2018年11月

  • 2018年11月26日

    世論調査の読み方

     週明けの月曜日は毎週のように世論調査の結果が出てきます。各社月に一度を目安に世論調査をしていますが、スケジュールがかぶるとインパクトが薄れるということで上手いことズラしています。従って、ほとんど毎週世論調査が発表され、それがニュースになるというわけです。今週は、読売と日経が世論調査の結果を発表しました。

    <読売新聞社は23~25日、全国世論調査を実施した。安倍内閣の支持率は53%で、前回10月26~28日調査の49%から4ポイント上昇した。不支持率は36%(前回41%)。>

    <日本経済新聞社とテレビ東京による23~25日の世論調査で、安倍内閣の支持率は51%となった。10月の前回調査では48%だった。不支持率は4ポイント下がり38%だった。安倍晋三首相がロシアのプーチン大統領と1956年の日ソ共同宣言を基礎に平和条約交渉を加速すると合意したことについては「評価する」が67%で「評価しない」は21%にとどまった。>

     両社ともにこの3連休、23日~25日に調査しています。両社とも、18歳以上の男女に対し、RDD方式と呼ばれるコンピューターで無作為に発生させた番号に電話を掛けるという方式。この世論調査の手法は、かつては固定電話にしか掛けなかったので世論を反映していないのではないかと言う批判が出ていましたが、近年は携帯電話も含めて掛けています。同じ手法で同じタイミング、さらに同じような質問をしていますから、結果もまぁ当然似通ったものになりますよね。内閣支持率や日ロ交渉についての評価などは1、2%の違いはあれど同じような評価となっています。

     そんな中ただ一つ正反対の結果が出たのが、外国人労働者の受け入れ拡大でした。日経は見出しを立ててこのネタで記事を一本書いています。

    <日本経済新聞社の23~25日の世論調査で、人手不足が深刻な分野に限って外国人労働者を5年間で最大34万5千人受け入れる政府の方針について聞いたところ、賛成は41%にとどまった。反対は47%だった。>

     一方の読売は記事化はされていませんが、本紙には調査項目を載せているので引き写しますと、
    <◆政府は、これまで医師や研究者など、専門的な技能を持つ人に限ってきた外国人労働者の受け入れを、単純な労働に就く人にも拡大する法案を、今の国会に提出しています。あなたは、外国人労働者の受け入れ拡大に、賛成ですか、反対ですか。
    ・賛成 48 ・反対 42 答えない10>
    ※11月26日付読売新聞東京最終版10面 本社全国世論調査結果より

     日経は昔から調査結果一覧を載せませんので記事中から類推するしかないのですが、どうやら「人手不足が深刻な分野に限って外国人労働者を5年間で最大34万5千人受け入れる政府の方針について聞いたところ」と出ていますから、具体的な数字を挙げて質問をしたのでしょう。すると、賛成41%に対して反対47%という回答がありました。たしかに数字を見せられると、しかもそこそこ規模の大きな市と同じレベルの数となると脅威を感じます。反対が多くなるのもわかります。
     対する読売は、上記調査項目の引き写しの通り、今もすでに医師、研究者が日本に入ってきているんです。これにもう少し門戸を開くのが今回の法案なんですよ~、さて皆さんどうですか?という聞き方。こうなると、なるほどすでに入ってきているのがちょっと増えるだけかと思って賛成が多くなるかもしれません。結果、賛成48%、反対42%という数字になりました。

     同じタイミングで同じ手法でも、質問の仕方が少し違うだけでここまで結果が異なるのだということをまざまざと見せつけられる思いです。今回読売は見出しを立てて記事にしたわけではありませんでしたが、これ、読売の結果は「外国人労働者受け入れ拡大、賛成多数!」「ほぼ半数が賛成!」といった見出しを立てることは結果だけを見れば可能です。見出しに引っ張られて、世論は賛成なのか...と思う人が出てもおかしくないわけです。
     逆に、思い切り否定的な聞き方、例えば「外国人労働者が増えると日本人労働者の賃金も上がらなくなると言われています。また、市区町村のサービスが外国人労働者向けに偏り、サービスが低下する恐れがあるともいわれています。今あるコミュニティが壊れる可能性も指摘されています。あなたは、外国人労働者の受け入れ拡大を狙いとする入管難民法改正案に賛成ですか?反対ですか?」と聞けば、おそらく6割7割は反対と答えるでしょう。

