2013年7月

  • 2013年07月25日

    デフレ脱却へ、これを見よ!

     参院選に勝利した安倍総理の会見をみると、
    https://www.jimin.jp/activity/press/president/121801.html
     まずは経済。安倍総理は冒頭発言の中で、
    「外交力も安定した社会保障も、強い経済なくしては成り立ちません」
    と話していました。経済といえば、もちろんアベノミクス。安倍総理は何度も言っていますが、この最終目標はデフレ脱却です。間近に迫る消費増税への景気判断も、このデフレ脱却への所与に過ぎません。

     

     安倍総理は消費増税に関しては、
    「今年4月から6月の経済指標などを踏まえ、経済情勢をしっかりと見極めながら秋に判断をしてまいります。デフレ脱却、経済成長と財政再建の両方の観点からしっかりと判断していく考えです。」
    と述べ、選挙前の各演説など同様、各指標を見て適切に判断すると繰り返しています。
     菅官房長官はさらに少し踏み込んで、
    「4~6月のGDPの2次速報も見て判断する」としています。
    http://www.bloomberg.co.jp/news/123-MQBWZ76S972F01.html
     しかし、麻生財務大臣はこの消費増税について
    「予定通り上げたい」
    と会見で話しています。
    http://www.mof.go.jp/public_relations/conference/my20130720.htm

     

     このブログでも過去に書きましたが、消費増税を含む税と社会保障一体改革法の附則18条には
    「名目3%、実質2%」
    との記述があるので4~6月のGDPの数値を注視するのはわかりますが、デフレ脱却を最終目標にするなら、物価を見なくてはなりません。そして、その指標、消費者物価指数(CPI)が明日発表されるのです。おそらく、目標の物価上昇率2%には到底届かず、コンマ何%という上昇に留まるでしょう。そうなると、まだまだ景気は回復しきっていないとなって消費増税が難しくなります。それゆえ、発表は前々から予定されているのにほとんど報道されていません。明日の発表後もさほど大きく取り上げられないかもしれません。

     

     さらに、このCPIは時と場合によって3パターンの数字が出てくるので非常に注意が必要です。それがこの3つ。
    ・CPI
    ・コアCPI
    ・コアコアCPI
     同じ消費者物価指数という名前で3つも種類があるなんてややこしくてたまりません。モノサシは一つに統一せよと思うんですが、現状はこの3つを正確に知っておく必要があります。
     まずは、CPI。これは、全ての物の値段を加重平均して出した指数です。
     しかし、この物価の中には価格の変動が激しいものがあります。たとえば、肉や魚、野菜といった生鮮食料品。いま水不足と酷暑から野菜が高くなっていますが、このように景気よりも天候に左右されるものが混ざっていると、正確な物価としての判断ができません。生鮮品が高いので指数が高くでても、それはデフレ脱却とはいえません。天候が順調になれば、それだけで物価上昇率が下がってしまうわけですからね。

     そこで、CPIから生鮮品を除いたものが、コアCPIです。ただ、これだけでは不十分です。景気循環による物価の下降・上昇を判断するには、もうひとつ取り除かなければならない要素があるのです。それが、エネルギー価格。特に石油や天然ガスは、世界の投機筋がマネーを流し込んで値段が激しく変動します。それに影響を受けていては、国内の物価を正確に捉えることができません。
     ということで、コアCPIからエネルギー価格を除いたものがコアコアCPIです。
     まとめると、
    ・CPI(全ての物価)
    ・コアCPI(CPI-生鮮品)
    ・コアコアCPI(CPI-生鮮品-エネルギー価格)
    となります。ちなみに、海外では、日本のコアコアCPIが「コアCPI」と呼ばれていて、2種類で判断しているのが主流です。日本だけ、オリジナル「コアCPI」という中途半端な代物を作り出しているのです。

     

     そして、デフレを脱却できたかどうかを判断するには、コアコアCPIを使わなくてはなりません。日本版「コアCPI」と使うと、エネルギー価格の高騰で物価が上昇し、「見てください、数値が上昇している!デフレから脱却した!増税だ!」となる恐れがあります。明日発表となるCPI、消費者物価指数。各メディアがどう報じるのか、どのCPIを使って報じるのか?その姿勢が問われそうです。

