2013年07月04日

選挙期間中は、政治の話ができない?

 今日、第23回参議院選挙が公示されました。弊社ニッポン放送も含めて様々な放送の現場で、これから神経質な番組作りが行われます。よく言われるのが、

「これから政治に関する話が出来なくなるなぁ」

というボヤキ。中にはオンエアの中で

「選挙期間中なので、政治に関する話はできないんです」

と宣言する人までいる始末です。
そして、もし政治トピックを取り上げる場合には、「公平・公正を期さなければならない。」具体的には、「話すのならすべての候補を平等に扱わなければならない。」と言われています。

 

 しかしこれ、少し考えると、放送の根本と相反するものなんです。大きな話をしますが、放送の大きな目的の一つが、国民の「知る権利」に応えること。選挙期間中は、普段政治に興味がない人でも少しは政治の情報を知りたいと思う時期。その時期に「公平・公正」を気にするあまり、政治トピックそのものを扱わないというのは、「知る権利」に正しく応えていないように思うのです。というか、「これだけ世間的に盛り上がっているのに、なぜ放送では扱えないんだろう?」という素朴な疑問から、根拠となる法律について調べてみました。

 

 まず、選挙というと思い浮かべるのが公職選挙法。
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S25/S25HO100.html
しかし、公選法という法律は、基本的に「選挙される側」、「候補者側」を縛るもの。
放送事業者を縛るものではありません。唯一放送について言及されているのは第150条、151条の2つ。

 

(政見放送)
第百五十条  衆議院(小選挙区選出)議員の選挙においては、候補者届出政党は、政令で定めるところにより、選挙運動の期間中日本放送協会及び基幹放送事業者(中略)のラジオ放送又はテレビジョン放送(中略)を無料で放送することができる。この場合において、日本放送協会及び基幹放送事業者は、その録音し若しくは録画した政見又は候補者届出政党が録音し若しくは録画した政見をそのまま放送しなければならない。

(選挙放送の番組編集の自由)
第百五十一条の三  この法律に定めるところの選挙運動の制限に関する規定(第百三十八条の三の規定を除く。)は、日本放送協会又は基幹放送事業者が行なう選挙に関する報道又は評論について放送法の規定に従い放送番組を編集する自由を妨げるものではない。ただし、虚偽の事項を放送し又は事実をゆがめて放送する等表現の自由を濫用して選挙の公正を害してはならない。

※筆者注 第138条の3の規定とは、「人気投票の公表の禁止」の規定である

 

 法律文を見ると難しく見えますが、150条では政見放送のやり方が書いてあり、そして、151条の3では、虚偽の事項や事実をゆがめない限り、編集の自由も保障されています。
 というわけで、選挙期間中の放送について縛る法律はないわけです。
 政治と放送の間で基本となる法律は、放送法となります。
http://law.e-gov.go.jp/htmldata/S25/S25HO132.html

 

(目的)
第一条  この法律は、次に掲げる原則に従つて、放送を公共の福祉に適合するように規律し、その健全な発達を図ることを目的とする。
一  放送が国民に最大限に普及されて、その効用をもたらすことを保障すること。
二  放送の不偏不党、真実及び自律を保障することによつて、放送による表現の自由を確保すること。
三  放送に携わる者の職責を明らかにすることによつて、放送が健全な民主主義の発達に資するようにすること。

(国内放送等の放送番組の編集等)
第四条  放送事業者は、国内放送及び内外放送(以下「国内放送等」という。)の放送番組の編集に当たつては、次の各号の定めるところによらなければならない。
一  公安及び善良な風俗を害しないこと。
二  政治的に公平であること。
三  報道は事実をまげないですること。
四  意見が対立している問題については、できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること。

 

 この1条2項の「不偏不党」、4条2項「政治的公平」、そして同4項「できるだけ多くの角度から論点を明らかにすること」というところに照らして選挙報道は出来上がっているようです。しかしながら、この法律も期間を定めているわけではありません。すなわち、選挙期間中にあんなに放送内容を縛る根拠にはなりません。むしろ、この放送法の条文を厳格に運用すれば、普段から選挙前のような報道しかできないことになってしまいます。

