上へ下への大騒ぎです。今日の東京金融市場。史上初、10年物の国債の利率がマイナスに突入したということで、もはやアベノミクスは終わった!という論評が散見されます。
<東京金融市場は9日、中国減速や原油安による市場の混乱が日米の実体経済に波及してきたとの懸念が強まり、円高が一時1ドル=114円台まで進行、日経平均株価は終値で前日比918円安まで急落した。安全資産とされる国債を買う動きが強まり、長期金利は初めて0%を割り込みマイナス幅を一時0・035%まで拡大した。日銀の追加金融緩和が不発に終わり、市場の動揺が一段と広がった。
年明けから高まってきた投資家の不安は、世界経済をけん引する米国の先行きに陰りが見えたことで一気に膨らんだ。円安株高を狙った日銀のシナリオが狂い、安倍政権のアベノミクスは窮地に立たされた。>
よくよく読むと突っ込みどころ満載の記事なんですが、まず今回の株安、国債高の原因については、
<中国減速や原油安による市場の混乱が日米の実体経済に波及してきたとの懸念が強まり>
<年明けから高まってきた投資家の不安は、世界経済をけん引する米国の先行きに陰りが見えたことで一気に膨らんだ。>
と書いている通り、日本にその要因があるわけではありません。あくまで、海外要因が主で、それに引きずられるように日本市場も下げているわけですね。日のコメンテーター、エコノミストの片岡剛士さんも指摘していた通り、海外要因が大きいわけで、日本側が対策を打っても大きなトレンドを逆転させるほどのインパクトは持ちえないというわけです。
それにしても、こぞって「異常事態」と書き立てる今回のマイナス金利。普段から政権に批判的なリベラル系の各紙はこぞって大特集を組んでいます。
<国債を購入して10年の満期まで保有しても金利を受け取れないだけでなく、購入時の価格を下回って損をする異常事態。>
不思議なことに、これらの新聞に共通するのは、普段は「財政健全化!バラマキはやめて借金削減!」と叫んでいることです。普段は国債を発行する国の目線で節約を言い募るのに、今回は国債を購入する銀行や機関投資家の目線で異常事態と言い募る。国債を発行する側からすれば、むしろマイナス金利ほどありがたいことはありません。何しろ、お金を借りて、返す時には利息を払うどころか元本を少し割引してくれるわけですから。ちなみに、来年度予算における国債の利払い費はそれなりに多額です。
実に9兆8961億円で、一般会計歳出総額の1割強を占めます。この際、全ての国債をマイナス金利で発行できるこのタイミングで借り換えれば、10兆円近くが丸々圧縮できるわけです!もちろん、そんなことしたら需要がだぶついてマイナス金利からプラスに戻ってしまうのでできない相談ですけれども。
少なくとも、これは国債増発には千載一遇のタイミング。れを逃さず国債を財源に景気浮揚のための財政出動を行うべきでしょう。そんなことをすると、それこそリベラル系のメディアを中心に「バラマキだ!」という大合唱が聞こえてきそうですが...。
結局、金利がマイナスになっても国債が選好されるというのは、他に資金需要がないということ。先行きにネガティブな印象があるからこそ、利息はなくとも確実性の高い国債を買うのです。家計も企業もリスクに手を出さないとき、ある程度儲けを度外視して大胆に投資できる政府がカネを出して需要を創出するべきだと思います。折しも我が国には、メンテナンスすべき橋やトンネル、道路といったインフラがたくさんあります。歯抜け状態の高速道路や新幹線網をつなぐことで一時的ではなく恒常的な新たな需要を掘り起こすことが出来ます。作る時に建設需要を作り出すのみならず、できたインフラを利用することで新たな需要を創出した事例は、北陸新幹線の例を見れば明らかです。こうした隠れた需要の掘り起こしをする絶好の機会、マイナス金利。使わない手はありません。
しかしながら、野党は真逆の方向へと突っ走っています。
<民主、維新両党は9日、国家公務員総人件費の2割削減などを盛り込んだ財政健全化推進法案を衆院に共同提出した。>
国家公務員の総人件費はざっと5兆円。2割削って1兆円の削減額です。政府は企業に対して賃上げを要求している真っ最中なのに、その動きに完全に冷や水を浴びせる動き。その上、中小企業は公務員給与を基準に賃金を決める例が多いので、こうして公務員給与の引き締めを行うと、中小企業労働者の賃金が抑制されてしまいます。民主党の支持母体の連合は大企業労組が多いからそれでもいいということなのでしょうか?
分配を重視する民主党が、労働者の賃金の頭を押さえようというのですから、どうも話があべこべのような気がします。このマイナス金利を利用して、再分配政策の財源とした方がよほど「1人ひとりを大切にする国」のような気がしますが。