2014年12月10日

経済を争点とする選挙のはずが

 今朝の朝日新聞の一面に看過できない記事が載っていました。

『衆院選、テレビ番組3分の1に 高視聴率見込めず異変』(12月9日 朝日新聞)http://goo.gl/WsKXlv
<衆院選を取り上げるテレビ番組が激減し、解散から1週間の放送時間でみると、前回の2012年と比べ約3分の1になっていることが分かった。高視聴率が見込めないことが大きな理由だが、自民党がテレビ各局に文書で「公平」な報道を求めたことで、放送に慎重になっている面もある。>

 まさに、恐れていたことが起きてしまっているなぁという思いです。私の選挙報道に関する意見は先週このブログに書きましたが、やはり「空気」を気にして「自主規制」をしてしまっている、メディアの自殺現象がまさしく起こっているようです。その上、朝日の記事にあるように、あたかも政治に関するテーマを取り上げないのは自民党が各局に出した「文書」が原因であるかのように責任転嫁しています。

 報道機関のプライドはどこにいったのか?

 奇しくも今日、特定秘密保護法が施行されましたが、あの審議の時には「報道の自由」「表現の自由」「知る権利を擁護せよ!」と論陣を張っていた各報道機関は、今回の選挙報道の減少をどう考えるんでしょうか?「報道の自由」と言っても、1政党からの文書にビビッて甘んじて受け入れ、自主規制してしまうぐらいのプライオリティしかなかったのでしょうか?

 さて、テレビで取り上げる時間と議論の深まりは決して比例するものではありませんが、やはり今回の選挙は各政党がそれぞれ言いっ放しのようになって政策論が深まった気がしません。経済、とりわけ「アベノミクス」の是非を問う選挙だということで展開してきましたが、テーマとなるのは「第1の矢」の金融緩和と「第3の矢」の成長戦略についてのみです。

『衆院選:経済再生...アベノミクス是非大きな争点』(12月2日 毎日新聞)http://goo.gl/XgM01h
<「企業が収益を改善すれば、雇用が改善し給料も増える。消費は盛んになり景気は回復する。これを繰り返せばデフレから脱却し生活が豊かになる」。安倍晋三首相は2日の街頭演説でアベノミクスの意義を強調した。(中略)
野党の多くは「円安で物価が上がり格差が拡大した」などとアベノミクスを批判。(中略)
一方、維新の党は「既得権益を打破して、本当の改革を成し遂げられるのは(業界団体との)しがらみのない維新だけだ」とPR。>

 「第1の矢」の金融緩和と、その作用としての円安。これをメリットと取り様々な波及効果を強調する与党側と、円安のデメリットを批判する野党側。
 「第3の矢」の規制緩和については、着実に進みつつあるとする与党側と、「与党はしがらみがおおすぎて改革なんてできない」(維新の党・江田共同代表)とする野党側。
 大別すると経済政策論議はここに終始しているように見えます。
 一方で、足元の経済状態は決していい状態とは言えません。4月の消費増税から落ちだした日本の景気は徐々に雲行きが怪しくなってきています。

『7-9月期実質GDPは年率1.9%減に下方修正-予想下回る』(12月8日 ブルームバーグ)http://goo.gl/xur0hA
<7-9月期の国内総生産(GDP)は物価変動の影響を除いた実質で、前期比年率1.9%減と、速報値(1.6%減)から下方修正された。市場予想も下回った。設備投資と公共投資が下方修正されたことが全体を押し下げた。>

 消費増税がアベノミクスをリセットしてしまったかのように、景気の地合いはドン底近くまで落ちてしまいました。

<ゴールドマン・サックス証券の馬場直彦チーフエコノミストは発表後のリポートで、(中略)「実質所得の低下と高水準の在庫は、比較的長期にわたってボディー・ブローのように国内需要に負の影響を与え続ける可能性がある。10-12月期は、マイナス成長だった過去2四半期からのリバウンドもありプラス成長を見込むが、回復力は弱い」とみている。>

 ということで、やるべきことは2013年4月に行ったのと同じように、第1の矢(金融緩和)と第2の矢(財政出動)で景気を底上げ、その間に第3の矢を整えることです。すでに第1の矢は10月31日の「黒田バズーカ第2弾」で放たれていると考えれば、今考えるべきは第2の矢。「機動的な財政出動」こそが議論されるべきなのではないでしょうか?

 あの当時は10兆円規模の財政出動を行って景気を浮揚させました。今回も、同規模の財政出動を行って景気を浮揚させ、2年半後の2017年4月の消費再増税に備えるべきだと思っていたんですが、昨日のコメンテーター、経済学者の高橋洋一さんにこう諭されました。
「たしかに、公共投資をすればそれがすべて実需になってGDPを押し上げる。ただし、それは公共投資がそのまま実施されればの話。今の日本では、予算が付けられても人材不足、資材不足で予算が積み上げられるだけになって実需が伸びない。」
 日本経済全体としては内需が冷え込んでいる=需要不足なわけですが、こと建設の現場にかんしては需要があっても人、資材といった供給が足りない=供給不足が起こっています。その現状を考えると、
「公共投資もいいけれども、それよりも減税の方が効果的。消費税を5%から8%に上げて概算8兆円を国に吸い上げるんだから、それに見合うかそれ以上の減税をしなくてはいけない。」
という提案をいただきました。そして、税目としては所得税がいいのではないか?ということ。

 減税というと法人税減税ばかりが言われていますが、これはせいぜい5000億円程度の減税額。8兆の消費増税に対してはまさに焼け石の水になってしまいます。その上、中小企業を中心に赤字企業がまだまだ多い中では、法人税減税は効果が限られます。

 そこで所得減税と言うことになるわけですが、一つ気を付けなくてはいけないのが、減税するだけではGDP押し上げにならないということ。減税した分が買い物などの実需に繋がればその分GDPが上がるんですが、これを貯金されてしまうと、お金を右から左に移しただけでGDPは上がらない。どうやって使ってもらうかという仕掛けが必要ということで、かつて小渕内閣で配られた地域振興券などは使用期限を切って、無理にでも使うというインセンティブを設けました。ま、こういうことを言うとバラマキだという批判も受けそうですが、緊縮でじわじわと貧乏になっていくより討って出た方がいいと私は思うのです。

 いずれにせよ、今回の選挙、こと経済分野で見ても「第2の矢」の議論がすっぽりと抜け落ちています。投票日まであと4日。どこまで議論を深められるのか?ザ・ボイスも微力ながら、怯まず頑張ろうと思います。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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