2016年4月

  • 2016年04月27日

    熊本地震被災地取材報告

     今月14日以降、大きな地震に相次いで襲われた九州・熊本地方。あれからおよそ10日が経った23日、南阿蘇村に取材に入りました。
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     1階部分が完全に潰れてしまったアパートや一軒家。踏みとどまった家も斜めに傾いています。駐車場には完全に横倒しになった自動車がそのまま放置されていて、平衡感覚がおかしくなるようでした。
     地震の凄まじい爪痕がくっきりと残る被災地ではありますが、取材を進めると、そこから力強く立ち上がろうとする人々の雄々しい姿がありました。

     14日の前震と16日の本震で2度、震度7の揺れを経験した益城町。東京で報道を見ていると、今も残る爪痕と打ちひしがれた被災者ばかりがクロー
    ズアップされています。もちろん、あまりの被害に呆然と立ち尽くす人もいらっしゃいますが、一方で必死に前を向く人もいらっしゃいます。
     この益城は農業が非常に盛んなところ。この時期はハウス物のスイカの出荷が始まる時期。ほかにも、ニンジンやミニトマトなど野菜の生産が盛んです。町内で大規模営農をしている農業法人・吉水農園の方にお話を伺うと、地震後すぐに畑に出たそうです。
    「こうして仕事をしていると前向きになれる。悲嘆に暮れていても金にならないが、仕事をすれば金を稼げるからね。それに、野菜は生き物だから。一 日手を入れないだけでもダメになってしまう。あと、若いモンが地震直後から来てくれたから、俺たちもやらないと」

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    朝早くから農作業の準備をする吉水農園のスタッフの皆さん(24(日)朝・熊本県益城町)

     野菜の出荷場や加工場は、建物自体は地震に耐えたものの、中の機械類がずれたりひっくり返ったり。まずはその再建から手を付けなくてはいけませんでした。水耕栽培のトマト向けには地下水などで水を確保。停電中は発電機を回して機械を動かしました。結果、すぐに10トン車を受け入れられるまでに復旧。今は、パートさんたちが戻ってくれば地震前とそん色ないレベルまで復旧できる態勢を整えました。
    「地震で半年前に買ったばかりの愛車が潰れた若いモンに、下向かずに汗流して働いて、2台目にチャレンジしろって言っているんですわ」
     若手の側もこれに応えて、
    「次は高級外車を目指します!」
    と力強く答えてくれました。東京で報じられる被災者のイメージよりも、彼らはずっと前を向いていました。

     そうしたイメージのギャップは、被災弱者と言われる人たちへの取材でも感じました。ニッポン放送ではクリスマスの24時間生放送を中心に、目の不自由な人たちのためのチャリティキャンペーン、ラジオ・チャリティ・ミュージックソ ンを毎年行っています。私もこの特別番組でレポートするために、目の不自由な方を何度も取材してきました。その中で、東日本大震災の時にも大変な思いをしたという声を何度も聞きました。今回の熊本地震ではどうだったのか?熊本県視覚障がい者福祉協会の事務局長、茂村広さんにお話を伺いました。茂村さんご自身も全盲でいらっしゃいます。

     まずは視覚障がい者の避難生活について。
    「視覚障がい者は、混沌とした避難所の中での移動、トイレ、配給の受け取りなどに苦労します。ケアしてくれる家族などがいない視覚障害者には、特 に周りの助けが必要となります。」
     そもそも、避難所となる小学校や地域の公民館は普段行き慣れているようなところではありません。そこへの移動だけでも1人では難しい。仮に行き慣れていたとしても、道路の状況は平時とは大違い。壁が崩れていたりマンホールが浮き上がっていたりして、いつものように歩くことは不可能です。健常者であれば目で見て迂回したりすることも可能ですが、視覚障がい者にそれはできません。災害が起こったときは、1人で避難することも難しいのです。茂村さんのところにも実際、近所の健常者の方に声をかけてもらって、避難所まで連れて行ってもらったという報告があったそうです。

