2014年12月23日

鉄道ファンよ、謙虚たれ

 鉄道ファンにとっては残念なニュースでした。

『東京駅100年、記念スイカで大混乱 販売中止で客怒り』(日本経済新聞 12月20日)http://goo.gl/0wgWFs
<JR東日本が20日午前、東京駅開業100周年を記念したIC乗車券Suica(スイカ)1万5千枚を限定販売したところ、同駅丸の内南口の窓口に客が殺到した。安全を確保するため約2時間半で販売を中止したのに対し、買えなかった人が駅員に詰め寄るなど大混乱した。>

 このニュースを知った直後、知り合いのディレクターからこの事件についてどう思うか?と聞かれたのでこう答えました。

「ん~、純粋な鉄道ファンもある程度は含まれてたんでしょうが、転売目的の人もそれなりにいたんでしょうね。商売かかっているから暴動寸前にまでなった。」

 たしかに、そうした人もいたようです。

『スイカ騒動の背景に"転売ヤー"の存在 ネットで20万円落札も』(12月22日 夕刊フジ)http://goo.gl/mIvh7X
<ネットのオークションサイトでは22日朝の時点で、赤れんがの駅舎をデザインした記念スイカが多数出品されており、1枚2000円の販売価格を大きく上回る価格で入札されている。入札価格は2万~6万が相場だが、99億9999万9999円という値がつけられる異常な事態も。実際に20万円で落札されたケースもあった。>

 こうした事態を受け、JR東日本は即座に今後の販売について発表しました。インターネットか郵送で申し込みを受け付け、希望したすべての人に発売するそうです。

『「東京駅開業100周年記念Suica」の今後の発売について』(12月22日 JR東日本)http://goo.gl/s67PYP

 一方で、駅員さんに怒号を浴びせていた方の映像を見ていると、どうやら鉄道ファンの方であろうという人も見かけました。最近、こうした記念日に鉄道駅や列車に殺到する傾向があります。れは、私はゆゆしき事態だと思っています。あえて厳しい言い方をすれば、この人たちは本当に鉄道ファンなのか、疑問です。

 そもそも鉄道ファンというものは、自分に身近な鉄道をしみじみと愛でるものだったはずです。ネットが今ほど発達していなかった時代は、こういった記念切符の類も発売される駅やその周辺に情報が掲示される程度で、全国からファンが殺到するようなことはありませんでした。ほど好きな方は、専門の趣味雑誌から情報を得たりしましたが、それもあれほど殺到することはなかったわけです。また、そういった貴重な記念切符を手に入れた方も、ご自身の部屋に飾って愛でたり、引出しに仕舞っておいて何かの折に取り出してニンマリしたりと、他人にひけらかすようなこともなかったんですね。

 しかしながら、最近はネットの力もあってより注目を集めるところに集中する傾向にあります。今までは近くの鉄道の情報しか手に入らなかったものが、即座に日本中、世界中の情報をキャッチすることができるようになった。交通網の発達で、気軽に現場へ移動できるようになった。さらに、鉄道ファン同士が遠隔地でもつながるようになり、仲間内でより注目を集めるモノを求めたり、注目を集める場所に行くようになりました。

 それでも、抑制が効いていればいいのです。しかし、そんな千載一遇のチャンスを得て、舞い上がってしまう人が非常に多いんですね。あるいは、同好の士が集まって、「赤信号、みんなで渡れば怖くない」というように多少社会的規範を踏み外しても良しとしてしまう集団心理が働くんでしょうか。先日の東京駅の騒動しかり、イベント列車をよりいいアングルで撮るために木を切ったり、立ち入り禁止エリアに入ることしかりです。

 こういった人たちは、本当に鉄道ファンなんでしょうか?鉄道を愛するものとして恥ずかしいと思うと同時に、もう切り離して考えるべきではないかと思っています。「撮り鉄」「乗り鉄」といったジャンル分けが市民権を得てきましたので、ここは記念日に集まるファンを「記念日鉄」、あるいは「アニバーサリー鉄」とでも呼んで、他と区別すべきであろうと思います。鉄道そのものが好きというよりも、ステータスを求めているわけですから。

 今回の騒動を見て、来年3月のダイヤ改正が本当に心配になりました。このダイヤ改正の前後で、記念日的な出来事が目白押しなのです。

『新幹線開業や時速アップ...JRの来春ダイヤ改正』(12月20日 読売新聞)http://goo.gl/FfheZa

 時系列で並べると、まずはダイヤ改正でなくなる列車たち。特に注目されるのが、3月12日に出発する寝台特急「北斗星」「トワイライト・エクスプレス」。「北斗星」が出発する上野駅など、ファンが殺到するでしょう。さらに、ダイヤ改正によって新たにデビューする列車たち。北陸新幹線「かがやき」や、東京駅と上野駅の間がつながる「上野東京ライン」など、こちらも注目を集める列車がずらっと並んでいます。

 かつて、京浜東北線に使われていた209系が引退するというときには、先頭車両にファンが殺到し、一駅止まる毎にホームへ降りて写真を撮り、また乗り込むということを繰り返しました。結果として、一駅ごとにちょっとずつ、ちょっとずつ遅延していき、最終的に終日ダイヤが乱れるということがありました。同じことが、「北斗星」のラストランを写真に収めようとファンが集まって夕方の東北線で起これば、帰宅ラッシュに重大な影響が出るでしょう。

 定時運行は日本が世界に誇る技術です。国連加盟国196か国の中で、たった3分列車が遅れただけで「お急ぎのところ申し訳ありません」とアナウンスする国は、日本をおいて他にありません。その誇りを維持するために、どれだけの人々が血のにじむような努力を日々続けているのか?鉄道ファンなら、その努力がいかに尊いものか分かるはずです。それを、自分のちっぽけなエゴで踏みにじっていいのでしょうか?そうでなくてもダイヤ改正前後は職員も慣れていないので、システムとしての脆弱性が出る可能性が高く、遅れる可能性も普段より高くなっています。そんな鉄道マンたちに、さらなる負荷を鉄道を愛する者が掛けていいものなのか?

 3月までの間に、少し冷静になって考えてみませんか?
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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