     ことほど左様に、世論調査も聞き方一つで結果が変わるということです。調査そのものは規模の大きな組織でないと出来ないことですし、価値があるとは思います。それだけに、出し方の問題が大きい。各社だいぶ改善されてきましたが、質問項目をすべて明らかにすることが重要だと思います。できれば、興味を持った人たちが各々分析できるように、個人を特定できない形にした生データをウェブ上に上げてくれるといいのですが、ある意味このデータも会社の財産のようなものですから難しいのでしょうね。
     各社10個程度の質問項目の中から記事として特出ししてくるわけですが、この選び方にもニューズバリューや社論などへの"忖度"があるわけですから注意が必要です。たとえば、こんな記事。

    <読売新聞社の全国世論調査で、来年10月の消費税率引き上げに伴うキャッシュレス決済のポイント還元制度に「反対」は62%に上り、「賛成」の29%を上回った。>

     わざわざ年代別の賛成反対の割合を棒グラフで示すほどの気合の入れ方で報じているわけですが、私が感じたのはその唐突感。普通であれば、まず消費税増税そのものへの賛否があって、その上で負担軽減の手法を聞くのがセオリーってもんですが、この記事は見出しも何も消費税増税はもう決まったという体で書かれています。増税そのものへの賛否は、ウェブ上ではお金を払わないと見られない部分、記事の最後にちょろっと書かれているだけです。ちなみにその結果と言うと、

    <◆消費税率は、来年10月に、8%から10%への引き上げが予定されています。予定通り、10%に引き上げることに、賛成ですか、反対ですか。
    ・賛成 44 ・反対 51 ・答えない 5>

     なるほど、過半数が反対という結果だったので特出しは出来ないということになったんですね。10月の中旬に消費増税総理決断と打ってこの方、負担軽減策などを書き続けることで増税そのものは不可避であるとの刷り込みを図ってきましたが、結果は前回10月末の調査と変わらず反対が過半数。世論は冷静に足元の経済を見て消費増税の痛みを認識しているのではないでしょうか?私には、ここもニュースの一つと感じるのですが...。
  • 2018年11月19日

    平成の財政とは?

     来年4月一杯をもって平成が終わるということで、様々な分野で振り返りが行われています。朝の番組OK!Cozy Up!でも、先月のスペシャルウィークに"激動の平成にスクープアップ!"と題して特集しました。前回は政治に関わる方々にインタビューしましたが、次回がもしあればそれ以外の各界の大物にも平成を振り返ってお話を伺いたいと思っています。

     さて、メディアの振り返りの取り組みだけでなく、政府内の機関でも様々な振り返りの動きがあります。今朝の読売新聞の一面には、財務省の諮問機関の振り返りについて報じています。

    <財政制度等審議会(財務相の諮問機関)が、2019年度予算編成に向け、20日に麻生財務相に提出する建議(提言)の原案が判明した。国の借金が大きく膨張した平成30年間の財政運営に対し「受益の拡大と負担の軽減・先送りを求める圧力に抗あらがえなかった時代」と厳しく総括している。こうした状況から脱却するため、高齢者の医療費負担の引き上げなどの歳出抑制を求めた。>

     財政制度等審議会は財務大臣の諮問機関で、企業経営者や学識経験者たちで構成され、毎年春と秋の2回"財政運営のあるべき姿"を提言していると、記事中では説明されています。ま、あるべき姿と言いますが、元財務官僚の高橋洋一さんや、かつてこの審議会の臨時委員をされていた長谷川幸洋さんは、財務省のご意向通りの提言が出され、財務省のご意向通りの報道になるということをいろいろな場で暴露されています。今回の建議原案も同じものと考えて差し支えないでしょう。とにかく財政の膨張を抑えにかかる財務省、その30年間の総括としては「さもありなん」というところですが、「政治に押しまくられて財政拡大に押し切られた」という被害者面をしているところに疑問を感じます。財務省、かつての大蔵省という省庁の突き詰めた役割としては勘定方ですから、日本国全体の経済のことなど考えずに収支が黒字にさえなればいいということなのかもしれません。が、その前にすべて公務員というものは「全体の奉仕者」でありますから(憲法15条)、日本国民全体の幸福を最大化するためのツールとして、経済全体を見ることだって仕事の一つのはずでしょう。
     では、この30年でこの国がどれだけ成長できたのか、GDP成長率の動きを見てみますと...、


