2016年04月18日

熊本地震が投げかけるもの

 平成28年熊本地震で被害に遭われた方にお見舞いを申し上げ、亡くなられた方々に謹んで哀悼の誠を捧げます。地元熊本県をはじめ、各市町村、自衛隊、警察、消防、海上保安庁、さらにアメリカ軍に至るまで、本震から間もなく72時間となる今、懸命な捜索・救助活動を続けています。本当に頭の下がる思いです。

 さて、今回の地震の現場映像などを見ていると、今後に向けては困難も待ち構えてはいるでしょうが少し楽観的かなぁと私は見ています。というのも、東日本大震災の現場を少し取材した経験と照らすと、客観的に見た条件が良いところが見られるのです。

 何と言っても、基礎自治体が生き残ったのがとても大きい。今のところ人的被害が無かったということに加えて、損傷を受けながらも庁舎そのものが消失したところはありません。台帳その他のデータ関係も残っていることが非常に大きいのです。

 知り合いに社会保障について東大で研究している人間がいるのですが、震災後の岩手県大槌町の支援をした苦労話を語ってくれたことがあります。大槌は地震の後の津波で町役場を失っただけでなく、町長以下当時の職員の3分の1を失いました。基本台帳などのデータを流失したのみならず、統治機構そのものをトップから失ったわけで、それを一から構築しなおすのは想像を絶する膨大な作業だったそうです。データの再構築では、まず目の前にいる人が誰なのかからデータを作り直すことが必要でした。指揮命令系統の再構築では、運ばれてきた支援物資をどのようにして配っていくか?これも作り直さない限りは一切動けなかったわけですね。ある中央官僚が、「役人はやったことのあることと誰かから言われたことをやるのは得意」と言っていました。ということで、自発的に機構を作り直すのは真逆の作業。一番の苦手、急所を突かれたようなものです。当然、復興の出足の遅れにつながりました。5年経った今なお、かさ上げ作業が行われていることと、基礎自治体そのものが甚大な被害を被ったことは無縁であるはずがありません。

 今回の熊本の地震は基礎自治体が生き残りました。避難所の開設、運営や報道対応、各種手続きなど慣れない部分でしばらくもたつくことはあっても、軌道に乗り出せば回っていくと思っています。そこでポイントとなるのが、今までのノウハウをどう生かせるか?ということ。

 たとえば、今被災地では断水しているところがまだまだ多いようですが、その給水活動は一つの拠点に職員を配置させるとき、何人配置するか?1人でいいような気がしますがそれではあっという間に疲弊してしまうそうです。膨大な希望者を並ばせ、場合によっては手提げ袋を配って水を運んでもらう。あるいは初めから手提げ袋に水を入れた状態で配布していく。そうした仕事をこなしながら、さらにいろいろと被災者の希望を聞いていく。とても一人では手が足りません。こうした、現場が疲弊しないような手当というのは経験しないとわからないことだらけです。それだけに、自分たちも人が足りずに応援を受け入れている東日本大震災の被災地が熊本に向け職員を派遣する心意気を見て、私は感動を覚えるのです。

『熊本地震 石巻市など応援職員ら出発 物資支援、募金活動も/宮城』(4月16日 毎日新聞)http://goo.gl/nWdTlw

 こうして、日本全体で経験が積み重ねられていく。地震と向き合う我が国ならではの紐帯と言えるかもしれません。

 一方、過去の地震があってなお、変わらない、変えられない部分もあります。たとえば、目前に迫る選挙。これだけの地震があって、学力テストは熊本では実施しないことが決まりましたが、参議院選挙は延期するわけにいきません。

 憲法46条に<参議院議員の任期は、六年とし、三年ごとに議員の半数を改選する。>という文言があり、延長は認められていません。続く47条に<選挙区、投票の方法その他両議院の議員の選挙に関する事項は、法律でこれを定める。>という文言もあり、公職選挙法の該当する条文(公選法32条2項)を参照すると、国会を延長し最も伸ばしても8月21日(日)には投票日を迎えなくてはいけません。(ダブル選挙などを考慮せず)結局、憲法の規定を特別措置法がひっくり返すことはできないというわけですね。

 ここで議論に上るべきは、そんな憲法で果たしていいのか?という問題。これだけの地震大国・ニッポンで、国政選挙のみ教条的に行っていて疑問はないのか?今回はそれでも投票日まで3~4か月あるので、被災地も多少の落ち着きを取り戻すかもしれませんが、これが公示期間中であってもおかしくないわけです。何か、大地の側が問題提起をしているようにも思えてしまいますが、いかがでしょうか?
書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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