2018年3月

  • 2018年03月29日

    ザ・ボイス終了に寄せて

     6年3か月、ザ・ボイスをご愛聴いただき、本当にありがとうございました。ここでこの番組を終えなければならないのは、正直に言えば非常に残念です。朝鮮半島情勢が流動化、中国・ロシアでの新体制が固まり日本にとっては圧迫感が増すこの時期。にもかかわらず、国内は外の情勢から目をそらすように真正面から議論する場がない。これから、この番組の真価が問われるのではないかというこの時期に番組を終えなければならないのは、非常に残念です。

     今から6年半以上前、この番組のスタートをお知らせする記者会見で、当時の弊社社長村山が「日本ほど言論が自由なところはないんじゃないか」と話しました。その言葉の通り、コメンテーターの皆さんともども、本当に自由に話すことができました。皆さんから「あれだけ言いたい放題喋って、圧力ってないんですか?」と聞かれるのですが、この6年3か月で一度もそうした圧力を感じたことはありません。消費増税に反対しても、日韓合意に反対しても、放送法改正を話題に上げても、社内外で何か言われたり、邪魔されたりは一切ありませんでした。ただ、何でも反対ではなく、ファクトをベースに政策を是々非々で判断することを心がけたつもりです。

     番組の初代コメンテーターを務めてくださった青山繁晴さんが毎回仰る、「一緒に考えましょう」というフレーズ。まさにその通り、メール、ツイッターでご意見をくださった皆さんと、一緒に考え続けた6年3か月でした。ツイッターのタイムラインでリスナーさん同士が議論を戦わせる様を見て私もまた思索を深める。皆さんが、私を勉強させ、成長させてくださった、まさに、我以外皆師でありました。

     ザ・ボイスの放送はここで一つの終わりを迎えますが、一緒に考え、最適解に向けてにじり寄っていくこの精神は、永久に不滅であります。議論は、戦わせるものではなく、深めるもの。これからも、その信念をもって放送に向かい合っていこうと思います。今日までザ・ボイスをご愛聴いただき、本当にありがとうございました!来週からは、朝6時にお会いしましょう!


    なお、このブログは私の意見発信の場として続けます。引き続き宜しくお願いします。

    2018年3月29日(木) 飯田浩司
  • 2018年03月21日

    ヨコタテぐらいちゃんとやろうよ

     今月半ばに行われた日銀の金融政策決定会合で出された「主な意見」が公表されました。この「主な意見」が出ると毎回のように書いていますが、どうしても各紙経済欄は金融緩和がお嫌いのようで、そのリスクばかりが決定会合でも強調されたかのような記事になっています。

    <大規模金融緩和の継続を念頭に、ある委員が「低金利環境がさらに長期化すれば、金融仲介が停滞するリスクがある」と述べるなど、緩和長期化の副作用を検討する必要性を訴える声が目立った。>

    <会合では「低金利環境が長期化すれば先行き(銀行の)金融仲介が停滞するリスクがある」など、金融緩和の副作用に懸念を強める意見が目立った。>

    <日銀が目標とする2%の物価上昇が遠いことを踏まえ、「強力な金融緩和を粘り強く進める」との見解が政策委員の大勢を占めた。一方で、超低金利による金融機関への影響など、副作用への目配りを複数の委員が求めていたことも明らかになった。>

     見出しだけ見れば、保守寄りの産経もリベラル側にシンパシーのある毎日も判で押したように同じ。「金融緩和の副作用が心配だ!それを指摘する意見が多かった!」という見出しを掲げています。金融緩和の副作用ばかりが強調されますが、一方で金融緩和の成果である失業率の低減(直近の数字で2.4%まで低下)など雇用の改善は一切触れられていません。ただ、さすがにやりすぎを感じたのか、毎日だけ記事の中では金融緩和を進めるとの見解が大勢を占めたとリードで書いています。結果的に、見出しとリードが正反対のことを書いていて、記事の中で整合性が取れずにおかしな記事になってしまっているのですが...。それでも、毎日の記事は終わりに<一方、「金融緩和の余地はそれほど多くないため、デフレ脱却のためには財政政策の協力が必要」として、政府の財政健全化目標を緩めるよう求める意見もあった。>ともあり、政府に財政出動を促す意見も出たことに触れていますので、例に挙げた3つの記事の中ではダントツで両論併記的な記事になっています。