  • 2013年07月18日

    岩盤は選挙後にあり

     安倍官邸のアグレッシブな人事が続いています。
     事務次官人事では、厚労次官に村木厚子さんを起用しました。
    『村木厚子厚労次官を正式発表 女性登用は2人目』(北海道新聞)
    http://www.hokkaido-np.co.jp/news/politics/476265.html

     厚労省の文書偽造事件で逮捕された後、検察による証拠の改ざんが発覚し無罪判決となった方。旧労働省出身なんですが、実は前任の次官も労働省出身。2代続けて労働省出身というのは、バランスを重んじる官僚の世界では異例の人事で、女性の活力を重視する安倍官邸としては目玉の人事の一つです。

     

     さらに、外務次官人事。任期途中の河相次官を事実上更迭し、斎木外務審議官を次官に昇格させました。
    『外務省、斎木次官を発表』(日本経済新聞)
    http://www.nikkei.com/article/DGXNASFS2704Z_Y3A620C1EB2000/
     斎木氏は安倍総理が小泉内閣の官房副長官を務めていたときから北朝鮮の拉致問題に取り組んできた間柄。前政権で次官に就任した河相外務次官は、民主党色の払拭という意味もあり、一年足らずでの退任となりました。

     

     この、一連の官邸主導の人事。選挙中は政治休戦ともいわれる中、総理の得意な防衛の分野で着々と進められています。

     まず、海上保安庁長官に初めて現場の制服組が起用されました。
    『海上保安庁:長官に佐藤雄二氏昇格へ 現場出身で初』(毎日新聞)
    http://mainichi.jp/select/news/20130718k0000e010164000c.html
     現場の士気向上を狙い、総理主導で行われた人事のようです。

     さらに、
    『自衛隊運用、制服組に移管 来年度にも、文官部局は廃止』(朝日新聞)
    http://www.asahi.com/politics/update/0718/TKY201307171014.html
     自衛隊の運用、つまり作戦企画立案に関して、現場を知らない官僚(背広組)ではなく、現場の幹部自衛官(制服組)が仕切るようになるということです。これが『文民統制』に悖るという意見もありますが、選挙で選ばれた政治家が大臣としてグリップするということが本当の文民統制であって、選挙を経て民意の裏付けがあるわけではない、「文官」たる官僚がグリップするのは「文民」統制ではありません。第一次安倍政権当時からこの構想があったそうで、ようやく真っ当な人事が行われたということですが、官僚機構そのものをいじるというのはなかなか思い切った決断です。

     

     さて、近づいてきた参院選で自民党が大勝すれば、この流れに拍車がかかり、官邸としてはさらに動きやすくなりそうですが、すでに巻き戻しの動きも起きています。
    『規制改革会議、農業など作業部会を5つに再編』(日本経済新聞)
    http://www.nikkei.com/article/DGXNZO57423350X10C13A7PP8000/
     先の通常国会の終了直前、発送電分離の一里塚になると言われた電気事業法改正案が廃案となってしまい、エネルギーや環境といった分野はこれから仕事が増えるはずなんですが、作業部会は休止...。発送電分離をされると厄介な電力会社や、そこから支持を受ける政治家、官僚が動いたのでは...?と勘繰りたくもなる決定。選挙の前後という目立たないタイミングというのも、何やら怪しいにおいがします。
     先日番組でご一緒した、産業競争力会議の有識者委員、竹中平蔵さんは、
    「参院選で自民党が大勝すれば、受かってくるのは業界団体に推された人や業界団体出身者が多数入ってくる。そうなれば、党内世論が改革を拒否するようになって、安倍さんはむしろ動きづらくなるんではないだろうか?」
    と心配していました。
     一時は維新の会やみんなの党といった野党とも改革の分野で手を組むことも考えていたという官邸サイド。橋下発言などで今となってはそれも望めず、政権の正念場はむしろ、選挙が終わった後に訪れるようです。

  • 2013年07月09日

    新聞の危機は軽減税率適用が引き金?

