2014年12月

  • 2014年12月31日

    今年多かったニュースは?

     今年一年間も、『ザ・ボイス』をお聞きいただきありがとうございました。昨日放送しました『ザ・ボイス スペシャル』2部作をもって、2014年の放送を終えることができました。

     さて、毎日7本のニュースを選んでコメンテーターの皆さんに解説をお願いする番組のメインコーナー『ニュース・ピックアップセブン』。この見出しを見返してみると何となくの今年の特徴が見えてきます。今年の見出しをチラチラと見ていたら、
    「あれ?今年は航空事故ニュースが多くないか?」
    と気づきました。
     3月のマレーシア航空370便の消息不明にまず驚きましたが、その後7月には立て続けに3件が連続します。17日にマレーシア航空17便がウクライナ東部上空で撃墜され、23日夜には台湾・復興航空(トランスアジア航空)222便が着陸に失敗。翌24日にはアルジェリア航空5017便がマリ上空で墜落。そして、暮れも押し迫った今月28日、エアアジア8501便がカリマンタン島沖で消息を絶ちました。

     どうやら、海に墜落したことが確定的のようです。

    『機体残骸、エアアジア機一部と断定...3遺体収容』(12月31日 読売新聞)http://goo.gl/5P2Xlz
    <インドネシア捜索救助庁は30日、カリマンタン島南西沖の海上で、飛行機の機体の残骸を発見し、28日に消息を絶った同国スラバヤ発シンガポール行きのエアアジア機の一部と断定した。>

     この時期の東南アジア赤道付近は気候が非常に不安定なようで、パイロット泣かせの難所だそうです。

    『不明エアアジア機が直面した悪天候リスク-冬場に嵐多い地域』(12月30日 ウォールストリートジャーナル日本語版)http://goo.gl/Ie7kfy
    <航空や天候の専門家によると、インドネシアでは12月と1月は1年で最も雨量の多い時期に当たり、操縦士にとっては常にリスクがあるという。
     このルートを飛行する航空機が直面するリスクには、激しい乱気流や稲光、ウインドシア(急激な風速・風向の変動)や氷結などがある。>

     遭難機も、前方の積乱雲を避けようと、高度上昇と左旋回を管制に要請し、その直後に消息を絶っています。それほどまでに、積乱雲に突っ込んでいくことは航空機にとってリスクなわけです。積乱雲は、中心に急激な上昇気流、周囲には急激な下降気流が存在しています。さらに、ソフトボール大ともいわれる雹(ひょう)や落雷で航空機が翻弄されるだけでなく、上下左右から様々な力が断続的にかかることで最悪空中分解まで引き起こされます。また、そこまでは行かずとも、積乱雲の上部は氷点下。過去には、積乱雲の中で速度を計測するセンサーが凍ってしまって自動操縦が解除され、副操縦士が手動で飛行しましたが失敗。赤道付近の大西洋に墜落してしまうという事故もありました。積乱雲は、まさしくパイロットにとっては鬼門中の鬼門なのです。

     それゆえ、様々な方法でその存在が予測されていて、上記WSJの記事にある通り、インドネシアの気象当局も積乱雲情報を出して注意を促していたようです。さらに、遭難機の機長は飛行時間2万を超えるベテラン。元インドネシア空軍のパイロットであったといいますから、このあたりの積乱雲の怖さなど釈迦に説法だったことでしょう。

     では、なぜ避けられなかったのか?もちろん、これらは今後機体が引き上げられ、フライトレコーダーが回収され解析されれば判明してくるでしょうが、ここで航空会社の体質にまでメスが入ることを私は願うのです。クルーの判断ミスだったのか、それとも会社の空気としてギリギリまで真っすぐ飛ぶ航路を選択せざるを得なかったのか。

     というのも、このところ航空事故をめぐっては安全と経済性を天秤にかけるような傾向も指摘されているからです。マレーシア航空17便のウクライナ東部での撃墜も、一説には経済的に最短距離を通ったらウクライナ東部を通過せざるを得なかった。他社は迂回していたが、経営的に厳しいマレーシア航空にはそうしたことはできなかったということが指摘されています。経済性を追求するLCC(ローコスト・キャリア)のエアアジアの企業体質は果たしてどうだったのでしょうか?