     では、公表された「主な意見」では金融緩和の副作用についての指摘がどれだけオンパレードになっているのか?覗いてみますと、ああやっぱりねという感じです。


     Ⅱ.金融政策運営に関する意見の中には12の意見が羅列されていますが、金融緩和がもたらリスク、具体的には金融機関の経営体力に及ぼす影響に言及しているのは1つだけ。あとは、ETFなどのリスク性資産の買い入れについてやや慎重な意見が1つと、今後物価が上がり潜在成長率が上がってきた場合には注意が必要という指摘が1つあるだけ。これでどうして、「副作用の指摘相次ぐ」なのか...。呆然としてしまいます。

     さて、こうした発表資料を新聞記事にすることを、俗に「ヨコタテ」と言います。今回の日銀の発表資料もそうですが、記者クラブに配布される発表資料は大抵横書きです。これを縦書きの新聞原稿に直すので、ヨコタテ、またはタテヨコと言います。このヨコタテという記事作成手法自体が、まったく取材していないじゃないか!役所の見解の垂れ流しじゃないか!という批判にさらされたりもするわけですが、残念ながら今回の金融政策決定会合に関するニュースではヨコタテすら満足にできない記者が散見されます。
     あるいは、記者クラブで発表資料とともに配布される解説資料や記者向けレクチャーで「副作用への指摘が相次ぎました」と言われると、原本に当たるよりもそちらを優先してしまうんでしょうか...。いずれにせよ、たった3ページ4ページの資料すらヨコタテできないようじゃ、支局からやり直せ!と思ってしまうのですが...。

     それとも、もっと深い理由があるのでしょうか?たとえば、今まで金融緩和なんて意味がないと書き続けてきたから今更後に引けなくなっているとか。日銀の審議委員の方々も、成果が上がりつつあるのにどうしてこんなにも頑なに金融緩和に反対の記事が出てくるのか疑問に思ったようで、「主な意見」にはこんな興味深い指摘がありました。

    <・「量的・質的金融緩和」への反対意見の中には、心理学で認知的不協和と言われるものがある。これは、自分の認識と新しい事実が矛盾することを快く思わないことである。「量的・質的金融緩和」で経済は良くならないという自分の認識に対し、経済が改善しているという事実を認識したとき、その事実を否定、または、今は良くても将来必ず悪化すると主張して、不快感を軽減しようとしている。>

     エライ記者の方々におかれましては、自分が一度世に出した論考を自身で否定するのはプライドが許さないのでしょうか?官僚の無謬性信仰が文書の書き換え、改ざんを生んだように、記者の、あるいはメディアの無謬性信仰が記事の捻じ曲げを生んでいるような気がしてなりません。<今は良くても将来必ず悪化すると主張>するのならまだよくて、さらにもう一歩進むと近い将来に経済が悪化することを願ったりしてしまうわけですね。そうなると、GDPなどの経済指標が少しでも悪化すると大きく報じ、全体が良くても悪くなっているところを見つけては批判する(たとえば失業率は下がっても非正規雇用が増えているだけと報じるなど)ということが横行するわけです。
     こうした記事が、メディアの信頼性を傷つけているのは言うまでもありません。受け手側の自衛策としては、残念ながら1次ソースに当たるクセを付けることしかなさそうです。ネットの進化により、今は報道発表資料がほぼリアルタイムでホームページ上に上がっています。
  • 2018年03月14日

    福島県の漁業は今

     先日の日曜で、東日本大震災の発災から7年となりました。警察庁によれば、9日現在で死者1万5895人、行方不明者2539人。いまだに7万3千人あまりの方々が避難生活を送っています。東京・国立劇場では政府主催の追悼式が開かれ、地震発生時刻の午後2時46分に黙とうを捧げました。その後、安倍総理からの式辞、そして秋篠宮殿下のお言葉と続きました。殿下のお言葉には、今なお不自由な生活を続けている被災者に対するご心痛が具体的に記されていました。

