先週末から今週にかけて、訪日外国人数にまつわるニュースが連日報道されています。まず、政府の構想会議が野心的な数値目標を発表しました。
<政府は30日、訪日外国人観光客の拡大に向けた具体策をまとめる「明日の日本を支える観光ビジョン構想会議」(議長・安倍晋三首相)を開き、訪日外国人観光客数の目標人数を倍増させ、平成32(2020)年に4千万人、42(2030)年に6千万人とすることを決めた。首相が掲げる名目国内総生産(GDP)600兆円の達成に向け、観光施策をその起爆剤にしたい考えだ。>
そして、この目標を達成すべく受け入れ態勢を整備しようと様々な施策が明らかになってきています。たとえば、民泊について、
<宿泊施設の許可要件を緩和する旅館業法の改正政令が4月1日に施行され、自宅などに旅行者を有料で宿泊させる「民泊」が本格的にスタートする。
急増する訪日客の受け皿として期待される一方、近隣トラブルなどを心配する声も上がる。国は6月以降に新たに法整備も行う方針だ。>
さらに、今日報道され出したのが、ホテルの容積率規制の緩和です。
<国土交通省は4日、ホテルを新築したり建て替えたりするときに、これまでより大きなホテルを建てられるよう、建物の「容積率」を緩和する方針を決めた。実現すれば、同じ敷地面積でより階数を増やし、客室が多いホテルを建てられるようになる。訪日外国人観光客の増加による客室不足を解消するのが目的。今夏までに自治体に通知する考えだ。>
去年あたりからホテルの空室がない、空室がないと散々報道されてきましたから、こうした流れは当然と受け止められています。実際、ホテルのホームページなどを見てもすでに予約できない「×」の表示が並んでいたりして、「ああ、やはりホテルは取りづらくなっているのだ」と実感した方も多いでしょう。しかし、業界の専門家に聞くと、必ずしも取れないわけではないといい、人によっては部屋数が足りないわけではないという声すら聞こえてきます。
この報道と専門家のギャップは何なのか?そこには、日本独自のルールがありました。
ズバリ言えば、「キャンセル料の扱い」に大きな違いがあって、そこを突かれているといいます。日本のホテルは、どんなキャンペーン料金であろうとも宿泊前日まではキャンセル料がかからないというのが一般的です。だいたいどのホテルでも、
「前日のご連絡・・・20%
当日のご連絡・・・80%
ご連絡なくご利用がない場合・・・100%」
となっています。
一方、海外のホテルでは1~2週間前から段階的にキャンセル料がかかるものや、安く販売するけれどもキャンセルすると全額没収されるものなど多彩。あの手この手で空室を予測しやすくし、できる限り100%の利用率に近づける努力をしているようです。
日本のホテルの場合、キャンセル料の規定が利用客に有利なので、海外の旅行代理店や個人がかなり前から大量に予約を入れておいて、直前になって大量にキャンセルするような事例が発生しているようです。この「直前にキャンセル」というのが曲者で、前々日までのキャンセルなら全く懐が痛まないわけで、「とりあえず予約」が満室の大半ということも考えられます。一方で、我々日本人が国内のホテルを予約しようとする時、よほどの旅行でない限り何か月も前から予約というのはあまりありません。特に出張の需要が多い大都市圏のホテルの場合、良くて1か月前、大体は1~2週間前に予約に動くことが多いのではないでしょうか?そうすると、ばっちり「とりあえず予約」の期間内に当たってしまい、満室ばかりで途方に暮れる羽目になる。もちろん、繁忙期には本当に満室ということもありますが、こうした「とりあえず予約」の満室に当たる人が多くなり、結果都市部のホテルが取りづらい神話が出来上がってきた側面も否定できないようです。
そういった面があるのであれば、容積率の緩和や民泊といった供給する部屋数の増加を促すのみならず、既存の宿泊施設の有効活用で対応する余地も残されているのではないでしょうか?ある関係者は海外ホテルのテクニックを紹介してくれました。
「海外のリゾートホテルなどによくある手なんだけど、実際のキャパシティ以上の予約を取っちゃうというのがある。で、当日までにキャンセルが出て歩留りが100%近くになるってわけ。航空会社がやっているのと同じだね。この場合、予測が外れてキャパ以上のお客さんを収容しなきゃならない時に困るんだけれども...」
ここまでリスキーなことを都心のホテルがやり出して宿泊難民が出るのはシャレになりませんが、せめてキャンセル料の規定変更などは出来る対策の一つではないでしょうか?
こうした日本独特の予約ルールが日本人の不便を招いてしまったケースはほかにもあります。たとえば、ジャパン・レール・パス。これは外国人旅行客限定で販売されている鉄道乗り放題パスで、JR各線の普通から特急まで、新幹線も「のぞみ」、「みずほ」を除くすべての列車に乗車可能で、しかも無料で座席指定もできます。たがって、オンライン上では指定席が満席と表示されるのに、実際に列車が来ると空席がちらほらといったことが起こってしまうわけです。今までのように訪日外国人数が少なかったうちは弊害も少なかったんですが、これが年間4000万人を目指す!というようになると話が違ってきます。指定席券を有料にする、あるいはキャンセルの場合は料金が発生するように規定がそろそろ必要になってくるのではないでしょうか?
「外国人観光客の急激な増加で、今は観光業界全体がとにかく捌くのに精一杯。しかし、徐々に対応する新たなシステム構築が必要になってくる」と、東洋大学の矢ケ崎紀子准教授は指摘しています。キャンセル料についても、そろそろガラパゴス規定を抜け出すときなのかもしれません。規制緩和の前に、足元を見直すことも必要だと思います。