     そうしてたどり着いた避難所での生活。さらに、精神面でも特有の負担があるようです。
    「周りの人に助けてもらってばかりでは精神的な負担も出てくる。同じ人間ですから、ありがとうございます、ありがとうございますと頭を下げ続ける という
    のもみじめな思いにつながってしまうこともあるんですね。」
     健常者であっても気持ちが後ろ向きになりがちな避難所生活。ハンデを負った障がい者であればなおさらです。しかし、スキルを活かして前向きに生活しようという方もいるそうで、こんなエピソードを紹介してくれました。
    「視覚障がい者の中にはマッサージの技術を持つ人も多いので、エコノミークラス症候群になりそうな人に対してマッサージを施すことで自分も人を助 けることができた、という報告がありました」
     ハンデを背負っていても前向きに誰かの役に立ちたい。そんなエピソードを聞くと、胸が熱くなる思いがしました。自分のできる範囲で、皆さん励ましあいながら復興に向けて踏み出そうとしているのです。

     被災地ではそこここでこうした「共助」の姿勢を見ることができました。熊本市のボランティアセンターの取材をしたときのこと。東京の報道では「全国からボランティア希望者が集まった」とされていましたが、現場で取材した実感は「地元の人がとっても多い」でした。それも、中高生が多い。お揃いの学校指定ジャージを着て6~7人のグループというのが目立ちました。
     話を聞くと、当然ながら皆さん被災者です。それではなぜここへ来たのか聞くと、
    「被災者ではあるんですが、家は健在で中の片づけも終わったので、もっと困っている人の役に立ちたいんです」
    と、口々に話してくれました。若者も大人も、年齢は関係なくみんな、こういった答えでした。
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    ボランティア受付に並ぶ人たち。圧倒的に地元の人が多い(23日(土)熊本市中心部)

     地元紙・熊本日日新聞のこの日の見出しにこんな言葉がありました。
    「負けんばい熊本」
    被災地はすでに、手を携えながら復興に向けて歩み出そうとしています。
  • 2016年04月18日

    熊本地震が投げかけるもの

     平成28年熊本地震で被害に遭われた方にお見舞いを申し上げ、亡くなられた方々に謹んで哀悼の誠を捧げます。地元熊本県をはじめ、各市町村、自衛隊、警察、消防、海上保安庁、さらにアメリカ軍に至るまで、本震から間もなく72時間となる今、懸命な捜索・救助活動を続けています。本当に頭の下がる思いです。

     さて、今回の地震の現場映像などを見ていると、今後に向けては困難も待ち構えてはいるでしょうが少し楽観的かなぁと私は見ています。というのも、東日本大震災の現場を少し取材した経験と照らすと、客観的に見た条件が良いところが見られるのです。

     何と言っても、基礎自治体が生き残ったのがとても大きい。今のところ人的被害が無かったということに加えて、損傷を受けながらも庁舎そのものが消失したところはありません。台帳その他のデータ関係も残っていることが非常に大きいのです。

     知り合いに社会保障について東大で研究している人間がいるのですが、震災後の岩手県大槌町の支援をした苦労話を語ってくれたことがあります。大槌は地震の後の津波で町役場を失っただけでなく、町長以下当時の職員の3分の1を失いました。基本台帳などのデータを流失したのみならず、統治機構そのものをトップから失ったわけで、それを一から構築しなおすのは想像を絶する膨大な作業だったそうです。データの再構築では、まず目の前にいる人が誰なのかからデータを作り直すことが必要でした。指揮命令系統の再構築では、運ばれてきた支援物資をどのようにして配っていくか?これも作り直さない限りは一切動けなかったわけですね。ある中央官僚が、「役人はやったことのあることと誰かから言われたことをやるのは得意」と言っていました。ということで、自発的に機構を作り直すのは真逆の作業。一番の苦手、急所を突かれたようなものです。当然、復興の出足の遅れにつながりました。5年経った今なお、かさ上げ作業が行われていることと、基礎自治体そのものが甚大な被害を被ったことは無縁であるはずがありません。

     今回の熊本の地震は基礎自治体が生き残りました。避難所の開設、運営や報道対応、各種手続きなど慣れない部分でしばらくもたつくことはあっても、軌道に乗り出せば回っていくと思っています。そこでポイントとなるのが、今までのノウハウをどう生かせるか?ということ。