     この中の図表1-1-4を見ると、平成2年に8.4%成長をしてからあれよあれよという間に成長率は転げ落ちていき、3年後の平成5年度にはマイナス成長にまで落ち込んでしまいました。同じ「抗えなかった時代」であれば、"デフレの圧力に"抗えなかった時代としなくてはおかしいでしょう。それが、なぜ"負担先送り圧力に"抗えなかった時代なのか...。国の財政を家計に見立て、とにかく財布の中の赤字を減らせば他がどうなってもいいという緊縮ポリシーを如実に表していますよね。

     どうせ家計に見立てるのならば、たとえば雨漏り続き、泥棒に入られ放題の住まいに予算を手当てして家を強くしようとか、稼ぎ頭のお父さんやこれから面倒を見てくれる子どもたちにより良い教育を施すのにお金を使ったりするとか、お金の使い方にはいろいろあるはずなのに、とにかくケチケチ家計礼賛ばかり。ウェブ記事には載せられていなかったので紙面から転記しますが、提言案のポイントとして5つが挙げられていました。

    <▽平成30年間の財政運営を厳しく総括。将来世代に負担を先送りと指摘
    ▽社会保障制度の改革を目指し、「年齢ではなく能力に応じた負担」に転換
    ▽後期高齢者の窓口負担の引き上げや、介護の利用者負担の見直し
    ▽国立大に支給される運営費交付金の配分見直し
    ▽防衛装備品の調達は、今後5年間で計1兆円以上、効率化が必要>

     教育費や防衛費も、とにかく減らせ減らせのケチケチ母さんですねぇ。
     そもそも一般的な家計と違い、この"お家"は自分でお金を刷れるわけですから破産はほぼあり得ないとか、借金はあるかもしれないがそれに匹敵するぐらい資産もあるから、借金が増えたからといってすぐに破産することはあり得ないとかいろいろ矛盾があるので、家計に例えるのは私は大嫌いなのです。しかしながら、メディアはそうした矛盾まで説明せずに安易にこの家計のたとえ話を使います。その方が批判が出来ないからです。
     ドラマで連帯保証人になったばかりに人生が真っ暗になってしまったとか、借金でクビが回らなくなり家族みんな路頭に迷うことになったとか、「借金は悪!」というのは日本人に刷り込まれてしまっています。それを下地に、「国だって同じですよ!借金は悪!」といえば、誰も反対できない錦の御旗のように見えてしまいます。そして、「この悪い借金を残念ながらこの国は重ねてしまいました。せめて、我々の世代で完済しましょう。借金の負担を次の世代に引き継ぐなんてやめましょう」と言えば、特に孫を持つような世代には琴線に響きます。さらに、「借金を返すために増税をしますが、少し我慢してください。次の世代のためです」なんて言われれば、なるほどそうか、我慢するのは日本人の美徳だよななんて受け入れてしまうわけですね。
     ここで完全に忘れ去られているのが、増税でなくとも収入を増やすことが出来るという点です。先ほどの家計のたとえ話で言えば、なぜ家全体の年収を増やすことを考えないのかという点。お父さんの給料が2倍になれば、やり繰りは相当ラクになりますよね。「国だって同じですよ!」景気を良くして税収を増やせば、財政の自由度だって上がるはずなのです。

     ところが、そういったことを主張すると、「そんなバクチみたいなこと、国がやるのは危険すぎます!」という批判が必ずやってきます。たしかに、平成の30年のほとんどをデフレの中で過ごした日本人にとって、給料が劇的に上がるというのは経験の少ないことかもしれません。それゆえ、「たしかにウチの給料も上がらないんだから国だって同じだよなぁ」となり、堅実に借金を返すなら増税かぁと渋々ながら増税に賛成する向きも出てきますね。

     そこで考えなければならないのが、先ほども挙げた憲法15条です。財務省とて「全体の奉仕者」なんですから、まずは30年間も給料が上がらない日本経済にしてしまった自分たちの仕事ぶりに対して真摯で深い謝罪と反省こそ必要なのではないでしょうか?財政審も、その役割は財務大臣の諮問機関なのですから、「全体の奉仕者」たる財務官僚の仕事ぶりに対してきちんとチェックしなくてはいけないはず。評論家然として「負担先送り圧力に抗えなかった」なんて被害者面して財務官僚たちにおべんちゃらを言っている場合ではありません。
    平成30年間の経済成長がなぜこんなに低調だったのか、私は財政と金融が噛み合わなかったことが大きな原因ではないかと思っていますが、有識者の集まりなんでしょうから納得のいく総括を出してほしいと思います。
  • 2018年11月15日

    影響は、軽微?

