2017年7月

  • 2017年07月31日

    日報問題を次へ活かすために

     南スーダンに派遣されたPKO部隊が作成した日報にまつわる一連の問題について、先週金曜、特別防衛監察の結果が公表されました。

    『特別防衛監察「公開請求に対し違反行為」』(7月28日 NHK)https://goo.gl/ygtj1P
    <PKO部隊の日報をめぐる問題で特別防衛監察の結果について公表を行っている稲田防衛大臣は、会見の冒頭で、「特別防衛監察の結果が防衛監察から報告され、防衛省・自衛隊にとって大変厳しい、反省すべき結果が示されました。極めて遺憾です」と述べました。
    続いて、今回の特別防衛監察で認定された事実について説明を行っていて、この中では、去年7月と10月に行われた情報開示請求に対し、陸上自衛隊の司令部などは、存在している日報を開示していなかったとし、いずれも情報公開法の開示義務違反につながるものであり、自衛隊法の職務遂行義務違反にあたるとしています。>

     防衛省のHPには、7月31日時点ではアップが間に合っていませんが、産経新聞がこの特別防衛監察の全文を掲載しています。

    『【特別防衛監察全文(1)】』(7月28日 産経新聞)https://goo.gl/fP1R89

     この南スーダンPKO部隊の日報問題は、突き詰めれば情報公開請求に対する不手際ということで結論付けられています。それゆえ、今後の対策としては、
    <今後、海外に派遣される自衛隊の部隊が作成する日報のすべてを、統合幕僚監部の担当部署で一元的に管理し、情報公開請求に対しても一元的に対応するとしています。さらに、防衛省の行政文書管理規則を改正して日報の保存期間を10年間とし、その後、国立公文書館へ移管するとしています。>(前述のNHK記事)
    ということで、今後文書管理を強化する方向に向かうようです。

     さて、果たしてこれで一件落着となるのでしょうか?これで、今後こうした事件が起こらなくなるのでしょうか?私は、問題の根本に迫らずに表面、小手先の対策をしたがために今後に遺恨を残したように思います。そもそも、なぜこの問題が起きたかといえば、PKO派遣部隊の日報に"戦闘"という記載があり、戦闘が起きているような現場に部隊を派遣している政権の姿勢がPKO派遣5原則に違反し、突き詰めれば憲法9条違反ではないか!という報道が発端でした。本当にそうした記載があったかどうか、情報公開請求を行い、それが当初不開示とされたあたりから問題が大きくなって行き、その後日報をもみ消したのではないか、組織的に隠ぺいしたのではないかという具合に問題がスライドしていき、大臣の不安定な答弁も相まって大炎上してしまったわけですね。

     この経緯に2つの問題があります。

     まずは、他の諸国ならば"軍機"に当たるような部隊の動きをリアルタイムで把握できるような日報も、日本においては情報公開請求により開示を求めることが出来るということ。もちろん、情報公開法には部分開示の方法や妥当な理由ならば不開示も可能とされています。が、それも他の諸国のように門前払いのように拒否できるわけではなく、それ相応の理由を用意するか、機微に触れる部分を黒く塗りつぶして部分開示の形を取るか、いずれにせよ手がかかります。ある自衛隊関係者に話を聞くと、
    「近年情報公開請求が膨大になり、現場の部隊はその対応に四苦八苦している。内局の情報公開室は出せ出せとせっついてくるけれども、そもそも人が足りないところで一つ一つ文書を見て開示・不開示、部分開示なら黒塗り部分を判断しなければならない。これらは本来業務に支障無いよう、早出や残業で処理せざるをえない」
    と、現場の苦しさを明してくれました。
     情報公開は国民の知る権利に資するものですからメディアの人間としてそれに苦言を呈するようなことを言ったり書いたりすると批判を受けるかもしれませんが、ことが今回の日報のように安全保障に関わるものの場合、情報公開が隊員の命に関わったり、一般の日本国民の生命にも関わる可能性があります。ある意味、知る権利と生存権、自由権、幸福追求権がバッティングすることになるわけですね。
     今回の日報問題を批判していたのは主に今ある憲法を変えずに守って行こうという姿勢のリベラル派の皆さんでした。できれば、こうした憲法上の齟齬、バッティングにも目を配っていただければ幸いです。今回の原則公開、10年保存は海外での任務に関わる日報ですが、それが拡大されれば国土を守る上でも支障をきたす可能性がありますから。