     『ニュース・ピックアップセブン』の見出しを眺めていると、こうした重大事故でなくとも、「ピーチ・アビエーション機異常降下(那覇空港)」や、先日このブログでも指摘した「ナッツ・リターン(大韓航空)」といった安全軽視の事件・事故が相次ぎました。事故がある度に指摘されることですが、利益のために安全が犠牲になることはあってはならない。年末年始のお目出度いニュースに埋もれることなく、しっかりと追及していかなくてはいけません。
  • 2014年12月23日

    鉄道ファンよ、謙虚たれ

     鉄道ファンにとっては残念なニュースでした。

    『東京駅100年、記念スイカで大混乱 販売中止で客怒り』(日本経済新聞 12月20日)http://goo.gl/0wgWFs
    <JR東日本が20日午前、東京駅開業100周年を記念したIC乗車券Suica(スイカ)1万5千枚を限定販売したところ、同駅丸の内南口の窓口に客が殺到した。安全を確保するため約2時間半で販売を中止したのに対し、買えなかった人が駅員に詰め寄るなど大混乱した。>

     このニュースを知った直後、知り合いのディレクターからこの事件についてどう思うか?と聞かれたのでこう答えました。

    「ん~、純粋な鉄道ファンもある程度は含まれてたんでしょうが、転売目的の人もそれなりにいたんでしょうね。商売かかっているから暴動寸前にまでなった。」

     たしかに、そうした人もいたようです。

    『スイカ騒動の背景に"転売ヤー"の存在 ネットで20万円落札も』(12月22日 夕刊フジ)http://goo.gl/mIvh7X
    <ネットのオークションサイトでは22日朝の時点で、赤れんがの駅舎をデザインした記念スイカが多数出品されており、1枚2000円の販売価格を大きく上回る価格で入札されている。入札価格は2万~6万が相場だが、99億9999万9999円という値がつけられる異常な事態も。実際に20万円で落札されたケースもあった。>

     こうした事態を受け、JR東日本は即座に今後の販売について発表しました。インターネットか郵送で申し込みを受け付け、希望したすべての人に発売するそうです。

    『「東京駅開業100周年記念Suica」の今後の発売について』(12月22日 JR東日本)http://goo.gl/s67PYP

     一方で、駅員さんに怒号を浴びせていた方の映像を見ていると、どうやら鉄道ファンの方であろうという人も見かけました。最近、こうした記念日に鉄道駅や列車に殺到する傾向があります。れは、私はゆゆしき事態だと思っています。あえて厳しい言い方をすれば、この人たちは本当に鉄道ファンなのか、疑問です。

     そもそも鉄道ファンというものは、自分に身近な鉄道をしみじみと愛でるものだったはずです。ネットが今ほど発達していなかった時代は、こういった記念切符の類も発売される駅やその周辺に情報が掲示される程度で、全国からファンが殺到するようなことはありませんでした。ほど好きな方は、専門の趣味雑誌から情報を得たりしましたが、それもあれほど殺到することはなかったわけです。また、そういった貴重な記念切符を手に入れた方も、ご自身の部屋に飾って愛でたり、引出しに仕舞っておいて何かの折に取り出してニンマリしたりと、他人にひけらかすようなこともなかったんですね。

     しかしながら、最近はネットの力もあってより注目を集めるところに集中する傾向にあります。今までは近くの鉄道の情報しか手に入らなかったものが、即座に日本中、世界中の情報をキャッチすることができるようになった。交通網の発達で、気軽に現場へ移動できるようになった。さらに、鉄道ファン同士が遠隔地でもつながるようになり、仲間内でより注目を集めるモノを求めたり、注目を集める場所に行くようになりました。

     それでも、抑制が効いていればいいのです。しかし、そんな千載一遇のチャンスを得て、舞い上がってしまう人が非常に多いんですね。あるいは、同好の士が集まって、「赤信号、みんなで渡れば怖くない」というように多少社会的規範を踏み外しても良しとしてしまう集団心理が働くんでしょうか。先日の東京駅の騒動しかり、イベント列車をよりいいアングルで撮るために木を切ったり、立ち入り禁止エリアに入ることしかりです。