 

 と、ここまで調べて分かったことは、選挙期間中に放送内容を縛っている法律は存在しないということ。では、何を根拠に放送内容はきつく縛られているのか?それは、我々民放の場合は、民放連の放送基準というガイドラインでした。
http://www.mro.co.jp/mro-info/minkankijun.html

 この第2章「法と政治」、11条、12条が当てはまります。

(11) 政治に関しては公正な立場を守り、一党一派に偏らないように注意する。
(12) 選挙事前運動の疑いがあるものは取り扱わない。
公職選挙の選挙運動は、放送に関しては選挙期間中における経歴・政見放送だけが認められ、それ以外の選挙運動は期間中、期間前を通じて一切禁止されている。したがって、期間中はもとより期間前においても、選挙運動の疑いのあるものは取り扱ってはならない。
現職議員(地方議会議員を含む)など現に公職にある者を番組に出演させる際には、その必然性および事前運動的効果の有無などを十分に考慮して判断すべきである。
(後略)

 

 ここで問題になるのは、放送では「経歴・政見放送以外の選挙運動」を取り扱ってはならないというところ。では、「選挙運動」とは何なのか?東京都選挙管理委員会によると、
「特定の選挙に、特定の候補者の当選をはかること又は当選させないことを目的に投票行為を勧めること。」
とされています。
http://www.senkyo.metro.tokyo.jp/qa/qa03.html

 すなわち、民放連のガイドラインで禁じているのは、
「○○選挙区の△△さんは素晴らしいから当選させましょう!」
というように投票を呼び掛けたり、
「××さんは議員の資格なし!投票しちゃいけません!」
なんて呼びかける行為であって、各党の政策や主張を論評すること自体は「選挙運動」に該当せず、放送を禁止されているわけではないようです。つまり、あれだけきつく放送内容が縛られていたのは、我々放送局側の自主規制に過ぎなかったのです。

 

 一方、今回の参院選ではネットでの選挙活動が解禁となりました。先日、ニコニコ動画で与野党9党の党首を集めてネット党首討論がありました。今回は主催者側の判断で中小政党も含めて登場したわけですが、法律論でいえば、ネット上では選挙運動が解禁されたので中立公正を貫く必要がなくなったわけです。すなわち、全ての党を呼ぶ必要はない。与党と主要野党のみを呼んで、消費税増税や憲法など、ワンイシューでじっくり話し合うというようなこともできるわけです。
 放送局は全ての党を呼ぼうとするから、結果として視聴者・聴取者の欲しい情報が出てこない。
 ネットはその縛りがないので、有益な情報が出てくる。
 どちらが国民の知る権利に応えているかは一目瞭然でしょう。となると、ネット選挙が定着すると、放送における「中立公平」というものそのものが問われてくると思うのです。
 これについては先行事例があります。アメリカでも、かつては現在の日本のように放送の中立公平を定めた条文がありました。対立する問題では、双方の意見を紹介すべしという「フェアネスドクトリン」というもの。そして、1970年代から、アメリカではケーブルテレビが普及しチャンネル数が爆発的に増えました。そのときアメリカでは、爆発的に増えた全ての放送局でフェアネスドクトリンを実行するよりも、各々の放送局が独自の主張を放送することで、全体として多様な意見が世に出て、結果的に中立公平が保たれるという意見が増えていったんですね。で、1987年、連邦通信委員会はフェアネスドクトリンを廃止しました。
 アメリカの場合はケーブルテレビによる多チャンネル化が触媒でしたが、日本の場合はネットによる選挙活動の解禁が触媒となるのか?ネット選挙で一番変わるのは、地上波放送局なのかもしれません。

プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
(2012年1月9日~2018年3月29日)

「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」
(2012年4月7日~2017年9月30日)

・「東日本大震災から7年・・・本気の備えはできていますか」
(2018年3月11日)

・「ザ・ボイススペシャル 福島県の農業は今」
(2018年1月2日)

・「ザ・ボイススペシャル 密着・不発弾処理隊 今なお眠る2200トンとの戦い」
(2014年12月30日)

・「ザ・ボイススペシャル 辺野古の声」
(2013年12月30日)

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