     たとえば、今被災地では断水しているところがまだまだ多いようですが、その給水活動は一つの拠点に職員を配置させるとき、何人配置するか?1人でいいような気がしますがそれではあっという間に疲弊してしまうそうです。膨大な希望者を並ばせ、場合によっては手提げ袋を配って水を運んでもらう。あるいは初めから手提げ袋に水を入れた状態で配布していく。そうした仕事をこなしながら、さらにいろいろと被災者の希望を聞いていく。とても一人では手が足りません。こうした、現場が疲弊しないような手当というのは経験しないとわからないことだらけです。それだけに、自分たちも人が足りずに応援を受け入れている東日本大震災の被災地が熊本に向け職員を派遣する心意気を見て、私は感動を覚えるのです。

    『熊本地震 石巻市など応援職員ら出発 物資支援、募金活動も/宮城』(4月16日 毎日新聞)http://goo.gl/nWdTlw

     こうして、日本全体で経験が積み重ねられていく。地震と向き合う我が国ならではの紐帯と言えるかもしれません。

     一方、過去の地震があってなお、変わらない、変えられない部分もあります。たとえば、目前に迫る選挙。これだけの地震があって、学力テストは熊本では実施しないことが決まりましたが、参議院選挙は延期するわけにいきません。

     憲法46条に<参議院議員の任期は、六年とし、三年ごとに議員の半数を改選する。>という文言があり、延長は認められていません。続く47条に<選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。>という文言もあり、公職選挙法の該当する条文(公選法32条2項)を参照すると、国会を延長し最も伸ばしても8月21日(日)には投票日を迎えなくてはいけません。(ダブル選挙などを考慮せず)結局、憲法の規定を特別措置法がひっくり返すことはできないというわけですね。

     ここで議論に上るべきは、そんな憲法で果たしていいのか?という問題。これだけの地震大国・ニッポンで、国政選挙のみ教条的に行っていて疑問はないのか?今回はそれでも投票日まで3~4か月あるので、被災地も多少の落ち着きを取り戻すかもしれませんが、これが公示期間中であってもおかしくないわけです。何か、大地の側が問題提起をしているようにも思えてしまいますが、いかがでしょうか?
  • 2016年04月04日

    ホテル不足解消策は民泊だけ?

     先週末から今週にかけて、訪日外国人数にまつわるニュースが連日報道されています。まず、政府の構想会議が野心的な数値目標を発表しました。

    『政府、訪日外国人目標を一気に倍増 2020年=4000万人、2030年=6000万人』(3月30日 産経新聞)http://goo.gl/8WyTCi
    <政府は30日、訪日外国人観光客の拡大に向けた具体策をまとめる「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」(議長・安倍晋三首相)を開き、訪日外国人観光客数の目標人数を倍増させ、平成32(2020)年に4千万人、42(2030)年に6千万人とすることを決めた。首相が掲げる名目国内総生産(GDP)600兆円の達成に向け、観光施策をその起爆剤にしたい考えだ。>

     そして、この目標を達成すべく受け入れ態勢を整備しようと様々な施策が明らかになってきています。たとえば、民泊について、
    『「民泊」手探りの本格スタート...期待と不安』(3月31日 読売新聞)http://goo.gl/BbybNG
    <宿泊施設の許可要件を緩和する旅館業法の改正政令が4月1日に施行され、自宅などに旅行者を有料で宿泊させる「民泊」が本格的にスタートする。
     急増する訪日客の受け皿として期待される一方、近隣トラブルなどを心配する声も上がる。国は6月以降に新たに法整備も行う方針だ。>

    さらに、今日報道され出したのが、ホテルの容積率規制の緩和です。
    『ホテル「容積率」緩和へ=訪日客増で客室不足に対応-国交省』(4月4日 時事通信)http://goo.gl/m8STKG
    <国土交通省は4日、ホテルを新築したり建て替えたりするときに、これまでより大きなホテルを建てられるよう、建物の「容積率」を緩和する方針を決めた。実現すれば、同じ敷地面積でより階数を増やし、客室が多いホテルを建てられるようになる。訪日外国人観光客の増加による客室不足を解消するのが目的。今夏までに自治体に通知する考えだ。>