     こういった人たちは、本当に鉄道ファンなんでしょうか?鉄道を愛するものとして恥ずかしいと思うと同時に、もう切り離して考えるべきではないかと思っています。「撮り鉄」「乗り鉄」といったジャンル分けが市民権を得てきましたので、ここは記念日に集まるファンを「記念日鉄」、あるいは「アニバーサリー鉄」とでも呼んで、他と区別すべきであろうと思います。鉄道そのものが好きというよりも、ステータスを求めているわけですから。

     今回の騒動を見て、来年3月のダイヤ改正が本当に心配になりました。このダイヤ改正の前後で、記念日的な出来事が目白押しなのです。

    『新幹線開業や時速アップ...JRの来春ダイヤ改正』(12月20日 読売新聞)http://goo.gl/FfheZa

     時系列で並べると、まずはダイヤ改正でなくなる列車たち。特に注目されるのが、3月12日に出発する寝台特急「北斗星」「トワイライト・エクスプレス」。「北斗星」が出発する上野駅など、ファンが殺到するでしょう。さらに、ダイヤ改正によって新たにデビューする列車たち。北陸新幹線「かがやき」や、東京駅と上野駅の間がつながる「上野東京ライン」など、こちらも注目を集める列車がずらっと並んでいます。

     かつて、京浜東北線に使われていた209系が引退するというときには、先頭車両にファンが殺到し、一駅止まる毎にホームへ降りて写真を撮り、また乗り込むということを繰り返しました。結果として、一駅ごとにちょっとずつ、ちょっとずつ遅延していき、最終的に終日ダイヤが乱れるということがありました。同じことが、「北斗星」のラストランを写真に収めようとファンが集まって夕方の東北線で起これば、帰宅ラッシュに重大な影響が出るでしょう。

     定時運行は日本が世界に誇る技術です。国連加盟国196か国の中で、たった3分列車が遅れただけで「お急ぎのところ申し訳ありません」とアナウンスする国は、日本をおいて他にありません。その誇りを維持するために、どれだけの人々が血のにじむような努力を日々続けているのか?鉄道ファンなら、その努力がいかに尊いものか分かるはずです。それを、自分のちっぽけなエゴで踏みにじっていいのでしょうか?そうでなくてもダイヤ改正前後は職員も慣れていないので、システムとしての脆弱性が出る可能性が高く、遅れる可能性も普段より高くなっています。そんな鉄道マンたちに、さらなる負荷を鉄道を愛する者が掛けていいものなのか?

     3月までの間に、少し冷静になって考えてみませんか?
  • 2014年12月16日

    『ナッツ・リターン事件』の本質

     大韓航空のいわゆる『ナッツ・リターン事件』。半分ゴシップのように面白おかしく報道されていますが、これ実は、大問題なのです。

    『大韓航空の女性副社長、機内で大声叱責 滑走路引き返させ責任者を降ろすトホホ』(12月9日 夕刊フジ)http://goo.gl/t4QVXf
    <5日未明、米ニューヨークのケネディ空港から韓国・仁川空港に向かう便のファーストクラスに乗っていた大韓航空の趙顕娥(チョ・ヒョンア)副社長(40)が、客室乗務員からサービスのナッツを袋に入ったまま出され、「なんというサービスをするの」と叱りつけた。
     副社長は担当責任者を呼び、接客マニュアルで確認するよう命じたが、端末での検索に手間取ったため、機内から降りるよう命じた。その間、副社長は大声で叱責もしたという。
     滑走路に移動していた旅客機は搭乗口に一旦戻り、遅れて離陸。約250人の乗客には遅延の説明がなかった。>

     記事にある通り、客として搭乗した副社長の命令で、出発したはずの機体がゲートに戻ったわけですね。ポイントは、この『客として』という部分。クルーとしてならまだしも、客としてとなると話は変わってきます。

     まず、この事件はアメリカ・ニューヨークのケネディ国際空港で起きました。ですから、アメリカの法律に照らして...と思いたいところですが、国際法上、航空機の機内に足を踏み入れた時点で、その航空機の所属する国の国内法が適用されます。ニューヨークにいても、大韓航空機の機内は韓国という扱いになるわけです。

