先週一週間のお休みをいただき、北欧フィンランドに行ってきました。北欧諸国は福祉の国と言われ、とかくその手厚い施策が日本では好意的に取り上げられてきました。高齢者への手厚さもさることながら、特に子育てに対して非常に手厚いことが知られています。
<男女共同参画の先進国で女性のほとんどがフルタイムで働くフィンランド。最近ではひとり親、再婚、事実婚などが増え、家族の形が多様化しています。また、高齢化のスピードが比較的速い国でもあります。しかし、出生率が低迷する日本とは対照的に、フィンランドの合計特殊出生率は約1.8の水準を保っています。その理由は様々ですが、社会全体が子どもの誕生を歓迎し、切れ目のない、包み込むような子育て支援を行っている結果でもあります。>
このHPにも詳しく書かれていますが、妊娠が分かった段階でネウボラという包括的子育て支援拠点を利用します。ここは産婦人科兼保健所兼カウンセリングの場でもあるという公的機関。個別に担当者が付き、出産前から就学前まで様々なアドバイスを行います。
さらに、母親手当として現金か、出産当初に必要なベビーケアアイテムやベビー服などが詰まった育児パッケージを選べるほか、育児休業、児童手当も充実。
また、法律ですべての子どもたちに保育施設を用意することが自治体の義務になっているので、待機児童という概念がそもそもありません。
こうしたインフラを支えるために税金が重いことも知られていますが、一方で子育て世帯には負担が重くなり過ぎないよう様々な税額控除も設定されているようです。
そして、こうした施策の歴史は古く、ネウボラは1920年代にその原型が生まれていますし、育児パッケージも始まったのは1930年代。
保育園に関しても、1973年に保育園法が出来ています。すなわち、社会全体で子育て支援しようという仕組みが浸透しているというか、今やほぼ国民全員がその恩恵に浴して育っているんですね。
今回、私は一週間旅をしただけなので、こうした各種サービスを受けたわけではありません。しかしながら、<社会全体が子どもの誕生を歓迎し>、<包み込むような>支援を行っていることは良く分かりました。2歳4か月の子どもを連れてベビーカーを押しながらヘルシンキ市内を移動したわけですが、市内の交通機関はベビーカーを押している大人も無料になります。これは、ベビーカーを押しながら財布を出そうとすると危険だろうという配慮から生まれた仕組みなんだそうですが、バス、地下鉄、路面電車に郊外電車まですべて無料です。ということで、家族3人で移動していると、大人一人分の料金で乗り降りが可能なのです。地元の人はそれを熟知していて、5,6歳か?と思うような大きな子どもがベビーカーに乗っているという光景にも出くわすわけですが...。
地下鉄・バス・路面電車、ベビーカーを押していると大人も無料で乗ることが出来る
また、どこへ行っても誰かに声を掛けられます。信号待ちや路面電車待ちといった、ちょっとした隙間の時間でも子どもの相手をしてくれますし、子どもの一挙手一投足に反応してくれます。建物の入り口前でベビーカーの後ろで一人でいると、「入りたいんならベビーカーを上げるの手伝ってやるぞ」と何度も声を掛けられたり、比較的混んでいるバスや路面電車にベビーカーで乗り込もうとしても一人として嫌な顔を見せなかったり。
街そのものはヨーロッパらしく石畳に石造りの建物が並び、ビルの入り口に段差があったりとハード面で決して素晴らしいとは言えないのですが、その分ソフト面が充実しているという気がしました。
フィンランドは1917年にロシアから独立。大国ソ連と長大な国境を接し、自国を守るためには人口を増やさなくてはならないという死活的問題から手厚い育児支援が生まれた側面もあるのでしょうが、それが今に至るまで綿々と繋がっています。
現在でも合計特殊出生率は1.8。
これは、日本政府が目標とする、結婚や出産に関する国民の願いが叶った場合の希望出生率と重なります。となると、「やはり日本でも高福祉高負担でいいからこうした社会的インフラを整えれば出生率が改善する!」「そのためには増税だ!消費税増税だ!」という議論になりがちなのですが、これはナンセンスだと思います。
というのも、現地に行ってみて思ったのは高負担でも不景気な感じがしなかった点。街中に失業した若者がいて手持無沙汰にブラブラしているといった光景は見られませんでした。子育てに関する各種控除や手当といった負担軽減策が功を奏している面もあるのでしょうが、そもそもフィンランドは順調に成長し、物価も緩やかに上昇しているんですね。
グラフを見ると、名目・実質ともに冷戦終結後とリーマンショックの直後以外はほぼ右肩上がりですし、GDPデフレーターに至っては一貫して上昇しています。
以前ゲストでお呼びした東大大学院の赤川学准教授が仰っていましたが、今まで日本でやってきた少子化対策は単体ではほとんど意味をなさなかった。すでに子を持つ夫婦の2人目を期待する政策の多くが失敗に終わってきたが、むしろ出産適齢期の男女の結婚を後押しする方が出生率の改善に効果がある。そして、婚姻を後押しするには経済的要因が大きい。したがって、まずは景気を良くすることが回りまわって出生率の向上に役立つ。
こうした論理で考えると、フィンランドの先進国としては高出生率の要因も、まずは堅調な経済にあるのではないでしょうか。堅調な経済がカップルの婚姻を後押しし、そこに手厚い福祉が合わさることで出産に向かっていく。北欧、フィンランドというとその手厚い福祉にばかり目を奪われてしまいますが、本来見習うべきは堅調な経済の方なのかもしれません。