     日ロ首脳会談や入管難民法改正案の審議といった大きなニュースが目白押しの水曜日(14日)、ひっそりと今年7月~9月期のGDP速報値が発表されました。


     翌日の紙面では、大きなニュースに紙幅を割かれたためかあまり大きく報じられていませんが、個人的にはこれは非常に重大なニュースであろうと思っています。というか、放送でも言いましたが、各項目でマイナスが並び、惨憺たる数字と感じたのです。では、各紙はどう報じたかというと...。

    <内閣府が14日発表した2018年7~9月期の国内総生産(GDP)速報値は、物価変動の影響を除いた実質の季節調整値で前期比0.3%減だった。年率換算では1.2%減。1~3月期以来、2四半期ぶりのマイナスとなった。全国で相次いだ自然災害の影響で個人消費が伸びなかった。輸出も大幅なマイナスとなった。>

    <内閣府が14日発表した2018年7~9月期の国内総生産(GDP、季節調整値)速報値は、物価変動を除く実質で前期比0.3%減、このペースが1年間続くと仮定した年率換算は1.2%減となり、2四半期ぶりにマイナス成長に転じた。西日本豪雨や北海道地震などの災害が響いて個人消費が振るわず、訪日外国人観光客の落ち込みも重なって輸出が減少。企業の設備投資も停滞した。>

     各紙、揃って災害の影響で落ち込んだという表現を使っています。おそらく、そういうレクチャーを受けてそのまま記事化していると思うのですが、数字をしっかりと見るとちょっと疑問を感じます。
     たしかに7月から9月は台風や豪雨災害、さらに北海道胆振東部地震が重なり、経済にもマイナスの影響があったことは否めません。海外経済も、アメリカが中国に対して制裁関税を発動させた時期にも重なりますから、外需の下押しもあって厳しい数字が出たこともたしかにその通りです。とはいえ、それだけで説明できるのか?
     全体としては、四半期でマイナス0.3%成長(季節調整済み、実質)、年率換算でマイナス1.2%成長でしたが、各要素に分解して、それぞれが全体の数字に対してどれだけ影響を及ぼしたのかを示す「寄与度」も同じ概要の中には記載があります。それを見ると、全体でマイナス0.3%のうち、ざっと民間需要がマイナス0.2%、公的需要がマイナス0.1%、輸出入が差し引きでマイナス0.1%となっています。記事では個人消費の不振と輸出の減少ばかりを書いていますが、官公需もしっかりと(?)足を引っ張っているのにあまり言及がありません。
     そして、この公的需要をさらに分解すると、政府最終消費支出がプラスなのに対し、インフラなどへの財政出動を表す公的固定資本形成がマイナスです。この公的固定資本形成のマイナスは深刻で、ここ1年以上プラスになった試しがありません。2017年10月~12月期から四半期ごとに前期比の数字を見ていくと、マイナス2.2→マイナス0.8→マイナス0.5→マイナス0.3、そして今期のマイナス1.9。(いずれも季節調整済みの実質成長率前期比)
     何と一度もプラス圏に顔を出すことなく、常にGDP統計の足を引っ張り続けているのです。弱い弱いと言われ、今回のマイナス成長の主犯のように各紙から言われている個人消費だって、プラスとマイナスを行ったり来たりしているにも関わらず、公共投資は常にマイナス。何という緊縮財政でしょうか。

