2018年11月19日

平成の財政とは?

 来年4月一杯をもって平成が終わるということで、様々な分野で振り返りが行われています。朝の番組OK!Cozy Up!でも、先月のスペシャルウィークに"激動の平成にスクープアップ!"と題して特集しました。前回は政治に関わる方々にインタビューしましたが、次回がもしあればそれ以外の各界の大物にも平成を振り返ってお話を伺いたいと思っています。

 さて、メディアの振り返りの取り組みだけでなく、政府内の機関でも様々な振り返りの動きがあります。今朝の読売新聞の一面には、財務省の諮問機関の振り返りについて報じています。

<財政制度等審議会(財務相の諮問機関)が、2019年度予算編成に向け、20日に麻生財務相に提出する建議(提言)の原案が判明した。国の借金が大きく膨張した平成30年間の財政運営に対し「受益の拡大と負担の軽減・先送りを求める圧力に抗あらがえなかった時代」と厳しく総括している。こうした状況から脱却するため、高齢者の医療費負担の引き上げなどの歳出抑制を求めた。>

 財政制度等審議会は財務大臣の諮問機関で、企業経営者や学識経験者たちで構成され、毎年春と秋の2回"財政運営のあるべき姿"を提言していると、記事中では説明されています。ま、あるべき姿と言いますが、元財務官僚の高橋洋一さんや、かつてこの審議会の臨時委員をされていた長谷川幸洋さんは、財務省のご意向通りの提言が出され、財務省のご意向通りの報道になるということをいろいろな場で暴露されています。今回の建議原案も同じものと考えて差し支えないでしょう。とにかく財政の膨張を抑えにかかる財務省、その30年間の総括としては「さもありなん」というところですが、「政治に押しまくられて財政拡大に押し切られた」という被害者面をしているところに疑問を感じます。財務省、かつての大蔵省という省庁の突き詰めた役割としては勘定方ですから、日本国全体の経済のことなど考えずに収支が黒字にさえなればいいということなのかもしれません。が、その前にすべて公務員というものは「全体の奉仕者」でありますから(憲法15条)、日本国民全体の幸福を最大化するためのツールとして、経済全体を見ることだって仕事の一つのはずでしょう。
 では、この30年でこの国がどれだけ成長できたのか、GDP成長率の動きを見てみますと...、


 この中の図表1-1-4を見ると、平成2年に8.4%成長をしてからあれよあれよという間に成長率は転げ落ちていき、3年後の平成5年度にはマイナス成長にまで落ち込んでしまいました。同じ「抗えなかった時代」であれば、"デフレの圧力に"抗えなかった時代としなくてはおかしいでしょう。それが、なぜ"負担先送り圧力に"抗えなかった時代なのか...。国の財政を家計に見立て、とにかく財布の中の赤字を減らせば他がどうなってもいいという緊縮ポリシーを如実に表していますよね。

 どうせ家計に見立てるのならば、たとえば雨漏り続き、泥棒に入られ放題の住まいに予算を手当てして家を強くしようとか、稼ぎ頭のお父さんやこれから面倒を見てくれる子どもたちにより良い教育を施すのにお金を使ったりするとか、お金の使い方にはいろいろあるはずなのに、とにかくケチケチ家計礼賛ばかり。ウェブ記事には載せられていなかったので紙面から転記しますが、提言案のポイントとして5つが挙げられていました。

<▽平成30年間の財政運営を厳しく総括。将来世代に負担を先送りと指摘
▽社会保障制度の改革を目指し、「年齢ではなく能力に応じた負担」に転換
▽後期高齢者の窓口負担の引き上げや、介護の利用者負担の見直し
▽国立大に支給される運営費交付金の配分見直し
▽防衛装備品の調達は、今後5年間で計1兆円以上、効率化が必要>

 教育費や防衛費も、とにかく減らせ減らせのケチケチ母さんですねぇ。
 そもそも一般的な家計と違い、この"お家"は自分でお金を刷れるわけですから破産はほぼあり得ないとか、借金はあるかもしれないがそれに匹敵するぐらい資産もあるから、借金が増えたからといってすぐに破産することはあり得ないとかいろいろ矛盾があるので、家計に例えるのは私は大嫌いなのです。しかしながら、メディアはそうした矛盾まで説明せずに安易にこの家計のたとえ話を使います。その方が批判が出来ないからです。
 ドラマで連帯保証人になったばかりに人生が真っ暗になってしまったとか、借金でクビが回らなくなり家族みんな路頭に迷うことになったとか、「借金は悪!」というのは日本人に刷り込まれてしまっています。それを下地に、「国だって同じですよ!借金は悪!」といえば、誰も反対できない錦の御旗のように見えてしまいます。そして、「この悪い借金を残念ながらこの国は重ねてしまいました。せめて、我々の世代で完済しましょう。借金の負担を次の世代に引き継ぐなんてやめましょう」と言えば、特に孫を持つような世代には琴線に響きます。さらに、「借金を返すために増税をしますが、少し我慢してください。次の世代のためです」なんて言われれば、なるほどそうか、我慢するのは日本人の美徳だよななんて受け入れてしまうわけですね。
 ここで完全に忘れ去られているのが、増税でなくとも収入を増やすことが出来るという点です。先ほどの家計のたとえ話で言えば、なぜ家全体の年収を増やすことを考えないのかという点。お父さんの給料が2倍になれば、やり繰りは相当ラクになりますよね。「国だって同じですよ!」景気を良くして税収を増やせば、財政の自由度だって上がるはずなのです。

 ところが、そういったことを主張すると、「そんなバクチみたいなこと、国がやるのは危険すぎます!」という批判が必ずやってきます。たしかに、平成の30年のほとんどをデフレの中で過ごした日本人にとって、給料が劇的に上がるというのは経験の少ないことかもしれません。それゆえ、「たしかにウチの給料も上がらないんだから国だって同じだよなぁ」となり、堅実に借金を返すなら増税かぁと渋々ながら増税に賛成する向きも出てきますね。

 そこで考えなければならないのが、先ほども挙げた憲法15条です。財務省とて「全体の奉仕者」なんですから、まずは30年間も給料が上がらない日本経済にしてしまった自分たちの仕事ぶりに対して真摯で深い謝罪と反省こそ必要なのではないでしょうか?財政審も、その役割は財務大臣の諮問機関なのですから、「全体の奉仕者」たる財務官僚の仕事ぶりに対してきちんとチェックしなくてはいけないはず。評論家然として「負担先送り圧力に抗えなかった」なんて被害者面して財務官僚たちにおべんちゃらを言っている場合ではありません。
平成30年間の経済成長がなぜこんなに低調だったのか、私は財政と金融が噛み合わなかったことが大きな原因ではないかと思っていますが、有識者の集まりなんでしょうから納得のいく総括を出してほしいと思います。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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