2018年11月06日

最近のリーク合戦は?

 昨日の放送でも触れましたが、ここへきて陸海空自衛隊の新装備に絡んだニュースが数多く出てきています。たとえば、海上自衛隊に絡むものですと、

<防衛省は、新たな防衛力整備の指針「防衛計画の大綱」とともに策定する中期防衛力整備計画(中期防)に、海中を自動航行して情報収集する大型の水中ドローン(無人潜水機)の開発方針を明記する意向を固めた。政府筋が4日、明らかにした。>

また、航空自衛隊に関するものではこんなニュース。
<防衛省は2030年代に退役を迎える航空自衛隊のF2戦闘機の後継機をめぐり、年末に策定する新たな「中期防衛力整備計画(中期防)」に、国内防衛産業の参画を重視する開発方針を明記する方向で調整に入った。日本が開発主体となることで、防衛産業の基盤維持や戦闘機開発の技術蓄積を図る狙いがある。政府関係者が4日、明らかにした。>

 いずれも"政府筋"、"政府関係者"が明らかにしたニュースで、見出しにも漏れなく"中期防"という単語があります。この中期防とは、中期防衛力整備計画のこと。向こう5年間の具体的な防衛力整備の計画のことを言います。国家安全保障戦略、防衛大綱、中期防、年度予算の関係をわかりやすく図解した資料をご紹介しますね。


防衛省が出している資料なのですが、この4ページ目に、
<〇国家安全保障戦略(戦略)は、我が国の国益を長期的視点から見定めた上で、外交政策及び防衛政策を中心とした基本方針として我が国として初めて定めたもの
〇新たな防衛計画の大綱(大綱)は、各種防衛装備品の取得や自衛隊の運用体制の確立等は一朝一夕にはできず、長い年月を要するため、中長期的見通しに立って行うことが必要との観点から、戦略を踏まえ、今後の我が国の防衛の基本方針、防衛力の役割、自衛隊の具体的な体制の目標水準等を示したもの
〇大綱に示された防衛力の目標水準等を踏まえ、5年間を対象とする中期防衛力整備計画(中期防)を策定し、同計画に従って、それぞれ各年度の防衛力整備を実施>
と出ています。
 戦略→大綱→中期防の順で、大枠の概念的な話から具体的にどれにいくら使うという話になっていくわけですね。そして、中期防をもとにして各年度予算が決まるわけですが、防衛装備品は一年や二年ですぐに手元に届くようなものではなく、中には5年かかってようやく納入されるようなものもあります。そこで、中期防が事実上各年度の予算の大枠も決めてしまうようなところがあるわけです。従って、ここが5年に1度の勝負どころ。向こう5年のサイフを決めてしまうところがあるので、陸海空の各自衛隊から様々なリークが出てきて、それを各社が"政府筋によると"、"政府関係者によると"と書くわけですね。

 ただ、このところのリーク記事には海や空に関するものが多くなっています。
 なぜか?
 各自衛隊に配分されている予算を額だけで見ると、たしかに陸上自衛隊が多くなっています。なので、陸に傾斜している予算を少しでも取ろうと、海や空のリークがより多い、攻める海空に対し、守りの陸という構図が見て取れるわけです。、


 この予算概要の56ページに機関別一覧という参考資料のページがあり、ここに当初予算における陸海空自衛隊の予算額が載っています。それによれば、陸上自衛隊1兆8310億円に対し、海上自衛隊1兆1433億円、航空自衛隊1兆1663億円です。ただし、全国に散らばる広大な駐屯地にいわゆる歩兵(普通科)、工兵(施設科)、砲兵(特科)といった多種多様な兵種を抱える陸上自衛隊は人員当たりのコストということを考えるとこの額も致し方ない部分があります。

 さらに、来月18日に閣議決定されるといわれている新しい防衛大綱には現行大綱の『統合機動防衛力』に加えて、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな分野をも活用した"クロス・ドメイン"防衛力の構築が叫ばれています。


 この資料は、先月19日に行われた「安全保障と防衛力に関する懇談会」の第4回会合で配布された資料で、この6ページに「防衛計画の大綱の見直しにおける検討のポイント」という項があり、そこに<海空領域の能力強化>という一節が盛り込まれています。さらに、参考資料、防衛省の概算要求に関する考え方の中に
<陸・海・空という従来の領域にとどまらず、宇宙・サイバー・電磁波といった新たな領域を横断的に活用(クロス・ドメイン)した防衛力の構築が必要。>
との記述があります。"クロス・ドメイン"の名のもとに、現在考えられる戦略正面である尖閣諸島などを睨んだ場合、最新鋭兵器を海や空で運用することを具現化する提案、すなわち水中ドローンであったりデータリンクを多用する最新鋭戦闘機になるわけです。一般国民にもイメージしやすいものですし、必要性はうなずけるわけですから、ある意味誰も反対しない提案ですよね。ということで、海・空のリークが勢いを増しているわけなんですね。

 しかしながら、私が懸念しているのはそこではありません。この配布資料の中には、別の意味で気になる一文が挿入されているのです。前述の参考資料、概算要求に関する考え方の中に、
<4 各段に厳しさを増す財政事情を勘案し、我が国の他の諸施策との調和を図りつつ、調達の効率化にかかる各種取組等を通じて、一層の合理化を徹底。>
という一文が当然のごとく挿入されているんですね。防衛予算の大枠をまず嵌めて、その中で配分を考えるから今のように陸海空の縄張り争いのようなものが起こり、リーク合戦のようなものが起こってしまいます。せっかく国家安保戦略や防衛大綱で「この国を守るにはどうすべきか?」から議論を始めているのに、いざ実施の段階まで落とし込んでいくと「お金がないからできません」で終わってしまうのです。
 それでは、安保防衛懇で話し合ってきたことは何だったのでしょうか?
 もちろん、野放図に防衛関係予算が倍々ゲームのように増えていってしまうのは問題ですが、慣例的にまだ残っているGDP比1%枠のような呪縛があるべき防衛力を議論する妨げになってはいないでしょうか?予算が1%枠のあたりまで積みあがると、どれほど現場が必要だといっても却下になるという思考停止に陥っていないでしょうか?

 ある"政府関係者"が私にこう囁きました。
「どうも有事というものを単線的にとらえる向きがあるが、たとえば島嶼防衛で何かあったときに、相手方は果たしてその正面だけで勝負をしてくるだろうか?むしろ国内での陽動、サイバー空間での攻撃など複線的な事態になることは大いに考えられる。さらに言えば、そんなときに南海トラフ地震が起こったらどうする?今の体勢で大災害と局所的有事という二正面を担えるだろうか?我々の主たる任務は防衛出動。災害出動は従たる任務であり、複合有事では主たる任務が優先される」
 まさに想定したくない事態ですが、これを"想定外"でしたと逃げるわけにはいきません。軍備がないから平和が保たれているのだなどという幻想はとうの昔に過ぎ去りました。今までのしがらみや慣例を排除して、必要なものを必要なところに張り付ける。このリアリズムこそが求められているのではないでしょうか?
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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