     次に、安全運航を維持するために、機内では機長はじめ乗務員の指示に従う義務があるというのが国際的な常識であり、各国の航空法規にはその旨の記載が必ずあります。たとえば日本の航空法ですと、第73条の4にその記述があります。

    『航空法』http://goo.gl/y1vr4R
    <第73条の4 機長は、航空機内にある者が、離陸のため当該航空機のすべての乗降口か閉ざされた時から着陸の後降機のためこれらの乗降口のうちいずれかが開かれる時までに、安全阻害行為等をし、又はしようとしていると信ずるに足りる相当な理由があるときは、当該航空機の安全の保持、当該航空機内にあるその者以外の者若しくは財産の保護又は当該航空機内の秩序若しくは規律の維持のために必要な限度で、その者に対し拘束その他安全阻害行為等を抑止するための措置(第5項の規定による命令を除く。)をとり、又はその者を降機させることができる。>

     韓国の航空法でも、23条にそうした記述があるようです。
    『韓国国土部、「大韓航空前副社長を検察に告発することに...」』(12月16日 韓国・中央日報日本語版)http://goo.gl/X0HpwN
    <国土部は、趙顕娥前副社長の行動が「乗客は航空機とほかの乗客の安全な運航と旅行に危害を加えてはならない」という航空保安法第23条(乗客の協力義務)に違反したと判断している。 >

     ということで、いかにエライ人だろうが、客として乗り込んだ人の指示にクルーが従ったのは指揮命令系統がアベコベで大問題。この事態は、言い換えれば「ソフトなハイジャック状態」であったとも言うことができるわけです。もちろん、この副社長の言動に問題があるのは明白ですが、被害者面しているクルーたちも実は大変な失態を犯していたことはあまり指摘されていません。

     今回の一件は、安全運航よりも社内の立場を優先するという大韓航空の恐るべき企業風土を浮き彫りにしたものとも言えるのではないでしょうか?これから検察へ告発し、運行停止等の制裁が大韓航空には課される可能性がありますが、このトンデモ副社長へのバッシングが行き過ぎると本当の問題がかすんでしまう気がします。航空会社が進んで安全を軽視したというのが問題の本質のはずではないでしょうか?
  • 2014年12月10日

    経済を争点とする選挙のはずが

     今朝の朝日新聞の一面に看過できない記事が載っていました。

    『衆院選、テレビ番組3分の1に 高視聴率見込めず異変』(12月9日 朝日新聞)http://goo.gl/WsKXlv
    <衆院選を取り上げるテレビ番組が激減し、解散から1週間の放送時間でみると、前回の2012年と比べ約3分の1になっていることが分かった。高視聴率が見込めないことが大きな理由だが、自民党がテレビ各局に文書で「公平」な報道を求めたことで、放送に慎重になっている面もある。>

     まさに、恐れていたことが起きてしまっているなぁという思いです。私の選挙報道に関する意見は先週このブログに書きましたが、やはり「空気」を気にして「自主規制」をしてしまっている、メディアの自殺現象がまさしく起こっているようです。その上、朝日の記事にあるように、あたかも政治に関するテーマを取り上げないのは自民党が各局に出した「文書」が原因であるかのように責任転嫁しています。

     報道機関のプライドはどこにいったのか?

     奇しくも今日、特定秘密保護法が施行されましたが、あの審議の時には「報道の自由」「表現の自由」「知る権利を擁護せよ!」と論陣を張っていた各報道機関は、今回の選挙報道の減少をどう考えるんでしょうか?「報道の自由」と言っても、1政党からの文書にビビッて甘んじて受け入れ、自主規制してしまうぐらいのプライオリティしかなかったのでしょうか?