     もう一つ、問題に感じるのは、そもそも日報に"戦闘"と書くことがどうして問題となるのか?ということ。現在、日本が国連PKOに参加するには、国内で独自に5つの原則を定義しています。

    『PKO政策Q&A』(外務省HP)https://goo.gl/fSGT2c
    <○参加5原則とは何ですか。
    わが国が国際平和協力法に基づき国連平和維持活動に参加する際の基本方針のことで、

    1 紛争当事者の間で停戦合意が成立していること
    2 国連平和維持隊が活動する地域の属する国及び紛争当事者が当該国連平和維持隊の活動及び当該平和維持隊への我が国の参加に同意していること。
    3 当該国連平和維持隊が特定の紛争当事者に偏ることなく、中立的立場を厳守すること。
    4 上記の原則のいずれかが満たされない状況が生じた場合には、我が国から参加した部隊は撤収することができること。
    5 武器の使用は、要員の生命等の防護のための必要最小限のものを基本。受入れ同意が安定的に維持されていることが確認されている場合、いわゆる安全確保業務及びいわゆる駆け付け警護の実施に当たり、自己保存型及び武器等防護を超える武器使用が可能。

    の5つを指し、それぞれ国際平和協力法の中に反映されています。>

     日報に"戦闘"と書くということは、この5原則のうちの1を満たさず、即座に撤収しない限り国際平和協力法違反だ!という政府批判を招くことになる。だから、"戦闘"と書いた日報は表に出すことは出来ないということになるのです。
     この5原則は、1990年代の初め、湾岸戦争後に作られました。当時の国連PKOは内戦終結後の平和構築が中心。ですから1の条件は容易に満たすことができました。
     一方、南スーダン派遣部隊が直面したのは、独立後に顕在化した内部での権力抗争に絡む"戦闘"。それにより多数の避難民が発生し、報道によれば自衛隊もいた宿営地にも逃げ込んでくる事態となりました。こうした事態にも、現在のPKOは「文民の保護」という目的で介入します。人道的な目的で派遣されているPKOですから、当然の行為です。日本の自衛隊はこの時どうしていたのか?宿営地の建物の中で伏せていました。なぜ?隊員たちが命惜しさにそうしていたわけでは決してありません。憲法9条の縛りに直面していたのです。

    <憲法9条 1 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
    2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。>

     武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。だから、弾の1発も撃てない。撃てるのは基本的に自己防衛のためのみ。ずっとこう信じられてきました。それゆえ、海外に派遣された自衛隊要員は軍事衝突に直面した際には自分の身を守る以外に何もできないとされてきました。しかしながら、PKOは<正義と秩序を基調とする国際平和>を実現するための手段として国連が認めた活動のはず。<国権の発動たる戦争>とは違うものなのに、なぜ同じ憲法9条の縛りを受け入れなければならないのか...?

     今回の日報問題とは、本質的には憲法9条とPKO、憲法9条と国際貢献についての整理が付かないまま、現場の自衛官に押し付けた結果生まれたものだと私は思います。したがって、この9条との関係の整理を付けないまま文書管理の問題として片づけるならば、必ず再度問題化するでしょう。
     本来ならば、立法府はこうした関係の整理を議論し、必要ならば法改正して5原則を見直すべきなのですが、野党は政敵叩きでスキャンダルに油を注ぎ、与党は小手先の対処に終始しています。衆院安全保障委員会の閉会中審査も、こうしたPKO再定義のいいチャンスのハズ。立法府の矜持を見せてもらいたいものです。

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    彼らが本国のことを気にせず、誇りを持って全力で任務に当たれる環境を作りたいものです。(南スーダン派遣施設隊隊旗返還式にて)
  • 2017年07月24日

    東京新聞よ、お前もか!

