2017年07月31日

日報問題を次へ活かすために

 南スーダンに派遣されたPKO部隊が作成した日報にまつわる一連の問題について、先週金曜、特別防衛監察の結果が公表されました。

『特別防衛監察「公開請求に対し違反行為」』(7月28日 NHK)https://goo.gl/ygtj1P
<PKO部隊の日報をめぐる問題で特別防衛監察の結果について公表を行っている稲田防衛大臣は、会見の冒頭で、「特別防衛監察の結果が防衛監察から報告され、防衛省・自衛隊にとって大変厳しい、反省すべき結果が示されました。極めて遺憾です」と述べました。
続いて、今回の特別防衛監察で認定された事実について説明を行っていて、この中では、去年7月と10月に行われた情報開示請求に対し、陸上自衛隊の司令部などは、存在している日報を開示していなかったとし、いずれも情報公開法の開示義務違反につながるものであり、自衛隊法の職務遂行義務違反にあたるとしています。>

 防衛省のHPには、7月31日時点ではアップが間に合っていませんが、産経新聞がこの特別防衛監察の全文を掲載しています。

『【特別防衛監察全文(1)】』(7月28日 産経新聞)https://goo.gl/fP1R89

 この南スーダンPKO部隊の日報問題は、突き詰めれば情報公開請求に対する不手際ということで結論付けられています。それゆえ、今後の対策としては、
<今後、海外に派遣される自衛隊の部隊が作成する日報のすべてを、統合幕僚監部の担当部署で一元的に管理し、情報公開請求に対しても一元的に対応するとしています。さらに、防衛省の行政文書管理規則を改正して日報の保存期間を10年間とし、その後、国立公文書館へ移管するとしています。>(前述のNHK記事)
ということで、今後文書管理を強化する方向に向かうようです。

 さて、果たしてこれで一件落着となるのでしょうか?これで、今後こうした事件が起こらなくなるのでしょうか?私は、問題の根本に迫らずに表面、小手先の対策をしたがために今後に遺恨を残したように思います。そもそも、なぜこの問題が起きたかといえば、PKO派遣部隊の日報に"戦闘"という記載があり、戦闘が起きているような現場に部隊を派遣している政権の姿勢がPKO派遣5原則に違反し、突き詰めれば憲法9条違反ではないか!という報道が発端でした。本当にそうした記載があったかどうか、情報公開請求を行い、それが当初不開示とされたあたりから問題が大きくなって行き、その後日報をもみ消したのではないか、組織的に隠ぺいしたのではないかという具合に問題がスライドしていき、大臣の不安定な答弁も相まって大炎上してしまったわけですね。

 この経緯に2つの問題があります。

 まずは、他の諸国ならば"軍機"に当たるような部隊の動きをリアルタイムで把握できるような日報も、日本においては情報公開請求により開示を求めることが出来るということ。もちろん、情報公開法には部分開示の方法や妥当な理由ならば不開示も可能とされています。が、それも他の諸国のように門前払いのように拒否できるわけではなく、それ相応の理由を用意するか、機微に触れる部分を黒く塗りつぶして部分開示の形を取るか、いずれにせよ手がかかります。ある自衛隊関係者に話を聞くと、
「近年情報公開請求が膨大になり、現場の部隊はその対応に四苦八苦している。内局の情報公開室は出せ出せとせっついてくるけれども、そもそも人が足りないところで一つ一つ文書を見て開示・不開示、部分開示なら黒塗り部分を判断しなければならない。これらは本来業務に支障無いよう、早出や残業で処理せざるをえない」
と、現場の苦しさを明してくれました。
 情報公開は国民の知る権利に資するものですからメディアの人間としてそれに苦言を呈するようなことを言ったり書いたりすると批判を受けるかもしれませんが、ことが今回の日報のように安全保障に関わるものの場合、情報公開が隊員の命に関わったり、一般の日本国民の生命にも関わる可能性があります。ある意味、知る権利と生存権、自由権、幸福追求権がバッティングすることになるわけですね。
 今回の日報問題を批判していたのは主に今ある憲法を変えずに守って行こうという姿勢のリベラル派の皆さんでした。できれば、こうした憲法上の齟齬、バッティングにも目を配っていただければ幸いです。今回の原則公開、10年保存は海外での任務に関わる日報ですが、それが拡大されれば国土を守る上でも支障をきたす可能性がありますから。