     上げるべきか、上げざるべきか、それが問題だ...。シェイクスピアの悲劇の一節のような問題が、選挙後の安倍政権に降りかかります。言わずと知れた、消費税増税問題。今年10月に、来年4月から8%に上げるかどうかの判断を下さなくてはなりません。すでに増税が既定路線のように報じられていますが、この増税法案の附則18条というところに、
    「(消費税率の引上げに当たっての措置)
    第十八条 消費税率の引上げに当たっては、経済状況を好転させることを条件として実施するため、物価が持続的に下落する状況からの脱却及び経済の活性化に向けて、平成二十三年度から平成三十二年度までの平均において名目の経済成長率で三パーセント程度かつ実質の経済成長率で二パーセント程度を目指した望ましい経済成長の在り方に早期に近づけるための総合的な施策の実施その他の必要な措置を講ずる。
    2 税制の抜本的な改革の実施等により、財政による機動的対応が可能となる中で、我が国経済の需要と供給の状況、消費税率の引上げによる経済への影響等を踏まえ、成長戦略並びに事前防災及び減災等に資する分野に資金を重点的に配分することなど、我が国経済の成長等に向けた施策を検討する。
    3 この法律の公布後、消費税率の引上げに当たっての経済状況の判断を行うとともに、経済財政状況の激変にも柔軟に対応する観点から、第二条及び第三条に規定する消費税率の引上げに係る改正規定のそれぞれの施行前に、経済状況の好転について、名目及び実質の経済成長率、物価動向等、種々の経済指標を確認し、前二項の措置を踏まえつつ、経済状況等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる。」
    という条文があって、名目3%、実質2%のGDP成長を目指し、その時の景気の状況により、その時の政権が判断することになっているのです。つまり、「景気が悪けりゃ上げないよ」と法律に明記されているわけです。
    http://hourei.hounavi.jp/seitei/hou/H24/H24HO068.php

     

     ちなみに、首相官邸のホームページにも「社会保障・税一体改革ページ」というものがあって、
    http://www.kantei.go.jp/jp/headline/syakaihosyou.html
     そこのリンクから、いわゆる消費増税法案の詳細ページへ飛ぶことが出来るんですが、
    http://law.e-gov.go.jp/announce/H24HO068.html
     このページは簡易版。何と、この附則18条が見事に削除されているのです。ん~、何というか、「何が何でも増税!」という意図を感じざるを得ないんですが...。

     

     さて、新聞各紙もまた、増税の既成事実を作ろうと躍起です。というのも、増税の暁にはその論功行賞としての軽減税率適用を勝ちとりたいからです。紙面以外でも、さまざまなシンポジウムなどを開いて、多少強引に軽減税率を適用すべきと訴え続けています。

     強引さが目立った事例として、ジャーナリスト・津田大介さんが参加した日本新聞協会のシンポジウムを挙げましょう。出席した津田さんが、自身のメールマガジン『津田大介のメディアの現場 vol.83』の中の「津田大介のデジタル日記」に記しています。

     

    (引用はじめ)
    ■6/21(金)■
    (中略)
    ●17時30分からは同じ場所で日本新聞協会のシンポジウム「ニュースや知識
    をどう支えるか――ネット時代にメディアの公共性を考える」へ。司会は八塩
    圭子さん。ゲストは元総務相で慶大教授の片山善博さん、明治大学の齋藤孝さ
    ん、毎日新聞東京本社編集編成局長の小川一(@pinpinkiri)さん、俺。

     ●各パネリストは新聞の軽減税率適用の必要性を述べる人が多かったけど、
    俺は「欧州では普通だし、商業性に巻き込まれず記事を出すことの公共性考え
    たら軽減税率を採用するのには合理性がある。しかし、都合の良いときだけ公
    共性とか言うのに、読売ジャイアンツを持ってたり、不動産を潤沢に経営して
    いる新聞社がそれを言っても説得力がないし、ネットの人たちは納得しないの
    では」という発言をした。要するに軽減税率適用には反対の論調であるわけだ
    けど、その日のシンポジウムの速報記事では「軽減税率適用をシンポジウムで
    議論。津田大介も参加」とまとめられる。え、これって俺も軽減税率適用賛成
    派になるの? 的な。
    (引用ここまで)

     

     津田さん自身もメルマガ上で指摘している通り、紙面ではこう変化するのです。
    『新聞への軽減税率「あってしかるべき」新聞協会がシンポジウム』(産経新聞)
    http://sankei.jp.msn.com/life/news/130621/trd13062122180021-n1.htm

     見出しだけ見ると、満場一致で軽減税率を適用すべきだと読めるが、中身はそうでもなかったことが参加者自身に指摘されてしまっています。見出しによる印象操作もここまで来たかと思います。

     