     さて、テレビで取り上げる時間と議論の深まりは決して比例するものではありませんが、やはり今回の選挙は各政党がそれぞれ言いっ放しのようになって政策論が深まった気がしません。経済、とりわけ「アベノミクス」の是非を問う選挙だということで展開してきましたが、テーマとなるのは「第1の矢」の金融緩和と「第3の矢」の成長戦略についてのみです。

    『衆院選:経済再生...アベノミクス是非大きな争点』(12月2日 毎日新聞)http://goo.gl/XgM01h
    <「企業が収益を改善すれば、雇用が改善し給料も増える。消費は盛んになり景気は回復する。これを繰り返せばデフレから脱却し生活が豊かになる」。安倍晋三首相は2日の街頭演説でアベノミクスの意義を強調した。(中略)
    野党の多くは「円安で物価が上がり格差が拡大した」などとアベノミクスを批判。(中略)
    一方、維新の党は「既得権益を打破して、本当の改革を成し遂げられるのは(業界団体との)しがらみのない維新だけだ」とPR。>

     「第1の矢」の金融緩和と、その作用としての円安。これをメリットと取り様々な波及効果を強調する与党側と、円安のデメリットを批判する野党側。
     「第3の矢」の規制緩和については、着実に進みつつあるとする与党側と、「与党はしがらみがおおすぎて改革なんてできない」(維新の党・江田共同代表)とする野党側。
     大別すると経済政策論議はここに終始しているように見えます。
     一方で、足元の経済状態は決していい状態とは言えません。4月の消費増税から落ちだした日本の景気は徐々に雲行きが怪しくなってきています。

    『7-9月期実質GDPは年率1.9%減に下方修正-予想下回る』(12月8日 ブルームバーグ)http://goo.gl/xur0hA
    <7-9月期の国内総生産(GDP)は物価変動の影響を除いた実質で、前期比年率1.9%減と、速報値(1.6%減)から下方修正された。市場予想も下回った。設備投資と公共投資が下方修正されたことが全体を押し下げた。>

     消費増税がアベノミクスをリセットしてしまったかのように、景気の地合いはドン底近くまで落ちてしまいました。

    <ゴールドマン・サックス証券の馬場直彦チーフエコノミストは発表後のリポートで、(中略)「実質所得の低下と高水準の在庫は、比較的長期にわたってボディー・ブローのように国内需要に負の影響を与え続ける可能性がある。10-12月期は、マイナス成長だった過去2四半期からのリバウンドもありプラス成長を見込むが、回復力は弱い」とみている。>

     ということで、やるべきことは2013年4月に行ったのと同じように、第1の矢(金融緩和)と第2の矢(財政出動)で景気を底上げ、その間に第3の矢を整えることです。すでに第1の矢は10月31日の「黒田バズーカ第2弾」で放たれていると考えれば、今考えるべきは第2の矢。「機動的な財政出動」こそが議論されるべきなのではないでしょうか?

     あの当時は10兆円規模の財政出動を行って景気を浮揚させました。今回も、同規模の財政出動を行って景気を浮揚させ、2年半後の2017年4月の消費再増税に備えるべきだと思っていたんですが、昨日のコメンテーター、経済学者の高橋洋一さんにこう諭されました。
    「たしかに、公共投資をすればそれがすべて実需になってGDPを押し上げる。ただし、それは公共投資がそのまま実施されればの話。今の日本では、予算が付けられても人材不足、資材不足で予算が積み上げられるだけになって実需が伸びない。」
     日本経済全体としては内需が冷え込んでいる=需要不足なわけですが、こと建設の現場にかんしては需要があっても人、資材といった供給が足りない=供給不足が起こっています。その現状を考えると、
    「公共投資もいいけれども、それよりも減税の方が効果的。消費税を5%から8%に上げて概算8兆円を国に吸い上げるんだから、それに見合うかそれ以上の減税をしなくてはいけない。」
    という提案をいただきました。そして、税目としては所得税がいいのではないか?ということ。

     減税というと法人税減税ばかりが言われていますが、これはせいぜい5000億円程度の減税額。8兆の消費増税に対してはまさに焼け石の水になってしまいます。その上、中小企業を中心に赤字企業がまだまだ多い中では、法人税減税は効果が限られます。

     そこで所得減税と言うことになるわけですが、一つ気を付けなくてはいけないのが、減税するだけではGDP押し上げにならないということ。減税した分が買い物などの実需に繋がればその分GDPが上がるんですが、これを貯金されてしまうと、お金を右から左に移しただけでGDPは上がらない。どうやって使ってもらうかという仕掛けが必要ということで、かつて小渕内閣で配られた地域振興券などは使用期限を切って、無理にでも使うというインセンティブを設けました。ま、こういうことを言うとバラマキだという批判も受けそうですが、緊縮でじわじわと貧乏になっていくより討って出た方がいいと私は思うのです。

