナス』(2月15日 NHK)https://goo.gl/oMyZfA
    『10~12月実質GDP、年率1.4%減 2期ぶりマイナス 消費・住宅投資が低迷』(2月15日 日本経済新聞)http://goo.gl/wCiIGf
    <輸出は0.9%減、輸入は1.4%減だった。輸出は減少したが、原油安を受けて輸入が減り、GDP成長率に対する外需寄与度はプラスを確保した。>

     どれを見ても、個人消費の減少は暖冬の影響で冬物衣料などの売れ行きが鈍ったことが原因。設備投資は伸びたが、全体を押し上げるには至らず。中国経済の不振やアメリカの景気の足踏みもあって、輸出も伸び悩んだが、原油安で輸入がそれ以上に減ったので全体としてはプラスを確保した。こういった説明文が並んでいます。もちろん、判で押したように同じ記事になるのは理由があって、同じアンチョコを基に記事を書いているからです。さすがネットの時代。そのアンチョコも含めて、内閣府はすべてネットに挙げてくれています。れが、これです。

    『2015(平成 27)年 10-12 月期GDP速報(1 次速報値)~ポイント解説~』(内閣府HP)http://goo.gl/2B2Ilm

     民間需要、とくに民間最終消費支出や民間設備投資に関する記述など、まさにカーボンコピーです。また、輸出入の動向などもこのペーパーに沿った記述で、相変わらずの経常黒字崇拝記事になってしまっています。

    <(3)輸出入の動向
    財貨・サービスの輸出については、実質▲0.9%と 2 四半期ぶりの減少となった。船舶・同修理、非鉄金属、特殊産業機械等が減少に寄与したとみられる。
    財貨・サービスの輸入については、実質▲1.4%と 2 四半期ぶりの減少となった。電子・通信機器、原油・天然ガス、鉄鉱石等が減少に寄与したとみられる。
    この結果、財貨・サービスの純輸出(輸出-輸入)のGDP寄与度は実質 0.1%とプラス寄与となった。>

     輸出が減少しているが、それ以上に輸入が減少しているので、全体への寄与度としては0.1%のプラスになったということなんですが、数字はプラスでも中身は正反対に深刻です。各社の経済記事では、折からの原油安が輸入減少の主な原因というような書き方ですが、原油安は昨日今日始まったものではありません。TIが40ドル台をウロウロしだしたのは、去年の夏ごろから。すでに原油が安値圏で推移しだして半年以上が経っています。10~12月期より前からすでに影響が出ているはずで、原油価格だけを輸入減少の要因に挙げるのはあまりに乱暴です。原油安という一時的な要因よりも、内需の減少で輸入も減少しているという方がよほどしっくりくると思います。要するに、輸出の減少を相殺するくらい、内需が減少して輸入が減少しているのではないでしょうか。

     ということで、本丸の個人消費、民間最終消費支出を見てみましょう。季節調整済みの実質で見てみると、

    15年10~12 -0.8(前期比)
    15年 7~9   0.4
    15年 4~6  -0.8
    15年 1~3   0.2
    14年10~12  0.6

    上がったり下がったりでデコボコを繰り返していて一進一退のように見えますが、もう少し前のデータを引っ張ってみると、

    14年 7~9  -0.0
    14年 4~6  -5.0

    ここまで引っ張るとお分かりでしょう。消費税を5%から8%に上げた2014年4月から6月で、前期比5.0%一気に落ち込んだ後、上がったり下がったりしながらほとんど足踏みしているわけですね。つまり、消費増税後内需は冷え込んだまま回復していない。そして、そんな弱い内需に足を引っ張られて輸入も減少。数字上はプラスになっていますが、これは変な日本語ですが、「悪いプラス」ということです。

     もう一つ気になるのが、公共投資。公的固定資本形成という項目なんですが、

    15年10~12 -2.7(前期比・季節調整済み)
    15年 7~9  -2.0
    15年 4~6   3.3
    15年 1~3  -2.9
    14年10~12  0.7