     しかしながら一方で、ここまで新聞が血道を上げる消費増税、そして新聞への軽減税率の適用が却って新聞の経営を圧迫するのでは?という分析もあるのです。どういうことか?
     新聞の売価には軽減税率が適用されるので、当然価格は据え置きになります。ところが、一般のモノやサービスの値段には消費増税が乗っかってくるので、値段が上昇します。たとえば、新聞をするための電気代、インク代、さらに刷り上がった新聞を運搬するガソリン代、高速代。これらを総合すると、いかに売価に軽減税率が適用されようとも、新聞を刷るためのコストは消費増税すると上昇するわけです。
     さて、その時新聞各社は「消費増税でコストが上がりましたので...」と、値上げを言いだせるのか...?
     さんざん、言論の自由を守るため、民主主義を守るために軽減税率適用を!と言ってきた新聞社が、この期におよんで値上げとなれば、「では何のための軽減税率だったのか!」となりませんか?この軽減税率の議論は、見れば見るほど滑稽で、新聞社が自分で自分の首を絞めているような気がしてならないのです。増税で景気が悪くなったら、結局元も子もないわけですからね。軽減税率の是非を議論する前に、本当に今増税するべきなのかを議論するべきだと思うのですが...。
     まさか、「景気が悪くなったのは消費増税のせいじゃない!アベノミクスが失敗して物価が上昇したからだ!新聞はアベノミクスの犠牲になった!だから値上げします!!!」なんて力技を繰り出しませんよねぇ...?ちょっと寒気がしてきました。

  • 2013年07月04日

    選挙期間中は、政治の話ができない?

     今日、第23回参議院選挙が公示されました。弊社ニッポン放送も含めて様々な放送の現場で、これから神経質な番組作りが行われます。よく言われるのが、

    「これから政治に関する話が出来なくなるなぁ」

    というボヤキ。中にはオンエアの中で

    「選挙期間中なので、政治に関する話はできないんです」

    と宣言する人までいる始末です。
    そして、もし政治トピックを取り上げる場合には、「公平・公正を期さなければならない。」具体的には、「話すのならすべての候補を平等に扱わなければならない。」と言われています。

     

     しかしこれ、少し考えると、放送の根本と相反するものなんです。大きな話をしますが、放送の大きな目的の一つが、国民の「知る権利」に応えること。選挙期間中は、普段政治に興味がない人でも少しは政治の情報を知りたいと思う時期。その時期に「公平・公正」を気にするあまり、政治トピックそのものを扱わないというのは、「知る権利」に正しく応えていないように思うのです。というか、「これだけ世間的に盛り上がっているのに、なぜ放送では扱えないんだろう?」という素朴な疑問から、根拠となる法律について調べてみました。

     

     まず、選挙というと思い浮かべるのが公職選挙法。
    http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S25/S25HO100.html
    しかし、公選法という法律は、基本的に「選挙される側」、「候補者側」を縛るもの。
    放送事業者を縛るものではありません。唯一放送について言及されているのは第150条、151条の2つ。

     

    (政見放送)
    第百五十条  衆議院(小選挙区選出)議員の選挙においては、候補者届出政党は、政令で定めるところにより、選挙運動の期間中日本放送協会及び基幹放送事業者(中略)のラジオ放送又はテレビジョン放送(中略)を無料で放送することができる。この場合において、日本放送協会及び基幹放送事業者は、その録音し若しくは録画した政見又は候補者届出政党が録音し若しくは録画した政見をそのまま放送しなければならない。

    (選挙放送の番組編集の自由)
    第百五十一条の三  この法律に定めるところの選挙運動の制限に関する規定(第百三十八条の三の規定を除く。)は、日本放送協会又は基幹放送事業者が行なう選挙に関する報道又は評論について放送法の規定に従い放送番組を編集する自由を妨げるものではない。ただし、虚偽の事項を放送し又は事実をゆがめて放送する等表現の自由を濫用して選挙の公正を害してはならない。

    ※筆者注 第138条の3の規定とは、「人気投票の公表の禁止」の規定である

     

     法律文を見ると難しく見えますが、150条では政見放送のやり方が書いてあり、そして、151条の3では、虚偽の事項や事実をゆがめない限り、編集の自由も保障されています。
     というわけで、選挙期間中の放送について縛る法律はないわけです。
     政治と放送の間で基本となる法律は、放送法となります。
    http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S25/S25HO132.html

     

    (目的)
    第一条  この法律は、次に掲げる原則に従つて、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを目的とする。
    一  放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障すること。
    二  放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること。
    三  放送に携わる者の職責を明らかにすることによつて、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること。