     いずれにせよ、今回の選挙、こと経済分野で見ても「第2の矢」の議論がすっぽりと抜け落ちています。投票日まであと4日。どこまで議論を深められるのか?ザ・ボイスも微力ながら、怯まず頑張ろうと思います。
  • 2014年12月02日

    選挙と報道

     今日、第47回衆議院選挙が公示されました。今回の選挙報道について、放送局内はその内容についてだいぶピリピリしています。というのも、公示直前に自民党からこんな文書が回ったそうだからです。

    『衆院選:自民 テレビ局の選挙報道で細かく公平性要請』(11月27日 毎日新聞)http://goo.gl/P0OWMe
    <自民党がNHKと在京民放テレビ局に対し、選挙報道の公平中立などを求める要望書を渡していたことが27日分かった。街頭インタビューの集め方など、番組の構成について細かに注意を求める内容は異例。編集権への介入に当たると懸念の声もあがっている。>

     公平・公正ということで放送局の中ではかなり厳しい自主規制が入っているようで、在京テレビ局の制作スタッフの間の噂では、一度でも選挙応援に入ったコメンテーターは選挙が終わるまで露出禁止という内規を作った放送局まであるそうです。あくまで噂ですが...。
     こうした放送局の反応もあり、公示日前日の党首討論(日本記者クラブ主催)の中で自民党安倍総裁に質問が飛びました。

    『与野党8党首が論戦 日本記者クラブで討論会』(12月1日 朝日新聞)http://goo.gl/1p1V8k
    <選挙報道をめぐり、自民党が圧力とも受け取られかねない文書を在京テレビキー局に対して出したことを問われると、安倍氏は、公平公正に報道しているならなんの痛痒(つうよう)もないはずだ、と反論した。>

     公平・公正に報道していれば問題ない。まさしくその通りで、選挙期間に入ると途端に政治に関する報道が少なくなるこの国のメディア状況というのは本末転倒です。どこまでが公平・公正で、どこからが偏向した報道になるのか?何か選挙のたびに引用している気がしますが、再び前回の参院選の時に書いた拙ブログを引用したいと思います。

    (引用ここから)
    2013年7月4日
    【選挙期間中は、政治の話ができない?】
    (前略)弊社ニッポン放送も含めて様々な放送の現場で、これから神経質な番組作りが行われます。よく言われるのが、
    「これから政治に関する話が出来なくなるなぁ」
    というボヤキ。中にはオンエアの中で
    「選挙期間中なので、政治に関する話はできないんです」
    と宣言する人までいる始末です。そして、もし政治トピックを取り上げる場合には、「公平・公正を期さなければならない。」具体的には、「話すのならすべての候補を平等に扱わなければならない。」と言われています。
     
     しかしこれ、少し考えると、放送の根本と相反するものなんです。大きな話をしますが、放送の大きな目的の一つが、国民の「知る権利」に応えること。選挙期間中は、普段政治に興味がない人でも少しは政治の情報を知りたいと思う時期。その時期に「公平・公正」を気にするあまり、政治トピックそのものを扱わないというのは、「知る権利」に正しく応えていないように思うのです。というか、「これだけ世間的に盛り上がっているのに、なぜ放送では扱えないんだろう?」という素朴な疑問から、根拠となる法律について調べてみました。
     
     まず、選挙というと思い浮かべるのが公職選挙法。
    しかし、公選法という法律は、基本的に「選挙される側」、「候補者側」を縛るもの。
    放送事業者を縛るものではありません。唯一放送について言及されているのは第150条、151条の2つ。
     