     政策と政局はまったく別物。政権の政策における方向性には大きな変化はないのですが、その説明の仕方の不味さ、報道のされ方などが相まって、内閣支持率が低下しています。

    『<内閣支持率>続落26% 「総裁3選」62%否定』(7月23日 毎日新聞)https://goo.gl/XgzfeT
    <毎日新聞は22、23両日、全国世論調査を実施した。安倍内閣の支持率は26%で、6月の前回調査から10ポイント減。不支持率は12ポイント増の56%だった。>

    『内閣支持率39%に続落 「政権におごり」65% 本社世論調査』(7月23日 日本経済新聞)https://goo.gl/SFgpHH
    <日本経済新聞社とテレビ東京による21~23日の世論調査で、安倍晋三内閣の支持率は39%となり、6月の前回調査から10ポイント下がった。不支持率は10ポイント上がって、2012年12月の第2次安倍政権発足以降で最高の52%となり、支持率と逆転した。>

     第2次安倍政権が発足して以来最大の支持率の落ち込み。しかも、2年前の安保法制審議の時のように政策的イシューによって支持率が低下したというよりは、失言・暴言やいわゆる"疑惑"とされるスキャンダラスなもので支持率が低下しています。もちろん、テロ等準備罪を創設する組織犯罪処罰法改正案に関する審議という政策面での対立もあったわけですが、どうも支持率低下の根本原因はスキャンダラスなものというイメージがありますよね。
     それゆえ守りに入る政権側には危機感を、そして攻める側の野党やメディアには高揚感を生んでいるわけですが、攻める側に功を焦るというかなりふり構わなさを少し感じることがあります。森友・加計といったホットな話題に対してはのめりこむように新事実!スクープ!と連発していますが、それで新たな情報が出てきて違法性なりが裏付けられればそれは権力の監視として素晴らしいことなのだろうと思います。事実はそうなっているとは言い難いわけですが...。
     問題はそこではなく、今まで冷静な議論をしてきた経済に関する報道でも、政権を批判するためにはなりふり構わなくなってきたところです。

     今まで東京新聞は、政権に懐疑的なその政治的な主張とは一線を画し一貫して消費税増税に対し批判をしてきました。同じように政権に批判的な朝日・毎日は消費増税に賛成ですが、庶民の生活に痛手ではないかという至極まっとうな理由で消費増税反対を掲げてきました。ある意味、経済面では成長重視、引き締め反対というような立場なのではないかと私は理解していたんですが、それでは政権批判にならないということなのか、最近怪しい記事が出てきました。

    『アベノミクス限界 「物価2%」6度目先送り 黒田日銀の任期中断念』(7月21日 東京新聞)https://goo.gl/xFU8L9
    <日銀は二十日、景気回復のために続けている大規模金融緩和策で、目標としていた前年比2%の物価上昇の達成時期をこれまでよりも一年遅い「二〇一九年度ごろ」に先送りした。>

     基本的に黒田日銀の物価目標の達成時期先送りという金融政策を伝える記事なんですが、ここに政権批判も盛り込もうとして迷走します。記事の2段目ですが、

    <度重なる達成時期の延期は、政府・日銀が進めるアベノミクスで、日銀が担う金融緩和の限界が示されたのと同じこと。一方で、支持率の下落が止まらない安倍内閣は、社会保障改革や財政再建に及び腰で、将来に対する国民の不安は消えない。アベノミクスが描いた企業収益の改善から賃金上昇、消費拡大へと続く経済の好循環の実現には、ほど遠い状態だ。>