     去年あたりからホテルの空室がない、空室がないと散々報道されてきましたから、こうした流れは当然と受け止められています。実際、ホテルのホームページなどを見てもすでに予約できない「×」の表示が並んでいたりして、「ああ、やはりホテルは取りづらくなっているのだ」と実感した方も多いでしょう。しかし、業界の専門家に聞くと、必ずしも取れないわけではないといい、人によっては部屋数が足りないわけではないという声すら聞こえてきます。

     この報道と専門家のギャップは何なのか?そこには、日本独自のルールがありました。

     ズバリ言えば、「キャンセル料の扱い」に大きな違いがあって、そこを突かれているといいます。日本のホテルは、どんなキャンペーン料金であろうとも宿泊前日まではキャンセル料がかからないというのが一般的です。だいたいどのホテルでも、
    「前日のご連絡・・・20%
    当日のご連絡・・・80%
    ご連絡なくご利用がない場合・・・100%」
    となっています。
     一方、海外のホテルでは1~2週間前から段階的にキャンセル料がかかるものや、安く販売するけれどもキャンセルすると全額没収されるものなど多彩。あの手この手で空室を予測しやすくし、できる限り100%の利用率に近づける努力をしているようです。

     日本のホテルの場合、キャンセル料の規定が利用客に有利なので、海外の旅行代理店や個人がかなり前から大量に予約を入れておいて、直前になって大量にキャンセルするような事例が発生しているようです。この「直前にキャンセル」というのが曲者で、前々日までのキャンセルなら全く懐が痛まないわけで、「とりあえず予約」が満室の大半ということも考えられます。一方で、我々日本人が国内のホテルを予約しようとする時、よほどの旅行でない限り何か月も前から予約というのはあまりありません。特に出張の需要が多い大都市圏のホテルの場合、良くて1か月前、大体は1~2週間前に予約に動くことが多いのではないでしょうか?そうすると、ばっちり「とりあえず予約」の期間内に当たってしまい、満室ばかりで途方に暮れる羽目になる。もちろん、繁忙期には本当に満室ということもありますが、こうした「とりあえず予約」の満室に当たる人が多くなり、結果都市部のホテルが取りづらい神話が出来上がってきた側面も否定できないようです。

     そういった面があるのであれば、容積率の緩和や民泊といった供給する部屋数の増加を促すのみならず、既存の宿泊施設の有効活用で対応する余地も残されているのではないでしょうか?ある関係者は海外ホテルのテクニックを紹介してくれました。
    「海外のリゾートホテルなどによくある手なんだけど、実際のキャパシティ以上の予約を取っちゃうというのがある。で、当日までにキャンセルが出て歩留りが100%近くになるってわけ。航空会社がやっているのと同じだね。この場合、予測が外れてキャパ以上のお客さんを収容しなきゃならない時に困るんだけれども...」
     ここまでリスキーなことを都心のホテルがやり出して宿泊難民が出るのはシャレになりませんが、せめてキャンセル料の規定変更などは出来る対策の一つではないでしょうか?

     こうした日本独特の予約ルールが日本人の不便を招いてしまったケースはほかにもあります。たとえば、ジャパン・レール・パス。これは外国人旅行客限定で販売されている鉄道乗り放題パスで、JR各線の普通から特急まで、新幹線も「のぞみ」、「みずほ」を除くすべての列車に乗車可能で、しかも無料で座席指定もできます。たがって、オンライン上では指定席が満席と表示されるのに、実際に列車が来ると空席がちらほらといったことが起こってしまうわけです。今までのように訪日外国人数が少なかったうちは弊害も少なかったんですが、これが年間4000万人を目指す!というようになると話が違ってきます。指定席券を有料にする、あるいはキャンセルの場合は料金が発生するように規定がそろそろ必要になってくるのではないでしょうか?

    「外国人観光客の急激な増加で、今は観光業界全体がとにかく捌くのに精一杯。しかし、徐々に対応する新たなシステム構築が必要になってくる」と、東洋大学の矢ケ崎紀子准教授は指摘しています。キャンセル料についても、そろそろガラパゴス規定を抜け出すときなのかもしれません。規制緩和の前に、足元を見直すことも必要だと思います。
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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「飯田浩司そこまで言うか!」

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