2014年12月16日

『ナッツ・リターン事件』の本質

 大韓航空のいわゆる『ナッツ・リターン事件』。半分ゴシップのように面白おかしく報道されていますが、これ実は、大問題なのです。

『大韓航空の女性副社長、機内で大声叱責 滑走路引き返させ責任者を降ろすトホホ』(12月9日 夕刊フジ)http://goo.gl/t4QVXf
<5日未明、米ニューヨークのケネディ空港から韓国・仁川空港に向かう便のファーストクラスに乗っていた大韓航空の趙顕娥(チョ・ヒョンア)副社長(40)が、客室乗務員からサービスのナッツを袋に入ったまま出され、「なんというサービスをするの」と叱りつけた。
 副社長は担当責任者を呼び、接客マニュアルで確認するよう命じたが、端末での検索に手間取ったため、機内から降りるよう命じた。その間、副社長は大声で叱責もしたという。
 滑走路に移動していた旅客機は搭乗口に一旦戻り、遅れて離陸。約250人の乗客には遅延の説明がなかった。>

 記事にある通り、客として搭乗した副社長の命令で、出発したはずの機体がゲートに戻ったわけですね。ポイントは、この『客として』という部分。クルーとしてならまだしも、客としてとなると話は変わってきます。

 まず、この事件はアメリカ・ニューヨークのケネディ国際空港で起きました。ですから、アメリカの法律に照らして...と思いたいところですが、国際法上、航空機の機内に足を踏み入れた時点で、その航空機の所属する国の国内法が適用されます。ニューヨークにいても、大韓航空機の機内は韓国という扱いになるわけです。

 次に、安全運航を維持するために、機内では機長はじめ乗務員の指示に従う義務があるというのが国際的な常識であり、各国の航空法規にはその旨の記載が必ずあります。たとえば日本の航空法ですと、第73条の4にその記述があります。

『航空法』http://goo.gl/y1vr4R
<第73条の4 機長は、航空機内にある者が、離陸のため当該航空機のすべての乗降口か閉ざされた時から着陸の後降機のためこれらの乗降口のうちいずれかが開かれる時までに、安全阻害行為等をし、又はしようとしていると信ずるに足りる相当な理由があるときは、当該航空機の安全の保持、当該航空機内にあるその者以外の者若しくは財産の保護又は当該航空機内の秩序若しくは規律の維持のために必要な限度で、その者に対し拘束その他安全阻害行為等を抑止するための措置(第5項の規定による命令を除く。)をとり、又はその者を降機させることができる。>

 韓国の航空法でも、23条にそうした記述があるようです。
『韓国国土部、「大韓航空前副社長を検察に告発することに...」』(12月16日 韓国・中央日報日本語版)http://goo.gl/X0HpwN
<国土部は、趙顕娥前副社長の行動が「乗客は航空機とほかの乗客の安全な運航と旅行に危害を加えてはならない」という航空保安法第23条(乗客の協力義務)に違反したと判断している。 >

 ということで、いかにエライ人だろうが、客として乗り込んだ人の指示にクルーが従ったのは指揮命令系統がアベコベで大問題。この事態は、言い換えれば「ソフトなハイジャック状態」であったとも言うことができるわけです。もちろん、この副社長の言動に問題があるのは明白ですが、被害者面しているクルーたちも実は大変な失態を犯していたことはあまり指摘されていません。

 今回の一件は、安全運航よりも社内の立場を優先するという大韓航空の恐るべき企業風土を浮き彫りにしたものとも言えるのではないでしょうか?これから検察へ告発し、運行停止等の制裁が大韓航空には課される可能性がありますが、このトンデモ副社長へのバッシングが行き過ぎると本当の問題がかすんでしまう気がします。航空会社が進んで安全を軽視したというのが問題の本質のはずではないでしょうか?
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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