2013年07月09日

新聞の危機は軽減税率適用が引き金?

 上げるべきか、上げざるべきか、それが問題だ...。シェイクスピアの悲劇の一節のような問題が、選挙後の安倍政権に降りかかります。言わずと知れた、消費税増税問題。今年10月に、来年4月から8%に上げるかどうかの判断を下さなくてはなりません。すでに増税が既定路線のように報じられていますが、この増税法案の附則18条というところに、
「(消費税率の引上げに当たっての措置)
第十八条 消費税率の引上げに当たっては、経済状況を好転させることを条件として実施するため、物価が持続的に下落する状況からの脱却及び経済の活性化に向けて、平成二十三年度から平成三十二年度までの平均において名目の経済成長率で三パーセント程度かつ実質の経済成長率で二パーセント程度を目指した望ましい経済成長の在り方に早期に近づけるための総合的な施策の実施その他の必要な措置を講ずる。
2 税制の抜本的な改革の実施等により、財政による機動的対応が可能となる中で、我が国経済の需要と供給の状況、消費税率の引上げによる経済への影響等を踏まえ、成長戦略並びに事前防災及び減災等に資する分野に資金を重点的に配分することなど、我が国経済の成長等に向けた施策を検討する。
3 この法律の公布後、消費税率の引上げに当たっての経済状況の判断を行うとともに、経済財政状況の激変にも柔軟に対応する観点から、第二条及び第三条に規定する消費税率の引上げに係る改正規定のそれぞれの施行前に、経済状況の好転について、名目及び実質の経済成長率、物価動向等、種々の経済指標を確認し、前二項の措置を踏まえつつ、経済状況等を総合的に勘案した上で、その施行の停止を含め所要の措置を講ずる。」
という条文があって、名目3%、実質2%のGDP成長を目指し、その時の景気の状況により、その時の政権が判断することになっているのです。つまり、「景気が悪けりゃ上げないよ」と法律に明記されているわけです。
http://hourei.hounavi.jp/seitei/hou/H24/H24HO068.php

 

 ちなみに、首相官邸のホームページにも「社会保障・税一体改革ページ」というものがあって、
http://www.kantei.go.jp/jp/headline/syakaihosyou.html
 そこのリンクから、いわゆる消費増税法案の詳細ページへ飛ぶことが出来るんですが、
http://law.e-gov.go.jp/announce/H24HO068.html
 このページは簡易版。何と、この附則18条が見事に削除されているのです。ん~、何というか、「何が何でも増税!」という意図を感じざるを得ないんですが...。

 

 さて、新聞各紙もまた、増税の既成事実を作ろうと躍起です。というのも、増税の暁にはその論功行賞としての軽減税率適用を勝ちとりたいからです。紙面以外でも、さまざまなシンポジウムなどを開いて、多少強引に軽減税率を適用すべきと訴え続けています。

 強引さが目立った事例として、ジャーナリスト・津田大介さんが参加した日本新聞協会のシンポジウムを挙げましょう。出席した津田さんが、自身のメールマガジン『津田大介のメディアの現場 vol.83』の中の「津田大介のデジタル日記」に記しています。

 

(引用はじめ)
■6/21(金)■
(中略)
●17時30分からは同じ場所で日本新聞協会のシンポジウム「ニュースや知識
をどう支えるか――ネット時代にメディアの公共性を考える」へ。司会は八塩
圭子さん。ゲストは元総務相で慶大教授の片山善博さん、明治大学の齋藤孝さ
ん、毎日新聞東京本社編集編成局長の小川一(@pinpinkiri)さん、俺。

 ●各パネリストは新聞の軽減税率適用の必要性を述べる人が多かったけど、
俺は「欧州では普通だし、商業性に巻き込まれず記事を出すことの公共性考え
たら軽減税率を採用するのには合理性がある。しかし、都合の良いときだけ公
共性とか言うのに、読売ジャイアンツを持ってたり、不動産を潤沢に経営して
いる新聞社がそれを言っても説得力がないし、ネットの人たちは納得しないの
では」という発言をした。要するに軽減税率適用には反対の論調であるわけだ
けど、その日のシンポジウムの速報記事では「軽減税率適用をシンポジウムで
議論。津田大介も参加」とまとめられる。え、これって俺も軽減税率適用賛成
派になるの? 的な。
(引用ここまで)

 

 津田さん自身もメルマガ上で指摘している通り、紙面ではこう変化するのです。
『新聞への軽減税率「あってしかるべき」新聞協会がシンポジウム』(産経新聞)
http://sankei.jp.msn.com/life/news/130621/trd13062122180021-n1.htm

 見出しだけ見ると、満場一致で軽減税率を適用すべきだと読めるが、中身はそうでもなかったことが参加者自身に指摘されてしまっています。見出しによる印象操作もここまで来たかと思います。

 

 しかしながら一方で、ここまで新聞が血道を上げる消費増税、そして新聞への軽減税率の適用が却って新聞の経営を圧迫するのでは?という分析もあるのです。どういうことか?
 新聞の売価には軽減税率が適用されるので、当然価格は据え置きになります。ところが、一般のモノやサービスの値段には消費増税が乗っかってくるので、値段が上昇します。たとえば、新聞をするための電気代、インク代、さらに刷り上がった新聞を運搬するガソリン代、高速代。これらを総合すると、いかに売価に軽減税率が適用されようとも、新聞を刷るためのコストは消費増税すると上昇するわけです。
 さて、その時新聞各社は「消費増税でコストが上がりましたので...」と、値上げを言いだせるのか...?
 さんざん、言論の自由を守るため、民主主義を守るために軽減税率適用を!と言ってきた新聞社が、この期におよんで値上げとなれば、「では何のための軽減税率だったのか!」となりませんか?この軽減税率の議論は、見れば見るほど滑稽で、新聞社が自分で自分の首を絞めているような気がしてならないのです。増税で景気が悪くなったら、結局元も子もないわけですからね。軽減税率の是非を議論する前に、本当に今増税するべきなのかを議論するべきだと思うのですが...。
 まさか、「景気が悪くなったのは消費増税のせいじゃない!アベノミクスが失敗して物価が上昇したからだ!新聞はアベノミクスの犠牲になった!だから値上げします!!!」なんて力技を繰り出しませんよねぇ...?ちょっと寒気がしてきました。

書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

■Twitter
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