     過去1年間、4四半期のうち、3四半期でマイナス。もうこれでもかというほどに投資が絞られているのがよくわかりますね。家計も企業も投資を躊躇するこのデフレ期に、政府がこれだけ緊縮財政を敷けば、GDPが低迷するのは当然です。先ほど例に出した日本経済新聞が、非常に示唆に富む一文を載せていました。

    <2015年度の実質成長率が内閣府の試算(1.2%程度)を達成するには、16年1~3月期で前期比年率8.9%程度の伸びが必要になるという。>

     全体で前期比の年率換算で8.9%の伸びが必要...。民間需要がこれだけ冷え込んでいる中、あと1か月半でどれだけ押し上げられるのか?もうすでに間に合わない可能性も大きいですが、財政出動で内需を押し上げる以外に方法はないような気がします。何もしなければ、2015年度通年でもマイナスの可能性だって否定はできません。
  • 2016年02月09日

    マイナス金利は好都合?

     上へ下への大騒ぎです。今日の東京金融市場。史上初、10年物の国債の利率がマイナスに突入したということで、もはやアベノミクスは終わった!という論評が散見されます。

    『株価急落918円安、市場混乱、実体経済に波及懸念』(2月9日 共同通信)http://goo.gl/4EN5Lv
    <東京金融市場は9日、中国減速や原油安による市場の混乱が日米の実体経済に波及してきたとの懸念が強まり、円高が一時1ドル=114円台まで進行、日経平均株価は終値で前日比918円安まで急落した。安全資産とされる国債を買う動きが強まり、長期金利は初めて0%を割り込みマイナス幅を一時0・035%まで拡大した。日銀の追加金融緩和が不発に終わり、市場の動揺が一段と広がった。
    年明けから高まってきた投資家の不安は、世界経済をけん引する米国の先行きに陰りが見えたことで一気に膨らんだ。円安株高を狙った日銀のシナリオが狂い、安倍政権のアベノミクスは窮地に立たされた。>

     よくよく読むと突っ込みどころ満載の記事なんですが、まず今回の株安、国債高の原因については、
    <中国減速や原油安による市場の混乱が日米の実体経済に波及してきたとの懸念が強まり>
    <年明けから高まってきた投資家の不安は、世界経済をけん引する米国の先行きに陰りが見えたことで一気に膨らんだ。>
    と書いている通り、日本にその要因があるわけではありません。あくまで、海外要因が主で、それに引きずられるように日本市場も下げているわけですね。日のコメンテーター、エコノミストの片岡剛士さんも指摘していた通り、海外要因が大きいわけで、日本側が対策を打っても大きなトレンドを逆転させるほどのインパクトは持ちえないというわけです。

     それにしても、こぞって「異常事態」と書き立てる今回のマイナス金利。普段から政権に批判的なリベラル系の各紙はこぞって大特集を組んでいます。

    『長期金利 初めてマイナスに 一時−0.010%』(2月9日 毎日新聞)http://goo.gl/kgSPl1
    <国債を購入して10年の満期まで保有しても金利を受け取れないだけでなく、購入時の価格を下回って損をする異常事態。>

     不思議なことに、これらの新聞に共通するのは、普段は「財政健全化!バラマキはやめて借金削減!」と叫んでいることです。普段は国債を発行する国の目線で節約を言い募るのに、今回は国債を購入する銀行や機関投資家の目線で異常事態と言い募る。国債を発行する側からすれば、むしろマイナス金利ほどありがたいことはありません。何しろ、お金を借りて、返す時には利息を払うどころか元本を少し割引してくれるわけですから。ちなみに、来年度予算における国債の利払い費はそれなりに多額です。

    『平成28年度予算のポイント』(財務省HP)https://goo.gl/XFRHnb

     実に9兆8961億円で、一般会計歳出総額の1割強を占めます。この際、全ての国債をマイナス金利で発行できるこのタイミングで借り換えれば、10兆円近くが丸々圧縮できるわけです!もちろん、そんなことしたら需要がだぶついてマイナス金利からプラスに戻ってしまうのでできない相談ですけれども。
     少なくとも、これは国債増発には千載一遇のタイミング。れを逃さず国債を財源に景気浮揚のための財政出動を行うべきでしょう。そんなことをすると、それこそリベラル系のメディアを中心に「バラマキだ!」という大合唱が聞こえてきそうですが...。