    <しかし、その一方では、今なお多くの被災者が、被災地で、また、避難先で、依然として不自由な生活を続けている厳しい現実があります。とりわけ、帰宅可能な地域が広がる中、いまだに自らの家に帰還する見通しが立っていない人々も多いこと、基準に照らして放射線量の問題がない場合であっても、農林水産業などに影響が残っていることを思うと、心が痛みます。さらに、避難生活が長期化する中で、高齢者を始めとする被災者の心身の健康のことは、深く心に掛かります。>

     去年のお言葉と比較すると、福島県での風評被害にも踏み込んで言及されているのがわかります。
     まさに、福島県の復興を語る上で欠かせないのが、震災直後に染み付いてしまった放射能汚染のイメージ。2018年1月2日、今年第1回目のザ・ボイスは福島の農業について特番をお送りしましたが、そのイメージの払拭に現場の皆さんが苦労されているのをひしひしと感じました。そして今回、その第2弾として、福島県の漁業について取材し、今日の4時台に特集しました。農業の時もそうでしたが、モニタリング調査の結果などはすべてウェブ上に公開されています。まずはぜひ、そこを見ていただければと思います。福島県や各団体、市町村が行っている放射線検査の結果を公表しているホームページです。


     さて、放送では今回も様々な反響、質問をいただきました。大きなニュースも多かったこともあって、限られた放送時間の中でお寄せいただいた質問に答えきれない部分がありました。ここではそんな質問に対して、取材してわかった範囲でお答えしたいと思います。

     まずは、魚の特性について。東京大学大学院農学生命科学研究科の八木信行教授へのインタビューで、海水魚はカリウムを体内に溜めにくく、むしろカリウムを排出する性質がある。セシウムとカリウムは魚の体内では同じように扱われるので、海水魚はセシウムも排出する。一方で、淡水魚はカリウムを溜めやすいので、セシウムについても溜めやすい性質があるとおっしゃっていました。
     この発言について、淡水魚についての放射性物質の検査結果が気になるという質問をお寄せいただきました。これについては、水産庁のホームページに海産種、淡水種で分けた調査結果の内訳があるのでご覧ください。

    ※この資料の14ページに海産種と淡水種に分けて調査結果の内訳がグラフ化されています。

     淡水魚についてはまだごく一部ではありますが、基準値(100Bq/kg)超えが存在していることがわかります。

     次に、食物連鎖による体内濃縮や幅広い魚種への影響を心配する声もありました。これについては、海水魚は前述の通りまずセシウムを排出する性質がありますから、食べられる側の魚のセシウム含有量がそもそも低いということがあり、さらに食べる側の魚もセシウムを排出する性質がありますから、捕食によって摂取してしまったセシウムも体内に留まらずに排出されます。従って海水魚に関しては食物連鎖を通じての体内濃縮、広範囲の影響はないと考えられています。
     また、事故発生直後に汚染された魚から子や孫へ影響が出るのではという心配も指摘されましたが、水産試験場でのモニタリングで親から子への放射性物質の受け渡しなど影響がないことも確認されています。

     我々は科学が風評に負けてはならないという思いで今回取材に当たってきました。こうして客観的な事実を提示することで、お聞きの皆さんの判断の参考になればと思っています。
    決めるのは、消費者一人一人です。どういった決断をされるにせよ、イメージに流されるのではなく、正しい情報を理解した上で決断していただきたい。これが、番組に込めた願いです。
  • 2018年03月08日

    リニア"談合"事件について

     先週末、いわゆる「リニア談合」事件で初の逮捕者が出ました。

    <リニア中央新幹線の建設工事で大手ゼネコン4社が談合したとされる事件で、東京地検特捜部は2日、大成建設元常務の大川孝容疑者(67)と鹿島の営業担当部長大沢一郎容疑者(60)を独占禁止法違反(不当な取引制限)の疑いで逮捕し、発表した。3兆円の公的資金を含む総事業費9兆円のリニア建設は、大手ゼネコン幹部らが刑事責任を問われる事態に発展した。>

