2018年11月26日

世論調査の読み方

 週明けの月曜日は毎週のように世論調査の結果が出てきます。各社月に一度を目安に世論調査をしていますが、スケジュールがかぶるとインパクトが薄れるということで上手いことズラしています。従って、ほとんど毎週世論調査が発表され、それがニュースになるというわけです。今週は、読売と日経が世論調査の結果を発表しました。

<読売新聞社は23~25日、全国世論調査を実施した。安倍内閣の支持率は53%で、前回10月26~28日調査の49%から4ポイント上昇した。不支持率は36%(前回41%)。>

<日本経済新聞社とテレビ東京による23~25日の世論調査で、安倍内閣の支持率は51%となった。10月の前回調査では48%だった。不支持率は4ポイント下がり38%だった。安倍晋三首相がロシアのプーチン大統領と1956年の日ソ共同宣言を基礎に平和条約交渉を加速すると合意したことについては「評価する」が67%で「評価しない」は21%にとどまった。>

 両社ともにこの3連休、23日~25日に調査しています。両社とも、18歳以上の男女に対し、RDD方式と呼ばれるコンピューターで無作為に発生させた番号に電話を掛けるという方式。この世論調査の手法は、かつては固定電話にしか掛けなかったので世論を反映していないのではないかと言う批判が出ていましたが、近年は携帯電話も含めて掛けています。同じ手法で同じタイミング、さらに同じような質問をしていますから、結果もまぁ当然似通ったものになりますよね。内閣支持率や日ロ交渉についての評価などは1、2%の違いはあれど同じような評価となっています。

 そんな中ただ一つ正反対の結果が出たのが、外国人労働者の受け入れ拡大でした。日経は見出しを立ててこのネタで記事を一本書いています。

<日本経済新聞社の23~25日の世論調査で、人手不足が深刻な分野に限って外国人労働者を5年間で最大34万5千人受け入れる政府の方針について聞いたところ、賛成は41%にとどまった。反対は47%だった。>

 一方の読売は記事化はされていませんが、本紙には調査項目を載せているので引き写しますと、
<◆政府は、これまで医師や研究者など、専門的な技能を持つ人に限ってきた外国人労働者の受け入れを、単純な労働に就く人にも拡大する法案を、今の国会に提出しています。あなたは、外国人労働者の受け入れ拡大に、賛成ですか、反対ですか。
・賛成 48 ・反対 42 答えない10>
※11月26日付読売新聞東京最終版10面 本社全国世論調査結果より

 日経は昔から調査結果一覧を載せませんので記事中から類推するしかないのですが、どうやら「人手不足が深刻な分野に限って外国人労働者を5年間で最大34万5千人受け入れる政府の方針について聞いたところ」と出ていますから、具体的な数字を挙げて質問をしたのでしょう。すると、賛成41%に対して反対47%という回答がありました。たしかに数字を見せられると、しかもそこそこ規模の大きな市と同じレベルの数となると脅威を感じます。反対が多くなるのもわかります。
 対する読売は、上記調査項目の引き写しの通り、今もすでに医師、研究者が日本に入ってきているんです。これにもう少し門戸を開くのが今回の法案なんですよ~、さて皆さんどうですか?という聞き方。こうなると、なるほどすでに入ってきているのがちょっと増えるだけかと思って賛成が多くなるかもしれません。結果、賛成48%、反対42%という数字になりました。

 同じタイミングで同じ手法でも、質問の仕方が少し違うだけでここまで結果が異なるのだということをまざまざと見せつけられる思いです。今回読売は見出しを立てて記事にしたわけではありませんでしたが、これ、読売の結果は「外国人労働者受け入れ拡大、賛成多数!」「ほぼ半数が賛成!」といった見出しを立てることは結果だけを見れば可能です。見出しに引っ張られて、世論は賛成なのか...と思う人が出てもおかしくないわけです。
 逆に、思い切り否定的な聞き方、例えば「外国人労働者が増えると日本人労働者の賃金も上がらなくなると言われています。また、市区町村のサービスが外国人労働者向けに偏り、サービスが低下する恐れがあるともいわれています。今あるコミュニティが壊れる可能性も指摘されています。あなたは、外国人労働者の受け入れ拡大を狙いとする入管難民法改正案に賛成ですか?反対ですか?」と聞けば、おそらく6割7割は反対と答えるでしょう。

 ことほど左様に、世論調査も聞き方一つで結果が変わるということです。調査そのものは規模の大きな組織でないと出来ないことですし、価値があるとは思います。それだけに、出し方の問題が大きい。各社だいぶ改善されてきましたが、質問項目をすべて明らかにすることが重要だと思います。できれば、興味を持った人たちが各々分析できるように、個人を特定できない形にした生データをウェブ上に上げてくれるといいのですが、ある意味このデータも会社の財産のようなものですから難しいのでしょうね。
 各社10個程度の質問項目の中から記事として特出ししてくるわけですが、この選び方にもニューズバリューや社論などへの"忖度"があるわけですから注意が必要です。たとえば、こんな記事。

<読売新聞社の全国世論調査で、来年10月の消費税率引き上げに伴うキャッシュレス決済のポイント還元制度に「反対」は62%に上り、「賛成」の29%を上回った。>

 わざわざ年代別の賛成反対の割合を棒グラフで示すほどの気合の入れ方で報じているわけですが、私が感じたのはその唐突感。普通であれば、まず消費税増税そのものへの賛否があって、その上で負担軽減の手法を聞くのがセオリーってもんですが、この記事は見出しも何も消費税増税はもう決まったという体で書かれています。増税そのものへの賛否は、ウェブ上ではお金を払わないと見られない部分、記事の最後にちょろっと書かれているだけです。ちなみにその結果と言うと、

<◆消費税率は、来年10月に、8%から10%への引き上げが予定されています。予定通り、10%に引き上げることに、賛成ですか、反対ですか。
・賛成 44 ・反対 51 ・答えない 5>

 なるほど、過半数が反対という結果だったので特出しは出来ないということになったんですね。10月の中旬に消費増税総理決断と打ってこの方、負担軽減策などを書き続けることで増税そのものは不可避であるとの刷り込みを図ってきましたが、結果は前回10月末の調査と変わらず反対が過半数。世論は冷静に足元の経済を見て消費増税の痛みを認識しているのではないでしょうか?私には、ここもニュースの一つと感じるのですが...。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
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