     たしかに金融緩和は初期アベノミクスの3本の矢の1本目ですから、ここが上手くいっていないということは、アベノミクス全体の政策目標達成に向けてネガティブなのかもしれません。しかしながら、日銀総裁会見を伝える記事で、<一方で、支持率の下落が止まらない安倍内閣は、社会保障改革や財政再建に及び腰で、将来に対する国民の不安は消えない。>と、政府側の第2の矢(財政政策)や第3の矢(構造改革)について触れるのは、実は無関係なものが唐突に出てきていて違和感を感じます。
     その上、<社会保障改革や財政再建に及び腰>と政権を批判しています。これは、財政規律を重視する人たちが政権を批判するときに使う常套句。
    「社会保障改革をして将来を安心に、財政再建をして将来にツケを残さないために、消費税を増税して財源を手当てしましょう!」
    という主張を暗示させるキーワードが、社会保障改革、財政再建という単語です。

    「将来不安を解消するために今我々は痛みに耐えましょう!」「明日伸びんがために、今日縮むのであります!」「米百俵の精神で!」

     ああ、ここ20年何度も聞いたこの緊縮論法。借金は返すべきだという素朴な経済観に訴えかけるものなので、一見すると誰も反対できない大正論のようですが、増税によって経済が減速してしまって悪循環に陥るという論法です。これによって我が国はデフレスパイラルに完全にはまり込み、日本の大部分を占める庶民は立場の差こそあれ苦しみ抜きました。アベノミクスが初期にあれだけメディアから批判を受けたにも関わらず支持されたのは、この悪循環に20年苦しめられて「おかしいぞ?」と身を持って知った人々の根強い支持があったという面があったわけです。

     東京新聞は政治の面では政権批判をする一方、経済政策については是々非々の立場で臨むという姿勢を今までは示していました。それは、読者に寄り添うという姿勢なのだと私は感じ、正直尊敬していた部分もありました。

     ところが、ついにというべきか、緊縮の姿勢が東京新聞にも載るようになりました。これは社論の転換なのでしょうか?政権批判という大きな社論のために、消費税増税反対という今まで訴えてきた主張も取り下げてしまうのでしょうか?今回は筆が滑っただけと思いたいものですが、それにしては金融・経済の専門家に緊縮路線のコメントを求めているのが気になります...。
  • 2017年07月17日

    防衛費って、膨張しているの?

     先月「経済財政運営と改革の基本方針」、いわゆる骨太の方針が閣議決定され、来年度予算についての駆け引きがすでに始まっています。財政の行方を非常に心配し、できればその膨張を食い止めたいという向き(つまり財政緊縮派)が最も気にするのは社会保障費と防衛費。早くも、来年度予算の防衛費の膨張を警戒するような報道が出始めています。

    『防衛費4年連続5兆円超 来年度予算、過去最高要求へ』(7月17日 日本経済新聞)https://goo.gl/vHxwJN
    <防衛省は2018年度予算の概算要求で5兆円超を計上する方針だ。5兆円超の要求は4年連続で、17年度当初予算より増やし、過去最大の要求額となる見通しだ。核・ミサイル開発を進める北朝鮮の脅威への対応や、対中国を念頭に置く離島防衛を重点とする。中国やロシアが開発に力を入れる探知しにくい最新鋭ステルス機に対応し、次世代レーダーの開発にも着手する方向だ。>

     4年連続5兆円超と書けば、なるほど安倍政権になってからずっと防衛費が膨張し続けているのだなという印象になりますし、毎年5兆円とは何と多額!という印象になるわけですが、考えてみれば520兆のGDPを持つ我が国にとって、5兆円はわずか1%弱。昨今、アメリカのトランプ大統領がNATOなど同盟国に要請し、未達成を批判しているのはGDP比2%ですから、その半分に満たないわけです。北朝鮮情勢の緊迫化や中国の膨張などの周辺情勢を考えれば、本来は「足らんだろう!」という批判はあっても、「多すぎる!」という批判はなかなか理解できません。もちろん、「多すぎる!」とあからさまに批判しているわけではなく、いわゆる「ほのめかし」にとどめて、文字面を読むと断言はしていないわけですが...。