    (政見放送) 
    第百五十条  衆議院(小選挙区選出)議員の選挙においては、候補者届出政党は、政令で定めるところにより、選挙運動の期間中日本放送協会及び基幹放送事業者(中略)のラジオ放送又はテレビジョン放送(中略)を無料で放送することができる。この場合において、日本放送協会及び基幹放送事業者は、その録音し若しくは録画した政見又は候補者届出政党が録音し若しくは録画した政見をそのまま放送しなければならない。
    (選挙放送の番組編集の自由) 
    第百五十一条の三  この法律に定めるところの選挙運動の制限に関する規定(第百三十八条の三の規定を除く。)は、日本放送協会又は基幹放送事業者が行なう選挙に関する報道又は評論について放送法の規定に従い放送番組を編集する自由を妨げるものではない。ただし、虚偽の事項を放送し又は事実をゆがめて放送する等表現の自由を濫用して選挙の公正を害してはならない。
    ※筆者注 第138条の3の規定とは、「人気投票の公表の禁止」の規定である
     
     法律文を見ると難しく見えますが、150条では政見放送のやり方が書いてあり、そして、151条の3では、虚偽の事項や事実をゆがめない限り、編集の自由も保障されています。
     というわけで、選挙期間中の放送について縛る法律はないわけです。
     政治と放送の間で基本となる法律は、放送法となります。
     
    (目的) 
    第一条  この法律は、次に掲げる原則に従つて、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを目的とする。 
    一  放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障すること。 
    二  放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること。
    三  放送に携わる者の職責を明らかにすることによつて、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること。
    (国内放送等の放送番組の編集等) 
    第四条  放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。 
    一  公安及び善良な風俗を害しないこと。 
    二  政治的に公平であること。 
    三  報道は事実をまげないですること。 
    四  意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。
     
     この1条2項の「不偏不党」、4条2項「政治的公平」、そして同4項「できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」というところに照らして選挙報道は出来上がっているようです。しかしながら、この法律も期間を定めているわけではありません。すなわち、選挙期間中にあんなに放送内容を縛る根拠にはなりません。むしろ、この放送法の条文を厳格に運用すれば、普段から選挙前のような報道しかできないことになってしまいます。
     
     と、ここまで調べて分かったことは、選挙期間中に放送内容を縛っている法律は存在しないということ。では、何を根拠に放送内容はきつく縛られているのか?それは、我々民放の場合は、民放連の放送基準というガイドラインでした。
     この第2章「法と政治」、11条、12条が当てはまります。
    (11) 政治に関しては公正な立場を守り、一党一派に偏らないように注意する。
    (12) 選挙事前運動の疑いがあるものは取り扱わない。
    公職選挙の選挙運動は、放送に関しては選挙期間中における経歴・政見放送だけが認められ、それ以外の選挙運動は期間中、期間前を通じて一切禁止されている。したがって、期間中はもとより期間前においても、選挙運動の疑いのあるものは取り扱ってはならない。
    現職議員(地方議会議員を含む)など現に公職にある者を番組に出演させる際には、その必然性および事前運動的効果の有無などを十分に考慮して判断すべきである。
    (後略)
     
     ここで問題になるのは、放送では「経歴・政見放送以外の選挙運動」を取り扱ってはならないというところ。では、「選挙運動」とは何なのか?東京都選挙管理委員会によると、
    「特定の選挙に、特定の候補者の当選をはかること又は当選させないことを目的に投票行為を勧めること。」
    とされています。
     すなわち、民放連のガイドラインで禁じているのは、
    「○○選挙区の△△さんは素晴らしいから当選させましょう!」
    というように投票を呼び掛けたり、
    「××さんは議員の資格なし!投票しちゃいけません!」
    なんて呼びかける行為であって、各党の政策や主張を論評すること自体は「選挙運動」に該当せず、放送を禁止されているわけではないようです。つまり、あれだけきつく放送内容が縛られていたのは、我々放送局側の自主規制に過ぎなかったのです。
    (後略)
    (引用ここまで)

     ということで、特定の候補や党派に直接投票を呼び掛ける行為、あるいは特定の候補、党派を貶めるような行為は問題となりますが、各党の政策・主張を論評することは問題ないわけです。そう考えると、一度でも応援演説をすると選挙が終わるまで放送に出られないなんて言うのは笑い話以外の何物でもありません。むしろ怖いのは、こうした自主規制が積もり積もって、何も言えない社会が形作られるところです。今回ああいったペーパーが放送局に配られたからこそ、「これこそ公平・公正な報道だ」と見せつけるようにメディアが積極的に政策のニュースを取り上げなくてはなりません。
     今こそ、メディアの覚悟が問われています。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
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