2014年01月20日

おおすみ衝突事故報道における印象操作

 海上自衛隊の護衛艦おおすみが広島県大竹市沖で漁船と衝突し、漁船の船長と乗客の2人がなくなった事故。2人の方が亡くなった痛ましい事故であり、海上保安庁による事故の解明が待たれるところです一方で、この事故もまた、秘密保護法案から先週の都知事選へと続く、新聞の社論の違いで報道の仕方が全く違うニュースとなりました。

 

 保守系のメディアは比較的穏当で、護衛艦、漁船双方に落ち度がなかったか冷静な原因究明が待たれるというスタンスです。産経新聞の社説にあたる主張欄でも、
『「おおすみ」事故 海の安全には何が必要か』(1月18日)http://on-msn.com/1aAvVdo
 法的には船の大小に関係なく、お互いに注意を払わなければならないし、追い越しといった事例の場合には追い越す側に回避義務があることも認めています。

 一方、<海上で守るべき交通ルール>も紹介しています。私も、この事故が起こってすぐ、船舶免許を持っている方々に話を聞いたんですが、彼らが口を揃えて言うのが、

「あれだけの大型船と小型船じゃ運動性能が全然違うから、小回りのきく小型船が先に避けるのが海の常識だよ。第一、海の上であのプレジャーボートみたいな漁船から見たら、おおすみなんて『山』だよ。普通は恐くて近寄れないけどなぁ」
これについてはネット上でも様々なサイトに書いてあり、少しでも船に乗る人にとっては常識中の常識なのです。たとえば、(一財)日本海洋レジャー安全・振興協会のホームページにある『海洋レジャーハンドブック』(http://bit.ly/KjrwF2)ここの3ページに、大型船の特性について1ページを割いて書いてあります。

 

 また、前述の海の男たちは、こんなことを言っていました。
「大型船と並走すると、自然と引き寄せられることがあるんだよ」
 これについても、このハンドブックの3ページに載っています。
<◆大型船の附近では造波や吸引作用により船の操縦が困難になります。
大型船に近づくと船首附近では大型船の造波の影響を受け、小さな船が波に押されて操縦が困難になり、船側では2船間の水の流れが早くなるため吸引作用が働き、小さな船は吸い寄せられることになります。>
船側では吸引作用が働く。今回、衝突痕が残るのはおおすみの左舷中央部。まさしく船側。さらに、こんな記述も。
<速力の大きい場合や水深の浅い場合には船側の水の流れが早くなるため、影響が特に顕著になります。>
現場は阿多田島の東1キロの海上。水深は浅い...。条件としてはぴったり合うわけですね。もちろん、これは可能性の一つに過ぎませんし、海保の捜査結果を待ちたいと思いますが、海のルールについては、現場から遠く離れた東京でもこのぐらいは取材が可能ということです。それを思えば、捜査中の案件でもあり、護衛艦、漁船双方の見方を伝えるなり、第三者的に海のルールを紹介するなり、中立な立場からでも出来ることはたくさんあると思うんですね。

 

 ところが、リベラルメディアは違いました。普段から自衛隊の存在をあまり快く思っていないその感情が、紙面に乗っかってしまっています。直後の東京新聞の社説では、
『自衛艦衝突 見張りは十分だったか』(1月16日)http://bit.ly/KjwhP9
と、見出しからして護衛艦側に責任があるかのような書きぶり。さらに本文では、イージス艦あたごが房総沖で漁船と衝突した事故や潜水艦なだしおが釣り船と衝突した事故をを引き合いに出し、
<「まさか」よりも「またか」と言いたくなる。自衛艦の衝突事故は、これまでも相次いできた。>
として、
<死者を出した両事故以外にも、この十年で五件の衝突が起きている。実に二年に一件という割合だ。海自に厳しい目が向けられるのもやむを得まい。>
と、原因究明が済んでいない内から早くも海自責任論一色でした。

 

 その後の報道でも、事実を並べるだけだが、その並べ方で自衛隊の責任を匂わせるという高等テクニックで、受け手を導きます。共同通信のラジオ・テレビ向け原稿ですが、ネットには上がっていないので該当部分を引き写しますと、
『衝突前に10㌔加速 自衛艦、航跡記録示す 広島沖の衝突』
<広島県沖で海上自衛隊の輸送艦と釣り船が衝突し2人が死亡した事故で、事故の通報の十数分前に、輸送艦が時速10キロほどスピードを上げていたことが分かりました。
(中略)
船の針路や速度などを数分おきに知らせる船舶自動識別装置の発信データの記録によりますと、おおすみは15日午前7時43分、島の間の狭い航路を抜けると、その後の6分間で時速およそ21キロから32キロまで加速し、その後、十数分の間ほぼ同じ速度で航行しました。しかし、おおすみから第6管区海上保安本部に事故の一報が寄せられた8時1分には時速およそ12キロまでスピードを落としており、事故の発生を受けて救助のため減速したとみられます。釣り船に乗っていて救出された寺岡章二さん67歳は「おおすみがスピードを上げて右から当たってきた」と話していて、海上保安本部はおおすみの乗組員からも当時の状況を聞き、衝突原因の解明を進める方針です。>
並べられているのは事実のみ。でも、その並べ方で自衛隊側に責任があるかのような印象にする。見事な技術です。本来はおそらく、<島の間の狭い航路を抜け>たので速度を巡航レベルまで上げていったというのが真相でしょう。ところが、速度を上げたという一文の後に、釣り船に乗っていた方のコメントを引いていて、まるでスピードを上げたことが事故の原因のような書き方です。これを印象操作と言わずして何と言うのでしょうか?

 

 とはいえ、ニュースの編集権は報道機関の側にあります。問題は、全ての人が3紙も4紙も読み比べることは出来ないということです。1紙のみの人が大半。2紙取っていれば上出来でしょう。ネットがあるから取ってないという人も多いと思います。そうした場合、一方の意見のみをシャワーのように浴び続けるわけで、同じ事故でも理解されたイメージは全く異なることになります。これで、国民の「知る権利」に応えたことになるのでしょうか?普段言い募る「中立公平」だと言えるんでしょうか?私には疑問に覚えてなりません。

書籍
プロフィール

飯田浩司(いいだ・こうじ)

1981年12月5日生まれ。
神奈川県横須賀市出身。O型。
2004年、横浜国立大学経営学部国際経営学科卒業。
現在、ニッポン放送アナウンサー。
ニュース番組のパーソナリティとして政治経済から国際問題まで取材活動を行い、ラジオでは「議論は戦わせるものではなく、深めるもの」をモットーに情報発信をしている。
趣味は野球観戦(阪神タイガースファン)、鉄道・飛行機鑑賞、競馬、読書。

■出演番組
≪現在≫
「飯田浩司のOK!COZY UP!」

≪過去≫
「ザ・ボイス そこまで言うか」
「辛坊治郎ズーム そこまで言うか」

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