     その上、こうした記事は防衛予算が出るごとに出てきます。毎回判を押したように「予算が多すぎるのではないか?」とほのめかすのです。今年度予算の編成過程でもそうでした。

    『防衛費、過去最大の5.1兆円前後に 17年度予算案』(2016年12月10日 朝日新聞)https://goo.gl/riwMaO
    <政府は、2017年度予算案の防衛費を過去最大の5兆1千億円前後とする方針だ。海上保安庁の予算も、要求の2005億円を上回り過去最高とする見通し。ミサイル発射実験を繰り返す北朝鮮対策を強化するほか、中国の活動を念頭に周辺海域の警戒態勢を強めるねらいだ。
    (中略)
    政府が昨年6月に決めた財政健全化計画では、社会保障費を除く政策経費の増加を年300億円程度に抑える目安を設けている。ただ、今年度の第3次補正予算案で「ミサイル防衛システム」の整備前倒しといった防衛関連に2千億円近くを盛り込む見通しで、防衛費は「特別扱い」が続く。>

     「防衛費が財政健全化の例外、特別扱いをされている。これは軍事的な膨張ではないか!」というのを滲ませるような書きぶりです。しかしながら、この5兆円もの予算が果たしてどのように使われているのかはあまり報じられることがありません。報じられているのは、北朝鮮に対しての迎撃ミサイルの回収や新型の潜水艦の建造など。これだけを見ていると、日本の自衛隊は相当兵器に対して投資を続けているなぁと思います。報じられている通りなら、これは相当な軍事的な膨張ですが、その割には中国の公船といわれる船は領海侵犯を繰り返していますし、北朝鮮は毎週のようにミサイルを発射しています。
     実は、この5兆円を超える予算はそのほとんどが新たな兵器への投資以外に使われているのです。しかも、それは隠されているわけでもなんでもなく、防衛相の公表文書、防衛白書で毎年指摘されているのです。現時点で最新の防衛白書である、平成28年版防衛白書を見てみます。

    『2 防衛関係費の内訳』(平成28年版防衛白書)https://goo.gl/g5DJ4u
    <歳出予算で見た防衛関係費は、人件・糧食費と歳出化経費という義務的な経費が全体の8割を占めており、残り2割の一般物件費についても、装備品の修理費や基地対策経費などの維持管理的な性格の経費の割合が高い。このため、歳出予算で見た場合、単年度でその内訳を大きく変更することは難しい側面がある。>

     専門用語が多いので難しく感じるかもしれませんが、歳出化経費というのは前の年度までに契約した装備品などの繰り延べ支払額。艦艇や戦車、航空機を例にとると分かりやすいのですが、防衛装備品は単価が高いのと、納入までに時間を要します。一方で日本国の国家予算は単年で編成しますから、契約初年度は一般物件費という通常経費で支払い、その後は「歳出化経費」という別枠を作ってそこで支払っていきます。この歳出化経費はすでに契約して支払いが決まっているものですから、ここを削ることはできません。
     問題は、この企業会計なら固定費と呼べるものがどれほどかということ。人件・糧食費が44.2%、歳出化経費が35.3%。2つを合わせると、79.5%!実に8割に上ります。さらに、残り2割の一般物件費も維持管理的な経費が多いということで、果たしてこれで「軍事的膨張」といえる程の軍事的な投資が可能なのでしょうか?報道されたイメージと実際はだいぶ乖離があるように思えます。