     加えて深刻なのが、物価の動きを総合的に示すGDPデフレーターの値が、ここ1年ゼロより下に沈み込んでいる点です。一般に、物価の動きというと消費者物価指数(CPI)の値が注目されます。日銀の物価目標もこのCPIの値が生鮮食品を除く総合で2%となっていますが、直近の値では総合で1.2%、生鮮食品を除く総合が1.0%、生鮮食品とエネルギー価格を除いた総合が0.4%でした。
     一方、GDPデフレーターの動きは四半期ごととはいえ、より厳しくなっています。同じく2017年10月~12月期から四半期ごとの数字を列挙すると、0.3→0.0→マイナス0.2→マイナス0.2、そして今期が0.0。(いずれも季節調整済みの前期比)
     この数字だけで判断することはできませんが、デフレ脱却どころか良く言ってもデフレへ逆戻り寸前まで来ているのではないでしょうか?たしかに、流通関係者を取材すると、
    「最近、ここ1年ほどは客単価が下がり続けている。まだ量を売ることで数字を作っているが、決して楽観視できない」
    と、このところの変化を話してくれました。客単価が下がっているということは、取扱商品全体として値下げ圧力が強く働いているということ。GDPデフレーターの動きと符合しますね。

     そして、この地合いで来年の10月には消費税増税ですか?このままでは、失われた20年が失われた30年になってしまいます。今期のGDP不振の原因を災害に求めることが、全体のかじ取りを誤る気がしてなりません。杞憂に終わればいいのですが...。
  • 2018年11月06日

    最近のリーク合戦は?

     昨日の放送でも触れましたが、ここへきて陸海空自衛隊の新装備に絡んだニュースが数多く出てきています。たとえば、海上自衛隊に絡むものですと、

    <防衛省は、新たな防衛力整備の指針「防衛計画の大綱」とともに策定する中期防衛力整備計画(中期防)に、海中を自動航行して情報収集する大型の水中ドローン(無人潜水機)の開発方針を明記する意向を固めた。政府筋が4日、明らかにした。>

    また、航空自衛隊に関するものではこんなニュース。
    <防衛省は2030年代に退役を迎える航空自衛隊のF2戦闘機の後継機をめぐり、年末に策定する新たな「中期防衛力整備計画(中期防)」に、国内防衛産業の参画を重視する開発方針を明記する方向で調整に入った。日本が開発主体となることで、防衛産業の基盤維持や戦闘機開発の技術蓄積を図る狙いがある。政府関係者が4日、明らかにした。>

     いずれも"政府筋"、"政府関係者"が明らかにしたニュースで、見出しにも漏れなく"中期防"という単語があります。この中期防とは、中期防衛力整備計画のこと。向こう5年間の具体的な防衛力整備の計画のことを言います。国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防、年度予算の関係をわかりやすく図解した資料をご紹介しますね。


    防衛省が出している資料なのですが、この4ページ目に、
    <〇国家安全保障戦略(戦略)は、我が国の国益を長期的視点から見定めた上で、外交政策及び防衛政策を中心とした基本方針として我が国として初めて定めたもの
    〇新たな防衛計画の大綱(大綱)は、各種防衛装備品の取得や自衛隊の運用体制の確立等は一朝一夕にはできず、長い年月を要するため、中長期的見通しに立って行うことが必要との観点から、戦略を踏まえ、今後の我が国の防衛の基本方針、防衛力の役割、自衛隊の具体的な体制の目標水準等を示したもの
    〇大綱に示された防衛力の目標水準等を踏まえ、5年間を対象とする中期防衛力整備計画(中期防)を策定し、同計画に従って、それぞれ各年度の防衛力整備を実施>
    と出ています。
     戦略→大綱→中期防の順で、大枠の概念的な話から具体的にどれにいくら使うという話になっていくわけですね。そして、中期防をもとにして各年度予算が決まるわけですが、防衛装備品は一年や二年ですぐに手元に届くようなものではなく、中には5年かかってようやく納入されるようなものもあります。そこで、中期防が事実上各年度の予算の大枠も決めてしまうようなところがあるわけです。従って、ここが5年に1度の勝負どころ。向こう5年のサイフを決めてしまうところがあるので、陸海空の各自衛隊から様々なリークが出てきて、それを各社が"政府筋によると"、"政府関係者によると"と書くわけですね。

     ただ、このところのリーク記事には海や空に関するものが多くなっています。
     なぜか?
     各自衛隊に配分されている予算を額だけで見ると、たしかに陸上自衛隊が多くなっています。なので、陸に傾斜している予算を少しでも取ろうと、海や空のリークがより多い、攻める海空に対し、守りの陸という構図が見て取れるわけです。、