     結局、金利がマイナスになっても国債が選好されるというのは、他に資金需要がないということ。先行きにネガティブな印象があるからこそ、利息はなくとも確実性の高い国債を買うのです。家計も企業もリスクに手を出さないとき、ある程度儲けを度外視して大胆に投資できる政府がカネを出して需要を創出するべきだと思います。折しも我が国には、メンテナンスすべき橋やトンネル、道路といったインフラがたくさんあります。歯抜け状態の高速道路や新幹線網をつなぐことで一時的ではなく恒常的な新たな需要を掘り起こすことが出来ます。作る時に建設需要を作り出すのみならず、できたインフラを利用することで新たな需要を創出した事例は、北陸新幹線の例を見れば明らかです。こうした隠れた需要の掘り起こしをする絶好の機会、マイナス金利。使わない手はありません。

     しかしながら、野党は真逆の方向へと突っ走っています。

    『財政健全化法案を共同提出=民・維』(2月9日 時事通信)http://goo.gl/pYNRjM
    <民主、維新両党は9日、国家公務員総人件費の2割削減などを盛り込んだ財政健全化推進法案を衆院に共同提出した。>

     国家公務員の総人件費はざっと5兆円。2割削って1兆円の削減額です。政府は企業に対して賃上げを要求している真っ最中なのに、その動きに完全に冷や水を浴びせる動き。その上、中小企業は公務員給与を基準に賃金を決める例が多いので、こうして公務員給与の引き締めを行うと、中小企業労働者の賃金が抑制されてしまいます。民主党の支持母体の連合は大企業労組が多いからそれでもいいということなのでしょうか?

     分配を重視する民主党が、労働者の賃金の頭を押さえようというのですから、どうも話があべこべのような気がします。このマイナス金利を利用して、再分配政策の財源とした方がよほど「1人ひとりを大切にする国」のような気がしますが。
  • 2016年02月01日

    狭まる増税包囲網...

     先月末には日本経済にインパクトを与えるニュースが様々ありました。まず、日銀はサプライズで追加の金融緩和策を決定しました。

    『日銀、マイナス金利導入...1年3か月ぶり緩和策』(1月29日 読売新聞)http://goo.gl/n9sRX1
    <民間金融機関が日銀の当座預金に一定以上のお金を預けた時に金利がマイナスとなって手数料を払う「マイナス金利政策」を日銀として初めて導入する。>
    <具体的には、民間銀行が、余っているお金を日本銀行に預ける際に適用される金利の一部を、現在のプラス0・1%から、マイナス0・1%に下げる。日銀は今後必要な場合は、さらに金利を引き下げるとしている。>

     これについては、実は今まで積んできた預金には今まで通り0.1%の金利が付くので、マイナス金利になるのは今後新たに積み増す当座預金のみ。今まで利息を受け取っていた銀行が収益を圧迫され結果として融資が減ってしまうのではないかという批判もありますが、中身というとさほどの変化はなさそうです。

     次に、その前の日に発表された経済閣僚の辞任。甘利経済再生担当大臣が金銭授受疑惑の責任を取って辞任しました。

    『甘利大臣 現金受け取り認め閣僚辞任を表明』(1月28日 NHK)http://goo.gl/mnGNY0
    <甘利経済再生担当大臣は、事務所が建設会社から現金を提供されたなどと報じられたことを受けて記者会見し、建設会社の関係者からの政治献金を受け取っていたことを認めました。そのうえで、「閣僚としての責務、および政治家としての矜持(きょうじ)に鑑み、本日ここに閣僚の職を辞することにした」と述べ、今後の国会審議への影響などを考慮し、閣僚を辞任する意向を明らかにしました。>

     経済の司令塔の辞任。政権への打撃はもちろんですが、それ以上に日本の経済への影響も懸念されます。それゆえ、直ちに後任が発表されました。石原伸晃氏です。

    『首相「国民に深くおわび」 甘利氏後任は石原伸晃氏』(1月28日 朝日新聞)http://goo.gl/6UL5e5
    <甘利氏の後任の石原氏は28日夜、皇居での認証式を経て正式に就任した。石原氏は首相と懇意で、自民党幹事長や政調会長などを歴任。小泉内閣では国土交通相などを務めたほか、安倍首相が政権に復帰した12年12月から14年9月まで環境相も務めた。>