     そして、4割強を占める人件・糧食費についても、果たしてこれで十分かという議論がほとんどなされていません。
     かつて自衛隊は、就職の難しい地方部で盛んにリクルーティングが行われてきました。公務員であり、寝食が保障され、福利厚生がしっかりしているということで隊員募集もスムーズだったそうですが、今は違います。陸上自衛隊で募集の統括をしている方に聞いたことがあるのですが、今は訓練の厳しさや集団行動などが嫌われ、なかなか難しいそうです。その上、景気が上向けば給料・待遇のいい他業種に流れてしまうのでなかなか定員に達しません。防衛省・自衛隊の充足率は全体では9割を超えますが、実際に組織を手足となって動かす「士」と呼ばれるいわゆる兵士は75%に過ぎません。

    『防衛省・自衛隊の人員構成』(防衛省HP)https://goo.gl/LszWWh

     民間企業でも同じですが、現在の条件で募集が上手くいかなければ手っ取り早いのは条件の改善。ありていにいえば、給料を増やせばいいわけですね。そうでなくても民間でも人手不足がこれだけ言われているわけですから、自衛隊としても隊員確保へ給料アップをしなくてはいけません。
     ところが、ここ5年以上、自衛隊の人件・糧食費はほとんど伸びていません。北朝鮮のミサイルに対抗するため、また中国の膨張に対処するために兵器の増強については叫ばれますが、これら兵器を扱うのは訓練された人間。いくらハイテク化されているとはいえ、最終的には一定程度の人員が必要なわけです。そして、現状は特に現場の人間が完全に足りているとは言えない状況。
     これは控えめに言っても大問題なのではないでしょうか?現状のほとんど増やす余地のない防衛費を「軍事的な膨張だ!」と批判する左派メディアも問題ですが、右派も問題がないとは言えません。どちらかといえば安全保障を重視する右派のメディアも、兵器の増強一辺倒で人件費まで言及するメディアは多くありません。
     安全保障でも「人財」を大切にしなくてはいけません。
  • 2017年07月12日

    子育ての国、フィンランドを訪れて

     先週一週間のお休みをいただき、北欧フィンランドに行ってきました。北欧諸国は福祉の国と言われ、とかくその手厚い施策が日本では好意的に取り上げられてきました。高齢者への手厚さもさることながら、特に子育てに対して非常に手厚いことが知られています。

    『フィンランドの子育て支援』(フィンランド大使館HP)https://goo.gl/PH9V8A
    <男女共同参画の先進国で女性のほとんどがフルタイムで働くフィンランド。最近ではひとり親、再婚、事実婚などが増え、家族の形が多様化しています。また、高齢化のスピードが比較的速い国でもあります。しかし、出生率が低迷する日本とは対照的に、フィンランドの合計特殊出生率は約1.8の水準を保っています。その理由は様々ですが、社会全体が子どもの誕生を歓迎し、切れ目のない、包み込むような子育て支援を行っている結果でもあります。>

     このHPにも詳しく書かれていますが、妊娠が分かった段階でネウボラという包括的子育て支援拠点を利用します。ここは産婦人科兼保健所兼カウンセリングの場でもあるという公的機関。個別に担当者が付き、出産前から就学前まで様々なアドバイスを行います。
     さらに、母親手当として現金か、出産当初に必要なベビーケアアイテムやベビー服などが詰まった育児パッケージを選べるほか、育児休業、児童手当も充実。
     また、法律ですべての子どもたちに保育施設を用意することが自治体の義務になっているので、待機児童という概念がそもそもありません。
     こうしたインフラを支えるために税金が重いことも知られていますが、一方で子育て世帯には負担が重くなり過ぎないよう様々な税額控除も設定されているようです。
     そして、こうした施策の歴史は古く、ネウボラは1920年代にその原型が生まれていますし、育児パッケージも始まったのは1930年代。
    保育園に関しても、1973年に保育園法が出来ています。すなわち、社会全体で子育て支援しようという仕組みが浸透しているというか、今やほぼ国民全員がその恩恵に浴して育っているんですね。