    (国内放送等の放送番組の編集等)
    第四条  放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。
    一  公安及び善良な風俗を害しないこと。
    二  政治的に公平であること。
    三  報道は事実をまげないですること。
    四  意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。

     

     この1条2項の「不偏不党」、4条2項「政治的公平」、そして同4項「できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」というところに照らして選挙報道は出来上がっているようです。しかしながら、この法律も期間を定めているわけではありません。すなわち、選挙期間中にあんなに放送内容を縛る根拠にはなりません。むしろ、この放送法の条文を厳格に運用すれば、普段から選挙前のような報道しかできないことになってしまいます。

     

     と、ここまで調べて分かったことは、選挙期間中に放送内容を縛っている法律は存在しないということ。では、何を根拠に放送内容はきつく縛られているのか?それは、我々民放の場合は、民放連の放送基準というガイドラインでした。
    http://www.mro.co.jp/mro-info/minkankijun.html

     この第2章「法と政治」、11条、12条が当てはまります。

    (11) 政治に関しては公正な立場を守り、一党一派に偏らないように注意する。
    (12) 選挙事前運動の疑いがあるものは取り扱わない。
    公職選挙の選挙運動は、放送に関しては選挙期間中における経歴・政見放送だけが認められ、それ以外の選挙運動は期間中、期間前を通じて一切禁止されている。したがって、期間中はもとより期間前においても、選挙運動の疑いのあるものは取り扱ってはならない。
    現職議員(地方議会議員を含む)など現に公職にある者を番組に出演させる際には、その必然性および事前運動的効果の有無などを十分に考慮して判断すべきである。
    (後略)

     

     ここで問題になるのは、放送では「経歴・政見放送以外の選挙運動」を取り扱ってはならないというところ。では、「選挙運動」とは何なのか?東京都選挙管理委員会によると、
    「特定の選挙に、特定の候補者の当選をはかること又は当選させないことを目的に投票行為を勧めること。」
    とされています。
    http://www.senkyo.metro.tokyo.jp/qa/qa03.html

     すなわち、民放連のガイドラインで禁じているのは、
    「○○選挙区の△△さんは素晴らしいから当選させましょう!」
    というように投票を呼び掛けたり、
    「××さんは議員の資格なし!投票しちゃいけません!」
    なんて呼びかける行為であって、各党の政策や主張を論評すること自体は「選挙運動」に該当せず、放送を禁止されているわけではないようです。つまり、あれだけきつく放送内容が縛られていたのは、我々放送局側の自主規制に過ぎなかったのです。

     

     一方、今回の参院選ではネットでの選挙活動が解禁となりました。先日、ニコニコ動画で与野党9党の党首を集めてネット党首討論がありました。今回は主催者側の判断で中小政党も含めて登場したわけですが、法律論でいえば、ネット上では選挙運動が解禁されたので中立公正を貫く必要がなくなったわけです。すなわち、全ての党を呼ぶ必要はない。与党と主要野党のみを呼んで、消費税増税や憲法など、ワンイシューでじっくり話し合うというようなこともできるわけです。
     放送局は全ての党を呼ぼうとするから、結果として視聴者・聴取者の欲しい情報が出てこない。
     ネットはその縛りがないので、有益な情報が出てくる。
     どちらが国民の知る権利に応えているかは一目瞭然でしょう。となると、ネット選挙が定着すると、放送における「中立公平」というものそのものが問われてくると思うのです。
     これについては先行事例があります。アメリカでも、かつては現在の日本のように放送の中立公平を定めた条文がありました。対立する問題では、双方の意見を紹介すべしという「フェアネスドクトリン」というもの。そして、1970年代から、アメリカではケーブルテレビが普及しチャンネル数が爆発的に増えました。そのときアメリカでは、爆発的に増えた全ての放送局でフェアネスドクトリンを実行するよりも、各々の放送局が独自の主張を放送することで、全体として多様な意見が世に出て、結果的に中立公平が保たれるという意見が増えていったんですね。で、1987年、連邦通信委員会はフェアネスドクトリンを廃止しました。
     アメリカの場合はケーブルテレビによる多チャンネル化が触媒でしたが、日本の場合はネットによる選挙活動の解禁が触媒となるのか?ネット選挙で一番変わるのは、地上波放送局なのかもしれません。

書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
「飯田浩司そこまで言うか!」

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