     この予算概要の56ページに機関別一覧という参考資料のページがあり、ここに当初予算における陸海空自衛隊の予算額が載っています。それによれば、陸上自衛隊1兆8310億円に対し、海上自衛隊1兆1433億円、航空自衛隊1兆1663億円です。ただし、全国に散らばる広大な駐屯地にいわゆる歩兵(普通科)、工兵(施設科)、砲兵(特科)といった多種多様な兵種を抱える陸上自衛隊は人員当たりのコストということを考えるとこの額も致し方ない部分があります。

     さらに、来月18日に閣議決定されるといわれている新しい防衛大綱には現行大綱の『統合機動防衛力』に加えて、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな分野をも活用した"クロス・ドメイン"防衛力の構築が叫ばれています。


     この資料は、先月19日に行われた「安全保障と防衛力に関する懇談会」の第4回会合で配布された資料で、この6ページに「防衛計画の大綱の見直しにおける検討のポイント」という項があり、そこに<海空領域の能力強化>という一節が盛り込まれています。さらに、参考資料、防衛省の概算要求に関する考え方の中に
    <陸・海・空という従来の領域にとどまらず、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域を横断的に活用(クロス・ドメイン)した防衛力の構築が必要。>
    との記述があります。"クロス・ドメイン"の名のもとに、現在考えられる戦略正面である尖閣諸島などを睨んだ場合、最新鋭兵器を海や空で運用することを具現化する提案、すなわち水中ドローンであったりデータリンクを多用する最新鋭戦闘機になるわけです。一般国民にもイメージしやすいものですし、必要性はうなずけるわけですから、ある意味誰も反対しない提案ですよね。ということで、海・空のリークが勢いを増しているわけなんですね。

     しかしながら、私が懸念しているのはそこではありません。この配布資料の中には、別の意味で気になる一文が挿入されているのです。前述の参考資料、概算要求に関する考え方の中に、
    <4 各段に厳しさを増す財政事情を勘案し、我が国の他の諸施策との調和を図りつつ、調達の効率化にかかる各種取組等を通じて、一層の合理化を徹底。>
    という一文が当然のごとく挿入されているんですね。防衛予算の大枠をまず嵌めて、その中で配分を考えるから今のように陸海空の縄張り争いのようなものが起こり、リーク合戦のようなものが起こってしまいます。せっかく国家安保戦略や防衛大綱で「この国を守るにはどうすべきか?」から議論を始めているのに、いざ実施の段階まで落とし込んでいくと「お金がないからできません」で終わってしまうのです。
     それでは、安保防衛懇で話し合ってきたことは何だったのでしょうか?
     もちろん、野放図に防衛関係予算が倍々ゲームのように増えていってしまうのは問題ですが、慣例的にまだ残っているGDP比1%枠のような呪縛があるべき防衛力を議論する妨げになってはいないでしょうか?予算が1%枠のあたりまで積みあがると、どれほど現場が必要だといっても却下になるという思考停止に陥っていないでしょうか?

     ある"政府関係者"が私にこう囁きました。
    「どうも有事というものを単線的にとらえる向きがあるが、たとえば島嶼防衛で何かあったときに、相手方は果たしてその正面だけで勝負をしてくるだろうか?むしろ国内での陽動、サイバー空間での攻撃など複線的な事態になることは大いに考えられる。さらに言えば、そんなときに南海トラフ地震が起こったらどうする?今の体勢で大災害と局所的有事という二正面を担えるだろうか?我々の主たる任務は防衛出動。災害出動は従たる任務であり、複合有事では主たる任務が優先される」
     まさに想定したくない事態ですが、これを"想定外"でしたと逃げるわけにはいきません。軍備がないから平和が保たれているのだなどという幻想はとうの昔に過ぎ去りました。今までのしがらみや慣例を排除して、必要なものを必要なところに張り付ける。このリアリズムこそが求められているのではないでしょうか?
  • 2018年11月02日

    ニュースが動く一週間のウラで...