     今回、私は一週間旅をしただけなので、こうした各種サービスを受けたわけではありません。しかしながら、<社会全体が子どもの誕生を歓迎し>、<包み込むような>支援を行っていることは良く分かりました。2歳4か月の子どもを連れてベビーカーを押しながらヘルシンキ市内を移動したわけですが、市内の交通機関はベビーカーを押している大人も無料になります。これは、ベビーカーを押しながら財布を出そうとすると危険だろうという配慮から生まれた仕組みなんだそうですが、バス、地下鉄、路面電車に郊外電車まですべて無料です。ということで、家族3人で移動していると、大人一人分の料金で乗り降りが可能なのです。地元の人はそれを熟知していて、5,6歳か?と思うような大きな子どもがベビーカーに乗っているという光景にも出くわすわけですが...。

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    地下鉄・バス・路面電車、ベビーカーを押していると大人も無料で乗ることが出来る

     また、どこへ行っても誰かに声を掛けられます。信号待ちや路面電車待ちといった、ちょっとした隙間の時間でも子どもの相手をしてくれますし、子どもの一挙手一投足に反応してくれます。建物の入り口前でベビーカーの後ろで一人でいると、「入りたいんならベビーカーを上げるの手伝ってやるぞ」と何度も声を掛けられたり、比較的混んでいるバスや路面電車にベビーカーで乗り込もうとしても一人として嫌な顔を見せなかったり。
    街そのものはヨーロッパらしく石畳に石造りの建物が並び、ビルの入り口に段差があったりとハード面で決して素晴らしいとは言えないのですが、その分ソフト面が充実しているという気がしました。

     フィンランドは1917年にロシアから独立。大国ソ連と長大な国境を接し、自国を守るためには人口を増やさなくてはならないという死活的問題から手厚い育児支援が生まれた側面もあるのでしょうが、それが今に至るまで綿々と繋がっています。
     現在でも合計特殊出生率は1.8。
     これは、日本政府が目標とする、結婚や出産に関する国民の願いが叶った場合の希望出生率と重なります。となると、「やはり日本でも高福祉高負担でいいからこうした社会的インフラを整えれば出生率が改善する!」「そのためには増税だ!消費税増税だ!」という議論になりがちなのですが、これはナンセンスだと思います。
     というのも、現地に行ってみて思ったのは高負担でも不景気な感じがしなかった点。街中に失業した若者がいて手持無沙汰にブラブラしているといった光景は見られませんでした。子育てに関する各種控除や手当といった負担軽減策が功を奏している面もあるのでしょうが、そもそもフィンランドは順調に成長し、物価も緩やかに上昇しているんですね。

    『フィンランドのGDPの推移』(世界経済のネタ帳)https://goo.gl/AdP26L

     グラフを見ると、名目・実質ともに冷戦終結後とリーマンショックの直後以外はほぼ右肩上がりですし、GDPデフレーターに至っては一貫して上昇しています。
     以前ゲストでお呼びした東大大学院の赤川学准教授が仰っていましたが、今まで日本でやってきた少子化対策は単体ではほとんど意味をなさなかった。すでに子を持つ夫婦の2人目を期待する政策の多くが失敗に終わってきたが、むしろ出産適齢期の男女の結婚を後押しする方が出生率の改善に効果がある。そして、婚姻を後押しするには経済的要因が大きい。したがって、まずは景気を良くすることが回りまわって出生率の向上に役立つ。
     こうした論理で考えると、フィンランドの先進国としては高出生率の要因も、まずは堅調な経済にあるのではないでしょうか。堅調な経済がカップルの婚姻を後押しし、そこに手厚い福祉が合わさることで出産に向かっていく。北欧、フィンランドというとその手厚い福祉にばかり目を奪われてしまいますが、本来見習うべきは堅調な経済の方なのかもしれません。
プロフィール

飯田浩司

出演番組:
ザ・ボイス そこまで言うか
月~木 16:00~
辛坊治郎ズーム そこまで言うか
土 13:00~

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