     急きょ登板となった石原さんは非常に重い責務を背負いました。甘利さんがしていた仕事はある意味で相反する2つの仕事を背負っていたものなのです。内閣府の官僚で甘利さんの部下に、この騒動が起こるはるか前に聞いた話なんですが、
    「甘利さんは経済再生担当大臣でありながら、経済財政担当大臣でもあるんです。これが、特に消費増税への対応で二律背反に陥ってしまうんです」
    と言っていました。

     要するに、経済"再生"担当としては、成長を押しすすめる必要がある。経済成長を考えれば、景気を冷やす消費税の再増税は出来る限り避けたい政策です。8%に上げたときの予想をはるかに上回る負のインパクトを見れば、そして現状の景況感、この踊り場のような雰囲気を考えると避けられるのであれば避けたいとなります。

     一方、経済"財政"担当としては別の判断もあるのです。財政の継続ということを考えると、財政再建の方向性も出さなければならない。霞が関で財政再建・税収増と言えばこれはほとんど消費増税と同義となっています。経済財政担当として官僚の助言を100%鵜呑みにすれば、当然消費増税推進となるわけです。甘利さんは控え目ながら「増税よりも成長による増収で」と言っていたのは、霞が関の常識からすれば外れていたわけですね。

     では、後任の石原氏はどういった判断をするのでしょうか?石原氏は、財政規律を重視する自民党税制調査会の幹部。重要事項を決める"インナー"の1人でした。となると、やはり財政再建を重視し、霞が関の常識通り消費税の予定通りの再増税を推し進めるのか?そうした憶測記事も出てきています。

    『財政再建派が盛り返す? 石原氏、財政運営の力量は未知数』(1月29日 産経新聞)http://goo.gl/F1tKoY
    <自民党の税制調査会メンバーだった石原氏は財政規律を重視するとみられる。景気重視の菅氏と財政規律に重きを置く麻生氏との間でバランス調整役を果たしてきた甘利氏からの交代によって、「財政再建派が力を盛り返すのではないか」(閣僚経験者)と見る向きもある。>

     経済再生を重視するか、経済財政を重視するか?どちらを重視するかはご本人の判断次第ということになりますが、この人事、霞が関のパワーバランスにも影響を及ぼす可能性があります。内閣府の官僚に取材をすると、
    「甘利さんは各省庁の縦割りで進まなかった案件に体を張って風穴を開けて行っていた。新大臣にそこまでの力を期待できるのか...」
    と言っていました。今まで経産省が引っ張ってきたこの内閣の意思決定にも影響を及ぼす可能性があります。

     さらに気になるのが、こちらのニュース。

    『本田参与、大使転出へ=首相の経済アドバイザー』(2015年12月27日 時事通信)http://goo.gl/jglM0y
    <政府は本田悦朗内閣官房参与を退任させ、大使として転出させる方針を固めた。早ければ来月の人事検討会議で正式に決める。政府関係者が27日、明らかにした。本田氏の赴任先は欧州となる方向。>

     このニュース。その後全く追いかける記事が出てきていないのでずっと気になっていたんですが、周辺を取材するとそれなりの確度があるようです。まず、ご本人もかねてから経済外交を最前線でやりたいということを語っているとのこと。今月にも発令というという噂もあるんですが、何と言っても本田参与は消費税増税を巡って慎重論を展開している人物。本人は「いつでも電話一本で総理の相談に応えることが出来るから心配は要らない」と周囲に語っているようなんですが、果たしてそう上手くいくかどうか。

     今までは何かあればすぐに馳せ参じて、面と向かって総理と話が出来る安心感がありました。総理が休みに入れば、いの一番にゴルフを共にし、様々な話が出来る安心感がありました。電話一本がそれと同等の安心感を担保できるのでしょうか?甘利さんに加えて本田参与まで失えば、消費税増税慎重派が退潮し、増税派に押し切られるのではないかという警戒感が高まっています。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
「飯田浩司そこまで言うか!」

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