     JR東海が発注したリニア新幹線工事について受注調整を行ったのではないかという疑いで、東京地検特捜部が捜査に乗り出した今回の事件。1990年代に社会的にも大問題になった建設大手、ゼネコンの談合事件が相次ぎましたが、あれから30年あまりが経つわけで、まだそんなことしてるのか!?という世間の憤りはもっともです。
     しかしながら、同時に当時問題となった事件と今回のケースには相違点もあります。たとえば、今回のケースは民間と民間の契約がもとになっているという点。
     この点をもって、独占禁止法は適用されないのではないかと指摘する向きもありますが、念のため言い添えておきますと、独占禁止法それ自体は官民の契約だろうと民間同士の契約だろうと競争環境を歪めたなどの条件を満たせば法律違反となります。過去には、民間同士の取り決めを巡っても独占禁止法違反を問われた案件もありました。ただし、ここ最近、特に特捜が動いて世間が注目する事件は官の発注した公共事業を巡るものが多く、何となく「談合事案=官民癒着」というイメージから、今回のリニア談合はそれに当たらないとされたのかもしれません。

     また、今回のリニア工事には総工費9兆円のうち、3兆円の財政投融資が入っています。逆に、これをもって公共性が高い、準公共事業ではないか!税金が無駄に使われた!独禁法適用も当然!という主張も見られます。しかしながら、このリニア工事は当初JR東海が単独で行うことを表明。所管の国土交通省も冷ややかながら「やりたきゃどうぞ」とばかりに認可を出した経緯があります。

    <自力建設がもたらすのはリスクだけではない。会長の葛西敬之、前社長で副会長の松本正之、そして山田は、いずれも国鉄民営化の経験者。政治家と官僚が蠢く魑魅魍魎の世界を、よく心得ている。民間会社として経営の自由度を確保することの重要性もわかっているのだろう。>
    (引用者注:肩書はいずれも当時)

    <政治主導の優先順位を覆して後発のリニア中央新幹線が追い抜くのは困難。国交省も「国が優先しなくてはならないのはリニアよりも整備新幹線だ」(幹部)との姿勢を崩していない。>

     当時の国交省には、リニアをやるならその前に整備新幹線という意識が濃厚にあって、財政出動をしてまで支援する意向はほとんどなかったようです。また、当時のJR東海の経営幹部は(今もそうですが)国鉄の民営化の時期に政治や官庁の意向に翻弄された経験を持っています。霞が関や永田町に振り回されず、自分達で意思決定するためには、自分達で資金も何もやるしかない。そう腹を括ってこのリニア事業はスタートしているわけです。
     一方、財政投融資の活用は、完成時期の前倒しを要請した安倍政権になってから。この時期はたしかに工事の契約をするよりも前ですが、しかしながらこれだけの難工事、単純な一般競争入札でより低い金額を提示した社が受注するというものではありません。そもそも、大深度地下を時速500キロのスピードで往来するリニアに耐えられるようにトンネルを掘れるのか?フォッサマグナを安全に、工期内に掘るだけの技量はあるのか?リニア技術そのものが革新的なものであるので、それを土台で支える構造物は100%安全であってほしい。そんな要請を受けた時、責任をもって工事を担える会社が日本にどれだけあるのか?大手ゼネコンに限られてしまうのも不思議ではありません。

     JR東海の建設部門の幹部に話を聞いても、
    「今回のトンネル工事は本当に難しい。中央構造線なんて地層はグシャグシャ。もちろん超音波とか技術を駆使してこの先を調査するんだけど、正直50センチ掘り進んだら何が出るかわからないようなものなんだ」
    と、工事の難しさを教えてくれました。フォッサマグナを掘りぬく工事の難しさは、北陸新幹線の工事でもわかります。この時は真正面から掘り抜くことをせず、長野から一度新潟県上越市方面に北上して、日本海沿いまで出てから西へ進むルートを選択してます。今回は真正面からフォッサマグナに挑む、鉄道工事としては日本初の挑戦なのです。それを、たとえば舗装工事や水道管交換などにかかる一般競争入札と同次元で扱い、競争を歪めたとするのが果たしてフェアな態度なのでしょうか?

     受注できる会社が限られ、割けるリソースも限られているから均等に受注したとして、それは競争を歪めたことになるのか?高度技術と独占禁止法の関係を見る上でも、非常に興味深い案件です。検察リークで記事が量産されていますが、一方向のイメージだけで判断するのではなく、今後の大規模インフラ事業をどう考えるかという視点で見ていきたいと思います。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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