     先週末から今週は、何だかニュースに追いまくられた一週間でした。先週後半にジャーナリストの安田純平さんが拘束されていたシリアで解放、帰国しました。土曜日曜は日中首脳会談。その裏では渋谷を中心にハロウィンの喧騒一色に。週が明けて日印首脳会談から臨時国会代表質問、予算委員会。その一方で、韓国最高裁が戦時中の徴用工の損害賠償訴訟で日本企業に支払いを命ずる判決を出し、紛糾しました。
     ちなみに、ここでよく引き合いに出される日韓請求権協定については、かつてこのブログで分析したことがあります。ご参考まで。


     要するに、この裁判の判決が出てくるまでは国内の問題ですから仕方がない。が、判決を基にして裁判所が財産の差し押さえにかかった瞬間に外国保護権を行使することになり、日韓請求権協定に抵触する。この判決そのものも衝撃的なので報道が過熱していますが、むしろ今後の韓国政府や韓国司法の動きこそが重要だと私は思います。日本としては官民一体となって毅然と対応しなくてはいけません。韓国側が外交保護権を行使するのであれば、こちらも外交保護権を行使して当時支払われた賠償金の返還を求め、それに応じない場合はこちらが外交保護権を行使して韓国の公的資産を差し押さえるようなことも視野に入れなければいけないかもしれません。

     さて、そうした一連のニュースが過熱していたさなかに、日銀は金融政策決定会合を行っていました。

    <日銀は31日、金融政策決定会合を開き、併せて公表した「経済・物価情勢の展望(展望リポート)」で、2018年度の経済成長率と物価上昇率の見通しをいずれも下方修正した。黒田東彦総裁は会合後の記者会見で、「保護主義的動きは日本経済の先行きのリスクの一つ。注意深くみていきたい」と述べ、米中貿易摩擦が実体経済に与える影響について懸念を示した。>

     物価上昇率の見通しはもともと1%強から1%半ばぐらいの予想と、日銀が政策目標とする物価上昇率2%には及びません。景気が拡大し、賃金が上昇していく中で物価上昇率が大きく上がらないというのは庶民にとってはありがたいことですが、果たしてこの流れがどこまで続くのか?今回日銀は物価上昇率見通しは下方修正したものの、2019年10月に予定される消費税増税が行われて景気へ下押し圧力があった際にも、海外需要がそれを補い経済成長を続けるという、なんとも虫のいいシナリオを変えていません。
     本当にこのまま世界経済は順調に成長してくれるのか?米中の貿易戦争はそのまま米中新冷戦へと突入する気配。さらにイギリスのEU離脱交渉は雲行きが怪しく、さらにさらにここへ来て記者殺害に端を発したサウジアラビアの政情不安が原油価格に影響を及ぼしかけています。黒田総裁も会見で、<一番は米中摩擦だが、その他の海外リスクも注視する必要がある>とも指摘していますから、全幅の信頼を置いているわけでもありません。
     先行きに不安が見え隠れする、ひょっとしたら失速するかもしれない。車を運転していても前に坂が見えてきて減速するかもしれないと思ったら、その前にアクセルをふかしますよね。ところが、日銀はアクセルを踏むどころか密かに減速させているようにも見えるちぐはぐな政策対応をしているフシがあります。日銀の金融緩和のペースが密かに減速している、このブログでは何度も言及している"ステルステーパリング"です。


     原稿執筆時点での最新の数字が10月19日現在の保有残高で、439兆8817億円。一方、今年度はじめ=前年度末の値が3月30日現在の保有残高で、416兆4233億円。差し引きすれば今年度どれだけ買い増したかがわかりますから計算すると、23兆4584億円です。日銀は表向き年間80兆円をメドにとしていますが、実際はこのペースで行くと50兆を割るぐらいの金融緩和しか出来ないということになります。
     市場関係者に取材をすると、それをみんな織り込んで取引しているから日経平均も神経質な値動きを繰り返しているのだとか。しかしながら、言っていることとやっていることが違うというのが最も不信感を呼びます。目先に減速の恐れがあるのであれば、きちんとアクセルを踏み込むことが必要です。物価が安定的に2%上昇するまでは金融緩和をきちんと続けるとコミットメントを改めて出すべきではないでしょうか。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
「飯田浩司そこまで言うか!」

■会員制ファンクラブ(CAMPFIREファンクラブ)
「飯田浩司そこまで言うか!ONLINE」

最新の記事
アーカイブ

トップページ