 もう一つ、問題に感じるのは、そもそも日報に"戦闘"と書くことがどうして問題となるのか?ということ。現在、日本が国連PKOに参加するには、国内で独自に5つの原則を定義しています。

『PKO政策Q&A』(外務省HP)https://goo.gl/fSGT2c
<○参加5原則とは何ですか。
わが国が国際平和協力法に基づき国連平和維持活動に参加する際の基本方針のことで、

1 紛争当事者の間で停戦合意が成立していること
2 国連平和維持隊が活動する地域の属する国及び紛争当事者が当該国連平和維持隊の活動及び当該平和維持隊への我が国の参加に同意していること。
3 当該国連平和維持隊が特定の紛争当事者に偏ることなく、中立的立場を厳守すること。
4 上記の原則のいずれかが満たされない状況が生じた場合には、我が国から参加した部隊は撤収することができること。
5 武器の使用は、要員の生命等の防護のための必要最小限のものを基本。受入れ同意が安定的に維持されていることが確認されている場合、いわゆる安全確保業務及びいわゆる駆け付け警護の実施に当たり、自己保存型及び武器等防護を超える武器使用が可能。

の5つを指し、それぞれ国際平和協力法の中に反映されています。>

 日報に"戦闘"と書くということは、この5原則のうちの1を満たさず、即座に撤収しない限り国際平和協力法違反だ!という政府批判を招くことになる。だから、"戦闘"と書いた日報は表に出すことは出来ないということになるのです。
 この5原則は、1990年代の初め、湾岸戦争後に作られました。当時の国連PKOは内戦終結後の平和構築が中心。ですから1の条件は容易に満たすことができました。
 一方、南スーダン派遣部隊が直面したのは、独立後に顕在化した内部での権力抗争に絡む"戦闘"。それにより多数の避難民が発生し、報道によれば自衛隊もいた宿営地にも逃げ込んでくる事態となりました。こうした事態にも、現在のPKOは「文民の保護」という目的で介入します。人道的な目的で派遣されているPKOですから、当然の行為です。日本の自衛隊はこの時どうしていたのか?宿営地の建物の中で伏せていました。なぜ?隊員たちが命惜しさにそうしていたわけでは決してありません。憲法9条の縛りに直面していたのです。

<憲法9条 1 日本国民は、正義と秩序を基調とする国際平和を誠実に希求し、国権の発動たる戦争と、武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。
2 前項の目的を達するため、陸海空軍その他の戦力は、これを保持しない。国の交戦権は、これを認めない。>

 武力による威嚇又は武力の行使は、国際紛争を解決する手段としては、永久にこれを放棄する。だから、弾の1発も撃てない。撃てるのは基本的に自己防衛のためのみ。ずっとこう信じられてきました。それゆえ、海外に派遣された自衛隊要員は軍事衝突に直面した際には自分の身を守る以外に何もできないとされてきました。しかしながら、PKOは<正義と秩序を基調とする国際平和>を実現するための手段として国連が認めた活動のはず。<国権の発動たる戦争>とは違うものなのに、なぜ同じ憲法9条の縛りを受け入れなければならないのか...?

 今回の日報問題とは、本質的には憲法9条とPKO、憲法9条と国際貢献についての整理が付かないまま、現場の自衛官に押し付けた結果生まれたものだと私は思います。したがって、この9条との関係の整理を付けないまま文書管理の問題として片づけるならば、必ず再度問題化するでしょう。
 本来ならば、立法府はこうした関係の整理を議論し、必要ならば法改正して5原則を見直すべきなのですが、野党は政敵叩きでスキャンダルに油を注ぎ、与党は小手先の対処に終始しています。衆院安全保障委員会の閉会中審査も、こうしたPKO再定義のいいチャンスのハズ。立法府の矜持を見せてもらいたいものです。

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彼らが本国のことを気にせず、誇りを持って全力で任務に当たれる環境を作りたいものです。(南スーダン派遣施設隊隊旗返還式にて)
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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